軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1077 デリク・ウェストン

サティアの尋問――いや拷問は、凄惨を極めた。正直、胃があったら、戻していたかもしれん。フランとウルシはよく普通に見ていられるよな。

工作員の男は確かに痛覚無効を持っているので、痛みは感じない。だが、感触がないわけではないのだ。

痛みそのものよりも、手足がゆっくりと溶けていく感覚や、脳や心臓を指で直接撫でられる感触。腹を切り裂かれ、体内を小さな蟲で満たされる怖気。

サティアは様々な恐怖を与えて、精神的に追い詰めていった。

無表情で耐えていた男の顔が次第に恐怖で歪んでいく様は、フルトを殺しかけた相手であることを忘れて同情しそうになってしまうほどだ。

どれだけ酷いことをされても、サティアが再生させてしまうため責め苦は終わらない。さっきは溶かされた腕が今度は肉を少しずつ削がれ、骨が見えていく。そしてまた再生され、次は触手で擽り続けられる。

男にとっては、悪夢だろう。

ただ、男はそれでも口を割らなかった。ここまでいくと、感心してしまう。しかし、サティアは焦らない。むしろ、男が耐えることすら、見越していたのだろう。

「よく耐えますわね? でも、心が弱っている状態で、これに耐えられるかしら?」

「……!」

ロノウェが男の胴体を掴んで、持ち上げる。フランに斬られたせいでかなり弱ってはいるが、姿を現して多少力を振るうくらいは問題ないらしい。

巨大な悪魔の口が目の前にある状態でも、男は悲鳴すらあげなかった。それどころかロノウェを睨みつけ、決して屈しないとでも言いたげだ。

そんな男に対し、ロノウェの口から灰色の煙が吹きかけられる。

「ぐ……」

毒か? 何度も吹きかけている内に、男の様子が段々と変わってきた。

男を鑑定してみると、朦朧や混乱、自失と、複数の状態異常に陥っている。様々な効果の毒を同時に使用したのだろう。

「あ……ぁ……」

男の顔から感情が抜け落ち、呆けたように虚空を見つめ始める。それを確認したサティアが、男に質問をぶつけた。

「あなたの名前は?」

「……デリク・ウェストン」

素直に答えた! 複数の状態異常で、自白する状態に持っていったらしい。これは凄いな。

ただ、鑑定に映っている名前と違うが……。いや、すぐに名前がデリク・ウェストンに変わったな。あと、スキルがいくつか増えた。鑑定偽装に加え、情報隠蔽というスキルの効果で、鑑定に映る情報を誤魔化していたようだ。

なるほどね。問題なく見えていると思わせておいて、重要な部分は隠していたわけか。俺たちが鑑定遮断と、鑑定偽装を使っているのと、同じことなんだろう。

名前を聞いたサティアが、軽く目を見張る。

「この男が、ウェストン? まさかこのような場所で、出会うことになるとは思いませんでしたわ」

「有名人?」

「ええ。我が国の上層部では知らぬ人間はいないでしょう。西征公の抱える諜報機関のトップ。つまり、西征公の懐刀といってよい人物です」

おいおい! マジかよ! 超大物じゃないか!

過去に尋問した工作員から、名前だけは聞き出していたそうだ。しかし、顔や年齢などの情報は全く分かっておらず、名前だけが独り歩きした伝説的な工作員として知られていたらしい。

戦闘力はランクB冒険者程度だが、工作員としての技能は相当なものだからな。

変装や鑑定偽装、幻像魔術で名前も顔も自由自在に変え、演技や芝居のスキルで他人になり切る。そうして敵地に潜入し、転写や罠設置、詐欺スキルで様々な工作を行うのだ。

隠密や気配隠蔽能力も高い。そりゃあ、普通に探しても捕まえられないだろう。

「ウルシ、お手柄!」

「オン!」

「あなたの目的は?」

「悪魔騎士の身柄……」

「どういうこと? 説明なさい」

「はい……」

催眠状態のデリクが、茫洋とした表情で語る。

彼らがクランゼル王国の村を利用して呪詛を仕掛けたのには、幾つかの理由があった。サティアが予想していたように、呪詛によるフィリアースの弱体化と、クランゼルとの離間工作も狙いの内である。

だが、彼らの最大の目的は、呪詛を止めにきた悪魔騎士を殺し、その肉体を得ることであった。悪魔騎士の外見をデリクが写し取り、フィリアースの中枢に潜り込んで神剣を奪取する計画だったという。

また、東征公などが悪魔騎士の研究のために、その死体を欲しているそうだ。戦力や技術を供与されているため、西征公はその要求を跳ね除けることができなかったらしい。

デリクの誤算と言えば、強敵であるフルトとサティアが現れたことだろう。北と海からフィリアースに圧力をかけている状態で、貴重な戦力である王族が国境を越えて出張ってくるとは予測していなかったのだ。

「元々海方面の守りに就いていたのですが、レイドスの艦隊が姿を消したので」

俺たちがバルボラとダーズで暴れたことが、計画の綻びとなったらしい。いや、そもそも、フランがメテルマームにやってきたことが、最大の誤算だったのだろう。

デリクはフランを一目見て、絶対に勝てないと悟ったそうだ。そして、フルトの暗殺に目標を切り替えたのである。

「ディアボロスは、王族の中でも男性しか受け継ぐことができないと分かっている。ここで王子を殺せれば、作戦が失敗したとしてもお釣りがくる」

「! バレているだなんて……。あ! フ、フランさん! い、今のは聞かなかったことにしてください……!」

「ん。わかった」

「ありがとうございます」

王族の男しか受け継げないね……。だからこそ、フルトを狙ったわけか。

その後、デリクは逃走を試みて、ウルシに捕まってしまったわけだ。逃げる自信があったようだが、ウルシの追跡能力が上回ったらしい。まあ、実際、数時間は逃げ続けたわけだし、ウルシじゃなければ逃げられていただろう。

フランが改めてウルシのことを撫でてやる。

「ウルシ、えらい」

「オン!」

その後も、西征公の計画や、内情などを色々と聞き出せた。この情報があれば、西征公に対して有利に立ち回れるだろう。

「ねえ、私も聞きたいことがある」

「どうぞ」

「……闇奴隷は、クランゼル王国の西側からレイドス王国に送られてる。買ってるのは、西征公?」

「その通りだ」

「……闇奴隷を、買ってる理由は?」

フランが聞きたいのは、闇奴隷についてであったらしい。自分も、下手をすればレイドス王国に送られていたかもしれないのだ。気になるのだろう。

「兵士、鉱山夫、農夫、下僕。成人は、いくらでも使い道がある。子供は、北に送る」

「北?」

「北征公が、子供を買い集めている。何に使っているかは分からんが、黒猫族や魚人族のような人気のない種族も高値で売れる」

「北征公……」

レイドスの公爵の1人だ。どうせろくなことに使っていないだろう。フランの殺すリスト上位に、北征公の名前が刻まれた瞬間だった。

「使い道のない老人や怪我人は、生贄に使っている」

「生贄?」

フランの呟きに、殺気が滲む。しかし、デリクは淡々と事実を語り続けた。

「悪魔殺しのナイフなどを作る際に、魔力と呪詛を取り出す生贄だ。1本作るのに、100人以上が必要となるため、奴隷はいくらでも必要だ」

「……!」

『フラン! まて! お前が殴ったら死んじまう! 貴重な証人として、生かしておかないと!』

「……!」

フランはやり場のない怒りを吐き出すように、手近な木を殴りつけた。激しい衝撃と共に幹がへし折れ、フランの手が血だらけになる。

『怒りは、とっておけ。どうせ、レイドス王国とは戦うからさ』

「……ん」

フランはもう止まらないだろう。積極的にレイドス王国との戦いに関わろうとするはずだ。今のフランが放つ殺気は、それが確定したことと納得できてしまうほどに、強烈だった。

それにしても、やっぱり悪魔殺しのナイフは量産品だったのか……。デリク自身は、詳しい作り方を知らなかった。ただ、当然のことながら製作者は知っている。作った人間は錬金術師アンセル。なんと、神剣研究の第一人者であり、あのゼライセの弟子であった。

神剣の研究とゼライセの魔石知識、疑似狂信剣のデータ。そして、悪魔殺しの魔剣の実物。これらが揃った結果、悪魔殺しのナイフの量産が成功したってことなんだろう。