軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1075 サティアとの再会

死んだように眠るフルトを見つめていたフランだったが、すぐに周囲の事態に気付いたのだろう。

村人の7割ほどは広場から逃げ出しているが、老人や怪我人が逃げきれずにまだ残っている。彼らも、突然の事態に驚いているようだった。念のために鑑定をしたが、普通の村人たちばかりである。

疲労の残る顔で、動き出すフラン。

『フラン。大丈夫か? 動きたくないなら座ってていいんだぞ? 村の人たちは、俺が分体でどうにかするから』

「……へいき」

『……そうか』

「ん」

フランは村人たちの手足の拘束を破壊し、回復魔術で傷を癒していく。村人たちが口々にお礼を言ってくるが、素直には喜べないらしい。

村人が眠るフルトに向ける視線が、穏やかではないのだ。まあ、当然なのだが。ただ、フランが目を光らせているため、行動を起こそうとする者はいなかった。

広場に残った村人たちは、フランとフルトが知人同士であるということは分かっているだろうからな。

ただ、広場の騒ぎが収まったことを理解したのか、村人が戻ってくる。彼らは事態もよく分からず、フルトを見た瞬間駆け出そうとする者もいた。そんな彼らの前に、フランが立ちふさがる。

「な、なんだよ」

「……私が捕まえたんだから、私の獲物。勝手に手を出すな」

「そ、そんなの――」

「おい! やめろ! 恩人になにやってる!」

「そうだ! 情けなく最初に命乞いしたくせに、子供に凄んでるんじゃねぇ!」

そんな者たちを止めてくれたのも、また村人たちであった。本当に恩を感じてくれている人もいれば、フランが戦う姿を見て怒らせるわけにはいかないと考えた人もいるだろう。

また、「今は今後のことを考えるのが先決じゃ!」という村長の鶴の一声によって、とりあえずの混乱は抑えられた。

なんだかんだ、村人に死人が出なかったこともよかったらしい。フランが村人を回復していく中で、この娘は敵ではないと分かってもらえたようだった。

救護活動も終わり、村人たちが落ち着いてくる。それを確認して、俺はフランにこの後の指示を出した。村長を呼び寄せて、この村を脱出することを提案するフラン。

レイドス、フィリアース双方に目を付けられたこの村は、かなり危険な状態にある。解放されたばかりの村人たちには酷な話だが、町へと避難するべきだった。

ここでもやはり、村に残りたいという者がいたが、最終的には全員が移動に賛同している。バルボラからの道中で立ち寄った漁村と違って実際に被害が出ていることで、家族の説得の熱量が違っていたのだ。

村の倉庫にあった食料をフランが収納し、その日のうちに出発するメテルマームの一行。その歩みは非常に遅いが、この辺は魔獣も少ないので何とかなっている。

そうして移動すること数時間。山道を半分ほど下っただろうか。俺たちはこちらを遠目に観察する、ある存在を捉えていた。しばらく放置していたんだが、ずっと後をつけてくる。

『これは、先に対処した方がいいかもな』

「ん」

フランは開けた場所で少し休憩するように伝えると、周囲を大地魔術の壁で覆ってから1人で離れた。いや、フルトをお嬢様抱っこしているから、2人か?

さほど離れてはいないため、村人たちに何かあれば分かるだろう。

フランが近づいてくるのは分かっているはずだが、その気配の主は逃げようとはしなかった。そして、フランが相手の前に降り立つ。

「やっぱり、サティア……」

「フランさん……」

監視者の正体はサティアだった。

泣き笑いのような複雑な表情を浮かべたその顔から、敵意は感じられない。ただ、強い悲しみが伝わってくる。

「傷、だいじょぶ?」

「ええ。なんとか」

ロノウェが受けた傷の影響は残っているが、傷跡はなんとか塞いだらしい。ぎこちなく微笑み合うフランとサティア。

「お兄様は……」

「……フルト、返す」

「……いいの、ですか?」

「ん」

フランが、フルトをサティアに渡す。国やギルドに渡すのが良いと思うんだが、それだとフランが気に病むだろうしな……。村人全員の口止めなんて期待できない以上、国にバレる可能性もある。その時どうしようかね。

意識のないフルトを受け取ったサティアが、困惑したように首を傾げる。

「お出でなさい。命魔」

「……ここに」

「お兄様の状態を確認して」

「は」

サティアの影から現れたのは、チンパンジーに蝙蝠の羽を付けたような悪魔だった。その悪魔が、一瞬だけこちらに怯えたような視線を向ける。もしかして悪魔殺しの効果か?

だが、それも本当に一瞬だけで、すぐにフルトに手をかざして魔力を送り始めた。回復魔術と生命魔術を併用しているな。フルトの状態が少し改善されたのが分かる。

同時に、フルトの内側を精査していたようだ。しゃがれた老人のような声で、サティアにフルトの状態を報告する。

「ブネ様の力がほとんど感じられませぬ」

「どういうこと……? 消滅してはいないのね?」

「ギリギリではございますが。このまま放置すれば、遠からず消えてしまわれるかと」

俺たちの回復魔術はフルトを癒すことはできても、悪魔ブネまでは届いていなかったのだろう。

「ごめん……。フルトを守れなかった」

フランが事の顛末を説明する。悪魔殺しのナイフは俺が吸収してしまったし、レイドスの工作員の仕業だなんて、信じてもらえるか不安だったのだが――。

「……信じます。そのナイフと同じものを、つい先日目にしましたから」

やはり、レイドス王国が対フィリアース用に用意した切り札であるらしい。先月、先々月と、2人の悪魔騎士が命を落としているそうだ。

ただ、サティアの話では、2本ともフィリアース王家が回収したとなっている。廃棄神剣のナイフが何本も……? どっかから見つけてきたのでなければ、レイドス王国には廃棄神剣を量産する能力があるのか?

「元々は、我が王家に伝わる魔剣だったそうなのです」

「フィリアースに、悪魔殺しの剣があったの?」

「はい。神剣に封じられた大悪魔が暴走した時に、対処するための切り札だと伝わっていたそうですわ。ですが、何年も前に宝物庫から盗み出されたと……」

つまり、魔王剣・ディアボロスと対になるような魔剣があり、それには悪魔殺しの力が封じられていた。だが、それがレイドスに奪われ、解析されてしまった?

詳しくは分からないが、レイドス王国が魔剣の力を模倣することに成功したのは確かなんだろう。疑似狂信剣のノウハウと、悪魔殺しの魔剣が揃っていれば、不可能ではないのか?

サティアはそのままフルトをギュッと抱きしめ、はらはらと涙を流し始める。

「顕現中は、術者と悪魔の繋がりが強い。そこを狙っているらしいのです……」

ただ召喚しているだけであったり、憑依までなら悪魔殺しが致命傷になることはない。悪魔は失われても、術者のダメージは少なくて済む。

だが、顕現中は一心同体と化しているため、悪魔殺しの呪いが術者まで殺すのだ。

「今回お兄様が助かったのは、奇跡です。フランさん、ありがとう」

サティアは感謝の言葉を口にするが、フランは複雑な表情のままだ。もっとやりようがあったと、後悔しているせいだろう。そのせいか、誤魔化すように、魔石について告げる。

「……村の魔石は、壊した」

「やはり、フランさんでしたか。呪詛の流れが止まったので、もしかしたらと思ったのですが」

「ん」

頷いたフランに、サティアが再び頭を下げる。

「ありがとうございます」

「……なんで」

「我が国を救ってくださいましたから」

「でも……! 私は……! フルトもサティアも斬ろうとした!」

「悪いのは、我々とレイドス王国です。あなたは何も悪くない。気に病まないで」

「……」

サティアの言葉に、嘘はなかった。兄が大怪我を負い、自分が斬られたというのに、フランを気遣っている。それが分かるからこそ、フランはより辛そうだった。

「お兄様だって、あなたが気に病んでいては悲しみますわ」

「……ごめん」

「……お兄様も私も、感謝しているのです。私たちは、自国のためとはいえ、罪もない人々を手に掛けるところだった。それを、貴女が止めてくれた」

フルトたちは、無意識に手加減をしていたのだと思う。本当に冷徹に村人を殺しにかかっていれば、俺たちが守っていたとしても殺す機会はあったはずなのだ。

それをしなかったということは、心の奥底では村人たちを殺すことを躊躇っていたのだろう。最初に盗賊を血祭りにあげたのは、殺す覚悟を決めるために必要だったのかもしれない。

「あなたは、村の人も、我が国の民も、お兄様も救ったのです。それは、私が保証します。だから泣かないで?」

「……ん」

互いに罪悪感を抱える2人の少女が、涙を流しながら抱き合う。俺と命魔は、静かに見守ることしかできなかった。