軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1072 ロノウェ

サティアの肉体を借りて、顕現したロノウェ。その肉体から放つ魔力は、圧倒的だ。以前、アレッサのゴブリンダンジョンで戦った悪魔よりも、遥かに強いだろう。

顕現というのは、最も悪魔本来の力を引き出せる状態であるらしい。それでもなかなか使わないということは、消耗が大きいのだと思うが……。

「この村ごと消してやる! 我が贄となって消え去りなさい!」

短期決戦では、燃費や消耗が弱点だとしてもあまり意味はないよな!

悪魔ロノウェがそう叫んで、全身を幾百もの触手と化した。悪魔の体が爆発するように弾け飛んだかと思うと、無数の触手となって村人たちに襲い掛かる。

このままでは、男も女も、母も子も、村人たちが全滅する。全てを防ぐのは、無理だ!

俺がそう思ったのと同じように、フランも危険を察知したのだろう。

刹那の逡巡。だが、即座に戸惑いを振り切ると、フランは前へと踏み出していた。

フルトとサティアは友人で、この村の人々は今日初めて会った間柄でしかない。友との仲を優先するなら、見捨てて、フルトたちを見逃す手だってある。

何か事情だってありそうだ。ここで敵対すれば友を失うだけではなく、フィリアース王国を敵に回すかもしれない。

それでも、フランは村人たちを助けることを選択した。

「はあぁぁぁぁぁ!」

黒雷と化し、触手の隙間を縫って前に出るフラン。触手の根元にある、激しく蠢く黒い塊が目の前に迫る。

今のフランは、ゴルディシア大陸でトリスメギストスと斬り合った時に近い状態なんだろう。無意識に獣蟲の神の加護を使いこなしているのか、フラン自身が神属性を放っていた。

そこから繰り出されたのは、天断とそっくりな神速の斬撃だ。派手さはない。だが、俺の刃は、不定形と化したロノウェを確実に斬り裂いていた。

黒い塊が、横一文字に裂ける。

同時に、その内の精神や魔力もダメージを負うのが分かった。なんというか、目に見えない本質的な部分まで切り裂いた確信があったのだ。

「きいぃぃぃゃぁぁぁぁ!」

ロノウェが、超音波のような甲高い悲鳴を上げる。同時に無数の触手たちが、伸びたゴムが元に戻るように本体へと返っていった。

「くぅぅ! 何を、したぁぁ……! こむすめぇぇ!」

人型を取り戻したロノウェは、脇腹の辺りを押さえながら苦悶の声を上げている。

神属性によって付けられた再生が遅い傷からは、大量の魔力が漏れ出していた。ただ、燃えるような赤い瞳には、まだ激しい敵意が宿っている。戦意は衰えていないようだ。

「うおおぁぁぁぁ!」

「もう、見切ってる」

「ぎいぃぃぃ!」

ロノウェの両腕が細い触手に変形すると、それぞれが違う動きをしながらフランに向かって襲いかかってくる。さらに、その髪の毛が一気に広がり、紫の煙となって吹き付けた。触手と毒を使っての全方位攻撃だ。そのまま放たれていれば、フランだけではなく村人にも被害が出ていただろう。

だが、フランはそれを許さない。触手は無数の斬撃によって切り刻まれ、毒霧は俺の放った雷鳴魔術によって消滅させられていた。

「ひぎぃぃぃぃぃぃ! なぜだぁぁ!」

両腕を失い、髪がボロボロになった姿のロノウェが、怨嗟の悲鳴を上げる。そんなロノウェを見ながら、フランは悲し気に眉根を寄せた。

「絶対に、許さないぃぃ! 殺してやる! 死にな――ぎぃぃ! くそぉがぁぁ!」

ロノウェが憤怒と恥辱に顔を歪ませる。そして、再度毒を撒き散らそうとして、俺に防がれていた。

ロノウェはまだ、諦めてはいない。止めるためには、斬るしかないだろう。フランが、覚悟を決めたのが分かった。相変わらず、殺意はない。だが、残り続ける傷を付ける覚悟はできたようだ。

「ごめん――」

「させん!」

悲しげな顔のまま、斬撃を放った。だが、その一撃は、間に割って入ったフルトの鎌によって防がれていた。

「サティア! 逃げろ! 顕現を使い過ぎている! このままでは、死ぬぞ!」

「……ですが!」

悪魔顕現状態でも、術者の意識はあるようだな。フルトがサティアに逃げるように告げる。サティア自身は逃げるつもりはないようだが、体の主導権を握っているのはロノウェだ。

悪魔は自身の命を守るため、即座に背を見せて逃走を開始していた。

「まって! ロノウェ! お兄様ぁぁ!」

「すまんなサティア」

「フルト。逃げるなら追わない」

「それは無理な相談だ! 我が命を糧として、顕現せよ! 悪魔公爵ブネッ!」

ロノウェすら超える圧倒的な存在感が、顕現する。悪魔公爵とか言ったか? 男爵で脅威度Bなんだぞ? どう考えても脅威度Aはあるだろう。

5メートルを超える巨体に、竜の頭部。背中にも竜の翼が生え、半竜半人の姿となっていた。フルト王子は、フランを殺してでも目的を達成する覚悟を決めたのだろう。

出現した際に放出された魔力の余波だけで、大爆発が起きたかのようだ。村人たちが吹き飛ばされていく。

「ウルシ! お願い!」

「ガル!」

「邪魔をするな!」

「ガルァァ!」

フランはウルシと場所を入れ替え、村人たちへと向かって回復魔術を飛ばした。かなり危険な状態の人もいたが、何とか間に合ったらしい。意識はないが、死んだ者はいないだろう。

そこに、再び大きな悲鳴が響き渡った。

「ぐあああぁぁぁ!」

「フルト?」

フランが振り返ると、ウルシと対峙するブネの背中に小さなナイフが刺さっている。

『あいつ……村人じゃないのか!』

投げたのは、村人の1人だった。レイドスの工作員か何かが、実力を隠して村人の中に紛れ込んでいたらしい。

さすがに全員を個別に鑑定はしていなかったのだ。慌てて天眼スキルを全開にしてステータスを見ると、隠密や変装、演技や虚言といった、スパイに必要そうなスキルが軒並み高ランクだった。ナイフを投擲する際には殺気が微塵も感じられなかったし、相当な実力者なのだろう。

咄嗟に念動を放つが、工作員は見えているかのように躱すと、そのまま背を向けて駆け出す。

『ウルシ! 男を追え!』

「ガル!」

『フラン、フルトの治療だ!』

「抜けない!」

フルトは、顕現が解けて元の姿に戻っていた。フランがその背中に刺さったナイフを抜こうとしていたのだが、何か魔術的な効果があるようで引き抜くことができない。

「ぐぅぅ……」

「フルト!」

「無駄だよ。これは、悪魔殺しの一振り……。僕はもう、助からん……」