軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1062 灰色髪の剣士

捕虜は、ダーズの町の中央に捕らわれているという話だった。

気絶させた魔獣使いを担ぎつつ確認しに向かうと、露天の広場に手枷を付けられた人々が座っているのが見える。雨が降ったらどうするつもりなんだ? 捕虜なんぞ、そのまま濡れてろってことなのかね?

シャルロッテは、広場の中央に座らされていた。怪我などはしていないようだ。

(シャルロッテ!)

『まて。隣の男、かなり強いぞ』

(むぅ)

全体的な見張りの兵士の数は少ない。港に向かい、俺たちに倒されたのだろう。30人くらいだ。しかも、浮足立っているのが分かる。

「み、港はどうなっているんだ!」

「敵が暴れているという話だが、詳しいことが分からんことには……!」

「戦闘は終わったようだが……!」

港の異常は伝わっているが、詳しい情報はまだ分かっていないようだ。

しかし、シャルロッテの横にいる灰色髪の剣士は、格が違っていた。強者の気配を発し、堂々とした様子で周囲に意識を配っている。明らかに1人だけレベルが違っているのだ。

物陰に隠れて様子をうかがいながら、フランが思案する。

(師匠、どうする?)

『正面からいくのは、リスクが高すぎるんだよなぁ』

俺たちなら、短時間で敵兵を殲滅できるだろう。人質に取られても、俺の奇襲力なら問題なく人質を傷つけずに敵だけを倒せる自信はある。

シャルロッテの横の剣士以外が相手なら、だが。

男からはマールに似た気配がある。もしかしたら、改造を受けている可能性があった。ただ、隷属の首輪がない。自分の意思でレイドスに従っている? ともかく、傀儡ではない以上、経験や思考能力も生きているってことだろう。

正面からやり合えば、負けるつもりはない。だが、相当な被害が出ることは間違いなかった。普通に攻めるのではダメだ。

(オン!)

『おお、戻ったかウルシ!』

グッドタイミングである。冒険者たちを町の外へと避難させ、戻ってきたらしい。ウルシの力があれば、捕まっている人々を救える確率がグンと上昇するだろう。

(こうして――)

『なるほど――』

(オン――)

俺たちは簡単に作戦を考えると、行動を開始する。フランは空中跳躍を使って跳び上がると、密かに広場を見下ろせる建物の屋上へと移動した。

そこで、魔力を漏らさぬように意識しながら、光魔術を発動する。

「うわっ!」

「なんだあれは!」

広場の上空に突如として現れた発光物体を見て、兵士たちが驚きの声を上げる。港での異変と関係あると予想できているだろうが、どう対応すればいいか分からないらしい。

そもそもあれは、攻撃力もないただの光の球だからな。あれの目的は陽動と、強い光によって濃い影を作り出すことだ。

「黙れ! 周囲を警戒しろ!」

『やっぱあの男、厄介だな』

騒ぎ出した兵士を、灰髪の剣士が一喝して黙らせてしまった。その直後、男は腰のアイテム袋から剣を引き抜く。

遠目からでも、寒気がするような魔力が伝わってくる。かなりのレベルの魔剣だろう。

男がその場で魔剣を構え、振り払う。放たれた斬撃が光球を直撃して、消し飛ばすが――こっちの方が一瞬早い!

『ウルシ!』

(オン!)

フランの横で魔力を練り上げていたウルシが、男が光球を破壊するよりも先に影魔術を発動していた。足元の影が槍と化し、兵士を次々と串刺しにしていく。上空の光に注目していたせいで、ほとんど反応できていないのだ。

回避したのは、剣士だけである。

これで、半数が倒れただろう。広場だけではなく、周辺の建物の屋根の上にいた兵士なども血だまりに倒れ伏している。

残り半分は、俺の仕事だ。

ウルシの攻撃に遅れること数秒。広場中に伸ばした鋼糸を利用して、手近な兵士たちに一斉に氷雪魔術を叩き込む。本当は剣士にもぶち込んでやる計画だったのだが、それは諦めた。

剣士は数歩踏み出すと、シャルロッテとの距離を詰めたのだ。巻き込む恐れがある以上、剣士に迂闊な攻撃はできない。悔しいほど的確な判断である。

「ぎいぃぃぃぃぃ!」

「うぎゃぁぁ!」

俺が使ったのは氷雪魔術のアイシクルランスである。雷鳴魔術や火炎魔術では、兵士だけを狙うのが難しいからな。大地魔術でもよかったんだが、氷雪魔術にはある利点がある。

殺しきれなかった場合も、冷気で体力を奪って動きを鈍くすることができるのだ。

『動いてるやつはいないか?』

(ん。広場の兵士は全部倒した)

『兵士はな』

本当に、ウルシと俺の攻撃をどちらも防がれるとは……。だが、これもまた想定の範囲内なのだ。

(ウルシ!)

「ガル!」

「これは……これほどの魔獣が、何故ここに!」

「グルル! ガアアアア!」

「きゃぁ!」

「野生な訳は……だが、女ごと……」

ウルシが放った闇の槍が弾けて、シャルロッテの肌が傷ついてしまう。シャルロッテには申し訳ないが、余波が当たるように攻撃させてもらった。後で謝るから、今は耐えてくれ!

ウルシには、血に飢えた獣っぽい演技をしてもらっている。剣士も、シャルロッテが軽く傷つくような攻撃を放ったウルシの立ち位置がよく分からず、戸惑っているな。

人質にとるかどうかの、一瞬の迷い。俺とフランはそれを見逃さなかった。

『今!』

「はぁ!」

転移と同時に斬りかかるフラン。しかし、俺の刀身に、剣士の肉を切り裂く感触が伝わってくることはなかった。代わりに、硬いものとぶつかり合い、鍔迫り合いとなる。

男の魔剣だ。このタイミングでも反応するか! しかし、これも俺たちの作戦通りだぜ! まあ、今の一撃で倒せたら最高だったんだけどな!

「これは……! ぬおぉ!」

「一緒に、いく!」

『ウルシは作戦通りに動け!』

「オン!」

足元に開いたディメンジョンゲートに、俺とフランは相手を押し込む。さすがのこの男も、フランと鍔迫り合いをしながら逃げることはできなかった。無理に脱出すれば隙となって、フランの攻撃の餌食だからな。

転移先は、港だ。その体勢のままフランが男を斬り捨てようとしたが、転移の浮遊感をものともせずに体勢を立て直し、受け流していた。

「小娘、やるな」

「おまえも」

互いの視線がぶつかり、どちらともなくニヤリと笑う。ああ、相手の灰色髪の剣士も、戦闘狂かい。