軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1051 決まらぬ覚悟

氷の鬼と化したマールが、フランに迫ってくる。暴走状態になっているが、魔力の運用などは上達しているようだ。

魔術も無詠唱で、同時に複数を発動してもいる。しかも、身体能力や防御力も上昇しているのだ。

「ガアアアァァ!」

「むっ!」

『やべぇ!』

マールの腕が、カメレオンの舌のようにいきなり伸びた。超高速で、フランに迫ってくる。

とっさに腕を躱したフランだったが、長い腕は即座に動きを変える。グニャリとたわみ、そのまま鞭のように周辺全部を巻き込むようにうねったのだ。

氷でできているように見える腕が、驚くほどしなやかに動く。

普通なら危険な攻撃なのだろうが、フランは鞭の相手は慣れていた。なにせ魔狼の平原では、世界最高峰の鞭使いと延々模擬戦をしていたのだ。

『アマンダに感謝だな!』

「ん」

複雑に動くマールの腕を見切り、完全に躱してみせる。

だが、マールの思い切りの良さはこちらの想像以上だった。なんと、暴れ狂う氷の腕が強い魔力を放ったかと思うと、いきなり大爆発を起こしたのだ。

周辺の海面からは天を衝くように逆さの氷柱が林立し、白い霧が辺りを覆い尽くす。

障壁のお陰で大ダメージは防げたが、左腕が霜に包まれ、凍傷を起こしていた。内部も凍っているだろう。

ヒールで治しつつ、火炎魔術で氷を溶かす。

『自分の腕を犠牲にして、攻撃しやがった』

(危なかった。師匠が障壁張ってくれなきゃ、全身凍ってたかも)

『フラン、マールは――くるぞ!』

「ん!」

マールの気配が、こちらに突っ込んでくる。白い冷気の壁を突き抜けて現れたのは、両腕がしっかりとあるマールであった。

その手に握られた氷の大剣を、フランの頭部目がけて振り下ろす。

「ガァァ!」

「しっ!」

確かに速く鋭くなっているが、近接戦でフランに敵うほどではない。

「せやぁぁぁ!」

フランは冷静に大剣を捌くと、マールの右腕に俺を叩き付けた。火の属性剣とマールの氷がほんの一瞬せめぎ合い、水蒸気が上がる。

身にまとった氷に魔力を伝導させることで、防御力をピンポイントで上げることもできるらしい。

だが、今の俺は止められん。

ほんのわずかに斬撃の威力は鈍ったが、本当に少しだけだ。豆腐を斬るよりもあっさりと、俺はマールの腕を斬っていた。

体から切り離された腕が、魔力となって虚空へと溶けていくのが見える。

(やっぱ、斬っても生える!)

『海水を吸収したように見えたな』

マールは周囲の海水を吸い上げると、斬り飛ばされた腕を一瞬で生やしていた。

マールの肉体は、今や完全に氷で構成されているようだ。顔は元々の人の顔が露出しているんだが、氷で覆われた部分はもう人ではなくなっているのかもしれない。

『にしても、海の上でこいつを倒すのは、かなり骨が折れるんじゃないか?』

(……ん)

未だに決心がつかないらしい。これ程、フランが動揺を見せるとはな……。同世代、同性、違法奴隷。これらが合わさったことで、完全に自分と重ね合わせてしまっている。

今のマールを救えるなどとは、フランも思っていないのだろう。倒さねば自分だけではなく、町も危険であると、分かってはいるのだ。

俺を握る手に力が入り、覚悟を決めようとがんばっているのが伝わってくる。

だが、まだ殺す決心がつかないらしい。歯を食いしばって、マールを睨みつけている。成長した今のフランが本気を出せば、勝つことは難しくない相手だ。それでも、フランは一歩を踏み出すことができないでいた。

仕方ない。

もう少し、時間を稼ぐか。

『フラン。マールを誘導して、他の船を攻撃してみたらどうだ?』

(?)

『多分、あの結界には素通りするものと、そうでないものを選別する力があると思うんだ』

そうじゃなければ外から船に戻ってこれないし、中からの砲撃などでも結界が発生しかねない。

敵味方を選り分ける術式のようなものが組み込まれている可能性は高かった。だとしたら、マールはどうなんだ?

水竜艦に乗っていたということは、結界を素通りできるんじゃないか? だったら、今の暴走状態で、結界に守られている艦隊の中心部に誘導したら?

(なるほど!)

『やってみる価値はあると思う』

(わかった!)

フランは即座に決断を下すと、マールから離れるように後ろへと飛んだ。

『ウルシ! これからマールを艦隊の中央へと誘導する! 気を付けろ!』

(オン!)

「ガアアアア!」

やはり今のマールは理性なんかぶっ飛んでいるな。フランが駆け出すのを追って、一直線に突っ込んでくる。

しかも、氷雪魔術を放ちながら。

射線なんか、全く気にしていないようだ。俺たちが躱した氷の弾丸が、近くの敵船の横腹に突き刺さるのが見えた。

大きい船にとってはさほどの損害ではないが、マールが同士討ちを気にしなくなっていることは分かったのだ。

もっと大技をぶっ放させることができたら、敵船団に大損害を与えられるかもしれない。

『目指すは水竜艦だ!』

「ん!」