作品タイトル不明
1042 ナディアと黒猫族
何とかナディアに神剣の説明を終えたな。1時間は経過してしまっている。
あと、リンドヴルムとかオラトリオのことまで喋っちゃったけど、ナディアなら大丈夫だよな? そもそも、多くの人目に触れたし、他で情報が広まるとは思うけど。
どうやら今のフランのテンションは、小学生の子供が学校で知った友人たちの秘密を、「誰にも言っちゃダメだからね」と言って両親に話してしまうアレに近いらしい。
ハフハフと興奮しながら、各神剣の凄さを説明していた。
「それだけの神剣が一堂に会していたのかい。きっと、壮観だっただろうねぇ」
「ん」
「それに、廃棄神剣がそれだけあったとは知らなかったよ。師匠なら大丈夫なのかもしれないが、気を付けるんだよ? 突然大きな力を得ちまうと、調子に乗って色々と失敗するもんだからね」
『ああ、肝に銘じておくよ』
俺ってば、自他ともに認める調子乗りだからな。それに、自分もオーバーグロウスを使っていたナディアの言葉は、説得力が違う。
きっと、彼女も色々と失敗したんだろう。
まあ、武士の情けだ。聞かないでおくけど。
「おばちゃんも、失敗したの?」
『っておーい! 聞いちゃうんかーい!』
「はははは。そりゃあ、色々とな。どれ、少し教えてやろうか」
さすがナディア、人ができてる。フランの不躾な言葉に微笑みながら、自分や他人の失敗談を面白おかしく教えてくれた。
フランは目を輝かせて、話に聞き入っている。だが、楽しい時間はあっという間だ。
日が暮れ始め、屋敷のメイドにそろそろ時間だと告げられる。病み上がりのナディアの負担を考えても、あまり長居するのはよくないだろう。
宿泊を勧められたが、さすがに冒険者ギルドに顔を出さない訳には行かないのだ。
『最後に1ついいか?』
「なんだい?」
『ナディアは今後どうするつもりだ? この大陸に残るのか? それとも、進化を目指すのか?』
これは大事なことだ。下手したら、今後のフランの行動に影響が出る。
「そりゃあ、この大陸とはオサラバするつもりさ。ここにいちゃ、邪人どもを狩れないからねぇ。墓守も廃業さ」
やはり進化を目指すつもりであるらしい。
「だったら私と――」
「ダメだ」
「なんで!」
「あんたの足を引っ張りたくないんだよ。オーバーグロウスを失ったあたしじゃ、足手まといさ」
「そんなことない。おばちゃんが足手まといだなんて、絶対ない!」
「あるさ。自分が一番よく分かってる」
フランはそんなことないと言ったが、実際にナディアのステータスは大幅に下がっていた。ほぼ半減と言っていい。オーバーグロウスを失い、レベルが下がった影響だろう。
カステルではレベル上限が黒猫族を超えていたナディアだったが、種族が黒猫族に戻った影響か、レベルが45まで下がっていた。黒猫族の上限レベルだ。
多くのスキルもレベルがダウンし、装備品もカステル防衛戦で壊れてしまっている。以前はランクA冒険者並みだった強さが、今はランクBとCの間程度だろう。
進化前の黒猫族としては最強クラスだが、それ以上でもない。しかも、今は本調子ではないのだ。ステータス通りの力は発揮できないはずだった。
ナディア自身、それがよく分かっているのだろう。
「この大陸には、黒猫族が結構いる。ここは戦う覚悟さえあれば、生きていける土地だからね。修行にもなるし、青猫族どもが幅を利かせている他の土地よりも動きやすい。そんな奴らを連れて、獣人国に行こうと考えているんだ。シュワルツカッツェ――黒猫族の村があるだなんて知らなかったからね」
獣人国以外の出身だと、黒猫族の村があるなど想像もしないらしい。しかも、国全体で黒猫族を保護し、迫害もされていないのだ。
生まれてからずっと劣等種だと馬鹿にされ、他の獣人たちに差別されてきたナディアにとって、シュワルツカッツェは理想郷のように思えるのかもしれない。
「他の黒猫族も、行きたいってやつは多いだろう」
「じゃあ、私も一緒に行く!」
「フランは依頼を受けてきているんだろ? だったら報告に戻らなきゃダメじゃないか。冒険者なんだからね」
「……ん」
一人前扱いしてくれたことで、フランの我儘が封じられてしまう。本心は依頼なんて放り出してナディアと一緒に獣人国に行きたいのだろうが、それを言ったら怒られるだろう。
ナディアに失望されたくないという想いもある。フランは不承不承頷いた。
「じゃあ、私がメアにお願いする! おばちゃんたちをよろしくって! きっと、獣人国に連れてってくれる!」
「リンドヴルムを持っているっていう王女様なんだろ? 大丈夫かい? あたしは、王族の前でお行儀よく振舞うための作法なんか知らないよ?」
ナディアはメアの名前を聞いて、しり込みしている。獣人の王女に会うことになると思えば、仕方ないが。
これが普通の反応だよな。まあ、メアなら王女っぽくはないし、大丈夫だろう。
「メアは平気」
「そうはいってもねぇ」
「メアは全然王女じゃない。普通の冒険者みたい。だからだいじょぶ」
あ、フランもメアが王女っぽくないとは思ってたんだ。貴族とかのことがよく分かっておらず、興味もないフランにそう思われるって、大概だぞ?
「まあ、何の伝もないし、仕方ないか……。よし! 覚悟を決めたよ! ぜひ、紹介しておくれ!」
「ん!」
『今日は無理だろうが、明日以降に一度連れてくるよ』
「いや、待ちな! あたしがいくから! 呼びつけるだなんて不敬なこと、できるわけないだろう!」
「ダメ! おばちゃんはまだ動けない!」
「ぐぬ……」
とりあえず、今後は色々と難しくなりそうなゴルディシア大陸だ。そこからナディアや他の黒猫族を連れ出せるんなら、いいことだろう。
「ああ、せめてもう少しましな服をムルサニに頼まないと……!」
「メアなら裸でも平気」
「そうはいかないよ!」
フランの中のメアのイメージって……。