作品タイトル不明
1027 ネクロ・ドゥービー
滅びを歌い上げたソフィは、口と目から大量の血を吐いて倒れ込んでしまった。
体は軽く痙攣し、立ち上がることができずにいる。
「ソフィ!」
フランが叫ぶが、大量の魔力を制御するフラン自身も、動くことはできない。
『俺が助ける。フランは集中しろ!』
(師匠、お願い)
俺は飾り紐を手の形に変形させると、ソフィの体をそっと抱き起こした。心臓の音は小さく、体は驚くほど冷たい。治癒魔術で回復させようとするが、ダメだった。
大魔法使いスキルを使用して、神属性を練り込んだグレーター・ヒールをかけ続ける。だが、ソフィの心音は弱る一方であった。本当は声をかけて励ましてやりたいが、声はかけられない。ソフィには俺の正体を明かしていないからな。
いや、今はそんなこと言っている場合じゃない。神属性のダメージで、瀕死の状態である。少しでも、力になるなら何でもするべきだった。
ソフィが死んだら、フランが悲しむし、俺だってこの娘は嫌いじゃないのだ。こんなところで、死ぬ娘ではない。
『ソフィ。頑張れ! 今治してやるからな!』
(……フランの、剣……?)
『き、気づいてたのか?』
(曲で、繋がったから……解る……)
さすが音楽家! 冒険者の歌のような皆を繋げる曲を介して、俺のことが伝わってしまっていたらしい。
ただ、この娘であれば問題ないだろう。言いふらすとも思えないし、放っておいてもフランがそのうち明かしたはずだ。
『すまないな。俺が正体を無暗に明かすなと、フランを止めてるんだ』
(わかって、る……)
よかった。怒ってはいないらしい。それに、ソフィの状態も少しずつよくなってきたぞ。
神属性の混じったグレーターヒールが、効いてきたようだ。あと、こうやって正体を明かしてまで励ました効果も、ちょっとはあったと思いたい。
俺がソフィを回復させている内に、戦場にはさらなる動きがあった。
「あはははは! さあ、やってやるわよ!」
高笑いとともに巨大な本を掲げるのは、魔族の女王ジェインである。
「出てきなさい! 最強最古の王!」
今まで以上に巨大な魔法陣から現れたのは、黄金の棺であった。無数の髑髏が彫り込まれた金の棺からは、開く前から寒気がするほどの神気が放たれている。
「我らが祖にして、最初の契約者! 命を吸って顕現せよ! ネクロ・ドゥービー!」
「ヌハハハハ! 久方ぶりの現世であるなぁ!」
金の棺から出現したのは、先程まで呼び出していた英霊たちと似た外見のミイラだ。装備品は少し豪華だろうが、見た目に大きな違いはない。
銀糸で編まれたローブの上に、金に輝く全身鎧を纏い、各指には魔道具と思われる指輪を嵌めている。どれも、下品とすら思える輝きだ。ただ、ミイラの放つ覇気によって、それは威風を示す適度な装飾品となっていた。それだけ、本体の放つ存在感が凄まじいのだ。
「悪いけど、時間がないの。あのデカブツを、斬り刻んで地獄に送ってやりなさい!」
「ほほう? よかろうよかろう! わが死を奴にくれてやるとしようか!」
空へと浮かぶネクロ・ドゥービーが手を振ると、大きな鎌が現れる。デスサイズという呼び方がしっくりとくる、禍々しい魔力を纏う漆黒の鎌だ。
猛々しい笑みを浮かべたネクロが、巨大抗魔に向かって飛んだ。霊体としての特性か、滑るような動きだ。
だが、強い反面、運用には大きな代償が必要なようだった。ジェインからネクロに向かって、凄まじい勢いで魔力が流れ込んでいく。命を吸われているかのようだ。
この勢いでは、数分も召喚して居られないだろう。
「ヌハハハハハハハァァァァァ!」
ジェインから吸った力が、ネクロから鎌へと流れ込むのが見えた。すると、一瞬でデスサイズが巨大化する。全長で、20メートルはあるだろう。
そんな規格外の大鎌をネクロは軽々と振り上げ、巨大抗魔の中央に思い切り突き立てた。
ソフィの滅びの歌によって力を減じていた巨大抗魔は、その防御力も大幅に低下させていたらしい。巨大デスサイズが、根元まで深々と突き刺さる。
「命よ、砕けよ!」
ネクロの叫びとともにデスサイズが黒く輝き、巨大抗魔の中へと吸い込まれるように消えていった。
「ギイイイイイイイィィィ!」
巨大抗魔の悲鳴が聞こえたかと思うと、全身から魔力が抜け落ち、末端からひび割れて砕け散っていく。
デスサイズには、相手の生命力を減退させ、殺す効果があるようだった。あの巨大抗魔でさえ劣化を止めきれないということは、そこらの魔獣や人間であれば掠っただけで死ぬかもしれん。切り札に相応しい、強さであった。
だが、まだ倒せてはいない。
「あはは……あれで、倒せないとはね。残念無念」
乾いた笑い声を上げながらフラリと体勢を崩し、片膝を突くジェイン。ネクロノミコンが歪み、書としての姿を失って短剣へと戻る。限界がきたということなんだろう。
「あー、もう無理。後は任せたわ……」
ジェインはそう言って、地面に倒れ込んでしまった。あっちもまずそうだ! ただ、胸のペンダントから癒しの力が溢れ出すのが見えた。
どうやら、神剣の反動に対しても、対策済みってことらしい。それに、助けに行く余裕はもうない。
フランの準備が整ったのである。ウルシと共に、一歩前に出るフラン。見据えるのは、巨大抗魔だ。
《魔力の伝導完了。維持します》
「いく!」
「オン!」
狼式か? そう思ったら、少し違っていた。フランとウルシの合体技である狼式抜刀術は、ウルシの膂力でフランを空から打ち下ろす技だ。
だが、今回は、フランが小型化したウルシをむんずと鷲掴みにした。
『え? フラン? ウルシ?』
「はぁぁぁ!」
「オォォン!」
フランはそのまま駆け出すと、勢いを付けてウルシを投げ放つ。今のフランが全力で投擲したのだ。大リーガーの全力投球など遥かに超える勢いで、ウルシがバビュンとすっ飛んでいった。
『えぇ? ちょ!』
「いけぇぇ!」
「オーン!」
フライングウルフと化したウルシは、その状態で大型化する。クルクルと回転しながら、全身に闇を纏うウルシ。速度と回転の威力と闇魔術、そこに次元牙を加えることで、大きな一撃を加えるつもりであるらしい。
魔力弾は飛んでこない。今はイザリオを追っているからだろう。
「ガァァァ!」
「ギギギィィィィィィィ!」
ウルシは回転しながら、その大きな牙を巨大抗魔へと叩きつけていた。その威力は、抗魔の上げる絶叫が教えてくれているだろう。
全ての力を一点に集中させたことで、深い亀裂が巨大抗魔に穿たれる。
『よし!』
「ん!」
褒めながら撫で回してやりたいが、次は俺たちの番だ。と、いうか、真後ろに黒雷転動で追走したフランは既に斬撃を繰り出していた。
『うおぉぉぉ! 全部の力を、籠めるぞ!』
《制御補助はお任せください》
『頼むぜアナウンスさん! やれ! フラン!』
「ん! 黒雷神爪! 天断!」