軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1011 竜眼

俺たちへの敵意、悪意を隠そうともしない、女性の声。頭の中に響くそれは、明らかに念話のものであった。

「……ファンナベルタ?」

『呼び捨てにするな無礼な小娘! いいからその剣を渡しなさい! トリスメギストス様が命じているのよ?』

「断る」

『……なら、殺して奪い取るわ! 残骸からでも、力は奪えるもの!』

嫉妬の原罪の効果は、俺が破壊されたとしても問題ないらしい。スキルテイカー以上に、スキルの対象にできる存在が広いようだった。

『どうする? 師匠とやら? 小娘を生かしたいなら、自分でこちらにきなさい』

『俺の名前もお見通しかよ』

情報分析に優れるって言ってたけど、想像以上にこちらの情報を見抜かれているようだ。

『ああ、なんて妬ましい……! その貧相な剣の中に、どれほどの悍ましい力を秘めているの! それだけの膨大な邪気! そして、剣なのに成長するその可能性!』

『俺の中が随分と見えてるみたいだな』

『当然よ! 私はトリスメギストス様と一つなのよ! 我が王が見ている物は、全て見えている!』

「その男は、竜眼とかいうスキルを持っている。なんでも、物事の本質を見抜く、かなり強力なスキルらしい。しかも、トリスメギストスは城から出れない代わりに、この中ではすべての能力が増しているらしい。俺の神剣も、全て丸裸にされているはずだ」

イザリオの言葉を聞いて、納得がいった。奴に見つめられている時に感じた、見透かすような感覚。それが、竜眼を使われている感覚だったのだろう。

神剣の能力を見抜けるってことは、少なくとも俺の天眼よりも上だ。そして、その目をファンナベルタと共有できているらしい。

「邪神の欠片に神獣に迷宮核か? 神剣ではないようだが、それが信じられんな」

『全部見通されてるってことかよ!』

「おいおい。嬢ちゃん、師匠。マジか?」

「ん」

「とんでもねぇな……」

神剣の持ち主であるイザリオがドン引きしている。まあ、言葉に出されると、確かに俺の中ってヤバイもんな。後ろで身を縮めているメルトリッテも、恐ろしい物を見るような眼で俺を見ていた。

『だったら、分かるんじゃないか? 俺を破壊したら、邪神が復活するかもしれんぞ?』

見抜かれたからこそ、これは最大の脅しになるはずだ。ここで邪神の欠片を復活させれば、ファンナベルタとトリスメギストスだって無事では済まない。

不死身だから死なないかもしれないが、分かっていて邪神を復活させたら天罰の対象になる可能性だってあった。

だが、ファンナベルタがおかしそうに哄笑を上げる。

『あはははははは! それはないわねぇ!』

美しい声だからこそ、端々に秘められた悪意が鋭く感じられた。

『自分の事、何も解っていないのねぇ。くふふふ。剣が破壊されたら、神獣と邪神の欠片が対消滅するように設定されている。安全装置ってことなのでしょうねぇ。随分と強力な術式だから、すぐに分かったわ』

トリスメギストスの目でどんな風に俺が見えているのかは分からんが、システム的な部分まで把握されているようだ。神級鍛冶師のアリステアでさえ、そこまでは理解していなかったんだがな。

俺が壊れても、邪神が復活しないと分かったことで少しホッとしつつ、フェンリルさんのためにも絶対に壊されるわけにはいかなくなった。

最大の脅しが使えなくなったのも問題だ。それに、これだけ見抜かれているということは、俺の装備者制限もバレているか? 何とか言いくるめて、装備させるという方法は使えるのか?

俺の考えが見透かされたのか、ファンナベルタがさらに笑いながら告げる。

『きゃはははは! その小娘以外が装備したら下位の神罰が発動するようになってるみたいだけど、それもお見通しなのよ! この間抜け!』

口が悪いな。それに、その口調の端々から、狂気が滲み出ている。ギリギリ会話できているが、狂っているかいないかと聞かれたら、狂っているとしか思えん。

これ、狂ってない扱いなの? まあ、ファナティクスに比べりゃマシだが……。

『剣でありながら自力で成長できる可能性! 素晴らしい! そいつの力を奪えば、私は再び永遠になれる! 永久にトリスメギストス様のお役に立てる! そいつみたいな駄剣には勿体ない力だわ! 世界最高の剣である私にこそ、その可能性の萌芽は相応しい! だから、よこせっ!』

「世界一の剣は師匠!」

『あああ? 何ですって?』

「世界一はお前なんかじゃない!」

『もう優しくしてやるのは止めたわ。あんたは殺して、剣は破壊する! 決めたわ!』

「と、いうことらしい」

愛剣の言葉に応えるように、トリスメギストスが銀のファルシオンを構える。完全に、ファンナベルタの言いなりらしい。人形じみた主体性のなさだった。

『フラン。不死身のこいつには勝てない。分かるな?』

「……ん」

『逃げるぞ。悔しい気持ちは分かるが、勝ち目はない』

(……分かった)

逃げる決断をした以上、フランの切り替えは早かった。後ろに飛んで、トリスメギストスから大きく距離を取る。

しかし、こちらの動きはバレていた。

「ふむ? 逃がさんよ」

『ちっ!』

トリスメギストスが、一気に距離を詰めてきたのである。その言葉通り、逃げる隙を与えないつもりなんだろう。

だが、トリスメギストスに向かって、凄まじい勢いで突っ込んでくる火の塊があった。

トリスメギストスが防ごうと手をかざすが、その直前で弾けて周囲を炎が埋め尽くす。燃えていないのは、イザリオとフランの周辺だけだろう。

「イザリオ?」

「嬢ちゃん。逃げろ。俺が時間を稼ぐ」

「!」

驚くフランに対し、イザリオは肩を竦めて軽い感じでさらに言い募る。

「これでもランクS冒険者だぞ? 一人だったらどうにかなるさ。だからいけ!」

「……分かった」

フランは一瞬迷ったようだ。しかし、すぐに頷き返した。イザリオの瞳に浮かぶ覚悟を見ては、その意気を無駄にすることができなかったのだろう。

それに、イザリオが本気で戦うのなら、自分が足手まといであることも分かっている。

フランは悔し気に、言葉を絞り出した。

「死んじゃダメ」

「分かってるさ」