軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1012 Side イザリオ

嬢ちゃんは行ったか。

こういう時に、しっかりと行動できるのもいい冒険者の条件だ。師匠がしっかりと導いてるんだろう。いいコンビだ。

まさか、インテリジェンス・ウェポンがこんな場所で2本も揃うとは……。いや、こんな場所だからか?

ゴルディシア大陸は、神剣抗魔怪物どもが巣くう、修羅の巷。伝説の存在が集まっちまうのも仕方ないのかもしれん。

『待ちなさい小娘ぇぇぇ!』

金切り声が響き渡る。トリスメギストスの持つ剣、ファンナベルタがインテリジェンス・ウェポンだということは知っていたが、声を聴いたのは初めてだ。

嫉妬に狂った奴っていうのは、男女問わず復讐者なみに厄介なんだよなぁ。伝説では、冷静沈着な氷の女って話なんだが……。

まさか、ここまでイカレちまっているとは思わなかった。原因は、嫉妬の原罪だ。あのスキルを所持することで、強烈な嫉妬心に支配されてしまっているんだろう。

本来、罪と名の付くスキルは、悪魔しか所持することができないレアスキルである。しかも原罪は、最上位の悪魔しか持っていない。

以前、A級のダンジョンを攻略した時に戦った、憤怒の悪魔がそんなことを言っていた。ずっと怒っていて、話を聞くのも一苦労だったがな。

そんな原罪スキルをなぜファンナベルタが持っているのか?

聞いた話だが、元々奴はそんなスキルを所持していなかったらしい。まあ、生前はエルフだったという話だし、当然だな。

奴らは、何十年か前に嫉妬の原罪を所持する悪魔と戦ったそうだ。そして、嫉妬の原罪によって、あるスキルを奪われた。

ただ、そこで思いがけないことが起きる。

奪おうとしたスキルが高位すぎて、悪魔が対価を支払い切れなかったのだ。

嫉妬の原罪は自分と相手の所持するスキルなどを、強制的に等価交換するスキルらしい。だがリスクも大きく、提示した対価が奪うモノの価値に見合っていなかった場合、スキルが勝手に対価を決めてしまうそうだ。

場合によって使用者は命を失うこともあるってんだから、かなりのリスクだろう。

結果、嫉妬の悪魔が差し出すこととなった対価は、嫉妬の原罪スキルそのものであった。ファンナベルタは何らかの強力なスキルを失う代わりに、嫉妬の原罪を得てしまったというわけだ。

この辺はトリスメギストスが言っていたことだし、嘘じゃないだろう。あの男に、嘘を言うほどの自意識が残っているとは思えん。

そのせいで、ファンナベルタが狂いかけちまってるっていうのまでは知らんかったがなぁ。

ああいう感じの女は苦手なんだが、嬢ちゃんが逃げる時間を稼がなきゃならん。

「よう。俺と少し遊ぼうぜ?」

『小僧! そこを退きなさい!』

「俺を小僧呼ばわりかい。さすがエルフ」

『調子に乗ってぇ!』

狂気に支配されているように思えるが、その思考は狂い切っているわけではないらしい。

「イザリオ。さらばだ」

ファンナベルタが、厄介な俺を無視するように指示を出したようだった。トリスメギストスは、俺を迂回するように動き出す。

だが、行かせねぇよ!

「……神剣開放! 俺を無視するなんて、つれねぇじゃねぇか!」

『小僧ぉぉぉ! 邪魔するんじゃねぇ!』

「敵にやめろって言われて、やめるやつはいねぇよ! 炎舞!」

俺は初手から、全力で火炎を放った。真っ赤な炎が、波打つように周囲にまき散らされる。

フラン嬢ちゃんには悪いが、1人の方が全力で戦えることは確かだ。なんせ、手加減せずに、全ての力を破壊力に回せるからな。

「うおらぁぁ! 炎刃!」

「さすがだな、イザリオ」

「無表情で褒められてもなっ!」

『主様! よくもやったわねぇ!』

上手く俺に敵意を集めることに成功したらしい。トリスメギストスが軽い火傷を負っただけで、ファンナベルタが半狂乱だ。

『コキュートスゥゥ!』

「ちっ! 炎壁!」

ファンナベルタの異名に、氷の女ってのがあったが、本当に氷雪魔術の使い手だったかい。しかも、上位の。

一帯を凍り付かせるように発生した氷の嵐に対し、俺の放った火炎がぶつかり合い、凄まじい爆発を起こす。

防御用の技とは言え、神剣の力と互角とはな。さすが、インテリジェンス・ウェポンだ。そこに、音もなくトリスメギストスが忍び寄っていた。大量の水蒸気に紛れて、いきなり背後に出現したのだ。

「くぉ! 急に暗殺者に転向かよ!」

無言のまま斬りかかってくるトリスメギストスからは、一切の気配が感じられなかった。あれだけの存在感を、全て隠蔽してやがる。

イグニスの熱源感知がぶっ飛んだ性能でなきゃ、やられていたかもしんねぇ。それほどに、奴の隠密能力と、剣の腕は厄介だった。

長年剣で戦い続けているだけあって、その剣の腕前は俺なんぞ足元にもおよばねぇ。これと切り結べていたフラン嬢ちゃんが、改めて規格外なんだと分かるぜ。

だが、俺も一応はランクS冒険者なんでなぁ! 後輩に負けてばかりもいられないんだよ!

「さすが神炎。我が守りを容易く燃やし熔かすか。それに、防御だけで言えば我以上だな」

「神剣を使っておいて、あっさり負ける訳にゃいかないんでな!」

奴の剣を捌きつつ、イグニスから放たれる炎孤がトリスメギストスを焼いていく。向こうも障壁を張っているが、神炎の前では無意味だ。

奴の魔力と俺の神炎がぶつかり合い、衝撃と炎熱が渦巻く。周囲一帯は、まさに地獄の様相を呈し始めていた。

フラン嬢ちゃんであってもこれに巻きこまれれば、命はないだろう。トリスメギストスは全身が爛れ始めているが、余裕の態度を崩さない。

さすが不死身。この状態で変わらず動き続けるとはな! やはり、本気を出さなきゃならんか!

「いいかげん、一度死んどけ! 炎身!」

「ほう。これは初見だな?」

「は! ご自慢の眼でも、この技は看破できてなかったかい?」

「うむ。さすが神剣だ。全ては見通せていなかったらしい」

俺が使ったのは、奥の手の一つ。神剣技『炎身』。まあ、要は、俺の肉体を神炎と化す技だった。今の俺は、神炎が人の形を成しているようなものだ。

敵の攻撃は素通りし、逆に僅かに触れただけで神炎が燃え移る。普通の人間じゃあ、消すこともできずに灰になるだろう。

「ふむ」

「あっさりと消すねぇ!」

「そうでもない。神属性をかなり消費した」

トリスメギストスの場合、神竜化があるからな。同質の神属性を扱えれば、対処されてしまうだろう。だが、この技は防御と反撃だけの技じゃないんだぜ?

「おらっ!」

「いつの間に? 魔力を感じなかったが」

炎身の本質は、周囲にまき散らした炎との同化能力だ。炎を吸収して回復するだけではない。炎のあるところであればどこからでも現れることができる。

転移というよりは、炎全てが俺であり、どこにでも在るという感じだがな。相手からは予備動作も準備もなしでの瞬間転移に見えるだろう。

周囲にはすでに大量の炎がばら撒かれ、炎の中で戦っているようなものだ。この状況で、俺の動きを捉えることは不可能に近かった。

「はあぁ!」

『我が主! やめなさい小僧! この!』

「その程度じゃ、止まらんよ」

どこからでも現れ、一撃は神炎を束ねた刃。いくら相手が伝説の怪物であっても、後れを取るつもりはなかった。ファンナベルタが放つ氷雪魔術も、炎に阻まれ消滅する。

「このまま玉座に戻――うぉ?! なんだこりゃあ!」

さっきまで戦っていた抗魔が、異常な魔力を放っている。動かないから後回しにしていたが、俺たちの戦いの余波でも倒せていなかったか。むしろ、強化されている。

メルトリッテとかいう嬢ちゃんはどこだ? いきなり抗魔の気配が膨れ上がったせいで、感知できん!

「あの娘が準備を終えたようだ」

「準備ぃ? 何をしようってんだ!」

「かつてない、強大な抗魔の創造だ。器となる抗魔を先に滅するべきであったな」

何を言ってやがる? 最強の抗魔の創造? トリスメギストスの目的に反するだろ? なのに、なぜ止めねぇ!

「何を企んでやがる!」

「我が目的は、いつもただ一つだ」

意味が解らねぇが、まずい! 抗魔が巨大化し始めた!

「よそ見はいけないのではないかね?」

「ぐがっ!」

炎身中の俺に、ダメージを通してきやがった! 神属性を完璧に使いこなしてやがる! まずい、集中が……!

『死になさい! 神剣は、私が有効利用してやるわ!』