軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

07 聖堂への入口

「それはだいじょぶー。扉を通ることができるのは、聖女と聖獣と聖騎士だけだもん」

銀太郎いわく、聖獣パワーでつないだ空間は、通常の人間には耐えられない歪み。成美の部屋がこちらの世界に来るまでに起こっていた事象と似たようなもので、『許可がないひとが無理に入ってくると、体がパーンってなる』という。

なにそれ、こわい。

扉に『関係者以外立入禁止』の札を表示しておかなければ危険が危ないではないか。

「カモフラージュとかできないの? 一見すると、ただのクローゼット。別の場所に繋がってるようには見えないかんじに偽装するの」

見えてしまうと興味が湧くのが人間の性。

ならば、ただのクローゼットに見せかければいい。適当な服を掛けて、使用感を出しておくのもいいと思う。

成美の提案に銀太郎は「わかったー」と言い、また体毛を発光させた。

すると、景色はクローゼットの壁になった。成美がそこに手を伸べると、まるで水面に触れたような波紋が広がり、指が壁にめり込む。目をこらすと成美の部屋もきちんと見えるので、たしかに『偽装』されているとわかった。

「ねえ、銀太郎。これって向こうの部屋からはどう見えてるの?」

「実際に見たほうがはやいよ」

「たしかに。うーくん、ちょっと行ってきます」

「ま、待てナルミ。俺も行く」

ふたりと一匹で扉をくぐる。すこしだけ空気が揺れたような感覚があったのち、成美は自分の部屋に戻ってきた。

戻ってきたというか、押し入れから出てきた。あちらから見た部屋のようすから薄々は察していたが、やはり聖堂側の出入り口は押し入れだったらしい。

つまり、クローゼットの扉を開けば、成美の部屋の押し入れと繋がる。

お取り寄せの配達先はいつも押し入れなので、たぶんクローゼット内にも配達可だろう。すぐにお渡しできて便利になりそうだ。今度確認してみよう。

デュランの実家から聖堂へ行けることはわかったので、今度はその逆。聖堂からコールフィールド邸へ出てみることにする。

こちらも問題なく辿りつくことができて、『成美が聖堂から引っ越しても問題ない』ことが証明されてしまったことになる。

ますます逃げ場がなくなった形になったが、成美は「それならそれで、もういいか」の境地に達していた。

四畳半の部屋は『成美の城』だったが、それはそれとして、意外とストレスも溜まる空間だということを実感した。

デュランのご家族は高圧的なところもなく、成美を慮ってくれる善人だ。いいひとの皮を被った大人たちをたくさん見てきた成美の目は、彼らをそう判断した。

それならばすこしだけ信じてみよう。

どうせもともと新生活をする予定だったのだ。

新しい職場、新しい人間関係。

就職先が日本の企業ではなくなっただけで、下宿付きの会社に飛び込んだと思えばいい。

「私、ちょっと向こうの部屋へ行ってきますね」

「ならば俺も」

「あー、いいの。うーくんはこっちにいてください。向こうとこっち、お互いどんなふうに見えるのか試してみたくて」

「ギンタロウ、ナルミについていてくれ」

「わかってるよー、ぼくは聖獣だからね」

しっぽをフリフリする銀太郎をお供に、成美はクローゼットの中へ入る。

ふと、デュランに手を握られて動きを止めた。振り返ると妙に不安そうな顔をしていて、いったいどうしたんだろう? と成美は不思議に思った。

「大丈夫ですって。むしろこうして手がつながったままだと、おかしなことになるかもしれないし」

銀太郎いわくの『パーンってなる』が起こって、手首から先が消失したりするかもしれないので、できれば身ひとつで行きたいと思う。

そう言うと、デュランはしぶしぶ手を離した。

成美は扉をくぐり、自分の部屋へ戻ってきた。こちらからも偽装されているのか、押し入れが見えるだけだった。

こうしてみると、本当に普通だ。この奥がコールフィールド邸に繋がっているとはまるで思えない。

「ナルミ」

デュランの声が聞こえた。

「あ、はい。います」

「無事か」

「平気です。すごい、うーくんの声は聞こえるけど、押し入れはいつもどおりだ」

「こちらからもナルミの声しか聞こえない」

無線機の応答確認のようなことをしばらく試して、成美は押し入れの中に入り、這い出るとデュランが待っていた。

成美の姿を見たデュランはどこか泣きそうな顔になり、手を伸べる。ありがたく手を借りてクローゼットから出ると、そのまま引き寄せられ、成美はデュランの腕の中に落ち着いた。

そのまま抱きしめられ、成美はもぞもぞする。

こういうのは未だに慣れない。恥ずかしい。うれしいけど、やっぱり気恥ずかしいのだ。

「あの、うーくん、どうしたの?」

「……この部屋は子どものころに使っていたと言っただろう」

「うん」

「このクローゼットなんだ」

「なにがです?」

「俺は、この扉の向こうから聞こえる女の子の声に救われていた」

「――それって」

成美はデュランの胸から顔をあげ、クローゼットを見つめる。

扉を閉めたクローゼットは、ただの収納場所にしか見えない。

だけど、この扉がなぜか日本の――子どもの成美の過ごしていた四畳半の押し入れにつながった。

「本来なら、使われなくなった子ども部屋は片づけて別の用途として活用する。だがここは、ずっとこのままだった。ミーの声が聞こえなくなったあとも、俺がずっとクローゼットの前から動かなかったから。なにかにつけてこの部屋に入り、椅子に座ってクローゼットを見つめていた。話しかけていた」

そんなデュランを気遣って、両親を含め、使用人たちもまた、この部屋を維持しつづけてきたらしい。

ひょっとしたらいつか、また、ミーの声が聞こえるかもしれないと信じて。

「ナルミがミーで。そんな君の声がこの中から聞こえてきた。昔を思い出した。会ってみたいと思っていたあの頃を思い出した。そうして、君が出てきた」

デュランが感極まったように声を震わせる。

「やっと会えたね、ミー。ずっとミーをこの部屋に連れてきたかったんだ。この扉の向こうから連れ出したかった。君を傷つける者から護るため、僕は騎士になったんだ」

デュランはクローゼットの隣にあるチェスト最上段の小さな引き出しを開け、中からなにかを取り出した。そして成美に見せてくれた。