軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

06 デュランの子ども部屋

晩餐である。

辺境伯邸の料理人が腕によりをかけて作った晩餐である。

これまで成美は、デュランを通じて日本のお取り寄せを渡していたが、直接顔を合わすのはこれがはじめて。

お抱え料理人は髭を生やした陽気なおじさんだった。

チャオーとかイタリアンな挨拶をしそうなおじさんだった。

なお、イタリア味を感じたのは、ピザ生地らしきものをくるくる回していたせいである。

今日は泊まっていきなさい、でも聖堂にお悩み相談が来てたら。

そんな攻防をしていると、ミルク皿から顔をあげた銀太郎がひとこと。

「聖堂とつなごうかー? できるよー、どこにするー?」

などと言った。

「ギンタローくん、それはどういう意味かな」

「えっとねえ、聖堂は空間をつなげられる場所なの。だから、領主のおうちからも聖堂につなげられるの」

「なるほど。つまり聖堂と直結する部屋を準備さえすれば、聖女さまが我が家で暮らしても問題はないということですね」

「そゆことー」

銀太郎が顎を反らせて、えっへんと威張った。

口許がミルクまみれになっているのはご愛敬。

マーベルは領主らしい顔をしたのち、妻へ視線をやる。

それを受けたモルヴァーリも頷き、宣言した。

「我が家に聖女さまのお部屋を準備いたします。デュランの隣が空いているでしょう、そこが第一候補ですね。それから聖堂と繋ぐ場所は、デュラン」

「はい、母上」

「貴方の大切なあそこを入口とします。よろしいですか?」

「――わかりました、母上。これ以上ない場所です」

キビキビとした物言いをした領主夫人の命を受け、何人かの使用人が広間を出て行った。

フォークを持ったまま固まっている成美に、デュランが言う。

「食事が終わったら案内するよ。ギンタロウ、共に参り、道を繋いでもらいたい」

「わかったー」

しっぽをふさりと振って、銀太郎は食事に戻る。

他の面々も食事を再開したので、成美もまたフォークに突き刺したままだったチキンステーキを食べた。おいしい。

オルターたちは自分たちの邸に戻り、モルヴァーリは成美の受け入れ準備に向かった。

デュランに導かれて向かった先は二階。邸の中心部にある階段をあがり、廊下を左に歩いた先。一番奥側にある部屋だった。

今は使っていないのだろう。ベッドにシーツは掛けられていないし、飾り気もなく、生活臭のしない内装だった。それゆえに椅子が一脚だけ置かれているのが妙に目を引く。

お金持ちの家らしく、きちんと掃除はされているようで、閉め切った部屋特有の湿り気やカビくささがないのは、流石である。

「ここは幼いころ、俺が使っていた部屋なんだ。隣が兄の部屋で、こっちが俺」

「こ、こんな広い部屋を小さい子どもひとりで」

「そこまで広いわけではないと思うぞ。寝室も兼ねた部屋だからな」

そうはいっても、一室の広さが何畳分だろうか。成美が勤務していた会社の事務所より広いと思う。

大人二十数名にキャビネット、複合機などのオフィス家具を詰め込んだ事務所と同等の部屋を、子ども部屋として使う。贅沢な空間だ。

成美なんて荷物置場を兼ねた四畳半を子ども部屋として宛がわれていたのに。

格差社会、ここにあり。

「ねえねえ、どこでつなぐのー?」

待ちきれないといった声で銀太郎が問い、デュランは壁際に据え付けられたクローゼットのほうへ歩を進めた。

年季の入った両開きのクローゼットと、その隣には五段引き出しのチェスト。量販店のものとはちがい、そこかしこに飾りが彫られている。

「この扉を聖堂への入口としたい。できるか、ギンタロウ」

「わかったー、やってみるねー」

銀太郎はクローゼットの前で『おすわり』の体勢をとる。

扉を見つめていたかと思えば、顎を反らせ、遠吠えのような音を発した。

高く低く、強く弱く。

抑揚のついた不思議な音域。

息継ぎらしきものもなく、銀太郎は鳴く。

しばらくすると銀太郎の毛皮が銀色に光り始めた。

瞳の色も、変化する。いつもは黒いに近い深緑色をしているのに、今は淡く透き通った宝石のような色だ。

さらに呼応するようにクローゼットの扉――その内側からも光が漏れ始める。

うおおぉぉん。

最後に一度、狼のような遠吠えを発したあと、光は収まった。

銀太郎は立ち上がり、四つ足を踏ん張って体をぶるぶるさせたあと、得意げにこちらを振り返り「できたよー」と言った。

「なんか、すごかったね」

「えへへー。ぼく、はじめてやったー。すごい? ねえ、すごい? ぼくすごい?」

「うんうん、銀太郎はかしこいねー」

「やったー」

しっぽを振りながら、成美とデュランの足下を走りまわる。

ときどき前足をあげて飛び跳ねるような仕草をしたり、頭を撫でてもらおうとしたり。はっはっはっ、と、息を吐いては瞳を輝かせる。興奮具合がすごい。

「開けてみて開けてみてー」

クローゼットの扉の前足をかけて促す。爪が扉を引っ掻いているのかカシャカシャと音を立てるので、傷がつくのが恐ろしくなった成美は銀太郎を抱き上げて、クローゼットから引きはがした。

デュランは扉の取っ手に指をかけ、ゆっくりと扉を引く。

ギイィと軋んだ音を立て扉が開放され、その向こうには成美の部屋が見えた。

「うわ、ほんとに繋がった」

「だからいったでしょー、できるってー」

「信じてなかったわけじゃないんだけど、なんていうか、違和感がすごい」

異国情緒ばりばりの洋室のクローゼットを開けると、その向こうに生活家電が置かれた四畳半の部屋があるのだ。脳がバグりそうである。

「このまま向こうへ行けるのか?」

「うんー、行き来は自由だよ」

「制限をかけることは可能か?」

「せいげん?」

「不特定多数の者が聖堂内へ入室可能というのは、問題があるだろう」

眉を寄せてデュランが言う。

たしかに、と成美も頷いた。