軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1章-15  裏切りと救助要請

ククリ村はこれまでの歴史の中で最悪の事態に直面していた。

ここ数日前からこの村には重い空気が漂っていた。

原因は森から現れた数体のゴブリンだった。

このゴブリンがただのゴブリンなら問題は無かったのだが、まずいことにゾンビ化していたのだ。

この世界では魔物や人が恨みや欲望を残したまま死体になるとゾンビ化する事がある。

もしくは、ネクロマンサーと呼ばれる特殊な能力を持ったものが意図的に死体に呪いをかけると、死体はゾンビとなり呪いをかけた者の眷属となるのだ。

ゴブリンゾンビ達は後者のようであった。

こちらを観察するように動き、気付かれたら1匹を逃がし残りが足止めを行う、どう見ても統率された動きであり、報告に行くような自分達より上位の存在がいる事がわかる。

こういったことがここのところ連日のように起こっていた。

そのため兵士数人が尾行したのだが、3人の内1人しか戻ってこなかった。

この者が言うには千を超える数のゾンビが集まっていて、あと数日もすればこの村に押し寄せるだろうとの事だ。

その報告があったのは二日前でその後すぐに兵士の代表と村の代表で話し合いが行われた。

次の日には手に持てる物だけで避難をする、という事に決まった。

今から伝令を走らせ、けがをしている者、老人などは村や軍の馬車に乗せ、兵士や戦える者で護衛をしながら一番近い街を目指し、そこで辺境伯からの応援を待つというものだった。

準備を整えて次の日の早朝、つまり今日の日の出を待って避難を開始する予定だった。

しかし、予想外の事が起きた。

馬車が消えたのだ。村の物も軍の物も、慌てて村の者が駐屯地へと行くとそこはもぬけの殻だった。

兵士達に奪われてしまったのだ、すべての馬車を。運の悪いことに、すぐに避難が開始できるようにと、森の反対側の入り口の外に軍のものと共に集めていた上、見張りは兵士がやっていたのだ。

これには村人全員が唖然とした、国王からの要請で辺境伯が手配した兵士たちが村人を囮にするかのようにして全員が逃げたのだ、前代未聞である。

しかも、悪い事に森のすぐ奥からゾンビらしき魔物の声とざわめきが聞こえて来る。

早すぎる、おそらく故意に違う予測時間を言っていたのだろう、自分達の安全確保のために。

すぐに父さんが判断を下す。

「すぐに駐屯地の中に避難を開始するんだ!動けるものは各家々から武器になるものと食料を運び入れろ。急げ、皆が助かるには籠城するしかない!それと2~3人伝令を出せ、兵士達が向かった街とは別の所にだ!」

父さんから指示が飛ぶ。村長などの肩書は無いが、村の元冒険者の中では一番実績があり、王様ともパーティーを組んでいた父さんの言葉に皆が動き出す。

俺とじいちゃんと母さんは魔法を使い塀や掘を作っていく。マークおじさん達数人の狩人は敵の動きに目を光らせる。

避難や食料などの運び込みが終わって30分もしない内にゾンビの先発隊が姿を現す。

ゴブリンやオークのゾンビが二百体ほどである。

近づいて来たところで矢を浴びせる。

それでも止まらないものには戦士や剣士をしていた者が攻撃を加える。

「テンマ来てくれ!」

父さんに呼ばれそちらに向かう。

「なに、父さん!」

「テンマお前も伝令に飛んでくれ。兵士達が向かった街にだ!」

その言葉に周りからざわめきが起こる。

俺は現時点で防衛における最強の戦力の1人だ。

「ダメだよ父さん!今僕が抜けたら大幅に戦力が下がってしまうよ!」

と俺は言ったが、

「我が子だからとかで言っているんじゃない、テンマにしか出来ない事なんだ!」

父さんが言うには、俺が飛行で飛べば半日もかからずに予定していた街へと着くことが出来る筈である。そこで兵士達よりも早く着き、今の状態を知らせて助けを呼んできてほしい。

という事だった。その事に周りの皆も頷き賛成していた。

そして父さんは懐から一枚のカードを取り出し、俺に渡してきた。

「これは俺が冒険者をやっていた時のギルドカードだ。これをもってギルドに行けば話を聞いて貰えるはずだ」

その言葉と共に僅かな水と食料を渡される。

俺は急ぎ飛行魔法を発動させ飛び立つ。街の位置は昨日のうちに地図で確認しているので頭に入っている。

飛び続けて1時間ほどすると逃げた兵士達が休憩を取っているのが見えた。こちらには気が付いていないようだ。

数は25人。駐屯所の大きさの割には少ない気がする。

油断しているのだろう酒を飲んでいる者もいた。

だが、かまっている時間などは無いので、 今(・) は(・) 無視をすることにした。

それから6時間ほどで街が見えてきた。

ラッセル市、ハウスト辺境伯領において二番目の規模を誇る街である。

大きな門が見えて来た。門番がこちらに気付き止まるようにジェスチャーで知らせて来る。

しかし、俺は門番の制止を振り切り、飛行魔法を使ったまま街中を飛ぶ。

その後すぐに聞いていたギルドを捜し出し飛び込んだ。

「ククリ村のリカルドからの緊急要請をもってきました。どなたか対応をお願いします」

飛び込んで来るなりいきなり叫んだ俺に驚く人達、そして一人の男が近づいて来て、

「ガキがうるせえんだよ!かえってママのおっぱいでも吸ってな!」

と掴みかかって来る。

焦っていた俺はほとんど手加減をせずに男を投げ飛ばした。

背負い投げの要領で投げられた男は、床に叩きつけられた後バウンドし壁際まで転がって行った。

その時、ドアから衛兵が5人慌ただしく入って来た。

「街への無断侵入者がギルドへ入ったとの情報があった!おとなしくしろ!」

衛兵達が俺を見つけ捕縛しようと近づいて来た時、

「何の騒ぎですか?うるさいですよ」

と、通りのいい声がギルド内に響いた。

鑑定で調べると、

名前…ユーリ・フィランド・フォレスター

年齢…200

種族…エルフ族

称号…ラッセル市ギルド長

HP…14000

MP…17500

筋力…B-

防御力…A-

速力…B+

魔力…A-

精神力…A+

成長力…B

運…A

スキル…弓術8・水魔法8・風魔法8・魔力操作7・感覚強化7・土魔法6・光魔法6・投擲術6・夜目5・罠5・格闘術5・剣術5・魔力増強5・隠蔽5・回復力増強5・異常効果耐性4

ギフト…森の加護

という人物だった。

エルフを初めて見たがそんな事よりも ギ(・) ル(・) ド(・) 長(・) という肩書に目がいった。

「ギルド長のユーリさんですか!」

衛兵を無視して話しかける。

「そうですが…どなたですか?」

「申し遅れました。僕はククリ村のリカルドの息子、テンマといいます。父からギルド長に伝令を頼まれました」

俺は嘘を交えながら話しかけた。

「リカルドさんからですか?何か証拠になる物はお持ちですか」

成功したようだ。俺は父さんのカードを渡す。

「これは確かにリカルドさんの物ですね。お話を聞きましょう、こちらにいらしてください」

ギルド長は俺を奥に案内しようとするが、

「おまちください、ギルド長!そいつは不法侵入の容疑がかかっています!こちらに引き渡し願います」

と衛兵が叫ぶがギルド長は、

「それは困りましたね。しかし、ギルド内は一種の治外法権が与えられています。彼がここに居るという事は身柄の権利はギルドにあります。そちらに渡す義務はありません」

と言い合いを始めた。

そこで俺は、

「ギルド長、時間がありませんので、ここでお聞きください。衛兵にも聞かなければならない理由があります」

と言った。

「分かりました。その理由もお聞かせください」

とのギルド長の許可を得て、俺はククリ村の状況を話し始めた。

その場にはギルド長を含む職員や捕縛に来た衛兵を除き、20人程の冒険者がいて、すべてが俺に注目していた。

ゾンビの群れが見つかった事に始まり、兵士が村人達を囮にして自分達だけで逃げてこの街に向かっている事、駐屯地で父さんたちが籠城して助けを待っている事、などを話した。

特に、『国王の指示』で『辺境伯が手配した兵士』が、村人を囮に自分達だけで逃げた、と言う事を 殊更(ことさら) に強調するのを忘れなかった。

話を聞いた衛兵達は、大まかに言えば同僚とも言える者達の行いに顔を真っ青にして聞いていた。

そのほかの者たちは同情的な目で俺を見て、衛兵たちには非難するような目を向けていた。

「そういった訳ですぐに応援を出してほしいのです」

との言葉にギルド長は少し難しい顔をして、

「応援は出しますが、すぐには人数を揃える事はできません。市長とも話をして食料などを集めるのに一日、ククリ村に着くまで早くても三~四日は掛かります」

と言われた。

歯がゆい思いをしながら俺はとっさに思いついたことを口にする。

「ここに50万G位あります。これで雇えるだけの冒険者を雇ってください。そしてすぐにククリ村に向けて出発させてください。人数や食費などの裁量はそちらに任せます」

と提案した。

「分かりました。緊急クエストとして受理いたしましょう。今回ギルドへの依頼料は貰わない事とします。代わりに辺境伯などから迷惑料が出る筈ですから、その内の一部をギルドに収めていただく形をとります。それでよろしければこちらの契約書にサインを」

と即答したギルド長と契約書を交わし、ギルドへの報酬欄には迷惑料の権利を一部譲渡する、と自分のサインと共に書き記す。

「では報酬は後払いで1人一万Gと自身で倒した素材の権利、それに特別報酬の可能性を書いて募集をしましょう」

とすぐに張り出してくれた。

特別報酬とはおそらくラッセル市からも討伐要請が来るので、それにも参加した事にしてその報酬も一緒に渡すらしい。

そうしないと俺からの報酬の一万Gは微妙で、一流の冒険者は参加しない可能性があるかららしい。

「それとギルド長、お願いが二つあるのですが」

「なんでしょうか?」

俺はギルド長に、

「一つはすぐに村に向かいたいので、ここを出ても捕まらないようにしてください」

「だ、そうですが?」

とギルド長は衛兵達をみる。

衛兵はこれ以上立場を悪くするのはまずいと思ったのか、

「緊急時における特例として上に報告します」

と背筋を伸ばして宣言した。

「お願いしますね」

ギルド長は衛兵にそう言い俺の方に向き直し、

「それで二つ目はなんですか?」

と聞いて来たので、

「逃げた兵士達に魔法で一当てします。生きていたら捕縛するように伝えてください、死んでしまったときは弁護をお願いします」

とうっすら笑いながら俺は言った。

「…わかりました、引き受けましょう。けれど、弁護の必要は無いと思います」

との言葉に首をかしげる俺を見て、軽く笑いながら、

「奴らは国王からの指示に背いたも同然です。守るべきものを盾にして逃げたのですから死罪は免れません。むしろ感謝されると思いますよ」

と言った。

物騒な事を笑みを浮かべながら話す俺達二人に、周りは若干引いていたようだが気のせいだろう。

それからすぐに俺は、水と食料と回復薬を腹に収め、ククリ村へと飛び立った。

5時間程飛んだ所で兵士達を見つけたので、意識を飛ばさない様に気を付けながら強めのスタンを掛け、動けなくなったところで土魔法を使い、手足の自由を奪って放置した。

積んであった物や身に付けていた武器を全てディメンションバッグに入れて、再度村を目指した。

籠城戦において、助けが来るという事を知っているのといないのでは、士気に天と地ほどの差が出ると聞いた事がある。

その事を思い出しながら、俺は一刻も早く村に着くように飛び続けるのだった。