軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

85話 旅路⑥

ボコボコになった街道を修復し、余った魔力で街道の周りだけでも土を掘り起こし埋めてならしておいた。焼け焦げた臭いはしばらく消えそうにないが、直した部分の見た目はそれほど酷くもなくなった気がする。

「道を直すのはいいけど、穴を塞ぐのなんて魔力の無駄使いじゃない」

エリーは待ってて退屈してきたらしい。

だがこんな穴だらけの地形。どう見ても変だ。そこそこ人通りのある街道である。気になった人が調べれば、俺達がここでイナゴを討伐したのはすぐに判明するだろう。それはあまり嬉しくない事態だ。

頑張って直したおかげで黒いのがそこかしこに見えているが、大穴さえなければ単なる火魔法で森が燃えただけといって通りそうだ。

それに思ってたよりメテオで壊滅した範囲は狭かった。歩けばすぐに境界が見えてくる程度だ。どこまでも続く感じに見えたのは砂埃や湯気で視界が遮られていたせいだろう。それでも球場やサッカーグラウンドが数個くらいは入りそうな規模ではあったが。

アンからもらった魔力もほぼ使い果たした頃、ファビオさんが様子を見にやってきた。

「これは一体……?」

この周辺のみ忽然と森が消滅していた。新しく作った街道はキレイだし、街道の両脇の土地は耕したばかりのような状態だ。そして漂う焼け焦げた臭い。ちょっと目をやれば直し切れなかった大きな穴がいくつもある。

さぞかし不思議な光景だろう。

ファビオさんは避難部隊の殿を務めており、メテオの発動がかろうじて見えたらしい。だが遠すぎて何が起こったのはよくわからなかったので、確かめるために偵察に来たのだ。

「イナゴは全滅したわよ」

エリーがドヤ顔で宣言する。

「本当ですか!? すぐ皆に知らせないと」

ファビオさんはもう一度周囲をぐるりと見渡すと、峠を走って降りていった。下の方に馬がつないであるそうだ。

「なんと思ったんだろうな、あれは」

「別に説明する必要もないわ。大事なのはイナゴを殲滅したってことなのよ」

メテオの発動は見られてないし大丈夫か?でもやっぱり穴は塞ごう。

「相変わらず隠したがるのね」

「使徒ってバレたら困る」

「高位の魔法が使えるからって使徒だってことにはならないわよ」

そうだろうか?

さすがにこのメテオの尋常じゃない威力が広まったらまずい気がひしひしとする。

それに薄々感じていたことが今日確信に変わった。

魔王が出てきてもたぶん倒せるわ。チート魔法強すぎる。

もし使徒だとバレたら真偽官みたいなのがいる以上、色々聞かれたら二十年後の世界の破滅もたぶん隠し通せない。

そこにこのメテオの火力。勇者に祭り上げられるのは間違いない。

何かあれば先頭に立って戦わされる。

だが火力があるからといって、そんなに簡単には行かない。

オークキングみたいなのに接近されれば、あっさりとやられることもある。後ろから矢を射られれば気がつく間もなく絶命するだろう。

火力に対して防御力が絶望的になさすぎる。

それは軍曹殿との特訓で何度も実感した。多少鍛えたりレベルが上がったからといって、剣や矢や魔法の直撃に生身の肉体は耐えられない。

人間はナイフのひと刺しで簡単に死ぬ。

進んで戦いの渦中に出れば、いくつ命があってもきっと足りない。

この世界では死んでも蘇生魔法なんて便利なものはないのだ。

「でもエリー以外に高レベルの魔法使いって見たことがないんだけど」

もしかしてこのクラスの魔法を使えるメイジが何人もいるんだろうか?

「貴族にはメイジが多いわね。あとは騎士団や国軍にもそれなりにいいメイジが揃ってるわ。冒険者にも名のあるメイジは沢山いるのよ?」

砦の防衛戦でも俺が気が付かなかっただけで多くのメイジが活躍していたが、メイジは魔力が尽きたらすぐに休憩に入り稼働時間が極めて短い。ほとんど神殿に篭って治療をしていた俺が知らないのも無理はない。

貴族には今まで接点がほとんどなかった。

それに冒険者になるメイジの数自体も減っているそうである。

ここ10年ほどは大規模な襲撃はなかったし、それ以前にしてもここしばらくは国が滅ぶような大規模な攻勢はなかった。

魔法の平和利用が増え、前線に出るメイジは少なくなった。魔境は魔境で相変わらず危険なのだが、人族の領域内に関しては普通の冒険者でも事足りる状況だった。

魔物をぶっとばしているより、土魔法で家や城壁でも作っている方が儲かるような期間が長く続いてしまったのだ。年寄りは引退し、新卒のメイジは民間企業に就職してしまう。

収入が不安定で危険な冒険者稼業よりも、安全で儲かる仕事のほうがそりゃいいだろう。よくわかる。

そして戦闘経験がなければ高位のメイジはなかなか育たない。

それはそれで良いこともある。魔法の民間利用が増えれば経済はうるおうのだ。

魔境に近い地域を見れば魔物の被害はあるにはあるのだが、王国や帝国は広大で強大だ。辺境が多少荒らされようが、国家全体にとっては何ほどのこともないのだという。

異世界の住人たちの考える平和というのは日本のそれよりも随分とデンジャラスなようだ。

みんなで雑談しつつ待っているうちにたいがの偵察が一通り終わって戻ってきた。数匹はぐれたイナゴを仕留めた他は何もいなかったそうだ。イナゴは全滅したと判断してもよさそうだ。

のんびりと歩いて村に戻ると、村にはすでに人が戻ってきていた。

村人たちには大変感謝され、謝礼をと言ってくれたがそれは断った。

イナゴは簡単に殲滅できたことだし、大した魔物じゃなかった。報酬をもらうほどじゃないと村人には説明しておいた。

それに旅をしてきてわかったのだが、雨不足で今年はどこも不作だった。報酬をもらっても大した額は期待できそうもないし、それですら村にとっては死活問題になりかねない。

ご多分に漏れず、この村もやはり厳しい経済状況だった。お金を出されても非常に受け取りづらい。

お金に困っているエリーでさえ特に異は唱えなかった。

だからって若い女性を差し出されても困るんですけど。

しかも差し出された女性はイヤイヤってこともなく、なんだか嬉しそうだ。

「有能な魔法使いに嫁げば生活は安泰だしね。それに強い魔力って子供に受け継がれる事が多いのよ」

アンがそう説明してくれる。

子作りお願いしますってことですか? こんな状況じゃなきゃ大変嬉しい申し出であるが、嫁がめっちゃ睨んでる。コワイ。

「はいはい。私らがちゃんと断っとくからマサルは引っ込んでなさい」

まあこれ以上増えても身がもたない。可愛い娘だったからちょっと勿体ない気もするけど。あ、すいません。ティリカさん、そんなに睨まないでください。

村人の勧めで、今日は村で宿泊することになった。今から峠を越えるのも時間的に厳しいし、護衛の主力である俺達の魔力が心もとない。

そして村では宴会が催されたのだが、今日は二度も魔力を振り絞ったのでかなりつらい。同じく魔力切れのアンと共に用意された部屋へ早々に引っ込んだ。

アンと同じベッドで寝ると当然ムラムラとするんだが、宿屋ならともかく泊めてもらった村長宅である。一戦するわけにもいかないのがもどかしい。いや、こっそりとやれば……

「ダメに決まってるじゃない」

だめだった。アンはこういうところ厳しい。

「向こうに着いたらしばらくゆっくりしような」

「そうね。家には戻ろうと思えば転移ですぐだし」

できれば一ヶ月くらいは休暇が欲しいところだな。大きなイベントもきっとこれで終わりだろうし、あとはナーニアさんの手助けをしながらのんびりとできるだろう。

今日のところはアンの柔らかい体を抱いて寝るだけで我慢するしかない。

宴会のメインディッシュはエリーの提供した焼きイナゴだったそうである。

村の料理自慢が調理を張り切ったらしく、ティリカによるとなかなかの味だったそうだ。

朝食にも出されたので俺も少し食ってみたが、味はともかく見た目がね……やっぱり虫はダメだ。食べ物に見えない。

出発前に残りの穴ぼこはちゃんと塞いでおいた。

■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■

二日後。ついに目的地のガーランド砦に到着した。

ゴルバス砦よりは少し小規模らしいのだが、それでも内部に町がまるまる一式収まる巨大な砦だ。

砦の商業ギルドで預かっていた荷物を放出し、ノーマンさんやファビオさん達と別れを告げる。彼らは何日か滞在した後、来た道をまた引き返していく。

俺達はこの砦にある冒険者ギルドに寄って、道中の狩りの獲物や討伐報酬を精算してからナーニアさんに会いに行く予定だ。

すごく気が進まなかったけど、イナゴのことを含めて周辺地域の魔物の把握は冒険者ギルドにとって死活問題なのだ。報告しないわけにもいかない。

「イナゴですか!?」

「でも俺の魔法一発で全滅するくらいの規模でしたし……」

驚いたギルド職員の人に一応そう説明しておく。それで安心したのかほっとしたような顔をしている。

「イナゴの群れともなれば軍やギルドが総出で当たらないといけないところでしたからね。小規模でよかったですよ」

「ああ、うん。そうですね」

「ではカードの提示をお願いします」

「あ、はい」

魔物の確認や討伐報酬のため、カードは見せないわけにいかない。

先に四人のカードをチェックしていってもらう。

ティリカのカードを見て、ティリカをまじまじと見た以外は順調にチェックは進んだ。やはり真偽官がパーティーにいるというのは珍しいのだろう。

「さすがBランクですね。旅の間にこれだけ狩るとは素晴らしい戦果ですよ」

最後に俺のカードをそっと差し出す。

カードには討伐した魔物の情報が全て記録されており、一画面に二十匹が表示される。それより古い分は画面をスクロールさせて閲覧できるようになっている。チェックした後は、ギルドに設置してある特殊な魔道具で確認済みのマークを入れる。

カードをチェックしていくギルド職員の、愛想の良かった顔がだんだんと険しくなってきた。手を止めて俺を見る。

「あの……何匹くらい倒したのですか?」

「その……多すぎてわかりません……」

討伐報酬もない、それほど強くもない数だけの魔物だ。わざわざ数える必要もないだろうし、簡単にチェックしてスルーしてくれないかと思ったがどうやら望み薄なようだ。

ギルド職員の人はカードのチェックを再開する。

数分後、ようやくカウントし終わったようだ。

「これを一発で……?」

「ええ、まあ」

「ちょっとお待ちください。上のものを呼んできますから」

ギルド職員は俺達を置いて、俺のカードを持ったまま慌てて奥へと入っていった。

「隠そうと思って隠せるものでもないのよ。諦めなさいな」

「小さいイナゴだったってことにできないかな?」

「それは嘘」

「ですよね」

「こういう報告はちゃんとしないとダメだよ」

「ですよね……」

しばらくして、ここのギルド長という壮年のオッサンが出てきた。がっしりとした体付きは、たぶん冒険者上がりなんだろう。

大人しく聞かれるままにイナゴの規模とか倒した状況を説明していく。ただしメテオのことはぼかした。単に広範囲の火魔法とだけ言っておく。ギルド長は知りたがったが、詳細を教えたところで誰にも真似できるものでもない。

「これは全部本当のことなんですね?」

報告が完了したあと、ギルド長にそう念を押される。俺達みたいな若造相手にとても丁寧な対応だ。もっとどこかの副ギルド長みたく、乱雑な扱いのほうが気が楽なんだが。

「報告に嘘はない」

ティリカがわずかに怒気を含ませた声で言う。

「も、もちろんそうですよね」

カードに記録された討伐数はどうみても大規模なイナゴの群れである。本来なら甚大な災害になるところだった。魔法の一発で倒したという話が、そう簡単に信じられないのも無理はない。

続いて報酬を出そうという話になった。

本来ならイナゴの討伐は素材の売却で十分な利益になる。それが俺達の場合、ほとんど無報酬だった。

それでは報われないだろうと、ギルド長の裁量で報奨金を出すことになった。

だがそれでは困ったことになる。討伐を行われたこと自体を隠すのは不可能であるが、詳しいことはあまり広めたくはない。しかし報酬を出すことになれば詳細な事実を公表しないわけにもいかない。

討伐者の名前も出せない、討伐内容も詳しく公表できないではギルドのお金は出せない。それではギルド長が横領を疑われてしまう。

「報奨金はいりません」

勿体無いがここは諦めよう。

別にお金をもらって多少話が広まったとしても何も起こらないかもしれないが、今のところは目立つことは極力慎むべきだと思う。お金に困っているのはエリーのみだし。

「ちょっと! 報奨金まで断っちゃってどうするのよ!」

ギルドを出たとたん、エリーが噛み付いてきた。さっきからすっごく睨んでたもんな。

「まあ落ち着け。俺にいい考えがあるんだ」

「何よ? お金を稼ぐいい方法でもあるの?」

「いや、お金を稼ぐ方法じゃないよ。つまりだな――」

別にお金で返す必要はない。労働で払えばいいのだ。

農業のことは詳しくはないが、土魔法に関してはエキスパートである。旅の途中で家や井戸作りなんかも覚えた。

「俺の土魔法があれば立派な農園が作れそうだと思わないか?」

家や畑や水路。壁もいるかな? 城壁作りもやったことあるし、砦並の立派なのでも作ろうと思えば作れるな。

「それはいい考えね! ナーニアには立派な農園をプレゼントしましょう!」

いや、プレゼントじゃなくて借金返済をだな……そう思ったが嬉しそうなエリーを前にとてもじゃないが言い出せなかった。

まあそのあたりは旦那のオルバさんに相談すればいいか。