軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

84話 旅路⑤

商隊と護衛も村人達と一緒に避難することになった。行くのは俺達だけだ。

ファビオさんもイナゴと戦うと言ってくれたが、俺達だけのほうが色々とやりやすい。

現地へは全員で歩くことにした。規模や位置はほーくの偵察でだいたいのところは判明したし、イナゴも飛ぶのだ。空も安全とはいえないし、フライやレヴィテーションで魔法の使い手が減るのも困る。

「イナゴも食べるんだよね……?」

「一度食べたことあるけど味はそこそこね」と、アンが言う。

「食べたことない」

アンの言葉にティリカは興味津々のようだ。

「はいはい。倒したら何匹か取っておいて味見してみような」

虫は高タンパクだと言うしイナゴくらいなら味見してもいいかもしれん。

「イナゴってどうやって料理するんですか?」などとサティがアンに聞いている。

「イナゴの大群なんて何十年に一度なのよ。タイミングがいいわね」

エリーがぽつりと言う。

「タイミング?」

「神様のクエストよ」

なるほど。これか。これがクエストなのか。

「きっとナーニアのいる方に行くのよ」

「ありそうだな」

「もし遅れていればナーニアのいる村は壊滅ね。早くてもこんなにタイミングよく遭遇できなかっただろうし、被害がどれくらい出たかわからないわ」

メニューを開いてクエストを確認する。

【クエスト ナーニアさんを助けよう】

慣れない農場生活で苦労しているナーニアさんを助けてあげよう。

特に急ぐ必要はないが王都に寄り道はしないほうがいい。

報酬 パーティー全員にスキルポイント5

苦労してるナーニアさんを助けてあげようか。普通にイナゴって書けばいいのに。

あ、でもそんなことが書いてあったらエリーが大暴走してそうだ。この程度の表現でよかったのかもしれない。

「やるぞ」

いまいちやる気がなかったが、クエストというなら確実に遂行しなければならんだろう。

「ええ、もちろんよ!」

見てろよ、伊藤神。イナゴくらいさくっと殲滅してやるよ!

■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■

「マサル様……」

サティが不安そうに俺を見やる。イナゴの姿はまだ見えないが、すでに俺にも聞こえるくらいの騒音が聞こえてきている。

――バキバキ、ボリボリ、ギチギチギチ、ヴヴヴヴヴ。

近寄るにつれて、だんだんと音は大きくなっていく。

さっき気合をいれたばっかりだが、やっぱり怖い。ちょっと逃げたくなってきた。

峠のカーブを曲がり視界がひらけた先では、山が一面のイナゴに覆われていた。ティリカの報告を聞いてはいたが、数えきれないほどの巨大なイナゴがうごめいている様は、実際に見るとかなり怖気を振るう光景だ。

「うわあ……」

気配察知の範囲外まで、かなりの範囲に渡って巨大なイナゴが食事中だった。小さい木や下生えはもうほとんど残っていないように見える。大木に何匹ものイナゴが取り付いて、葉っぱを貪り食っている。イナゴは緑色をしていて、サイズはまちまちだ。小さいのは子猫くらいのサイズだろうか。かなり大きいのもちらほらと混じっている。

「これは本気でやらないとまずいんじゃないかしら……」

「あ、ああ。そうだな」

俺が火魔法で本気を出すと死体が消し飛んでお金になる素材が残らなくなるんだが、そんなことも言ってられそうにもない規模だ。

ちなみにイナゴに討伐報酬はない。小さなイナゴでも1匹とカウントされるのだ。いちいち支払っていたらギルドは破産してしまう。だが倒した後は食材としてそこそこの値段で売れるので、普通はそれでも問題はない。

「本当なら依頼でも出してもらってそれなりの報酬が貰えるのよ」

報酬は期待できそうもないのでエリーは不満そうだ。

まずは俺が最大火力で撃ち込んで、残ったイナゴを他のみんなで殲滅しようという作戦である。

いつものように合同魔法でやる案もあったのだが、敵の数が多すぎる。ここは確実に最大火力で殲滅したい。俺が火魔法で吹き飛ばした分はお金にならないが、まあ仕方ないだろう。

「神様の出したクエストなんだし、無償でもいいじゃないか」

「そりゃあアンはそれでいいでしょうけど、私はお金が必要なのよ」

「だから私のお金も上げるって言ってるのに……」

「ナーニアへの借金を返すのにアンから借金してちゃ一緒じゃないの」

「家族になったんだし、別に返さなくてもいいのに」

「そういうわけにもいかないわ」

「はいはい。防壁も出来たしそろそろやるぞ」

全力のメテオを撃つ予定なのだが、どれくらいの威力になるか分からない。一応十分な距離は取ってあるが危険も考えて土魔法で頑丈な半地下式のトーチカを作っていたのだ。それにこれなら万一、イナゴがこちらに来ても篭もればやり過ごせもするだろう。

全員でトーチカに潜り込んだあと、後ろの出入り口は大岩で塞いでおく。これで正面に開けた小さな窓以外からは外部は見えなくなるが、ほーくが偵察中だし気配察知で動きもわかる。問題ないだろう。

「ちょっと狭いわね」

「少しの間だ。我慢……」

ティリカと顔を見合わせる。

「イナゴが動いた」と、ティリカ。

【メテオ】詠唱開始――

「ヤバイぞ。やっぱりナーニアさんの村のある方向だ」

喋りながらも魔力を集中していく。できるだけ範囲を広げるんだ。確実に殲滅しないといけない。

「ほーくも退避させた」

膨大な魔力が俺を中心に収束していく。

体が熱を帯びていくようだ。

集中しないと魔力が抑えきれない。今までに扱ったことのない、巨大な魔力が体内から絞り出されようとしていた。

もはや外部の様子に構っている余裕はない。魔力の制御に集中しないと暴走してしまいそうだ。

チートスキルで詠唱の成功率が100%だという認識は改めないといけないようだ。これは気を抜くと失敗する。

暴走したら絶対にやばい。危険な、今まで体験したことのないレベルで魔力が集まっている。

全力だからって魔力を込めすぎた。だがもうやり直しもできない。

中断しても普通なら魔力が霧散するだけなのだが、これだけの濃密な魔力だ。何が起こるかわからない。

高速詠唱Lv5で詠唱時間が半分になっているはずだが、詠唱がいつまでも終わらない。

歯を食いしばり、魔力の制御に集中する。

トーチカの中は濃密な、物理的に触れられそうなほどの密度の魔力が渦巻いている。

もうすぐ。

もうちょっとのはずだ。

だが魔力の制御もそろそろ限界に達しようとしていた。

もうこれ以上魔力を抑えていられそうにない……

あと少しで詠唱が――

長い長い詠唱が、ついに終わりメテオが発動した。

不意に魔力が体から抜け、あまりの脱力感に膝をつく。

意識が遠のきそうになるのをこらえて、小窓から外を見る。

先ほどまでの雲ひとつない晴天が薄暗くなっていた。

空を埋め尽くすような無数の隕石が赤熱しつつ、高空からイナゴの群れ目掛けて落下していく。

薄暗かった空が今度は赤く光り輝く。

「ウィンドウォール」

予定通り、エリーが風の壁をトーチカの前面に展開する。

「落下するぞ。耳を塞げ!」

本当はトーチカに伏せたほうがいいのだろうが、黙示録的な光景に目が離せない。

轟音を上げつつ落下した大量の隕石群は、ほぼ同時に地面に着弾した。

刹那、大爆発が起こり大地が激しく振動する。

トーチカに音と衝撃が到達し、耳を塞いでいるにも関わらず頭の中を轟音が突き抜ける。

巻き上がった粉塵が太陽を遮り、あたりが再び薄暗くなる。

闇と静寂があたりを支配する。

耳がキーンと鳴っている。

やり過ぎた。

どう見てもやりすぎだよ、これ……

サティが耳を塞いだまましゃがみこんで、目をつぶってぶるぶると震えている。

アンとティリカがそれを心配そうに介抱にかかっている。

エリーが俺に何か言っているが、耳がよく聞こえない。

なんだこれ? なんだこれ?

試し撃ちした時は、こんなとんでもない威力じゃなかったぞ? そりゃその時は抑えて撃ったけど。

まだ少々薄暗いが辺りはようやく明るさを取り戻しつつある。

大岩を収納して、外に出る。

山は削り取られ地面には多数のクレーターが出来上がり、そしてどこもかしこも燃えていた。煙と粉塵で見通すことはできないが、これで生き残れるような生命体は存在しないだろう。気配察知にも全く反応はない。

四人も続けてトーチカから出てきて、一緒にメテオの着弾点を見やる。かつて存在した木々や生命は根こそぎ消滅し、燃えている。まるで地獄のような光景だ。

「お、思ったより威力があったわね」

ようやく耳が治ってきて、エリーの声が聞こえた。

返す言葉もない。魔力切れでその元気もない。

「な、なにこれ……」

アンもメテオの惨状を見て呆然としている。

「ほーくがショックで墜落した」

ティリカがぼそりと言った。幸いほーくは無事復帰して帰還中らしい。

サティはティリカに抱きついてまだ涙目だ。耳がいいだけにダメージが大きかったのだろうか。アンが見ていたので多分もう大丈夫だと思うが。

「とりあえず火を消さないとな」

「そうね。マサルはサティと休んでなさい。私達で空から水をかけてみるわ」

「うん、頼む。俺はもう魔力がない」

「きついなら魔力の補充しようか?」

アンがそう言ってくれるが、火を消すのを優先して欲しい。急がないと森林火災が起きそうだ。

「大丈夫。火を消すのに魔力を使ってくれ。イナゴも生き残りがいるかもしれない」

アイテムボックスからMPポーションを取り出して飲み、さらに濃縮マギ茶も飲んでおく。それでちょっと楽になった。

ティリカとアンを抱えて飛び立つエリーを見送る。

とりあえず消火はなんとかなるとして、地形が変わっちゃったのはどうしよう……

地面はぼこぼこになっている。街道も消し飛んでしまっている。

土魔法でなんとか直してごまかせないかな。無理だろうなあ。

メニューを見るとレベル4も上がっていた。

あれ? HPが半分ほど減ってる……耳鳴りがしたくらいで肉体的ダメージは負ってないはずだが、もしかしてHPまで魔力に変換してぶっ放したのか???

「ん? サティどうした」

座り込んでメニューを調べていると、サティが横に座って俺をじっと見ていた。目が合う。

「マサル様はやっぱりすごいです」

「うん、メテオはすごかったなー」

予想以上だわ。あれの半分もあればどんな敵でも吹き飛ばせそうだ。

もともとMP消費量減少Lv5で魔力消費は半分になってるし、半分でも全力なんだよな。いや、MP量増加もあるし、更に3分の1くらいか?

本来の魔力の6倍で撃ったのだ。メテオの威力が過剰になってもおかしくないし、あの制御の困難さもうなずける。

もし制御に失敗してたらどうなっていただろうか。これだけの破壊力の魔法が暴走するのだ。俺も、周りもただでは済むまい……

やはり全力のメテオの使用は控えたほうがいい。いや、他の魔法にしても全魔力を込めるのは危険だな。半分くらいに制限しておくのが安全だろう。

順調に消火は進んでいるようで、火災現場からは蒸気が立ち上っている。

魔力切れの疲労感もあり、ぼんやりとそれを眺める。イナゴはさすがに全滅してるかな。

そうだ、クエスト。

メニューを開いてクエストを確認するが、クエストの状態に変化はない。

クエストのクリア条件はイナゴじゃない……? まさかこれで殲滅しきれてないとか? ナーニアさんのところまで行かないといけないのかな? それともまさか本当にナーニアさんが普通に困っていて、イナゴは偶然遭遇しただけ?

一応日誌で問い合わせておくか。どうせ返事は来ないんだろうけど。

しばらくすると三人が戻ってきた。

「大雑把に水をかけただけだけど、大体の火は消えたと思うよ」

「見た範囲ではイナゴは全滅してたわね」

「たいがに周辺を見て回らせている」

ティリカの召喚は本当に役に立つ。本来なら自分たちで見て回らなければいけないところだ。その分ティリカに負担がかかるんだろうと思ったんだけど、たいがは簡単な指示でもかなり独自に動いてくれるらしい。俺のゴーレムとは大違いだ。

「それと原型が残ってたのを少し回収してきたわよ」

「いい感じに焼けてた」

こんがり焼けてそうだ。塩でもふりかけてあとで試食してみるか。

とりあえずイナゴはもういいとして、村人と商隊にもう大丈夫って知らせないといけないな。あとは地形が変わったのはもうどうしようもないとしても、街道は修復しないと馬車が先に進めない。

「アン、魔力分けてくれる? 街道を直すよ」

「いいけど今日はもう休んだほうがいいんじゃない? 道を直すのなんて明日でもいいのよ」

だが誰かに見られる前にこの惨状をなんとかしたいのだ。

アンに残った魔力を譲渡してもらう。減っていたHPも余波で回復した。

現場は予想以上に穴だらけだった。穴は俺の身長ほども深さがあり、広さも4,5mはあるだろうか。それが見渡すかぎり続いている。

焼け焦げた臭いが鼻につく。木の燃えかすやイナゴの残骸らしきものがそこかしこに落ちている。先ほどの消火で地面は濡れ、湯気が立ち昇っている。

以前テストでメテオした時はここまでの大きな穴は出来なかった。範囲だけを広げたつもりが威力も上がってしまったんだろうか。暇を見つけてもう2,3回、試射でもしておくべきか。

本当はもっと色々検証してみるべきなんだろうが、他にも優先すべきことが何かと多い。

ゆっくりした休みが欲しい。もっと嫁とイチャイチャする時間が欲しい。

世界の破滅に関しても情報収集がいるし、生き残るための自己強化もかかせない。

充実してる感はとてもあるんだけど、日本にいた時の100倍くらい働いてるわ……