軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

78話 ブートキャンプ完結編

翌日。ウィルのブートキャンプ二日目も無事終了し、おれの特訓の開始である。アイテムボックスから防具を出して装着しているとウィルが寄ってきた。

「兄貴なにしてるんすか?」

ウィルは憔悴した顔をしているものの、動き回れるくらいの元気は残っているようだ。おれは二日目とか死にそうになってたのに。

「剣の訓練だよ。これから軍曹殿に稽古を付けてもらう」

今日は昨日みたいな惨状にはならないはずだ。何故なら回避を3から4に上げ、心眼を取ってあるのだ。いきなり回避力が上がって軍曹殿に不審がられる可能性もあるが、こちらも命がかかっている。なりふり構ってはいられないのだ。

「見てってもいいっすか?」

「お前このあと飯だろ? 食わないと体力戻らないぞ」

「構わん。わしの方から言っておこう。マサルは準備しておけ」

「サー! ありがとうございます、サー!」

ウィルは軍曹殿に声かけられ直立不動である。実によく躾けられている。隷属の首輪の効果なんだけど。

「軍曹殿ってお強いんすか? 結構お年を召しておられるっすけど」

軍曹殿が宿舎に歩いて行ったのを見送りながらウィルが尋ねてきた。

「強いなんてもんじゃねーぞ。若い頃は剣士で世界二位だったらしい」

装備を身につけながら話をする。

「二位!?」

「何でも剣聖の弟子だとか。引退して全盛期より弱くなったって言ってたけど、おれじゃ相手にもならん」

「剣聖ってあの剣聖っすか?」

「剣聖って何人もいるのか?」

「いないっすよ。剣聖と言ったらバルナバーシュ・ヘイダただ一人っすよ」

「まあ剣聖はどうでもいい。まずは目の前の軍曹殿をどうにかしないと死ぬ」

果たして心眼程度で元世界二位がどうにかなるのか?不安すぎる。

「訓練すよね?」

「訓練だが?」

「死ぬんすか?」

「気を抜くと死ぬ。死なないでも死にそうなくらい痛い」

このまま逃げ出したい気持ちでいっぱいだが、実力をつけて行かないと今後の命に関わるし、自分から志願したことだ。今更断ることもできない。

「がんばってください、兄貴……」

応援がこいつだけだっていうのが物悲しい。サティは今日も外で待っているのだが、関係者以外は基本的に立ち入り禁止だ。

「準備は出来たか?」

ウィルの相手をしている間に軍曹殿が戻ってきた。

「はい。よろしくお願いします」

軍曹殿の攻撃は熾烈を極めた。殺す気かという勢いで攻撃を加えてくる。ギンッギンッと人気のない訓練場に剣戟音が響き渡る。

心眼と回避アップは効果があったようで、なんとか軍曹殿の攻撃を剣でしのげている。どうやら今日は死なずに済みそうだ。

「昨日の今日で腕を上げたな。驚いたぞ」

一旦距離を置いて軍曹殿が言う。

「昨日みたいな目に合うのはごめんですから」

「ならばもう少し本気を出そう。これではいい訓練にならん」

今日もおれが死ぬのは確定なようだ。

「あの、兄貴……大丈夫っすか?」

グラウンドでボロ雑巾のようになって倒れたおれに、ウィルが心配そうに声をかける。

「大丈夫だ。一見まともに食らったように見えただろうが」

「急所を外してるんすね!?」

「軍曹殿が手加減してくれてるのだ」

何度も死にそうな攻撃を食らっているうちにわかったのだが、攻撃の当たる瞬間、力を抜かれている。それがなければ一撃で立ち上がれなくなっただろう。実力差は歴然としている。心眼も回避も多少の時間稼ぎになる程度だった。

ヒールを何度もかけて立ち上がる。プレートも軍曹殿の攻撃を大量に受け止めて、ベコベコになってきた。これは新しいのを発注しないとまずいな。

「その防具もそろそろ替えどきだな」

おれがハーフプレートアーマーの凹みを調べているのを見て軍曹殿が言った。

「そうですね。新しいのを注文しようと思います」

「ならば明日からは防具なしで訓練だ。どうも貴様は防具に頼りすぎるところがある。悪い癖だ」

「その、できればもうちょっと痛くない訓練ってないんですかね?」

手加減されているとはいえ、鉄の剣で何度もブチのめされるのだ。そりゃあ痛い。すごく痛い。何度も意識が飛びそうになる。だが気絶はしないし、立ち上がれもする。軍曹殿がそこら辺を絶妙に加減しているのだろう。恐ろしい。

「これが一番効率がいいのだ。すぐにまた出かけるのだろう?時間があるまい」

半年なり一年なりじっくりと訓練ができるなら、また違う方法もある。だが一週間では実戦的にならざるを得ないということだ。しかし防具なしと言うのはちょっとやりすぎじゃないだろうか。

「心配するな。回復魔法で治せる以上のダメージは与えんように加減はしておる」

ぶたれると痛いのですよ、軍曹殿。傷は治るとはいえトラウマになりそうです。

「痛くなければ覚えない」

アンもそんなこと言ってたな。この世界の格言か何かか?

「剣聖の言葉っすよ、兄貴」

マジか……紹介してもらうって話だけど、これは行かないほうが良さそうだ。

「ウィル。貴様も明日から剣の訓練だ。覚悟しておけ」

「サー、イエス、サー!」

お互い頑張ろうな、ウィル……

■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■

三日目。訓練生達はボロボロになりながら必死に剣を振るっていた。そして治癒術士の人が疲れた顔をしていた。

「少し早いですけど交代しましょうか」

「悪いね。なんだか、怪我人が多くて」

そんなことを話してるあいだにまた一人倒れ、軍曹殿から合図がかかる。

「行って来ます」

「頼むよ」

倒れた訓練生はぜぇはぁしてるが、怪我はかすり傷なようだ。ヒール一発で十分だろう。

「さあ、回復しただろう。立て!」

「サー!イエス、サー!」

訓練生が無事立ち上がったのを見届けて、待機場所に戻る。

「ヴォークト教官いつにもまして気合入ってるね。人数も多いし大変だよ」

そんなに今から気合を入れなくても全然いいのに。今日は防具もなしだ。せめて木剣にしてくれないだろうか。してくれないだろうなあ。痛くなければ覚えない、だものな。

訓練終了後、おれの特訓の見学者が増えていた。初心者講習会の参加者が全部残っている。

「昨日のことを話したら皆も見たいって言うんすよ。軍曹殿の許可は取ってあるっす」

宿舎に閉じ込められて、こいつらも暇なんだろうか。おれの時はぐったりしてそんな余裕なかったけどなあ。

「見ても楽しいもんだとは思わないけどな」

おれが軍曹殿に何度も何度も倒されるだけのイベントだ。そんなものは自分達でも何度も体験済みだろう。

「人の戦いを見るのもまた訓練の一環だ」

「そういうことなら構いませんが」

軍曹殿が剣を手に歩いてくる。こっちに集中しないと今日も死ぬ。防具がないのだ。今日こそ死ぬ。

「準備はいいか?」

「はい」

心の準備は全く出来てはいない。だが待てと言っても待ってはくれるわけでもない。覚悟を決めて剣を構える。最低限ということで頭の防具だけは認めてもらったが、防具なしが非常に心もとない。

「臆したか?だがじっとしていても事態はよくはならんぞ」

もっともな意見だ。それに見学している訓練生のことも少し意識する。びびっているのは確かだが、やつらにそう思われるのは沽券にかかわる。

隠密と忍び足を発動し、素早く軍曹殿の右手に回りこんで斬りつける。普通のやつはこれをやられると一瞬消えて見えるらしい。もちろん軍曹殿には意味がない。単に正面から攻撃するのが怖かったのだ。

足を止めないように、ひたすら動きながら攻撃をする。軍曹殿は足が悪い。ヒットアンドアウェイならば対応も難しいはずだ。

だが、全然そんなことはなかった。こちらの動きに合わせて的確に距離を詰めてくる。徐々に攻撃をする余裕がなくなり、防戦一方になる。考えてみれば悪いのは片足だし、その悪い方の足も歩く程度なら何の問題もない。全速力で逃げるならともかく、数歩分くらいなら余裕で追撃が可能なのだ。

そしてついにむき出しの肩に一撃を食らってしまう。余りの痛みに膝をつく。やばい。これは折れてる。

「回復魔法は使っても良いことにしよう。さあ、回復して立て」

軍曹殿の許可が降りるが痛みで集中ができない。魔力が集まらない。顔から血の気が引き、冬にもかかわらず嫌な汗がだらだらと流れてくる。

「どうした。強くなりたいのではなかったのか。立て!」

人事だと思って簡単に言う。だが回復しないことにはこの痛みから逃れられない。深呼吸をして意識を魔力に集中する。小ヒール発動。小ヒール発動。小ヒール発動。

ヒールを覚えてから使う機会がないと思っていた小ヒールだが、意外なところで役に立つ。馬鹿にしてごめんなさい。さらにヒールを重ねて傷を癒す。肩をぐるりと動かす。痛みは消えたようだ。

立ち上がって再び軍曹殿と相対するわけだが、打開策が見つからない。

「どうしても勝てないときはどうすればいいのでしょう」

「逃げることもできないなら戦うしかなかろう。諦めずにあがけば奇跡が起こるかもしれんぞ」

今の状況には役に立ちそうにない意見だ。諦めよう。あくまでこれは訓練だ。死ぬわけじゃない。訓練の範疇は超えてるような気はするが、これは訓練なんだ。痛みも幻想。すぐに治る。よし、大丈夫。いける。

軍曹殿の終了の合図までに合計四度、グラウンドに転がることになった。防具ってマジで偉大だと思う。作った人に感謝しよう。回復魔法をかけたあと、立ち上がる気力もなくなったので座り込みながらそう考える。

「だ、大丈夫っすか、兄貴?」

「おおむね大丈夫だ。今はちょっと休憩しているだけだ」

今日はもうゴーレムでも作って乗って帰るかな。ああ、でも魔法を使う気力もわかないわ。

「辛いのなら訓練は今日で終わってもいいぞ?」

「……いえ、最後までお願いします」

魅力的な提案だが、ここで終わりますと言えるような空気でもないだろう。おれの返答に軍曹殿は真面目な顔でうなずいているし、ウィルや訓練生は神妙な顔をしている。

「よくぞ言った。あと三日間、きっちりと鍛えてやろう」

宣言通り残り三日間、軍曹殿は容赦なくおれを鍛えた。マジで容赦がなかった。野うさぎやらハーピーやらに何度か殺されかけたが、それと比べても一番辛い経験だった。

相変わらず軍曹殿には敵わないままではあるが、痛みをこらえながらの小ヒールだけは得意になった。

この数日でサティは格闘術をレベル2に上げたし、エリーがようやく料理スキルを取得した。

初心者講習会最終日、ウィルは首輪が外れたのを泣いて喜んだ。ウィルはおれの弟子になるのは一旦諦めて、一緒に訓練を受けた仲間とパーティーを組むそうである。

おれ達は明日にはこの町を出発して、オルバさんとナーニアさんの住む村へと向かう。商人の馬車に便乗しての二週間の行程である。