軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

64話 秘密基地

「一日の稼ぎとしては悪く無いわね」と、エリー。

翌日の朝、おれ達は居間に集まってお金のことを相談中だ。既にギルドに行って報酬は受取済みだ。昨日の今日で依頼が完了したのを見て副ギルド長は驚いていた。だがギルドカードとティリカを前にしての証言には疑う余地はない。きっちり倍額の討伐報酬を受け取った。

「悪くないどころじゃないよ。冒険者って儲かるんだね」

神官さんは極貧だからなあ。鎧を買った時も値段に結構驚かれた。騎士団の鎧とかもっと高いと思うんだが。

「これくらいなら普通かな。ハーピーは1匹1匹はそんなに報酬よくないしね」

オーク1匹に、ハーピーが28匹。ハーピーの討伐報酬が倍になって確かにそこそこの収入ではあるが、人数で割るとなるとそれほどでもない。

「生活費を除いて5等分でいいわね。生活費も1人分にして6等分かしら」

「そんなもんでいいんじゃないか」

「あの。私はそんなにいりません。必要ないですし」と、サティが言う。

「私もお金なら貯金があるし、そんなにいらないかな。今回はあんまり役に立ってなかったし」と、アンも言う。

ティリカはそのやりとりをぼーっと見ていた。たいが用に寝転がれるサイズの大きめのカーペットが設置してあり、サティとティリカはたいがを背もたれにして一緒に座っている。

「だめよ。こういうのはきちんとしないと。使わないなら貯金でもしておきなさい。ギルドに預けておけばなくす心配もないから」

「そうそう。最初から大活躍なんて誰にもできないし。サティもアンもちゃんともらっとくといいよ」

「さすが、野うさぎと相打ちになったマサルが言うと説得力があるわね」

「そんなこと言ってもいいのか?いまエリーのから揚げがどこに入ってるかよく考えてみる事だ」

「なっ!?から揚げを盾にするなんて!」

「ククク。このから揚げが惜しければ……」

「惜しければ、どうなのかしら?」

「いつでも出しますよ?」

「そう。それでいいのよ。いい子ね」

「はい。生意気言ってすいません」

エリーが持っている杖がパチパチと電撃をまとっている。レベル5になって何やら雷撃の使用方法に開眼したようだ。かなり自在に雷を操る。

「お金はいいとして、修行のことよ。森でも街から近いと物足りないわ」

エリーはとりあえずは機嫌を直して、話を続行することにしたようだ。

「とはいっても、この森。敵のレベルがほどよいんだけどな」

ドラゴンが出てきたとしても今なら倒せるとは思うが、あまり危険は冒したくない。

「街から近いからいけないのよ。もっと奥地にいけばいいわ」

「そうか。ゲートがあるものな」

「そう思って昨日のハーピーの場所に転送ポイントを登録しておいたのよ」

「おおー」

「でもあんまり奥のほうに行っても大丈夫なの?」と、アン。

「そうね。たまにオークの集落とかがあったりもするんだけど、うちの偵察能力だと不意を打たれることはないわ。ね、ティリカ」

「ほーくは何も見落とさない」

「そうだな。それに危ないって思えばゲートで逃げればいいし、夜は家に帰れるしな」

「ほんと便利よね、空間魔法。マサルさまさまだわ」

そういっておれを見てにっこりと微笑むエリー。かわいいな。

「アンもティリカも早く新しい魔法覚えたいでしょ」

今回の遠征でエリーとティリカは1つレベルがあがった。そのことに関しても話し合わないといけない。

「ポイントは貯めておくわ。空間魔法を上げきるのよ」

「レベル5の空間魔法って何なんだろうな?」

「わからないわ。でもきっと物凄いのよ!」

「そうだな。すっごい魔法が出ればいいんだけど」

空間魔法レベル5で日本への転移ができないだろうかと、ちらっと考える。その程度で帰還可能なんてあり得なさそうだが、日本と自由に行き来出来ればいいだろうなと思わないでもない。でも今のタイミングで戻ったりすると3ヶ月行方不明ってことになるんだろうか。やはり戻るとしても伊藤神に任せたほうが無難そうだ。

日本への帰還に関しては既に日誌で問い合わせてある。その時になれば残留か帰還かを選択させてくれるそうだ。だが、回答があったのはその一点のみだった。嫁達を連れていけるかどうかは未回答。できるともできないとも言わないのは希望があるということだろうか。残る方に心は傾いてはいるけれど、日本への未練もそんなに簡単には断ち切れない。

「ティリカはどうする?」

「召喚魔法を取る」

召喚魔法を4にあげるには8Pいる。こっちも保留か。

「話はこれで終わりね。今日は一日ゆっくりして、明日また森へ行きましょう」

「じゃあ今日はエリーの料理修行をしようか」

アンがにっこりと笑って言う。

「え?あ、今日は休みを……」

「だめよ。そろそろ本格的にやりましょうね。料理もせめてレベル1にはなってもらわないと」

「しょ、食材を無駄にするのはいけないと思うのよ」

「大丈夫。エリーの失敗の理由がだいたい見えてきたわ。私に任せれば大丈夫よ」

エリーはアンに腕を掴まれ、台所へと強制連行される。サティとティリカもそれにくっついて行ってしまった。さて、おれはどうしようか。嫁たちが和気あいあいと料理をしてるのを眺めてもきっと楽しいんだろうけど。

居間で一人になって、明日からの予定をゆっくりと考える。昨日はハーピー以外の魔物がやけに少なかった。きっとあのあたりは街を襲撃した大規模なハーピー集団の通過したあとだったんだろう。さらに奥地に進めば魔物は多くなるはずだ。毎日転送で街を出て半日くらい森に篭ればいい感じにレベルが上がっていくだろう。

そこでふと気がついた。門を通らず街の外にいって討伐をしまくる。ちょっと不審ではないだろうか。門を通過するときはカードをチェックされるとはいえ、記録はいちいち取らない。だから多少辻褄が合わない程度なら大丈夫だろうが、おれは門番とは仲がいい。そこまで考えて慌てて台所へと向かう。

「おい、大変だ!」

「どうしたの?」

アンがきょとんとした顔でこちらを見ていう。他の3人もこちらに注目する。

「おれ達、門から出たのに門を通らず戻っちまった。転送魔法陣のことがばれるぞ!」

あの門番の兵士はおれのことをかなり気にかけている。数日消息がしれないとなると、本当に捜索隊を編成しかねない。

「ちょっとそれはまずいわね」

包丁の練習をしていたエリーもこっちに来た。

「どうしよう?一度レヴィテーションか何かで外に出て戻るか?」

「下策ね。既にギルドには報告をしてるから、調べられたら余計におかしなことになっちゃうわよ」

「転送魔法陣はばれたらちょっとまずいんだよな?」

「そうね。国からスカウトが来るかもしれないわね。私は帝国の貴族だからそっちから話が来ると断れるかどうか」

みんなで考えこむ。長距離転移くらいなら使い手はそこそこいるが、転送魔法陣の使い手ともなると極々少数となる。その少数も国家や組織に囲われて実数は不明という状態だ。いずれは隠しきれなくなるだろうが、今すぐというのはどう考えてもまずい。

「こうしましょう。マサル、東門に顔を出して来なさい。西門から戻ったことにしておけばいいわ」

「それで大丈夫かな?」

「疑う理由もないし、きっと大丈夫よ」

「わかった。ちょっと出かけてくるよ」

幸い、門を出たのは昨日の朝だ。まだ心配するような時間は経っていない。普通に門に寄って挨拶しとけば平気だろう。

「ぱにゃ、連れて行く?」

二手に別れる場合、召喚獣を連れているととても便利なことは証明済みだ。こちらからしか詳細なことは伝えられないが、ティリカ側からでも、はいかいいえくらいは動きで示すことができるようにしてある。街中では必要もないだろうが念のためだ。携帯電話的なものはこの異世界にはないからね。

「行ってらっしゃいませ、マサル様」

「気をつけてね」

ねずみを上着のポケットにいれ、皆に見送られて家を出る。

家の外に出るとかなり寒い。日付は12月21日。こちらに来てから3ヶ月と10日になる。一年の気候を聞いてみると日本と大差はないようだ。暦が日本と全く同じなのはなんでだろうと思ったけど、伊藤神みたいなのがいるんだから、きっとどっかから輸入したんだろう。正確な暦があると便利だから。

大通りに出て、何気ない風を装って門に近づく。ちょうどいつもの門番がいた。すぐにこっちに気がついたようだ。

「マサルじゃないか。いつの間に戻ってたんだ」

「昨日のうちにあっちから」と、西門のほうを見る。そちらの方には家もある。嘘は言ってない。

「ああ、そうか。それで新しいパーティはどんな具合だ?」

「街を襲ったハーピーがいましたよね。あれの残党の巣を見つけて殲滅しておきました」

「ほう。それはいい仕事をしたな」

「ええ。おれもかなりやられましたからね」

「しかし、日帰りの距離に巣か。あの規模の集団だし、他にもあるかもしれんな」

考えてみれば、あの巣1個で終わりってことはないのかもしれない。周辺をそれほど探索したわけでもないし。

「それもそうですね。もう一度そっち方面を探してみます」

「ああ、頼む。こんなことは俺達がやるべきことなんだろうけどな」

「報酬はきっちりもらってますし」

「そうだな。嫁が4人だ。がっつり儲けないとな」

「はい。じゃあ帰還の報告に来ただけなんで、戻りますね」

「おう。嫁さん達にもよろしくな!」

これでよし。ついでに買い物でもしておこうかね。本も全部読んじゃったしそろそろ新しいのが欲しいところだ。

「ミッションは無事終了した。買い物に行ってから帰ろうと思うけど」

ポケットのねずみにそう話しかける。するとねずみが首を振った。

「帰って来いってこと?」

今度はねずみがちゅーと鳴く。

「わかった。すぐに戻るよ」

何かあったんだろうか。ちょっと小走りで家へと急ぐ。でも何かあったんならもっと早くに合図が来るはずだよな。

家に戻ると、皆が食堂のテーブルに揃っていた。

「おかえりなさい、マサル。あれから転送魔法陣のことで話し合ってたんだよ」と、アンが言う。

話はこんな具合だ。直接ここから森へ飛び狩りをすると、街から出た形跡が全くないのにどうやって狩ったんだということになる。

じゃあ転送地点を街の外に設定して、門から出て門から帰ってもよろしくない。森の奥での獲物は、どう考えても日帰りの距離で狩れる獲物じゃないからだ。もし大量の魔物が街から日帰りの距離で狩れるとすると、またギルドから調査団が派遣されるくらいの事態になる。

「だからって、家に帰れるのに危険な森で野宿っていうのもないと思うのよ」

そうアンジェラが言う。森での野宿はとても危険だ。それで命を落とす冒険者も多い。

「一晩中警戒とかすっごく体力を消耗するのよ。あんまりやりたくはないわね」

エリーも賛同だ。

「遅めに戻って家で寝るだけってのはどうだろう」

要は家にいるのがばれなきゃいいのではないだろうか。

「それで確実にばれないってならいいけど、ばれたときに誤魔化すのが大変そうだよ」

「だから大きい家にしようって言ったのよ。家が大きいならばれる危険も少ないわよ」

「それもどうだろう。根本的な解決になってないし、今はそんなにお金がないよ」

結婚式で大分使っちゃったし、ナーニアさんに返すお金のこともある。

「留守番を置いておけばどうだろう?無人で人がいたら変だけど、一人でも残っていたらお風呂とか料理とかこっそりやればたぶんばれないわよね」

「誰が残るのよ?」

「実際に残す必要はないんだよ。残るって設定にしておけば、別に昼間家にいなくても変じゃないよ」

「それもそうね」

「野宿はどうかな?土魔法で地下室でも作って入り口はたいがに警戒してもらえばいいし」

「それも悪く無いわね。でも毎回それじゃ大変よ?」

魔力的には大丈夫かもしれないけど、確かに面倒そうではあるな。

「それならいっそこの家に地下室を掘るっていうのはどうだい?」

「地下室ってじめじめしない?」

「どうだろう。でも狩りの間だけだし野宿よりましじゃない?」

「それなりに手間をかければちゃんとした部屋になると思う」

「でもそれも解決になってないわね。ねえ。ばらしちゃだめなの?」

「だめよ。転移術士なんてやり始めたらSランクになれないわ」

「それに芋づる式におれの力がばれるかもしれない」

空間魔法が苦手だったエリーが、いきなり転送魔法陣まで使いこなすようになったのだ。どうやって?という話になってもおかしくない。

「ずっと隠しておくの?」

「理想はSランクだけど、Aランクになるまでね。冒険者として名を上げれば、そういう誘いも跳ね除けられると思うの」

要は転移術を使ってるより冒険者として戦うほうが有用だと示せればいいのだ。実績さえあればそのあたりはクリアできるだろうとのエリーの考えだ。

「どこか人里離れたところに拠点を作るとかはどうかしら?帝国の西の辺境に賢者様が塔を建てて住んでるって話があるのよ」

塔か。土魔法で作れそうではあるが、ここは地震とかってどうなってるんだろう。日本みたいに多かったら危ないぞ。

「ここって地震とか来ないのかな?」

「地震?ああ、あれね。この辺りじゃないわね」

それならなんとかなりそうか?塔を建てて、周りを塀で囲って、内装も考えて。でもかなり時間がかかりそうだな。

「他の街で泊まるっていうのは?」

「それも微妙ね。ずっと街に泊まっていたのにすごい量の獲物を持ち込んだ記録が残るのよ?」

やはりばれないためには野宿が一番ってことになるのか。せっかく覚えた転送なのにもったいない。お金が必要ないならいっそギルドカードをアイテムボックスにいれて狩りをすればいいんだけどな。獲物は保存しておいて、どこか足のつかなさそうな所で放出すればいいし。

「とりあえず地下室掘ってみようか」

とりあえず地下室の出来を見て決めようということになった。狩りに出るのはそれまで保留にする。

「ここらへんでいいんじゃないかしら」

居間はフローリングになっていて、その隅の部分を2m四方ほど引っぺがすと土があらわになった。

土魔法を使い慎重に土を掘り起こす。出た土は錬成で大岩に変えてアイテムボックスに収納しておく。体がすっぽり入るくらい下に掘ったら、今度は斜め下に掘り進んで行く。壁が崩れないように硬く錬成し、足元には階段を作っていく。3mほど掘り進んだところで、平行に切り替える。

土はちょっと湿っぽい。この街はすぐ近くに川が流れているし、堀り進んでいけば井戸もでる。あまり深くは掘らないほうがよさそうである。

ライトの魔法で照らしつつ、がしがしと地下室を拡張していく。うちのメンバーはみんな背が低いので高さは気にする必要はない。160cmのおれが手を上げて届かないくらいにしておいた。

夜までかけて、居間と同サイズくらいの広間を一つ、他に小部屋を三つ、トイレ用の部屋を一つ作った。地下室は家の真下と庭で収まるように位置を調整してある。少し道路にはみ出てる気がしないでもないが、まあいいだろう。あとはどこかに通風口をつければ問題はないはずだ。壁は特に念入りに錬成して大理石とまではいかないが、コンクリートよりも手触りをよく仕上げてある。崩落が怖かったので天井も含めてがっちり強化もしてある。

「あら。思ったよりいいじゃない」

作業が地下に移ってから一度も見に来なかったエリーが、完成したと聞いて見に来た。

「そうだろう、そうだろう。結構苦労したんだぞ」

それでも作業は朝からやって夜には終わった。建築のけの字も知らないニートがこんなに立派な地下室を作れてしまう。魔法ってほんとに便利だな。

「これなら狩りの間くらいなら住んでも問題なさそうだわ」

「明日はここにいれるベッドとか買いに行かないとな」

「それよりもマサル、泥だらけよ。お風呂を入れておいたから入って来なさいな」

いつもはおれがお風呂を入れるんだが、気を使ってやっておいてくれたみたいだ。エリー、やさしいな。

「一緒に入る?」

「え、うん。いいわよ。よく働いたご褒美に洗ってあげる」

おお!言ってみるものだ。

翌日は家具を買い込んだり、みんなの要望を聞きながら構造を微調整をしたり。居間から地下室の入り口も偽装して、普段はソファーの下に隠してある。広さが2mあった堀り口もほとんど塞いでハシゴで降りるだけの狭さにした。非常時にはここも土魔法で塞いでしまえばみつかる心配も減るだろう。どんな非常時だかはわからないが。

狩りは結局みんなでってことになった。狩り期間中は完全に地下室のみにしておけば、まずバレることはないだろうという結論だ。歩いて門から出て、転送魔法陣で森へ行く。あとは日中狩りをしながらゴルバス砦を目指し、夜は地下室に帰還して眠ることになる。

この家に住むのもそろそろ3ヶ月。契約更新をして家賃も半年分払っておいた。秘密基地も作ったことだし、まだしばらくはこの家でお世話になることになりそうだ。