軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

54話 決闘

結局3分待ってもらった。そしておれは今ナーニアさんと対峙している。剣と盾を構え、殺気をたぎらせているナーニアさん。怖い。殺す気だよ、この人……

「双方構え」

距離は10mほど。一瞬とはいかないがすぐに詰められる距離だ。おれは詠唱をこっそり開始し、ブーツを調べる振りをして足の鉄板に魔法を発動する。よし、成功した。

実はさっき靴裏に鉄板を仕込んだのだ。仕込みには土魔法の錬成を使った。そして雷の属性剣をその鉄板に発動する。名付けて雷神脚。効果は10分はもつように魔力を込めた。ナーニアさんの足鎧は金属製だ。これで足をふむか蹴りをいれればびりびりとなる寸法だ。ブーツの靴底は厚いからおれが感電する心配は無い。また訓練場は土のグラウンドだから足音でばれる可能性も低いだろう。

おれも剣を構え、準備ができたとうなずく。訓練場には暇な冒険者がたくさんいて、何事かと様子を見に集まってきている。

「始め!」

まずは小手調べ。エアハンマーだ。不可視の魔法攻撃はわかっていても避けられるものじゃない。10回外しても11回目に当たればそれでいいのだ。

あ、避けた。そして見物人がふっ飛ばされた。

「おい、あいつ魔法使いだ!距離取れ、距離!」

一気に人の輪が広がった。盾を構える人もいる。

「無駄ですよ。見えなくても当たりはしません」

だが、連打すればどうかな?

警戒しながらゆっくりと接近してくるナーニアさんにエアハンマーを連打する。詠唱短縮50%は伊達じゃないのだ。まさに息をつかせぬ連打。時々吹っ飛ぶ人が目にはいるけど気にしない。

5発目でついに捉えた。盾で受け止められたが足が止まる。ここだ!

次を撃ったタイミングで斬りかかる。剣で受け止められる。【エアハンマー】発動!

だがそれも盾で受け流されたが、むこうも無理な体勢でエアハンマーを受けたせいでバランスを崩し、追撃はこない。バックステップで距離を取る。

「もうやめません?おれが強いのは今でのわかったでしょう?」

「少しはやるようだが、この程度ではエリーは任せられない。エリーが欲しければ私を倒すのだな」

なんでエリーが欲しければって話になってるの!?

「さあ、無駄話は終わりだ。死ね!」

怒りで我を忘れてるよ、この人!

そういうとナーニアさんは襲い掛かってくる。エア……だめだ。はやい。盾と剣で必死で受け流すがじりじりと後退させられる。雷神脚どころかエアハンマーすら撃つ余裕がない。

一撃二撃三撃と攻撃が体をかすめる。革鎧の上からかすめる程度ではあるがダメージは入る。痛い。これアザとかできてるぞ。やばいやばい。軍曹どのよりは動きが遅いからなんとか追えている。だが明らかにあちらのほうが力量は上だ。このままではジリ貧だ。仕切りなおしだ!

アイテムから建築用のレンガをまとめてナーニアさんの上に放出する。これで怯めば……怯まない……!?そのまま攻撃続行してきた。

どかどかとレンガが降る中、予想外の展開にうろたえたおれに隙ができた。脇腹を剣で貫かれる。だが、最後のレンガがナーニアさんの頭に直撃し、一瞬ふらつく。レヴィテーション!

痛みをこらえ空に離脱する。くそ、いてえ。ナーニアさんまさか飛べないよな?

「貴様!卑怯だぞ、降りてこい!」

飛べないみたいだ。傷を確認する。鎧の上からで傷の深さはよくわからないが、血がどくどくと出ている。早く治療しないといけないが、レヴィテーション中は他の魔法は使えない。服のポケットに入れてあるポーションを使う。まだ痛みがおさまらない。次のポーションは30分は待たないと効果がでない。不便な仕様だ。

さらにレヴィテーションで上昇する。すでにナーニアさんや見物人達は豆粒のようにしか見えない。【ヒール】詠唱開始――落ちながら詠唱を続ける――ヒール発動。レヴィテーションを再び使い落下を止める。ようやく痛みが止まった。

しかしどうするんだこれ。剣で負けてる以上、どうにかして雷神脚を打ち込まないとだめなんだが、そんな隙もない。なんとかつばぜり合いに持ち込んで……そんなことを考えながら降りて行く。

あれ?なんか弓を構えて……うわっ。矢が飛んできた。矢はかなり下方を飛び去っていく。第二射の構えをとるナーニアさん。やばいぞ、レヴィテーションじゃ速さが足りない。避けきれない。レヴィテーションを切って落下しはじめたおれの頭上ぎりぎりを矢がかすめる。【フライ】発動!

高速のフライで矢を回避する。こちらの動きが素早くなったので弓は諦めたようだ。それを見ておれも地上に降りる。

「マサル殿もそろそろ諦めたらどうだ?」

そう言いながらゆっくり間合いを詰めてくる。

「今のうちに降参すれば痛い目に遭わずに済むぞ」

降参したい。とてもしたい。さっきの脇はとても痛かった。だけど……

ちらりと見物人のほうに目をやる。アンジェラにエリザベス、サティが見てる。あまり無様なところは見せられない。

おれの目線の先をナーニアさんも見る。

「そういう選択肢がないのはそちらも同じでしょう?」

話しながらリジェネーションを発動する。ナーニアさんがぴくりと反応するが攻撃魔法じゃなさそうだとわかり話を続ける。リジェネーションは短時間ではあるが常時小ヒールくらいの効果が発動し続ける魔法だ。これで少々攻撃を食らってもダメージは回復できる。

「そうだな。後腐れがないようにきっちりと決着をつけてやろう。少々痛くするが恨むなよ」

今までの動きじゃだめだ。さっき教えてもらったフェイントを思い出す。そしてラザードさんとの模擬戦だ。あの一撃一撃が必殺の重い攻撃。肉体強化Lv3でパワーは大幅に上がっているはずだ。ナーニアさんが体格のいいシルバーよりパワーがあると言うことはあるまい。

エアハンマーを撃ち、間合いを詰め、上段に力任せの一撃を打ち込む。だががっちりと盾で受け止められ、反撃を食らう。足をわずかに斬られたがすぐに痛みは引いていく。

違う。ラザードさんの動きはこんなんじゃない。もっと強く。もっと素早く!魔法も盾も使わず両手で剣を振るう。反撃を何度も食らうが致命傷だけは避けるようにして踏み込んでいく。

おれの半ば捨て身のフルパワーの攻撃に徐々に打ち合いは互角になっていく。なんだ?なんで互角に……スタミナか!ここ数日、ナーニアさんは防衛に出ていたはずだ。体力は消耗しているだろう。

だが既にこちらもリジェネーションが切れた。もう何箇所に攻撃を食らったのかもわからない。体中が痛む。痛む体を鞭打って攻撃を続行する。呼吸も苦しくなってきた。あとどれくらい動けるか……

そしてとうとうチャンスがやってきた。おれの攻撃を盾で受けたナーニアさんが、片手で支えきれずに剣を持ったほうの手と両手で支えたのだ。ぎりぎりと力を加えていき――足を一歩踏み出し、ナーニアさんの足を踏みつけた。

バチッ、バチバチッ。通ったぞ!ナーニアさんの体がビクッと震え、力が抜ける。

そこにエアハンマーを発動する。電撃の麻痺で力が入らないナーニアさんはエアハンマーをまともにくらい、なすすべもなく吹き飛んだ。

倒れたナーニアさんが立ち上がろうともがいている。

「おれの……勝ちです」

呼吸が苦しい。そして力を抜くと、体中の痛みが一気に襲いかかってきた。痛みで泣きそうだ。

「ま、まだだ。まだ……」

「勝者マサル!」

だが軍曹どのの判定が告げられる。

「マサル!あああ、こんなに怪我だらけで!今治してあげるからね」

サティとアンジェラが駆け寄ってきた。エリザベスはナーニアさんのほうに行った。自分とアンジェラのヒールで全快したおれもそちらのほうに行く。

「マサル殿、今の攻撃は?足から雷撃を食らったようだったが」

「これです」と、ブーツの裏を見せる。

「この金属板に雷の属性剣を仕込んだんです。すいません、騙し討ちみたいなことをして……」

「いや……私の負けだ。雷撃がなくても最後の攻撃……私では勝てたかどうか」

そう言ってよろよろと立ち上がり、エリザベスの前に跪いた。

「エリザベス様。私は騎士の誓いを守れなかった。亡き父になんと詫びればいいのか……」

「いいのよ、もう。冒険に出てから4年間。何度も命を助けてもらったわ。ウォルトもよくやったって褒めてくれるわよ」

「ですが!ずっとエリーを守ると誓ったのに!」

「これからはマサルが守ってくれるわ」

ナーニアさんが泣きそうな顔で、エリザベスの斜め後ろに立つおれを見上げた。そしてまたエリザベスに視線を戻す。

「私が……私が弱いからもういらないのですか?」

「違うわ。マサルが勝ったのもギリギリだったじゃない。私のナーニアが弱いはずがないわよ。ねえ、ナーニア。私達、小さい頃からずっと一緒だったわね」

「はい。小さい頃のエリーはそれはもう可愛かった。お付きにしてもらった時は本当に嬉しかったですよ」

「私もナーニアみたいな格好いい専属の騎士がいて嬉しかったわ。ずっと一緒にいられればいい。今でもそう思ってる」

「なら!」

「でもオルバはどうするの?オルバは放っておいておばあちゃんになるまで私に付いているの?」

「私はそれでも……」

「だめよ。それじゃだめ。私はナーニアに幸せになって欲しいの。オルバのことが好きなんでしょう?」

「エリーのためなら諦めます。諦められます」

「こんなこと言ってるわよ、オルバ」

「ナーニア……愛してる。君も愛してると言ってくれたじゃないか?」

「わ、私も愛してます。ですが……」

「オルバは冒険者を廃業したわ。ナーニアも騎士はもう廃業にしなさい」

「私は……私は……」

「 主(あるじ) として最後の命令よ。ナーニアの護衛任務は、今この時を以って完了とします。今後はオルバに尽くしなさい。私にしてくれたように」

「エリー……エリザベス様……」

「別に永遠のお別れってわけじゃないわ。時々会いに行くから、ね。私はマサルと幸せになるわ。だからナーニアも」

「あ、ありがとうございます、エリザベス様……」

「ほら、そんなに泣かないの。綺麗な顔が台無しよ」

「エリーも泣いてるじゃないですか」

「もう。私はいいのよ。さっ、立って」

エリザベスがナーニアの手を取って立ち上がらせる。

「ほら」と、そう言い。ナーニアさんをオルバさんのほうへ押し出す。

「オルバ、ナーニアをちゃんと幸せにしないと許さないわよ」

「ああ。おれは騎士じゃないが、おれの斧にかけて誓おう。ナーニアを必ず幸せにする」

そう言いオルバさんはナーニアさんの肩を抱く。

「オルバ……」

「だから、おれについてきてくれるか、ナーニア?」

「はい。私などでよければ……」

「おめでとう!」「おめでとう!」「おめでとう!」

周りから一斉に祝福の言葉と歓声、拍手が沸き起こる。ああ、うん。見物人がそのまま居て全部見てたものな。

オルバさんはありがとう、ありがとうと周りの祝福に応えている。ナーニアさんはオルバさんの肩に顔を伏せて恥ずかしそうにしている。いやー、なんか丸く収まってよかったよかった。痛い目にあったかいがあったと言うものだよ。

「いやー、いいもん見れたなあ」「うんうん」「だが決闘も中々のものだった」

「そうだな。あれほどの戦い。そうそう見れないな」「あれって野うさぎハンターだろ」

「なんだそれ?」「野うさぎ専門のハンター」「なのにあんなに戦えるのか?」

「神殿で神官に混じって治療してるのも見たぞ」「おれは上級の火魔法を撃ってるの見たけど」

「第二の壊れた城壁を一人で修復してた」「土魔法で岩を出して、はしごを破壊して回ってたよ」

次々に証言が飛び出てくる。

あるぇ~?なんでおれの話になってんの?

「最後のは雷の属性剣って言ってたな。それにエアハンマーとかフライも使ってたし」

「ほぼ全属性を使いこなせるってことか?あの剣の腕に加えて?」

「そうなるな。だがマサルなんて聞いたこともない名前だ」

「ドラゴン討伐で功績があったと聞いているが」

おれの前で、ちらちらおれを見ながら、おれの話が続けられる。ちょっともうやめてくれませんかね……

思わず隠密を発動するがこの距離では無意味だった。一人の冒険者が質問をしてきた。

「失礼だが、マサル殿のランクは?」

「その……Dですが」

「Dって!?今の戦いぶりじゃBでもおかしくないぞ」

「ナーニアはBランクよ。だからマサルもBでもおかしくないわね」

「もちろん、今回の功績でのランクアップは確実だ」と、軍曹どの。

いっつもこうだ。やらかしてから後悔する。目立たないようにしようって決めたのに。だが他にどうしようがあったんだろうか。治療も、火魔法も、土魔法もこの決闘も。全部避けては通れないものだった。それともどうにかうまく立ちまわれる方法があったのだろうか。おれにはわからない。

その辺りでおれのことを話していた冒険者達も納得したようだ。徐々に見物人も散っていく。

「マサル。よくやったわ」

「うん。エリザベスとナーニアさんのためにちょっと頑張ってみたよ」

「マサル様、すごく格好よかったです!」

「そうかそうか」

「いや、本当にすごかったよマサル。見直した」

「うむ。特に最後のほうの攻撃は素晴らしかったぞ。貴様は訓練ではわしの動きを真似ようとしていたが、あのような動きのほうが向いているのかもしれんな」

「でも防御無視で攻撃食らいまくってましたからね。やっぱり軍曹どのみたいに華麗に避けるほうがいいですよ」

「ふむ。まあマサルはまだ若い。色々な方向を模索するといいだろう」

「はい、軍曹どの」

オルバさんとナーニアさんもこっちに来た。

「マサル、本当に、本当にありがとう」

そう言ってぐっと手を握られた。

「マサル殿。エリザベス様を何卒お願いいたします」

「ええ。任せておいて下さい」

「あと、その。決闘中に色々と、その」

ああ。死ね!とか言ってましたね。あと殺す気でかかってきたり。脇腹を刺されたり切り刻まれたのは本気で痛かったけど、決闘なんだから仕方がない。本気で痛かったけど!

「大丈夫です。ちょっと気が高ぶったら誰でも多少の行き過ぎはありますよ。全然気にしてません」

だがここは男らしくなんでもないことのように水に流すのだ。おれもびりびりにしてエアハンマーでぶっ飛ばしたしな。

「そうですか」と、ほっとした表情になった。そしてエリザベスと向き合う。

「エリー。本当に、本当に父は許してくれるでしょうか?」

「バカね。娘の幸せを願わない親がいるものですか。子供が出来たら墓参りでもしてあげなさい。きっと大喜びするわよ」

「はい」

「ほら、また泣いて。本当に泣き虫なんだから」と、ナーニアを抱きしめる。

「エリー、エリー。本当は別れたくない。ずっと一緒にいたいです」

「私もよ。でも次からはオルバにそう言ってあげなさい。私はもうナーニアの2番目でいいのよ」

「エリー……」

「ナーニア……今まで私を守ってくれてありがとう。ずっと一緒にいてくれてありがとう。父が倒れた時も冒険者になった時も、ナーニアだけはずっと……ずっと側にいてくれたわね。感謝してもしきれないわ。本当に、本当にありがとう……」

そう言って、2人はしばらく抱き合っていた。