軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

53話 説得

王国軍が到着した翌日、おれたちはギルドホールで軍曹どのと話をしていた。ホールには沢山の冒険者達も集まってきている。

「おれたちはお役御免ですか?」

すでに大量の国軍兵士が城壁を固めており、冒険者達は全員引き上げて休息している。おれもいい加減うちに帰りたい。

「まだだ。志願者のみだが反攻作戦に参加する。明日第一を取り戻し、さらに敵を追撃、殲滅するのだ」

おお、敵が沢山倒せるかも!

「マサル、貴様には城壁の修復作業の手伝いをやって欲しい。危険な前線に出るよりはいいだろう?」

そうきたか……

「しかしですね。おれの攻撃魔法の腕はご存知でしょう?攻撃に参加したほうが役に立つと思うのですが」

治療院の方はすでに問題がない。王国軍は自前の治癒術士をたくさん帯同している。

「それがだな、砦の司令官のほうから貴様を名指ししてきたのだ。ギルドとしてこれは断りづらい。戦いたい気持ちはわかるが、ここは涙をのんでもらいたい」

第二を修復したのがいけなかったのか。しかしあれを放置しておくと第二がもたなかった可能性が高い。目撃者も多くて口止めするってわけにはいかなかったしなあ。

「マサルの分までモンスターを倒してきてあげるから。マサルは後方でゆっくりしてなさいな。ね、サティ」

「マサル様が残るなら私も……」

「いや、サティはエリザベスについていてくれ。軍曹どのも一緒なんですよね?」

「もちろんきっちり面倒をみよう」

サティには少しでも経験値を稼いで来てもらったほうがいいし、エリザベスも心配だ。今回は暁の戦斧自体は不参加だそうだし。

ここのギルドの責任者から説明が始まった。ほとんどは軍曹どのから聞いた話ばかりだった。多くの冒険者達は反攻作戦に加わるらしい。おれももうちょっと経験値を稼いでおきたかったんだけどなあ。

とにかく今日は一日休みだ。修復作業も明日以降、第一を取り戻して安全を確保してからになる。

「今日はどうしようか?」

「ナーニアと話をするわ。マサルとサティもついてきてちょうだい。それとアンジェラも呼んできましょうか」

これはあれかな?ナーニアさんにお嬢さんをぼくに下さいってやる場面なのかな?それともオルバさんがエリザベスにナーニアさんをぼくにくださいってやるんだろうか。

神殿はそこそこの人で賑わっていた。余裕ができたので放置していた軽傷の人の治療も始めているのだ。アンジェラも司祭様とともに治療にあたっていた。

「アンジェラちょっと抜けられない?エリザベスが話があるって」

「昨日も話したでしょう?ナーニアに話をしに行くのよ」

「司祭様……」

「いいですよ、いってらっしゃい。もう魔力はそんなに残ってないでしょう?」

「ありがとうございます、司祭様」

「それで話は進んでるの?」

歩きながら話をする。

「……まったくなのよ」

「えー。でもオルバさんのことは好きなんだろ?それとも足のことが……」

「むしろ足のことはプラスね。そのことがなかったら考慮すらしなかった可能性があるわ」

「そんなにか……」

「そうなのよ。ナーニアの父親の最後の言葉なの。絶対に私を守り通せって」

死んだ父親の遺言か。ナーニアさん律儀そうだしな。

「どうにかできるの?」

「するのよ。マサルが」

おれか!?おれが説得するのかよ。

「私の旦那になるんだから、これからはマサルがナーニアの代わりになるのよ。ナーニアはもういらないの。お役御免なの。さっさとオルバと田舎にでも引っ込めばいいのよ」

「エリザベスはそれでいいの?」

エリザベスが立ち止まってこちらを睨みつけた。

「いいわけないじゃない!小さい頃からずっと一緒だったのよ!いなくなるって思っただけで泣きそうになるわよ!」

言ってるうちにエリザベスがぽろぽろと涙を流し始めた。しまった。失言だった。

「エリザベス……」

「でも私とずっと一緒にいたらナーニアの幸せはどうなるの?もうナーニアには恩を返しきれないほど尽くしてもらったわ……」

「やろうよ、マサル!私達に任せときなさい。しっかり説得してあげるから」

「そうだな。ナーニアさんには幸せになってもらわないとな」

足をなくしたことを考慮してもなお、オルバさんは優良物件だ。お金は大きめの農場を買い、仕事をさせる奴隷を買っても余裕があるくらい溜め込んでるし、今でもオーク数匹を余裕でブチ殺すくらいの戦闘力はある。きっとナーニアさんを幸せにできるだろう。それになにより、危険な冒険者稼業を続けるよりはずっといい。

「そう……そうよ。ナーニアはオルバと結婚して……田舎で……子供でも産んで……うっうっ……ナーニア、ナーニアァ……」

ぐすんぐすんと泣くエリザベスをアンジェラが抱きしめた。

「大丈夫よ。これからは私達がいつも一緒なんだから」

「そ、そうだよ。町に戻ってみんなであの家で暮らせばさみしくなんかないさ。な、サティ」

「はい。私がエリザベス様をお世話します!」

「あ、ありがとう……みんな」

アンジェラに慰められようやくエリザベスが落ち着いてきた。さすがはアンジェラの抱擁力だ。おれだけじゃオロオロしていただけだろう。

「ちょっと取り乱したわ。少し休憩してから行きましょう」

「そうだね。目が真っ赤だよ。そんなの見せたらナーニアさんも安心できないよ」

「マサルがあんなこと言うからじゃない……」

「う……悪かった」

たった一言でマジ泣きするとは思わないじゃないか。ちょっと不用意だったかもしれないけど。

「さあ行くわよ!聞き分けのないナーニアを今度こそ説得するのよ!」

ようやく復活したエリザベスは意気揚々と先頭を歩く。うん、いつも通りのエリザベスだ。

宿舎に着き、部屋をノックする。

「ナーニアいる?私よ」

すぐに扉が開いて中に通される。

「エリー、別にノックなんかいらないのに。ここは2人の部屋なんだし」

「そういうわけにも……オルバは?」

「隣です。それでみなさんお揃いでどうしたんです?ええっと、そちらの方がアンジェラさん?」

「そうです。よろしくお願いしますね、ナーニアさん」

「はい。私のことはナーニアとお呼びください」

「では私のことはアンジェラかアンと」

女性同士の挨拶が済み、改めてテーブルを囲む。椅子は4個だったのでサティはおれの後ろに立った。

「ナーニアに話があります」

「あの話なら……」

「今日は違う話よ」

「なんでしょう?」

マサル、あなたが言いなさいよ、と小声で催促される。仕方ない。ここは一つ、男らしいところを見せるか。

「ええと。この度、わたくし山野マサルはエリザベスと結婚することになりましたのをナーニアさんにご報告をと思った次第であります」

「ええっ。でも……マサル殿とは前から仲はよかったけど……エリーはその。ほんとなの?」

「本当よ。町に戻ったら結婚式をするの。パーティーも暁は抜けてマサルのに入るわ」

「じゃあ私もマサル殿のパーティーに……」

「だめよ。マサルとの生活にナーニアはいらないの。邪魔なのよ。オルバと一緒に田舎に行くといいわ」

「でも!」

「でももだってもないの。私はマサルと幸せになるんだから。身の回りの世話もサティがやってくれるわ。もうナーニアは必要ないのよ」

「エリー……ですが私は父に誓ったのです。生涯エリーを守ると」

「その役目はマサルが引き継ぐわ。ナーニアはオルバと仲良くやってなさい」

「だめです。マサル殿では無理です!」

そこを断言するのか。ナーニアさん結構ひどいな。

「こう見えてもマサルは強いのよ」

「私よりも?」

「もちろんよ!」

なんか雲行きが怪しくなってきてないか。ナーニアさんがおれをじっと見る。いや睨んでる……

「ではマサル殿。私と勝負しましょう。私が勝てばマサル殿のパーティーに入れてもらいます」

「いいわよ。でもナーニアが負けたらオルバと一緒に田舎で農場をやるのよ」

「それでいいです」

いや、よくないですよ!全然よくないですよ!説得するだけだったはずなのに、なんでガチで決闘することになってるのよ!

「木剣でいいですかね……」

「真剣以外では認めません。もちろん魔法でもなんでも使っていいですよ」

「おい、ナーニアさんってどれくらい強いんだ?」と、小声でエリザベスに聞く。

「オルバよりは弱いわよ」

「それじゃわからないよ」

「オルバからたまに1本取るくらい?」

「おい、それってかなり強くないか?」

「そりゃナーニアは強いわよ」

「負けたらどうするんだよ」

「勝ちなさい。私と結婚したくないの?」

「そりゃしたいけど」

「なら勝てばいいのよ。もし負けたらまた違う作戦を考えましょう」

負けたらサティを出してみるか。サティならきっとどうにかしてくれるはず。よし、その線でいってみよう。守るのはおれでなくてもいいはずだ。サティも同じパーティーメンバーなんだから。まあそれはさすがに情けなくて言い出せないから負けた時の奥の手にするが。

「よし、やるだけやってみる」

顔を上げてナーニアさんを見る。

「相談は終わりましたか?」

「ええ。やりましょう」

「ギルドの裏に訓練場があります。そこへ行きましょう」

「少し準備が必要です。1時間後でお願いします」

「わかりました」

まずはオルバさんを味方につける。すぐに隣の部屋に行き、状況を説明する。

「わかった。ナーニアの癖とかを教えよう」

「義足はどんな具合なの?」

「多少は歩けるな。まあ剣を教えるくらい問題はない」

オルバさんは杖も持っているが、杖なしで器用に部屋を歩いてみせた。

「時間がない。歩きながら説明しよう。ナーニアの剣は――」

ナーニアさんは騎士の剣を使うらしい。つまり盾とプレートメイルでがちがちに防御を固め、正統派の剣を振るう。ただし、ナーニアさんの鎧はハーフプレートで軽めにしてあり、速度もある。盾もさほどのサイズではない。暁に入ってルヴェンさんという強力な盾役がいたので攻撃力を上げる方向に変化したという。

「盾の使い方は上手い。おれが仕込んだからな」と、ルヴェンさん。

何してくれるんですか。

「エアハンマーは……?」

「避ける」

「私が一緒に避けれるようになるまで練習したのよ!」

エリザベスもか!自慢げに言うことはなかろう。いまの状況わかってるのか?

「盾はどんなの使ってますか?サンダーとか通りますかね?」

「盾は雷撃を通さないようにしてある。エリザベスが多用するから防御のためにな」

あかん。切り札にしようと思ってた雷の属性剣が……雷神剣で盾をぶっ叩けばそれで終わりだと思ったのに。

戦闘中に使えるのはおそらくレベル2まで。3を詠唱はさすがに許してくれないだろう。何か。何かないだろうか。やはり雷神剣に頼るか?盾以外の部分に当てられれば麻痺させられる。剣を1本潰して練習した結果。雷の属性剣はレベル2相当の詠唱時間なのはわかってる。

もうレヴィテーションで飛んで空から好き放題攻撃しようか。でも弓か投げナイフくらいしか使えないしな。岩はもう残ってないし。食い物大量に投下して驚いた隙に攻撃とか……きっとそんな勝ち方認めてくれないよなあ。

おっと、とりあえず肉体強化を3にあげておこう。これで残りは1Pになった。魔法系統を重点的にあげたのは間違いだったとは思わないけど、やはりポイントは余裕をもたせたほうがよかったな……

戦法を検討してるうちに訓練場についた。

「まずおれが相手をしよう」と、ルヴェンさん。

「もう怪我はいいんですか?」

「ああ、5日も休んだからな。まだ本調子ではないが大丈夫だ。本気でかかって来い」

時間がない。お言葉に甘えて本気でやらせてもらおう。どうせフルプレートだし。

だが本気で打ち込むが全て盾で防御される。数合打ち合ったあとオルバさんに止められた。

「だいたいわかった。ナーニアとはいい勝負はできるだろう。だがおそらく剣では勝てない」

「つまり打ち合えるくらいには接戦できるんですね?」

「そう考えても大丈夫だ」

「それならあとは魔法でカバーします」

「それしかないだろうな」

「ちょっと装備を追加してきます。あとルヴェンさん、その盾貸してくれませんか」

「ああ、いいが」

食べ物頭から降らせたら怒るだろうけど、盾とかなら平気だろう。奇襲くらいにはなると思うんだ。

よし、急がないと。ギルドの資材置き場なら色々あるかな……くそっ。2時間くらいもらうんだった。

ちょうどいいタイミングで軍曹どのがギルド職員の人と話し合っていたのを見つけた。

「軍曹どの!緊急事態です。資材置き場に案内してもらえませんか?」

「どうした?」

「実は……」

決闘をすることになった経緯を手早く説明をする。

「いいだろう。オルバとナーニアのことはある程度聞いておる。わしも協力してやろう。資材置場はこっちだ」

投下用のレンガ、金属板、剣を10振り。よし、物資はこれくらいでいい。次は金属板を……

「準備は済みました。訓練場に戻ります」

訓練場に戻る。まだ30分ほどはある。

「準備は済みました」

そうオルバさんに報告する。

「では続きだ」

30分かけて、ナーニアさんの剣の癖や動き、ちょっとしたフェイントを教えてもらう。付け焼刃だがないよりはましだろう。

そしてナーニアさんが訓練場に現れた。こちらを見てすっと目を細める。

「そうですか。オルバもそちらの味方ですか。わかりました。もう遠慮はしません」

「いや、その……しかしだな。ナーニアを愛してるからこそだな」

「もういいです。マサル殿を斬って捨てれば、これからもずっとエリーと一緒にいられるんです。覚悟してください」

うえええええええ。なんで斬って捨てるとかなってるの!いやだよ、そんなの!!

「マサル、がんばってくれ。おれの幸せは君にかかっているんだ」

「そうよ。ここでナーニアを倒さないとみんなが幸せになれないのよ!」

「さあ、構えて下さい」

「わしが立ち会い人をしよう」

ちょ、ちょっと待ってくださいよ!まだ、まだ心の準備が!

「3分!3分タイム!!」

みんなに呆れた目で見られた……