軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

331話 継承 前編

軍曹殿……ヴォークト殿の一〇〇人抜きは先日あっさりと終わった。俺の時のように、普段出てこないようなベテラン勢も揃えたらしいのだが軒並み相手にもならなかった。一〇〇人目、剣聖の孫で修練場を取り仕切るリュックス・ヘイダもむろん弱くはないのだが、格の違いを見せつけ、一方的な勝負になってしまった。一〇〇人を相手にスタミナ面も問題ないようだ。

そして本日、剣聖の継承の儀は最後に俺たちが相手をすることになった。いま居る場所は一〇〇人抜きもやったビエルスの修練場の中層、オーガクラスの闘技場の二つある入口の一つである。

「サティ、マサル、デランダル、ホーネット、ブルー、最後にアーマンド。全員と戦って勝てば剣聖と認める」

剣聖の高弟が勢揃いした前で師匠がいま一度説明をする。これはどうやら現時点での師匠の考える強さの並びらしい。俺の評価は難しいので、剣術のみでとしたようだ。なんでもありなら全員倒す自信はあるが、それにしても剣だけならまだデランダルさんにも勝てないという評価なのか。

「サティ。お前の目標はワシであったな? であればヴォークトごときに負けている場合ではないぞ?」

「はい、お師匠様」

「マサルもだ。勇者であるなら、負けることは許されん」

「もちろん本気でやりますが、ヴォークト殿を剣聖にしたいんじゃないですか?」

今回の戦いは剣の大会ではないから、刃引きの剣を使う以外は制限なしだ。毎度のことながら魔法をどこまで使うか判断が難しいが、少なくともソロモン戦くらいのことはやるつもりではある。

「この程度で負けるようなら剣聖を名乗ることなど誰も認めんだろう。そうなればサティか、それともマサルが剣聖をやるか?」

確かにそれはそうだ。古今無双の剣士の名を継ぐのだ。これを勝ち抜く者が居ないなら、いっそ剣聖の称号など不在のままでいい。

「その時は師匠がもう一〇年くらいがんばってください」

いや五年もあれば。そうしたらサティは相当に強くなる。

「そうだな。ワシの見る目がなかったと思ってそうすることとしよう」

師匠は勝つと思っているのだろうし、俺もヴォークト殿は強いし全員に勝てるとは思うが、六連戦である。簡単にはいかないはずだ。

以前やった時は俺とサティは揃って負けた。しかし師匠にあるような圧倒的な強者感はない。あるいは勝てるかも。勝つ方法があるのではと思わせる程度の強さだ。実際やりようによっては俺なら勝つ目は十分にあるはずだ。

「勝てなくとも疲れさせろ。なるべく手の内を出させるのだ」

師匠の言葉にサティが頷く。そこまでするかと思わないでもないが、俺にいつもやっているような弟子に与える試練なのだろう。簡単に終わらせるつもりはないと。

ここ最近はライナス川の治水作業も終わり、ブランザ領の復興作業も落ち着き、ある程度時間ができたと思いきや、今度はブランザ領と周辺の治水の依頼が発生した。ブランザ領は当然早いうちにやるつもりがあったが、河川は他領にも続いていて、自分たちのところだけとはいかなかったのだ。

しかし報酬はきっちりともらったので、それで借金返済は終わりそうだし、食料での支払いでブランザ領中に行き渡るだけの食べ物も手に入った。農地開拓も同時に進めたので来年以降の、ブランザ領と周辺の食料生産は期待できる。噂を聞きつけた帝国の他の地域からも引き合いがあったが、それはミズホ開拓以降の仕事になりそうだ。

このイベントの話も聞いていたので修練する時間を取りたかったのだが、千年計画で俺は相変わらず忙しかった。そろそろ俺の知識もネタ切れ感があったが、それでも俺の出すアイデアや助言は研究員たちにとっては貴重なようだ。

修行はできる限り続けていたし、サティも一時の不調からは抜けて、加護と鼓舞なしなら俺と勝ったり負けたりになっている。

「準備ができたようだな」

闘技場で歓声があがった。ヴォークト殿が姿を見せたようだ。こちらもサティを先頭に闘技場に入り、一層大きな歓声があがった。師匠が手をあげると闘技場がすぐに静まる。

「準備は良いな? では始めよ」

それだけ簡単に言うと師匠はさっさと壁まで下がった。俺たちも入場門の側に思い思いに控える。

名乗りも口上もなく剣聖を決めるための戦いが始まった。闘技場の両端から、サティとヴォークト殿がゆっくりと近づいていく。間合いは十分あったがサティがまず動いた。

一気に間合いを詰めたサティの剣がヴォークト殿を襲う。

無拍子にサティの持つ速度を使った縮地という技だ。気がつくとサティが剣の間合いに入っている。それで不意を突かれるレベルでもないが、一瞬でも対処が遅れてしまうと後手後手に回らされてしまう。すでにゾーンも発動して切れ味全開だな。

さらに速度を活かすために装備の軽量化も図っている。普通の革鎧は全身だとかなりの重量で、それを三分の一以下に、それでいて防御力はそこら辺の量産品には劣らないという逸品である。大会だとレギュレーション違反になりそうだが、今回はそんなルールもない。

相手を上回る速度は攻防すべてを有利にする。少なくとも俺はかなり対処に苦労した。防御回避に手一杯でこちらから手が出せないのだ。

ヴォークト殿も防戦一方で対処するだけで精一杯のようだ。あるいはこのまま決まってしまうかも、そう思ったところにサティが大きく横に弾け飛んだ。

飛ばされながらもちゃんと足で着地し、剣で受けたのかダメージはないようだが一旦距離を置いた。恐らく奥義の一撃。たった一度の反撃で形勢がひっくり返った。

「速いが軽い」

まるで指導中かのようなヴォークト殿の短評だった。速さのためにはどうしてもパワーが犠牲になる。しかしサティとしてもそれはわかった上でのことだ。体重の軽いサティではパワーに割り振ったところで限界がある。

しかしだからどうしたとばかりにサティが動く。姿勢を低くした素早い動きにまたしてもヴォークト殿は防戦一方になる。そしてまた一度の反撃で、今度はサティも回避して距離を取る。

一歩前に出るヴォークト殿にサティがじり、と後退した。一回目と二回目の攻防は同じように見えて内容が違った。一回目は後手後手のヴォークト殿の防御だったが、二回目は余裕を持ったがっちりとした守りだった。早くもサティの動きに対応してきたようだ。

「しかし速さを重視したのはサティに合っている。当面はそのまま鍛錬を続けるといいだろう」

「そういうことはわたしに勝ってから言うんですね」

そう言って剣を構え直す。多少の不利などいつものことだ。この程度でサティは怯んだり諦めたりはしない。

「うむ。では別の種類の速さというものをお前に見せてやろう」

そう言うと今度はヴォークト殿が間合いを詰めた。サティも大きく動きながらヴォークト殿の剣を受け、躱していく。今度はサティが防戦にまわり、そしてヴォークト殿を引き離させない。広い方へ逃げようとしても回り込まれ、徐々に壁のほうへと追い詰められていく。

サティのように単純に素早く動くという感じではないが、それでもサティの動きを上回っている。瞬間的に、必要な時にだけ速度を上げているのか。

覚悟を決めたサティが動きを止め、ヴォークト殿の懐へと入り、打ち合いを挑んだ。至近距離でのサティはこれがまた厄介なんだが……

二人の打ち合いは目まぐるしく体を入れ替えながら数合。そしてサティがあっさりと斬り伏せられ、闘技場の地面に叩きつけられた。

「意識を断つつもりだったが……」

サティがよろよろと立ち上がるがダメージが大きい。このままでは戦闘続行は厳しいし、かといってサティの回復魔法では傷を治すのに時間がかかる。

「交代だ、サティ」

まさかサティがこうも手もなく倒されるとは。

悔しげに戻ってくるサティに回復魔法をかけ、ヴォークト殿の前に十分な間合いを取って立つ。

さてと。まずは詠唱――

「【鼓舞】――【加護】――いいんですか、俺に魔法を唱えさせて?」

「それで勝てると思うなら好きにしろ」

サービスがいいな。というかそれくらいで勝てないならヴォークト殿としても剣聖にはなれないとわかっているのだろう。ならば――

「クリエイトゴーレム」

地面に手を付き、特製のゴーレムを作り上げた。体長二・五メートル。左手に土の盾、右手に土の剣を直接生やす感じで装備している。そして普通のゴーレムでは簡単に破壊されるから、このゴーレムは鎧、装甲付きだ。最近のセラミック剣作りとかでコツみたいなのを掴んだのか、装甲部分は俺の剣の一撃にもそこそこ耐えられる強度を誇る。

「お待たせしました。始めましょうか」

ゴーレムまで使うつもりはなかったのだが、サティとの戦いを見て考えを変えた。俺もサティも戦い方や動きを把握されてしまっている。俺も動きの読み方はソロモン戦で習得したが、それはリアルタイムの動きだ。一手先二手先の読みとはまた違う。サティは確実に動きを先読みされていた。

スピードがダメでも俺にはパワーがあるが、力は技で受け流すことができる。速度と力で上回るのは有利をもたらすが、それで勝負が決まるほど剣技は浅くはない。

そもそも俺たちが剣を教えてもらったのはヴォークト殿だし、王都にヒラギス、帝都とすべて見られてしまっている。修行は続けているが、一ヶ月程度でどうなるものでもない。魔法を唱えても余裕なのは、それでも俺に負けることはないと考えているからか。

ゴーレムと共に間合いを詰め、二カ所からの同時攻撃をする。ゴーレムは当然ながら俺が完全に制御し、通常ではなし得ない完璧なコンビネーションを実現する。挟撃するような動きを嫌ったヴォークト殿が初撃を躱し、距離を取ったところでエアハンマーで追撃をする。

「これは厄介な」

エアハンマーを斬り伏せながら、ヴォークト殿が呟く。足が遅いのがゴーレムの欠点で逃げるのは簡単なのだが、俺に対して距離を取るのは最悪の選択だ。

ゴーレムを前進させながらエアハンマーを連続して放っていく。それで倒せるヴォークト殿ではないが、一撃でも食らえば致命傷になりかねない威力があるのだ。適当な対処はできない。

再び接近したヴォークト殿がゴーレムの側にまわり攻撃を仕掛けてきた。面倒なゴーレムを先に破壊しようと考えたのだろう。

左右から挟んで攻撃するのが効果的なのだが、そう簡単に有利な位置取りはさせてくれないようだ。

攻撃されたゴーレムに盾を構えさせるがあえて回避はせず攻撃を優先する。そもそもが全身装甲のゴーレムは全身が盾のようなもので、一撃を入れても効果が薄いのだ。いい武器を使えばまた違うのだが、今回使用されているのは刃の無いなまくらの剣だ。自分でやっておいてなんだが、卑怯なほど俺に有利な状況である。

ゴーレムの胴体に攻撃を受けるタイミングで俺は踏み込み、擬似的なカウンターを放つ。そのカウンターはギリギリのところで回避された。狙いがわかり易すぎたか。

ヴォークト殿はゴーレムを俺への盾にするように動く。やはり先にゴーレムを破壊したいのだろう。先ほどの一撃でも装甲を少し削られた。

しかし俺を自由にするのは危険なのだ。射線がゴーレムで遮られたとて関係ない。詠唱の余裕が大きく生まれれば――

「サンダー!」

死角から放たれたサンダーは、ヴォークト殿の手から投げられた短剣らしきものに妨げられたが、すぐさま次のサンダーの詠唱を始めている。この場に短剣を持ってきていたことが驚きだが、そう何個も持ってはいないだろう。

ヴォークト殿は今度は俺のほうへと間合いを詰めてきた。やはり二個目の短剣はない。次の影響が致命傷になりかねない。だが俺も懐に入られてはサンダーも詠唱は間に合いそうだったが誤射の危険もあって使えない。

ゴーレムを割り込ませると、ゴーレムに剣が叩きつけられるがやはり装甲部分だ。砕くまでには至らない。エアハンマーに詠唱を切り替え、ゴーレムの攻撃に合わせて、俺も剣を振るう。

三つの攻撃は高度に連携し、どれも相手を倒せるだけの攻撃力を持つ。対応は非常に困難なはずだ。その分俺の操作も複雑にはなるのだが、ゾーンによる集中で処理は問題ないし、ゴーレムの視界を塞がれても周囲の様子は探知により手に取るように把握できる。

離れれば強力な魔法が飛び、接近すれば強化ゴーレムと俺の剣と魔法。俺自身も光魔法で三割ほど強くなっているし、ゴーレムと魔法の分も考えればその攻撃力はサティの倍ほどにもなるだろうか。もちろん戦いはそう単純なものでもないが、サティとデランダルさん相手に試運転したところ、二人にはあっさりと勝つことができた。

遅いという欠点があるゴーレムだが、それを補って余りある利点もある。耐久性とパワー、そして単純な重量だ。

ここまで何度かの攻撃は上手く回避されたが、これならどうだとゴーレムを突っ込ませた。タックルですらない。その巨体で包み込むような動きのゴーレムに掴まれればむろん終わるし、まともにぶつかれば吹き飛ばされる。両手を拡げた形は動きも阻害する。攻撃したところで一撃や二撃では止まらないし、倒すこともできない。

そして迂闊にも距離を取ったところで俺の魔法攻撃――

「サンダー!」

あるいはこれで決まるか? 短剣がもうないなら、手持ちで防げる装備は手にした剣くらいしかない。そう思われたが、ヴォークト殿から小さな何かが投げ上げられ、サンダーはそれに命中した。コイン、鉄のコインか! 俺はあまり見ることはないが、この世界での一円や一〇円に相当する賤貨とも呼ばれる小銭だ。

そして俺が魔法を使って動きが止まった隙にゴーレムに接近したヴォークト殿がゴーレムの剣を持つほうの腕を、肘から切り落とした。

もうバレた。装甲ゴーレムも関節部だけはどうしようもない。一応守るように装甲はあるが、可動域を考えると肘や膝の裏側部分はどうしてもむき出しにならざるを得ない。

サンダーはわざと詠唱させて俺の隙を作らせたのか。だが片手がもげた程度でゴーレムは終わらない。剣がなくなったのは痛いが、盾を持つほうの腕へは攻撃は難しいし、肩や膝関節への攻撃も肘よりかなり届きにくくなっている。

だがゴーレムの動きも完全に見切られたようだ。リーチのある剣が失われたせいもあるが、ゴーレムの攻撃を懐でギリギリに躱しつつ、俺のエアハンマーも防ぎ、そして俺の剣の範囲外に素早く逃げられた。サティを追い詰めるほどの動きができるのだ。俺では追いきれない。

そうしてあっという間にゴーレムに一発二発と剣が同じ場所に叩きつけられ、三発目でゴーレムの装甲が完全に抜かれ、その動きを止められた。ダメージが限界を超えたようだ。コントロールを外れ、ずぅんと倒れたゴーレムが崩れていく。

「もう少し持つかと思ったんですけどね」

崩れていくゴーレムを前にそう呟く。ヴォークト殿とも距離を取って、一旦仕切り直しだ。

「なかなかに肝が冷えたぞ。だがゴーレムを前に出しすぎたのは失敗だったな」

俺が正面で戦い、ゴーレムをもっと補助的に扱えば寿命は伸びただろうが、俺へのリスクを減らしたかったのもあるし、あまり考える時間を与えるとゴーレムへの対処法を思い付かれるから、相手がゴーレムに戸惑っているうちに短期決戦をしたかったのだ。

結局のところ、俺たちくらいの強さの相手ができるほどゴーレムは強くはない。研究すればもっといい運用方法もありそうだが、これもあくまで技の一つだ。時間がないのもあったが、所詮は初見殺しだし、剣技の習熟や新しい魔法との組み合わせを考えるほうが有用だろうとの判断だ。

「少しでも驚かせたのなら余興としては十分でしょう。ここからが本番ですよ?」

そして新技はない。いやあるにはあるのだが、相手を殺しかねない魔法だとここではさすがに使えない。サンダーもなんなく防いだのだ。ソロモン戦で見せた転移やアイテムボックスからの投下も対応されるだろうし、後はもう普通に剣で戦うくらいしか今回は手はない。

真正面から、とことん粘り強く、そして諦めずに。

戦った感じ、ヴォークト殿はソロモンを上回る強さがあった。パワーがソロモンならスピードで優位なのがヴォークト殿だ。そしてヴォークト殿は俺の戦い方を知っていて、事前に対処法を考える余裕があった。ソロモンは俺のような魔法剣士と戦ったことがなく、それが焦りや隙に繋がったのだろう。ヴォークト殿は俺の魔法を警戒すれど、それで驚くようなことはない。

もちろん加護の力で俺の速度と力はどちらもヴォークト殿を上回っていた。それで押し込める場面も作れたが押しきれはせず、魔法攻撃は牽制程度にしかならず、一撃すら与えることもできずに敗北してしまった。

ふらふらと戻ってきた俺と入れ替わりにデランダルさんが闘技場の真ん中へと向かう。

「きれいな戦い方であったな」

少し咎めるような口調で師匠が言う。

「それはそうだったかもしれません」

ヴォークト殿を相手に、何をしても、どんな手を使っても勝つとまでは考えられなかったのだ。それでも一度はダウン寸前のところから回復魔法で持ち直して粘ったのだ。ヴォークト殿を疲労させることくらいはできたはずだ。

元から剣聖の位には興味はなかったし、結局のところ、これは俺の戦いではなかったのだと思う。剣聖と高弟、そして剣にすべてを捧げたビエルスの剣士たちの今後を決める戦い。 俺の戦うべき場所、戦場は別にある。あとはゆっくり観戦させてもらうこととしよう。