軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

32話 男子達のとてもくだらない戦い

翌日。ドラゴンのセリは午前中の半ばくらいだったので訓練場で暇をつぶすことにした。エリザベスは暁の戦斧のところに行った。ナーニアさんが気になるのだろう。サティをサムソンさんに預け、軍曹どのもお忙しそうなので、訓練場の端のほうで投げナイフの練習をしていた。

そこにクルックとシルバーがやってきた。2人を見るのはずいぶん久しぶりな気がする。3人で邪魔にならないように隅っこに座って頭を付き合わせる。

「マサルもドラゴンのセリを見に来たのか?」とクルック。

「もちろん。いくらくらいになるのかな」

「楽しみだな!」と、これもクルック。セリの価格は報酬に直結する。気になって仕方ないんだろう。

「それよりもさ、これ見てくれよ」

ほう。鎧を新調したのか。オークの矢を足に食らったのが堪えたのだろう。今度のは皮メインながら矢を通さない高性能なやつである。シルバーのほうも盾を見せてくれた。どっかで見たと思ったら、暁の盾の人が持ってたやつだ。

「同じのは高くて買えなかったけど、同じデザインのを買ったんだ」

廉価版か。確かにあのときの盾の人はすごかったもんな。同じ盾職としてはあこがれるだろう。

「それでマサルは報酬で何か買ったのか?家を借りたのは聞いたぞ」

「ああ、うん」

奴隷を買ったことはまだ漏れてないらしい。さてどうしようか。

「お金はもう十分になったよな?あれ、見に行ってないのか?」

あれとはもちろん奴隷のことである。

「ああ、うん。見にいったよ」

「それで?買わなかったのか?」

「ああ、うん。買っちゃった……かなあ」

がたっとクルックが立ち上がる。

「な、なんだと!この裏切り者が!」

「こ、こら。声がでかい。みんな見てるじゃないか」

第一裏切るもなにもこいつらとは何の約束もしてない。

「そ、それで、もうやっちゃったのか?」と、クルックが声をひそめていう。

「それはまだ」

クルックはそれを聞いて少し落ちついたようだ。

「そう。そうだよな。でもいいなあ。添い寝してもらったり、お風呂で背中を流してもらったりしてるんじゃないのか?」と、冗談めかしていう。

無言で目をそらす。思いっきりやってもらってます。

「な!?おまえ、まさか!」

その時、最悪のタイミングでサティが声をかけてきた。たぶん休憩時間なんだろう。

「マサル様ーーー!」

こちらに手を振るサティ。仕方なく手を振り返す。

「お、おまえ。まさか、今の子が……」

「うん……あの子」

もうだめだ。

クルックが立ち上がりスラっと腰の剣を抜く。

「よし、死ね」

「手伝う」

シルバーも剣を抜き、盾を構えた。こいつら実剣を抜きやがった!?訓練場とは言え、腰の剣を抜いたら戦争だろうがっ。

じりじりと距離をつめてくる2人。2人とも本気で殺る気だ!講習会のときのことを忘れたのか。2人がかりだからっておれに勝てると思うなよ!やってやらあ!!

背中の剣を抜く。くそっ。初めて斬るのが友だとはなんと因果な黒剣だ。

「貴様はいい友だったが、友情を裏切るのが悪いのだよ!」と、クルック。

何事かと人が集まってきた。

「引く気はないのか?2人がかりとておれには勝てないぞ?」

「ふん。おれ達も成長したさ。講習会の借りもまとめて返してやる!」

「ほう。吹くじゃないか。その意気に免じて火魔法は使わないでやろう。使えば貴様らなど一撃で消し炭だからな」

「後悔するなよ!」

「おおっ!ほたえてないでさっさとかかって来いやーーーー」

周りはすっかり盛り上がってる。「やれー」「やっちまえー」などの声援があがる。

2人が同時に仕掛けてきた。2人一度にかかれば勝機があると思ったか!

バックステップで素早く距離を取り、隠密+忍び足を使いサイドステップでクルックのサイドに回りこむ。シルバーはこちらを一瞬見失ったようだ。だがクルックはこちらに向き、剣を振るう。おれはそれをフルパワーで打ち払う。レベルアップと肉体強化でパワーはクルックをはるかに凌駕している。剣を流されてバランスを崩すクルック。そこを接近し、首筋に手刀を叩き込む。倒れるクルック。よし、これであとはシルバーのみだ。

シルバーは重装備でがちがちに固めており、何度か斬りつけるが、致命傷にはならない。やっかいだな。だがやりようはある。

正面から思い切り打ちかかる。もちろん盾で止められたがパワーはこちらが上。つばぜり合いでシルバーが盾を維持しようと踏ん張ったところに足に蹴りをいれる。バランスを崩したところに【エアハンマー】をぶち込んだ。

吹き飛ぶシルバー。金属プレート越しとはいえ、まともに食らえば衝撃はすさまじいだろう。

「く……魔法は使わないはずじゃあ……」

「ふん。使わないのは火魔法といったはずだ」

「卑怯な……がくっ」

「悪は滅びた!おれの勝利だ!!」

剣を差し上げ、勝利の雄たけびをあげる。おおおおおおっと周りが盛り上がる。

サティが人垣からひょこっと顔を出した。

「マサル様、この人たち悪なんですか?」

しまった、友達だった!?クルック!シルバー!?死ぬなああああ。今ヒールをかけてやるからな!

「こんなおれ達に回復魔法をかけてくれるのか……おまえを殺そうとしたのに」

「何を言ってる!おれたち友達じゃないか!さあ、【ヒール】【ヒール】」

「おれ達は激情に駆られてなんてことをしてしまったんだ……」

「わかってる。悔しかったんだよな。おれ、おまえ達の気持ちも考えずに正直に答えちまったんだ。悪いのはおれだ」

「マサル……」

「クルック、シルバー。もういい。もういいんだ。おれ達は友達だ。それでいいだろう?」

「「マサル!!」」

がしっと抱き合うおれ達を見て拍手を送る観客達。

「うむ。いい戦いだった」と、軍曹どの。

「だが、喧嘩で剣を抜くのは感心せんな。おまえら、こい。説教だ!」

3人で軍曹どのにたんまり怒られた。解放されたとき、すでにドラゴンのセリは終っていた。

ドラゴンの素材の分配は38000ゴルドほどになった。1サティ分と少しくらいだな。資金は合計で66000ゴルドほどに増えた。特に使い道もないし、当分働かなくていいな。ちなみにドラゴンはやはり上位種だったらしく、セリは盛況だったそうである。

クルックとシルバーとの友情を再確認したおれは、2人を家に招待することにした。2人はドラゴンの報酬をもらってご機嫌である。

ティリカちゃんのところに寄って行くと、午前中で仕事が終ったのでついて来るという。

クルックとシルバーはなんで真偽官の人が、と不思議がってたが、サティの友達だというとわかったようなわからないような顔をしていた。どうも一般の人には魔眼というのは、少々恐れられていて近寄りがたい存在なようだ。おれからするとちょっと高性能な嘘発見器くらいにしか思えないんだが。それにかわいいは正義だと思うんだ。

ちなみにアンジェラとエリザベスにも既にティリカちゃんのことは話してある。命を狙われてるっぽい人の側にいるのに、黙ってるのもどうかと思ったのだ。アンジェラもエリザベスも戦闘力には不足してないので、そんなのが来たらぶっ飛ばしてくれるそうだ。頼もしい。

おれは今、手をつないで前を歩いているサティとティリカちゃんの後をついて歩きながら、こそこそとクルックとシルバーに奴隷商の話をしている。

「それで大きい部屋にいったら8人もいてさ」

「ええ!?おれが行ったとき4人だったぞ」

奴隷商のおっちゃん。おれが運がいい、綺麗どころが揃ってるって言ってたの本当だったのか。

「それでみんな薄い服を着ててさ。ちらちら見えるわけよ」

クルックはうんうんとうなずいていて、シルバーはうらやましそうにしている。前を歩いてるサティの耳がぴくぴく動いている。距離もあって、結構小さい声で話してるんだけど、あれきっと聞こえてるよなあ。

「それで一人目が、むっちりした色気のある……」

4番目の子の説明にかかろうとしたときに家についた。

「おー、いい家じゃないか」

「借りてるだけだけどな。ほら、庭も結構広いんだぜ」

「この家でサティちゃんと2人きり……」

ああ、うん。2人じゃないんだけど。火に油を注ぎそうなので黙っていたほうがいいな。

「ああ、ほらほら。お昼ご馳走してやるから。中に入ろう」

中に入るとエリザベスはともかく、アンジェラまでいた。サティとティリカちゃんも既に中に入ってて、女性4人が出迎えてくれれる。

「遅かったじゃない。お腹がすいたわ」

「おかえりなさい。ほら、昨日言ってた本を持ってきたんだよ」

続けて入ってきたクルックとシルバーが女の子達を見て、少し固まる。

「おい、なんでエリザベスさんがいるんだよ。それにもう一人の綺麗な人は?」と、クルックが小声で聞いてくる。

「あー、うん。みんなを紹介しとこうか。こいつらは友達のクルックとシルバー」とまず2人を紹介する。

「お昼を食わせてやろうと思ってつれて来た。で、こっちは神殿の神官でアンジェラさん。ほら、前に話したことがあるだろ?」

エリザベスは面識があるので割愛。クルックはああ、あのとうなずいている。

「ええっと。2人は居間で待っててくれるか。準備するから」と、クルックとシルバーを居間に案内し、台所兼食堂に戻る。

「よし、じゃあお昼の準備をするか」

「こっちはサティとティリカでやるからお友達と話してきたら?」と、アンジェラ。

「そう?じゃあ任そうかな。あ、この肉使ってね」と、アイテムから野ウサギの肉を一塊取り出す。

「あいつら食いそうだから多めにお願いします」

エリザベスは手伝う気はなさそうだが、食堂にいるそうだ。

「男の子同士で話してきなさいよ。わたしはこっちにいるから」

居間に戻って3人でテーブルを囲む。すぐにクルックが話かけてきた。

「なんで女の子ばっかり4人もいるんだよ」

「ええと。サティはいいよな。んでティリカちゃんはサティの友達でよく遊びに来るんだ。エリザベスには魔法を教えてもらってるのは知ってるだろ?あとアンジェラはサティに料理を教えにきてもらってるんだ」

「爆発しろ」と、シルバーがぼそっという。クルックがうなずく。

「いやいや、なんでだよ。いる理由はいま説明したろ?」

確かに全部説明しちゃうと爆発しろって言われてもおかしくないが。

「おれ達が来なければ、マサル、男一人であの綺麗どころに囲まれて食事だったろ」

「そんなの許されざる」

傍から見れば確かにうらやましい状況だな。しかし別にサティ以外とは特に何にもないわけで。いや、少しはある気もするけど。

「別に食事を一緒にしたからって何にもないから。ほら、今日はアンジェラの手料理が食えるんだぞ。神官の手料理を食べる機会なんか滅多にないぞ。感謝しろ」

「それもそうだな。それよりも!さっきの話の続きを……」

奴隷商の話の続きですね、うん。4番目の子の話からだったな。

「それで4番目の子がな、これがまた美人で……」

奴隷商の話を終えて、サティのことも話した。目が悪く、小さい頃からいじめられてきたあげくに、親に売られ奴隷にされた。奴隷商でもなかなか売れずに、娼館か鉱山送りにされそうなところを買い取って目の治療をしたと。

「おれはおまえのこと誤解していたよ……」

「ああ、なかなか出来ることじゃない」

「そうだろうそうだろう。決して邪な気持ちで買ったわけじゃないんだよ。あくまでも同情して買ったんだ」

「添い寝とか背中流してもらうとか、マジでぶっ殺そうと思ったけど、そういう話ならまあ仕方がないな……」

「それにおまえらも今回ので結構収入があっただろ?もうすぐ買えるんじゃないのか?」

「二人合わせても足りないよ」

「なんなら貸してやろうか」

「「!?」」

「いや、借金してまでは……」「おれは普通に恋愛をして……」

2人ともそこまでは思い切れないようだ。まあ普通なら奴隷を買ってお嫁さんにするとか最終手段だよなあ。奴隷にはちょっぴり興味があるけど、やっぱり普通の恋愛がしたい。それが男の子ですよねー。

それに最近好きな人ができたんだ、とシルバー。おお、リーズさんを諦めて新しい恋を見つけたのか。

「ナーニアさんがいいなって」と、シルバーが言う。

何も言えなくなった。どうしてこいつらはそう無理目な子ばかり狙うのか。確かにナーニアさん素敵だし、ごく最近までフリーだったけどさ。

「ああ、ナーニアさん格好いいし強いし美人でいいよな。おれとしてはもうちょっとこう、優しい感じ?アンジェラさんみたいな感じがいいんだけどな」

「アンジェラはだめだぞ」

クルックなんぞにアンジェラはもったいない!

「ああ、分かってるって。そんなに睨むなよ」

シルバーには言っとくべきか……

「なあ、シルバー。ナーニアさんな。その、好きな人がいてな。ほら、暁のリーダーのオルバさんっているだろ」

「え、誰とも付き合ってないって聞いたのに……」と、シルバーは呆然としている。

付き合ってなくても好きな人くらいいるだろうに。そこはもう一歩踏み込んで好きな人はいないのかも調べるべきだったな……それに今頃はもうお付き合いしてるかもしれないし。

どうなったのか気になるな。あとでエリザベスに聞いておこう。

ちなみにオルバがナーニアを好きなことは周りのものならなんとなく知ってたが、ナーニアのほうはそういうそぶりを全く見せてなかったので、知ってるのはエリザベスくらいだったのである。調査不足とシルバーを責めるのは酷であろう。

「ほ、ほら。今度一緒に奴隷商見に行こう。な?見たいって言ってただろ。つきあってやるから!」とクルック。

2人でシルバーを慰めているうちにサティが食事の準備ができたと呼びにきた。

しょんぼりしていたシルバーはおいしい食事で少しは元気がでたようだ。クルックはしきりにアンジェラに料理上手ですねなどと話しかけてる。分かってるといいつつ、こいつは……もうアンジェラのいるときには絶対に呼ばないようにしよう。

特に何事もなく、食事は穏やかに終わり、クルックとシルバーは帰っていった。デザートも食べていけと言ったが、午後からも訓練があるからと。空気を読んで遠慮したのかね。アンジェラとエリザベス、いつもの3割増しくらいお淑やかだったもんな。

帰り際玄関で2人を見送る。

「弱者はしっかり訓練に励んでこい。暇なときならまた相手をしてやってもいいぞ」

「今日はちょっと油断していただけだ!そのうち地べたに這いつくばらせてやる!」

「はっはっは。やりたきゃもう一人くらい連れてくるんだな。3対1なら勝負になるかもしれないぞ。あ、ラザードさんとかは禁止な!」

「わかった。ラザードさんにはマサルがやりたがってたって言っといてやるよ!じゃあなっ!」

そういうとクルックは素早く逃げていった。シルバーもご馳走様と言って歩いていく。

「あ、待てこら!それはしゃれにならんぞ!」

やべえ。まじでラザードさん来たらどうしよう。ドラゴン戦のときの人間離れした動きを思い出す。

真っ二つにされちゃうよ!