軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

322話 治水計画

「また何やら面白そうなことをやっているそうだな?」

思いの外ガラス制作が上手く進んだのでやっぱり昼は予定通りエルフレストランでとなって、帝都のエルフレストランへ戻ると帝王陛下が待機していた。どうやら話があるので、ランチを狙ったようだ。

六人用のテーブルで、何故か俺とエリーとリリアが帝王陛下の御前に座ることになった。ウィルは相変わらず祖父が苦手なようだしフランチェスカも同様で、座ったのは隣のテーブルである。まあいいけど。

帝王陛下の口ぶりにもう板ガラスを作ったのがバレたのかと思ったが、どうやらセラミックのことらしい。

「お陰で ランディース(息子) がエルフの里に行ったきりで戻ってこん」

「元から神国に修行にやらせる予定だったでしょう?」

俺を奴隷にしようとした罰に一年ほど神国に左遷させて、神官修行をさせるって話になったのを、そんな無駄なことをするくらいならと千年計画の責任者にしたのだ。

そして航空機に魅了された。正確には航空機のもたらす未来にだ。超音速で飛行し、ミサイルを放ち、爆撃する。帝国の端から端まを二、三時間で結び、偵察衛星は地上のあらゆる動きを監視する。

俺も何をどうしたらそこまで到達するのか見通しはまだないし、俺が生きているうちになんとか実現すればいいなってレベルの話である。それでまずは基礎から理解をしろってことでお勉強中なのだ。

「それもマサルが仕事を増やさなければ良かったのだがな?」

しかも人材をかなり引き抜いたし、さらに仕事は増える予定である。ついでにまた追加の仕事である板ガラスの話もしておくか。

「今日はガラスの新しい製法を試してたんですよ。ほら、ガラスって基本手作業でしょう? あれを量産する方法を思いついたんです」

初めてのことで障害はそれなりにあった。まずは大量のガラス原料を溶かすエネルギーが膨大だった。エネルギーは石油で賄って足りない分は火魔法で補った。それから熱すぎて人は近寄れないから魔法で遠隔操作した。

ガラスを流すラインは単純な形状だったので、さっくりと魔法でできた。ガラスを流し込んで冷却するための金属も数種類試したところ、錫が適当だとあっさりと判明した。

液体状の錫の表面は完全に水平なので、流し込まれたガラスも自然と平面に出来上がる。そのままライン上にガラスを送り込み、ゆっくりと冷やすと板ガラスが完成する。

必要な機材もテストも、魔法で何もかも時短で作り上げ、昼前にはもう目処が立ったという次第である。試作品の小さめの窓サイズのガラスは完成させて、今は大きなサイズをやってもらっているところだ。

一番の難題は最適な温度の発見と生産中の温度の維持管理だったのだが、石油精製やら蒸気タービン作りでも活躍した温度調節が名人級の火魔法エルフが居て、勘と経験で解決してしまった。今のところ自動とはいかないが、それでもアイデア出しから数時間で製品ができてしまう。改めて魔法の応用範囲には驚かされる。

俺の生産工程の説明にも、帝王陛下はいまいちピンと来ない様子である。

「普通のガラスなんですがただサイズも大きくできるんで、窓はもちろん、ここみたいなお店を全面ガラス張りみたいにもできますね」

そうレストランの出入り口に設置する案を話す。

「日光も入りますし、見通しもよくなっていいですよ」

「ガラスは脆いし危険だろうに」

どこにいるか丸わかりだし、簡単に押し入られてしまうだろうと、帝王陛下は気に入らない様子だ。いやそりゃそうだけど、命を狙われるような人は一般のレストランには来ないでくれって話だな。

個室にするか、そのうち矢や剣くらいなら傷も付けられない強化ガラスも作れるはずだからそれまで我慢だな。あとは鉄格子を付けるとかすれば防犯くらいにはなるか?

それに夜間の防犯も考えないといけないな。普通のガラスだから簡単に破壊できる。当面は警備を置くとしても、やはりガラス自体の強化と、シャッターなどの設備の追加も考えなければいけないようだ。

「ブラウザ領と神国で当面は生産予定ですが、帝王陛下もどうですか? 儲かりますよ」

計画内では情報制限は取っ払っているからやろうと思えば帝国内で大規模にできる。しかしこれ、計画内部での開発者の利益保護も考える必要があるな。商売で儲けを出すなら、問答無用で開発者に一割とかそんな感じでいいだろうか?

「臣下の儲け話を奪うこともあるまい。それにあまり儲かるようなら税を多く取ればいいのだ」

これだから独裁国家は。領地によっては臨時徴税とか毎年のようにやってくるらしいからな。

「それよりリシュラ王国で新しく開拓をするらしいな。戦力が必要であろう?」

ウィルから話があってどうやら帝国から無料で軍を派遣してくれるらしい。

「それはとても助かります」

「ヒラギスではずいぶんと楽をさせてもらったからな」

ミズホへの派遣も転移があるから短期間で済むし、物資の輸送も俺たちがやれば必要ない。戦闘面も俺たちやエルフが居るから部隊の損耗はほぼないことが期待できる。そうなるともう近場でやる訓練演習みたいなものだ。

「それと帝国内の開拓も手伝ってくれるらしいな?」

「そっちはお金を取りますけどね。ミズホの開拓資金が王国からまったく出ないので、少し稼がないといけないんですよ」

自費で開拓はよくある話だ。ただしミズホの規模で国が支援しないというのも珍しいが、魔物の殲滅が終わったあとの開拓民と文官の派遣だけはやってくれるので贅沢もいえない。

それで帝国の開拓である。当然開拓しやすい場所は開拓済み。残っているのは計画はあっても問題があったり、資金難でできなかったり。帝国も王国と隣接してるだけあって、二年間の飢饉の影響はきっちりと受けていた。それでも国土の広さで気候差もあって、一部豊作の土地もあってなんとか凌いだという感じで、やはり資金面では余裕はない。

「その土地は王家が管理しているのだが、辺境も辺境な上、数年毎に川が氾濫するので開拓にも手間がかかって放置状態だったのだ」

そこを一気に農地に転用する。コストが低く抑えられるなら、タダ同然で貧民や難民に農地を譲れる。辺境なだけで帝国内なのでミズホほど環境は悪くないし、支援も継続できる。

「問題は川でな。大層な暴れ川で治水も上流から下流まで、かなり大規模にする必要があって、ずっと手付かずだったのだ」

やれば豊かな土地になるのは確実だったので、地図も作られ整備計画もちゃんとあるという。

なるほど? 俺としては荒れ地を土魔法でいくらか農地にする程度の提案だったが、治水からか。そして地図を見るにかなりな広範囲、おおよそ三〇キロメートルほどか? 川にはライナス川と名前が付いていた。ライナス川治水計画だ。

「ワシの若い頃にすでにあった古い計画でな」

実行するには数万人規模の人夫に大量の魔法使い。一〇年の工期が必要と計画書には記載されていた。理論的には帝国中の土魔法の使い手を動員すれば短期間で可能とされたが、それを数年間も拘束するなど現実的ではない。魔法なしでやるには工事が大規模すぎて手が付けられない。

これが帝都に近ければ実行に移された可能性も高かっただろうが、場所が辺境すぎた。開拓しても入植者が少なすぎると魔物に対抗するのも難しくなる。

「これは最低限の計画ですね、陛下。我々ならもっと根本的な流れの変更も可能となります」

エリーがそう言って地図上でうねうねと蛇行している川を、すーっとまっすぐ指で引いていく。コスト重視で中途半端にやってしまえば、台風や大雨で簡単に洪水が起きかねない。

「我々がやるなら計画の大きな変更が必要ですわ、陛下」

完全にまっすぐとはいかないが、少なくとも川の広さと堤防の規模はもっと大きくすべきだとエリーが言う。

治水を考えるならダムも試してみたいが、あれは魔物の存在がネックとなる。山奥に常時軍を置いておけないし、魔物は人の手になる建造物を破壊する傾向がある。もしダムが破壊されると大変なことになる。

もし我々がやるなら。確かに農地開拓の仕事がないかって聞いて、これはその通りの仕事なのだろうが、規模が想定より大きすぎる。

「これがその計画だ」

エリーの進言にしれっと帝王陛下がもう一枚の紙を出す。川の流れもすっきり直されている、コスト度外視の治水計画である。橋の設置位置や道路網、村の建設計画まできちんと網羅されている。こっちが本命だったか。地図を見せてもらいながらエリーに言う。

「本気でやってもどれくらい時間がかかるかわからんぞ」

最初の計画案の少なくとも倍は労力がかかりそうだ。それでまずは簡単なほうを見せたのだろう。

「一度堤防作りを試してみて、それから期間を計算すればいいわ」

「村とか農地はどうする?」

「まずはライナス川の治水ね」

確かに。川の整備が終わらないと何も始められない。

「ブランザ領も予定通りやるんだよな?」

「そうね……午前中に治水を集中してやって、午後から各自の仕事にかかるってことでどうかしら?」

それでなんとかできるか? これほどの規模の仕事だ。報酬は期待できるし、帝国はミズホに軍も派遣してくれるというのだ。これで資金と兵力の問題が一気に解決する。いや断っても資金は板ガラスでどうにかなるし、帝国からの兵も出し渋るということも帝王陛下はしないだろうが……

「同時に進めながらその都度予定を調整する。もしミズホまでに終わりそうにないなら、また計画を考え直す」

俺の案にエリーが頷いて、帝王陛下に向き直った。

「陛下、川の整備はこの計画の通りでよろしいのですか? あと期限はどう致しましょうか?」

「期限はそうだな、一年を区切りとしよう。計画はクライアンスを担当にするから相談して進めてくれ」

ウィルの兄ちゃんか。帝都の精霊の泉からの水路整備をしていたが、そろそろ手が空くようだ。期限も川の整備の完了時点でいいらしいし、もしミズホまでに間に合わなくても、後回しにする余裕はある。

「とりあえず食事にしますか」

食事の準備ができたので配膳してもらう。あとは食べながら話せばいい。

レストランは特に言うこともなかった。トンカツ、唐揚げ、ハンバーグをメインに、プリンとアイスクリームをデザートに。パンやスープは普通のメニュー。うちで普段食べているのをそのまま持ってきた感じだな。

シェフは俺のところからしばらく派遣するからもっと他にも作れるし、本当は和食を導入したかったのだが醤油の生産は始まったばかりだし、海の幸を安定供給するには輸送と冷蔵システムの開発が必須となる。

まあ最初だしまずは間違いのないところからである。

「それで報酬はどうなるんです?」

食べながら大事なことを帝王陛下に尋ねてみる。この規模の工事の報酬とか想像もつかんぞ。普通に考えれば数千億円? 俺とエリーの労働ってだけで考えると、一人一億円も貰えれば十分って気がするんだが……

「開拓した場所はいらんか?」

「いりませんって」

ミズホの前ならまだ考慮の余地は……いやないか。ないわ。今回は作って終わりだからこそ手出しできるのだ。作ったあとの維持管理が一番面倒だわ。

「まずは一〇〇〇万ゴルド、前金として支払おう」

約一〇億円ね。格別に多くもないが、少ないかって言われると微妙なラインを攻めてきたな。

「ワシはお前らのことを信頼しておるが、他の者はそうもいかん。成否もわからぬ計画に大金を出すとうるさいのも居てな」

そこで帝王陛下の個人資金、お小遣いからまずは出すことにしたと。

「加えてブランザ領の五年間の税の減免と新規事業の税の優遇もつけよう」

それは助かるが、報酬として高いのか安いのか、余計にわからん。

「それで残りは治水計画完了を見てということにしたいのだが……」

一〇〇〇万ゴルドもあればミズホの開拓資金はなんとかなる。板ガラスの儲けも期待できるし。

それで完成してから報酬を改めて決める。実際問題、期間やら完成度は作ってみないことにはわからんしな。どう思うかと、エリーのほうを見る。

「前金と言わずにそれで報酬は十分です、陛下。ただし川の整備だけの報酬分としてもらいますわ」

なかなかいい案だ。そう思って俺も頷いて賛同しておく。村や農地の整備がどの程度必要か、治水計画には盛り込まれてはいるが、俺たちの仕事量を考えてまずは治水限定とするべきだろう。

「橋は?」

「別料金で。むろんお安くしておきますわ」

帝王陛下はそれで問題ないとエリーに頷き、続けて言った。

「では依頼を引き受けてくれるということで良いのだな?」

お任せくださいと、帝王陛下に答える。またちょっと仕事が増えちゃったが、まあなんとかなるだろう。

「此度の開拓事業、余からブランザ伯に正式に命じることになろう」

「それは……大変名誉なことです、陛下」

エリーが少し驚いた表情を浮かべる。なんだ、とエリーのほうを見ると説明してくれた。

「つまり開拓事業の成功は新たなブランザ伯の大きな功績となるのよ」

名誉が回復されたといってもそれはゴールドハウブズの失策によるもので、ブランザ家に何か功績があったわけではないのだ。嵌められたにせよ、ブランザ家がやらかしたことに違いはない。それなのにゴールドハウブズ領までも与えられた。事情を知るものは俺のためとわかるであろうが、知らない者がどう思うか。

断罪されるゴールドハウブズ家と帝王家の繋がりや魔族のことをを説明するわけにもいかない。

「当然ブランザ家をよく思わない者はたくさんいるでしょうね」

思うだけなら平気であるが、嫌がらせでもあれば大変なことになる。相手のほうが。やられて大人しくしているエリーやリリアではない。

そこに新規開拓事業、それも手付かずで何十年も放置されていた難事業をブランザ家単独でやることを帝王陛下が命じる。事情を知らない者は大変な負担、ゴールドハウブズ領を与えることの交換条件と見える。

単なる公共事業の依頼ではない。帝王陛下からの勅命である。失敗は許されない。代わりたいと思う者はいないだろう。

そうか。それで帝王陛下自ら尋ねてきたんだな。まあ用がなくてもちょいちょい来るんだが、農地を少し作って資金稼ぎをするだけの話がえらい大事になってしまった。

かなり大規模な仕事であるが、基本魔力を大量消費するだけで良さそうだし、働いた分、ミズホへの派兵も期待できる。ブランザ家の功績にもなる。厳しそうなら期限も一年とかなり余裕もある。不測の事態でもなければ問題はないはずだ。

「それとドワーフのことだ。今日の式典の後に長老会議と会合を持つ。マサルも来るか?」

どうやらドワーフ側は最近の技術交流に味をしめて、それを拡大したという話に乗ってほいほいやってくるのだという。レンズは作れば作るほど儲かるからなあ。

「話の流れではエルフの里に連れて行くことも考えておったが、この分では必要なさそうだな」

航空機や蒸気タービンを見せるつもりだったようだが、セラミック剣と板ガラスだけでも十分優位を取れそうだ。

「いいでしょう。俺も参加しましょう」

そうして帝王陛下とのランチを終え、エルフの里に戻るとすでに試作ラインのサイズが拡充されて、かなり大きなサイズのガラスを作れるようになっていた。

今は最初の製品がゆっくりと冷やされているところである。

「厚みの調整と最終工程のカットが難しいですね。当面は職人の判断でやってもらうしかありませんが、それでもこいつが完成した暁には日に一〇〇枚でも一〇〇〇枚でも作れそうですよ」

現場のエルフがそう説明してくれる。今は幅二メートル、長さ一〇メートルくらいの板ガラスを作って、冷やしてから慎重にカットする予定である。

試作品でも出来ていたが、ビッグサイズでもきちんと透明だし、平面も出ているようだ。

「見た感じは大丈夫そうだな。強度はどうなんだ?」

「大きくした分、十分な厚みも出してみましたが、そこは試してみないことには」

強度の測定は今のところハンマーで叩いて大丈夫だった、くらいしか判定方法がない。これを数値化したいんだが、今のところ俺からはいい案が出てこない。

こうして実際に作ってみると正確な度量衡の策定と、計測機器の制作の重要性が改めて浮き彫りになる。今回なら重量、長さ、時間、温度あたりだろうか。

重量と重さは問題ない。しかし時間は? 正確な時間がなければ、速度もわからない。日時計や水時計では話にならないし、砂時計はそれなりの精度で時間が出るが、秒単位となる問題外だ。振り子時計が研究中で、機械式は複雑すぎてどこから手をつけていいかわからないのが現状である。

そして温度だ。水銀柱で一〇〇度や二〇〇度くらいまではそこそこ正確に測れるようにはなったが、五〇〇度や一〇〇〇度を超える温度をどう計測すればいいのか?

「軽く叩いて壊れるとかじゃなきゃいいよ。あくまで試作品だし、問題があるようなら後で入れ替えればいい」

まずはインパクトだ。諸々の心配は後回しでいい。

それで完成品をアイテムボックスに仕舞い込んで転移すると、式典がそろそろ始まるとの連絡があった。帝都の転移ポイントは王家の森のエルフ居住区である。

大急ぎでガラスを現地のエルフに託して、衣装を整え、幸いにも出番はまだだったので控室に移動して出番待ちである。

「それで俺たちは何をすればいいんだっけ?」

俺の言葉にエリーがため息をついた。仕方ねーじゃん。ずっと忙しかったんだ。

「ウィルとフランチェスカとカマラリート様の婚約が発表されるから、それをみんなで祝福するのよ」

「私とイオンが先に話すから、マサルは最後ね」

アンがそう言うので二人の話す内容を聞いて、俺も簡単なセリフをすぐに考えた。それが終わったらまた発表が色々あるから、後はうんうんと頷いていればいいらしい。

「了解了解、任しとけ」

今日の正装はヘルムで半分顔が隠れているしみんなと集団行動だから、さほど緊張することもない。ただ話すだけ。簡単なものだ。

ちょっと休憩時間ができて落ち着いたので、明日からのことに考えを巡らせ少しげんなりとする。ライナス川の治水。ブランザ領の復興。ミズホ開拓の準備。そして剣の修行と千年計画。ビースト領の建設は落ち着いたので、俺が居なくても大丈夫だ。ブランザ領とミズホの準備は人任せにできるし俺自身は案外余裕があるのか?

いやそんなことはなかった。恐らく二ヶ月。まるまる午前中はライナス川の治水に時間を取られることになりそうだ。

「マサル、今日の話、ほとんど相談もなしで流れで受けちゃったけど……」

考え込んだ俺を気遣うようにエリーが言った。

「ああ、それは別にいいんだ。俺も賛成したし、俺たちの利益になるいい話だった」

しっかりと現実的なラインで依頼も受けたし、期限の余裕もある。そもそもなぜこんなことになったのか。ライナス川治水はミズホの開拓資金を得るためで、ミズホの開拓は王国を千年計画に引き入れるため。結局は俺が始めたことだ。文句を言うのは筋違いだろう。

「だけど午前中いっぱいというのが良くない。もっと効率的にいこう。魔力はアンとイオンの支援もあるし、切れることもない。相手はたかが川の流れだ」

なんならエルフからの支援を受けてもいい。城壁の工事も終わるから、土木関連のエルフを動員できる。使えるものは使ってとっととに終わらせる。できれば一カ月で終わらせられれば尚のこと良い。その俺の言葉に、はい、とイオンが手を上げた。

「実はここ数日、魔法の練習をしていたのです」

イオンは元は回復魔法が得意で、風魔法が少しだけ使えた。それを加護で空間魔法を覚えさせて、風魔法を極めてもらって戦闘に参加してもらっていた。

「それで火魔法をすでに覚えて、今は水魔法の練習中なのです……」

あー、そう来たか。確かに計画で役に立ちそうなのは火で次は水か土だろうか。水は氷も作れるからそっちを優先したのかもしれない。

「ですが!」と珍しく力強く続けた。

「すぐに土魔法も習得しますので、お手伝いをさせてください!」

二人が三人になれば、効率が1.5倍になる。じゃああと一人か二人加えれば?

「アン、空間魔法はそろそろ習得できそうか?」

「それがなかなか……」

「じゃあ今日から土魔法の習得に変更だ。三日で頼む。ティリカはどうする?」

俺は水魔法は一日、回復魔法は三日で覚えた。熟練の魔法使いなら十分に可能なはずだ。アンは元から新しい魔法の練習はしていたから、それを土に切り替えてもらうだけだが、ティリカは妊婦でもあるし、無理はさせたくない。

「やる」

「じゃあ各自土魔法レベル1を自力で習得して、レベル3まで加護で上げる。教師役はエリーだ」

ポイントはみんな少し余らせている。レベル3あれば、土壁の応用で色々できる。レベル1でも、それどころか土魔法自体の習得をしないでも魔力があればできる可能性もある。そもそもが魔法はもっと自由度が高いはずなのだ。これは千年計画の研究課題に加えておこう。

「もっと早く思いつくべきだったわ」

アンがそんなことを言う。確かにそうだが、回復魔法だけでもアンは激務だったしなあ。

「ずっと忙しかったし、今回くらい大規模じゃなければ俺とエリーで十分だったし」

それに転移とか回復魔法とか他に有用な魔法も多い。

「リリアたちはどうする?」

精霊魔法を覚えると、他の属性の威力が半減してしまう。確かに攻撃魔法の火力は落ちるようだが、攻撃以外の面はどうなんだろうか? 考えてみれば特定属性以外は半減するとか意味がわからない。それにたとえ半減したところでリリアたちくらいの魔力があれば実用性は十分だ。

「わたくしがまずは試してみましょう」

そうルチアーナが返答をしてリリアが頷いている。シャルレンシアはライナス川方面に転移ポイントの確保に動いていて、明日はすぐに現地に移動できるようになっているはずだ。

「よし、明日からも大変になりそうだけど……」

「マサル、まだ今日は終わってないわよ?」

エリーが冷静にそう指摘する。そうだった。式典の参加とドワーフとの交渉か。

「いつになったら暇になるんだろうな?」

「そんなことわたしたちに聞かれても」

エリーの言うこともごもっともである。一つ一つやっていくしかないか。そう考えてせめて休憩はしっかり取ろうとソファーに腰を落ち着かせた。