軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

319話 セラミックの剣

朝食後は剣の修行を小一時間ほどして、あとは千年計画を進める。といってもここのところ難しい話が続いたので、研究所や書類からは離れて俺が思いついた作業、土魔法を使ってのセラミックの制作実験である。

本日は帝都の秋祭り九日目。明日最終日のレセプションで色々な発表があって、その後はかなり忙しくなって余裕がなくなるはずだ。

「ここに用意したのはそこらへんから掘り出した、ただの土だ」

こんもりと積まれた粘土質の土を前に、ふんふんと集まったエリーと一〇人ほどのエルフたちが聞き入る。

「ここのところ土魔法で様々な建物や設備を作る機会が多くなっていることと思う」

見上げると前日はなかった高い煙突が立っている。蒸気タービンの煙害対策は、とりあえず高所に排煙を逃がすことにしたのだ。

「そこで土魔法でより頑丈で硬度の高い物が作れないか、色々と試したいと思う」

集まってもらったのは手が空いた土魔法が得意な者たちだ。俺だけで試して俺だけしか出来ませんみたいになったらまた仕事が増えてしまう。

「まず普通に硬くするイメージで作ってみる」

そう言って空中に浮かせた土を剣の形に形成する。持ち手や柄もしっかりと作られた、そのまま売りに出せそうな出来の土色の片手剣だ。それをサティに渡して、出してあった大岩に叩きつけてもらう。普通の岩よりかはかなり硬いから、ガンガンと叩く度に大岩を削っていくが、何度目かの衝突でポッキリと折れた。

「そこそこ使える丈夫さだけど、武器には向かない。つまり鉄より弱い」

俺が本気を出せばもっと硬くはできるが、俺でしかできなくてはこんな場を用意した意味がない。

「では鉄とこの土の剣の違いは何か? 材質からしてそもそも違うが、他の違いは火の使用だ。鉄は火で溶かすことで鉱物の状態から強い鉄へと変化させる。陶器やレンガも同じだ。固めただけの土に火入れをすることで硬度を上げている」

そう言って今度は土の剣を作る時に熱も加えていく。

「錬金術師は魔力を込めることでただの薬草を回復ポーションに変化させる。魔法で大事なのはイメージだ。ただ土を剣の形にして熱を加えるだけなら陶器と変わらない。土をぎゅっと凝縮させて、熱で水分を飛ばし、さらに土の脆い結合を熱で溶かして強固にしていくんだ」

そんな説明しながら熱を加えていくと、限界は生身の体のほうに先に来る。熱さに耐えきれなくて魔力を緩める。完成品もあっつあつだわ。

「誰か、水を用意してくれないか?」

そうして作ってもらった大きな水の桶にじゅわーと剣を沈めていく。急に冷やすと脆くなるかもしれないが、じっと待つのも面倒だし、こいつはまだ試作品だ。

「まだ熱いかもしれないから注意してな」

そうしてもう一度サティに大岩を叩いてもらう。今度は一撃ごとに先程より大岩が大きく抉られていく。

「頑丈ですね。次は少し本気を出してみます」

そう言ってサティの気合を込めた一撃は、剣を大岩に完全にめり込ませた。刃を鋭くしていたらもっと深く切り裂けてたかもしれない。

「剣か岩か、どっちかが壊れるまでやってみてくれ」

頷き、しっかりとした構えから放たれたサティの本気の一撃は、振り切ったサティの体勢もあってか一瞬大岩を完全に振り抜けたかと思ったが、折れた剣が上部三分の一くらいのところに残ってしまっていた。

より頑丈にはなったがサティの本気には耐えられないか。引っ張り出した剣先を見ながら考える。鉄の剣のように折れる前に曲がったりもせず、ポッキリと折れてしまっている。加熱を中断したのもあるが、粘りが足りない? 俺じゃ判断がつかないな。

「鍛冶屋を呼んで来てくれるか? 作った物を本職に見てもらおう」

それから今俺がやったことを説明していく。単純に熱を加えるだけじゃダメだ。圧力と構造の変化のイメージをする。

「水も凍ると硬くなるだろ? 材質も大事だけど物質の構造も同じくらい重要なんだ。木とか炭は炭素という同じ原子からできているんだが、ダイヤモンドも同じ炭素なんだ。地中深くで熱と圧力がかかってできるらしい。つまり同じ土でも構造次第で強くなるはずだし、土の種類を変えるのも有効かもしれない。あるいは既存の鉱石、鉄とか銅を組み合わせて使ってみるのもいいかもしれない。どうやれば頑丈な材料が作れるか、皆でそれを考えて試してほしい」

大事なのはイメージだ。そう念を押し、記録を取ることも言っておく。使った土。土魔法や熱をどのように使ったか。出来上がった物の強度。

「再現性が重要だ。たとえばオリハルコンにも負けない土の剣が出来たとしても、それが何本も作れなければ、他の者でも出来なければ、それはただの偶然だ。計画に対する寄与はできない」

セラミックも本当は工業的に作りたいのだが、そのための基礎となる何もかもが足りていない状態だ。時間も豊富にあるとは言えないし、魔法でのショートカットで開発が加速するなら積極的に使っていくべきなのだろう。まあそんなことを気にしているのは俺くらいなものな気がするが。

いつも世話になっている鍛冶屋の親方はすぐに到着した。状況を説明して折れたセラミックの剣を入念にチェックしてもらう。手にしたハンマーで折れた剣をガンガン叩いたりしているが、それで折れたり欠けたりする様子はない。サティのフルパワーでやっと折れた頑丈さだし、エルフはそもそも非力だ。

「普通に道具や部品に使う分にはこれで十分に思えますな」

そう親方は言うがサティが折ってしまったのだ。サティは確かに破格のパワーがあるが、人の手で折ってしまえるようでは困る。他の皆も作り始めるように言って、俺も次を作ってみることにした。

やはり熱が足りなかったかなと、今度は見本として見せる必要もないので厚い土の防御壁で完全に囲って、ゴンゴンに熱を加えていく。

粘りを出すってどうやるんだろう。日本刀なら叩いて何度も折り返すんだが……捏ねればいいのか?

融解しつつある高温の土の塊をしっかりと捏ねて混ぜ合わせていき、十分と判断したところで剣の形に整えていく。剣の形も切れ味の鋭い刃の薄い剣にしてみた。俺たちが使うような頑丈さ優先の分厚い剣にすると、今回は硬くなりすぎて破壊できないかもしれない。

イメージだ。熱は止めて、最後に全力で圧力を加えながら強い、強固な剣の完成を思い描いていく。

「できた……って何を見てるんだ?」

気がつけば周囲の者が作業の手を止めて俺のほうを見ていた。

「マサルの出す魔力が強すぎて集中できないのよ」

エリーがそんなことを言う。土魔法を使いながら熱と圧力を加えていくのは、初めてだとなかなかに難しく集中力が必要らしい。

「それは悪かった。俺はこれでちょっと休むから、作業を再開してくれ」

作った剣をそのまま浮かせて冷えるのを待ちながら、剣の出来を鑑賞する。俺の作ったセラミックの剣は土が材料なだけあって、金に近い、少し暗い程度の色合いをしていた。そして圧縮しすぎたか、それとも熱して成分が蒸発してしまったのか、普通の半分くらいの長さのショートソードになってしまった。

「まだ熱いので触らないでくださいよ、師匠」

近寄ってじっくりと観察しようとしている師匠にそう警告する。

「この剣からは名剣の気配を感じるぞ」

そう言って俺が作った剣の周りをぐるぐる回って詳細に観察している。そして薄くて小さい分、熱が抜けるのも思ったより早かったようで、師匠にさっと奪い取られた。それでもやっぱり熱かったようで、両手でぱしぱしと持ち手を変えている。

「じゃあ強度の検査をお願いします」

俺がそう言うと師匠はすたすたと大岩のほうへと歩いていき、軽く腕を振って戻ってきた。

「岩では試しにもならん。練習用の剣を出せ」

よく見ると大岩の一部に切れ目が入っている。すっぱりと切れて刃こぼれもないらしい。それで俺の使っているごつい両手剣サイズの刃引きの剣を出して、台座を土魔法で作って設置した。

師匠がまた腕を一振り。ピン、と硬質な音がして……しかし設置した刃引きの剣には変化がない。斬るのに失敗したはずはない。確かに練習用の剣が斬られるのは見えた。

「切れ味が鋭すぎて剣が切られたのに気がついておらんのだ」

そう言って師匠が剣を持ち上げると、ぽとりと剣の半分が地に落ちた。

「それは切断面が綺麗すぎて、切れた後にくっつき直したんですね。完璧な平面同士はくっつく性質があるんですよ」

「ほう、そうだったのか。しかしこいつの切れ味は素晴らしいな」

そう言って二つになった剣を重ねてもう一度設置し、またスパッと切り裂いた。多少厚くした程度では、鉄は問題なく切り裂くらしい。

「師匠の腕が良すぎるんじゃないですか?」

四つになった元剣を拾いながら言う。

「ならば自分でもやってみろ」

やってみると大して力も入れてないのに速度だけの振りですっぱり切れてしまった。ふうむ。切れ味はいいのはわかるが、これでは強度がわからんな。

そう思って今度はセラミック剣を台座に設置して、もう一本練習用の両手剣を取り出す。

「待て待て待て、何をするつもりだ!?」

「もちろん強度の検査をするんですよ」

重い剣で全力で叩いてみる。これで壊れなければ本物だ。何の本物かはわからんが、別に剣として使うつもりもないので、強いセラミックのサンプルとしてなら半分に折れても何の問題もない。

「ワシがやろう。下手な腕だと腕を痛めるぞ?」

確かに、と任せることにする。

「ちゃんと本気で叩いてくださいよ?」

「手は抜かん」

そう言って今度は慎重に構えて狙いを付けた師匠が剣を振り下ろした。キンッと軽い音がして剣が跳ね上がる。そのまま剣を振り上げた師匠がもう一度、振り下ろす。ギンと、硬質な音がし、また剣が跳ね上がり振り下ろされた。ギンッ! 三回で一番強い音がしたが、セラミック剣に変化はない。

ふぅー、と師匠が息を吐いた。

「これ以上はこちらの剣がもたん」

師匠が本気ではないのは見て取れたが、それでも限界を見極めてやってくれたようだ。叩きつけたほうの鉄の剣はぶつかった部分がそれとわかるほど凹んでいた。ただの鉄の剣では無理か。

「待て待て待て!?」

俺がオリハルコンの剣を取り出したのを見て、師匠が焦ったように止めにかかった。

「どちらも試しで潰して良いような剣ではないぞ!」

そう言ってさっとセラミックの剣を台座から奪い取った。

「ワシが見たところ強度はオリハルコンには及ばぬが、切れ味は甲乙つけがたい。試す必要はもうない!」

師匠がセラミック剣を守るように俺から距離を取る。正直壊れるまで試したところで、俺では強度の判断はできないんだけど、それでも限界まで試してみたかったんだが。

「必要なら同じのをまた作れますよ?」

まあオリハルコンのほうは傷を付けてしまうと大変ではあるが。

「ならばこいつはワシに寄越せ」

「まあいいですけど。それは師匠に差し上げます」

これほど簡単に作れたのだ。もう何本か作ってみればいい。

「そうか! 持つべきものは師匠思いの弟子よの」

かつてないほど師匠が嬉しそうだ。

「しかしこれが土、粘土でできた剣ですか?」

見物していた親方が師匠に剣を見せてもらいながら言う。 土剣(ソイルソード) 、 粘土剣(クレイソード) じゃいまいち締まらんな。

「その剣は 強化陶器剣(ハイ・セラミックソード) とでもしましょうか。あと実戦で使うときはいつポッキリ折れるかわからないんで注意してくださいよ。鉄みたいな粘りも多少は付いたはずですが、所詮は陶器ですし」

それで次を作ろうとしたのだが、みんなが真剣な顔で作業をしているのに気がついた。俺が作るとまた邪魔になるか。そしてみんな剣ばかり作っている。別に武器を作る会じゃないんだが、まあお皿を作ります、なんてよりはテンションは上がるのだろう。

「師匠、他の者が作った陶器剣の評価をお願いできますか?」

剣の見極めはさすが剣聖というレベルだし、作った剣を壊して回るよりよっぽどいいだろう。

「あと数値化をお願いします。そうですね。俺の作った剣を一〇〇として、点数を付けてください」

それだけ頼んで離れた場所に移動して新たに地面を掘り返して粘土を補充する。今度は多めに取り分けて、同じように捏ねながら熱を加えていく。加える熱や捏ね方で条件を変えることも考えたのだが、まずは再現できるかどうかだ。

そうして片手剣、両手剣を作ったところで魔力が切れたとエルフたちがやってきたので補充をする。どうやらエルフでも二、三本で魔力が尽きるらしい。

今回の手法、誰かが試してそうなものだと思ったが、人間だと思いついた者がいても魔力が足りないか。加えて土魔法に熱やその他の操作もするとなれば難易度も跳ね上がる。それができるほどの有能な魔法使いが生産をやる理由がない。

そもそもが俺ですらそこらの土から硬度のあるセラミックができるかどうか半信半疑だったのだ。普通は陶器がそれほど強くなるとは思わない。

「エルフでも二本しか作れないんじゃ効率が悪すぎるわね」

エリーの言葉には頷くしかない。何かの試作品くらいなら十分だとは思うが、ロケットとかでかい物を作るのは大変すぎるし、これでは量産にはほど遠い。

「熱を加える部分を自分でやる必要はないな。炉で補助をすれば魔力は節約できるから、必要な部品の形成にだけ魔力を消費すればいい。あとエリー、剣が苦手なら他の物でもいいぞ? 強度を試すだけなら、盾とかただの板みたいなのでも大丈夫だ」

エリーの制作物は剣の形はしているが……相変わらず不器用なようで、子供の使うおもちゃの剣みたいな出来である。

「マサルが器用すぎるのよ」

渋い顔でエリーが言う。普段からやっているのもあるが、やはり生来の器用さや魔力操作の精密さはあるのだろう。それでもエリーはちょっと大雑把だと思うし、師匠もちらっと見て、スルーしてるじゃないか。点数を付けるまでもないのかと思ったか、それとも俺の作った剣が気になるのか。形はどうでもいいから、強度を見てほしいんだけど。

「新作の出来はどうですか?」

親方とともにやってきた師匠は俺が作った二本を難しい顔で調べている。

「片手剣は悪くないな。両手剣のほうは、サティ。試してみよ。全力だ」

サティの手によって大岩に叩きつけられ両手剣は三度目で折れた。大きいからその分脆くなったのか?

「片手剣も最初のショートソードほどの良さは感じぬな」

そう言いつつも、試し用の大岩と、鉄の剣を軽く斬って見せた。

「斬れ味は良いが強度がかなり怪しい」

「大きい分脆いってことですかね?」

「確かには言えぬが、大きさではなく物自体の差に思えるな」

品質にばらつきがあるにせよ、三本作って最高品質、高品質、並なら上出来か? しかし何が違う? 剣のサイズと、あと土か。適当に掘った土だしな。最初に使った土の成分がたまたま良質だった? その土はと見るとエルフが使ってもう残っていない。

今日は仕方ないか。そもそもができるかどうか程度のお試しで、いきなり高品質なセラミックができるとは考えていなかったのだ。

次は使った土を取っておくか。採取した土を半分に割ってサンプルとして保存して、半分だけ使う。大きさが品質のばらつきの原因かもしれないから作るのは短剣だ。土も何箇所か、見た目が違う感じの土を掘り出して使うことにした。

そうして一本一本、集中して、心を込めて作っていく。同じ形の短剣を計五本。今度は片刃にして見た目はほぼ同じ。かなり正確に作れたと思う。

エルフたちも作業を終えて俺の作業を見学していたので、なくなったであろう魔力を補充をして、師匠に尋ねる。

「そっちはどうだったんですか?」

「せいぜいが五〇点。六〇点が一本あった程度であったな」

師匠の主観、体感に依るところがあるとはいえ、俺の作った剣の半分程度の性能か。

「マサルが作った物以外は剣としては怖くて使えん」

「しかし鉄の代用品には十分ですよ、バルナバーシュ様」

親方がそう言うからには普通のエルフでも鉄に匹敵するくらいのセラミックを作るのには成功したということだろうか。

そしてエルフたちの作った剣のばらつきは、土の質が関係するのではないかとの推測を親方は述べて、続けて言った。

「土を使うなら陶工に聞けば良かったですな」

「エルフの里に陶工って……」

「もちろん何人かおりますよ。呼んできましょうか?」

そりゃそうだよな。陶器だもの。必要な人材は鍛冶屋じゃなくて陶工だったか。

待っている間に師匠が俺の作った五本を調べていく。もはや斬って試す必要もないらしい。触ったり、軽く鉄のハンマーを叩いて音を聴く程度で手早く評価を下していく。

一本が師匠にあげた物に迫るくらいの最高品質、九五点をもらえた。三本が高品質、七〇から八〇点。一本が並で六〇点という評価になった。

「切れ味はどれも良いな。こいつも解体か料理用にでもすれば重宝するかもしれぬ」

一番ダメな一本でも鉄は切れるが実戦で使うには強度が足りない。残り三本は武器としての実用性も十分。しかし最高品質でも最初の一本には及ばない。

「土魔法でさくっと作る予定が、案外手間がかかるな……」

「しかし普通に剣を作るより簡単ですし、これほどの物が安定して作れるなら、鍛冶屋は廃業ですかな?」

鍛冶屋が困ったように言う。

「鉄は鉄の良さがあるし、どっちか片方しかダメってこともないだろう? 両方の良いものを使えばいい」

それはそうですが、といまいち納得しない様子だが、鉄の潜在能力はもっともっとあるはずだ。

「それに鉄でも同じことができるはずだぞ」

鋼鉄の作り方ってどうだったか。黒鉄鋼が鋼鉄の一種だと思うが、鉄に混ぜものをして強度を上げるのと、セラミックと同じようにイメージで材質の構造をいじって強度を上げればいいのか。

鋼鉄は電気釜で作るらしいが、まあ魔法でもいけるだろう。セラミックと手順は変わらん。

「やってみよう」

ちょうど折れた剣がある。こいつを溶かして新しい剣を作る。大事なのはイメージだ。それも正確なイメージと物質への理解。溶かして硬くなれと念じるだけではどうにもなるまい。

土は熱と圧力だ。地中深くで熱と圧力が加えられ、硬い岩盤や宝石が出来上がる。では鉄の硬さは何に由来するのだろうか。鋼鉄は確か炭素の含有率で調整していたはずだ。増やせばいいのか? 減らせばいいのか? わからんな……

これもお試しだし適当にやってみるか。いい短剣ができた土をひとつまみ加えて、熱を加えていく。炭素が手元にないし、そのままの鉄単体より硬くなりそうな気がしたからだ。

捏ねながら強い構造を考えていく。密度が高く、絡み合った分子構造だ。何もないところから物質を作り出している(ように見える)魔法だ。セラミックでも上手くいったし、その程度は軽いものだろう。

鉄の元素が強固に絡み合い、結合するイメージ。疑いを持ってはいけない。できるという確信が魔法を強くする。

十分だと感じたところで熱を止め、形を整えながら圧力を加えていく。防壁の一部が熱で溶け崩れ、見学していたエルフが後ずさる。問題ない。もう作業は終盤。

防壁の中から持ち上げて、目視で確認する。やはりサイズは半分くらいになってしまったが、それでも元が両手剣だったのでぎりぎり片手剣くらいのサイズにはなっている。

「見た目は普通の剣に見えるが……」

そう師匠が剣を凝視しながら言う。そりゃ材料はほぼ同じだし。

「それで鉄の強化なんだけど、基本は鉄以外を混ぜて鉄の化合物にするんだ。一番の候補は炭素、炭だな。電気釜で溶かして、ああ。電気釜というのは――」

鋼鉄に関して思い出したことをしゃべりながら冷えるのを待っていると、やはり師匠に先に奪い取られた。

「見た目より重い」

そう剣を振った師匠が短く言う。

「試しても良いか?」

俺が頷くと大岩へ向けて剣を一閃させた。当然のように大岩はきれいな断面を見せて、二つになった。剣にも刃こぼれはない様子で、どうやら普通に鉄よりは強くできたようだ。

「鉄のようで鉄ではない」

「黒鉄鋼ともオリハルコンとも違いますな。強いて言えばアダマンタイトが近く見えますが……」

「強度はどうなんですか?」

俺をそっちのけで議論を始めた師匠と鍛冶屋にそう尋ねる。

「わからん」「わかりませんね」

それなら試すしかないなとさっきと同じことをやるとやっぱり止められる。

「じゃあくず鉄を持ってきてくれ。上手くいったようだし、もっと作ってみよう」

たぶん鋼鉄ができたと思うんだ。

「他の者は陶工の親方に土の相談をしながら、もっと強いセラミックが作れないか試してくれ」

セラミックも鋼鉄も、思いの外良い物ができたのだ。もっと時間をかけて調べてみるべきだろう。

「人ももっと集めるか」

鉄のほうも普通のエルフがどこまで強い鉄が作れるか試す必要がある。魔力を込めないで鋼鉄ができるかも試したいな。

俺が居れば魔力はいくらでも供給できるし、時間のあるうちに試せるだけ試すとしよう。