作品タイトル不明
318話 ミズホ開拓計画
「マサルの決めたことだし良いんじゃない?」
その日の夕食時、エリーからはそんな投げやりな言葉が返ってきた。これは呆れられてるな。
「それにマサルの得意なことばかりじゃない」
そうだなと、頷く。戦闘、砦作り、農地作成。しかし表情に思いが出ていたらしい。
「それで何が心配なの?」
「不測の事態や予想外の展開」
「心配しすぎね。今の私たちが負けるなんて考えられないわよ」
そこはまあ俺も心配はしていない。しかも今回は不意打ち、奇襲作戦の予定だ。主力は俺たちとエルフで、王国側から魔族に情報が漏れる可能性も考えて、ギリギリまで情報は伏せる。
もし万が一、魔物が手に負えない、無理だってなったら撤退すればいいだけだし。だが開拓民が入ってからだと簡単に撤退とはいかない。
「あとかなり広いよな」
エルフの里にあった超シンプルな地図をみんなで見たのだが、伯爵侯爵とか言ってたし、王国の三割の食料を供給できるほどの広大な領地だ。比較対象がなくてわからないが、一県か、あるいは北海道くらいあってもおかしくない。それをまったく何もないところに一から生活環境を作るのだ。
「普通、開拓は自給自足なのよ。ヤマノス村やビーストの町みたいなのは恵まれすぎなの」
場所は用意した。あとは自分たちで生活できる環境を整えて農作物をいい感じに作ってくれ。そんな感じらしい。さすがに領主が住む中心となる町なり村なりはしっかりと作るが、基本は開拓民の自主努力によってなんとかしろという話になっている。ある程度の支援はあるにせよ、家、城壁、農地までお膳立てしてもらっての開拓は普通はありえない。
だから俺たちも手を抜こうと思えばいくらでも手抜きはできる。まあそれをしてしまうと、お目当てである食糧生産と王国の財政再建が遅れてしまうから手厚い支援はすることになるのだが。
「それでゴルバス……ミズホが上手く占領できたら王国も計画に参加するのね?」
エリーの言葉に頷く。魔物の殲滅が終わり、開拓が始まった段階で王国は計画に参加することになる。しかし神託だって話はしたけど、一九年後にどうなるかみたいな話は最後までしなかったな。とりあえず目の前の破滅を回避するのに必死で、そこまで先のことは考える余裕もなくなっているのだろう。うーん、まあこれはそのうちでいいか。国王陛下の心配事を増やすのは王国が安定してから、計画にしっかりと参加してからにしよう。正直、どの程度信用していいものか、内務大臣と公爵も含めていまいち判断がつかないのもある。
「しかし今度は王国か。豊かな穀倉地帯を抑えることができれば、王国はもはやマサルの意のままじゃな」
「意のままって俺は何もしないが?」
いや何もしないこともないけど、意のままにとか言われるのは心外である。
「剣聖の最後の弟子にして最強の魔法使い。帝国、神国、神殿、真偽院が後ろ盾で、エルフはむろん、獣人もマサルの味方になろう。望めば世界の王にでもなれるのではないか?」
冗談めかして言ってはいるが、俺がほしいといえばリリアは本気でどうにかしそうだ。
「俺がそんなものを欲しがるとでも?」
俺は可愛い女の子といちゃこらしたいだけなんだ。
「マサルは妾たちの体が目当てじゃものな」
また人聞きの悪い。しかしその通りでもある。
「そうだよ。俺はお前らの体が目当てなんだ」
ウィルとフランチェスカはまた王国に行ってしまって仲間だけの状況で、取り繕っても仕方がない。ここ数日自由になる時間が少なくてストレスが溜まっている。このあともデランダルさんにお付き合いである。帝国の国歌の仕上がりが気になるらしいのと、王国と神国の国歌も完成させないといけない。
「マサルはもう少し欲を出すべきだと思うのじゃがな」
それで世界の王とか体目当てとか言い出したか。ミズホも放り出しかけたし、確かに他もあんまり……お風呂とか食事くらいか、贅沢を言うのは。ゲームとか漫画、アニメが好きだったんだけどそれはもうどうしようもないしなあ。
「そうそう。俺は子供の頃、宇宙飛行士になって月へ行きたかったんだ」
だから千年計画で月へ行くなんて口走ってしまったんだと思う。子供の頃の夢はプロ野球選手と宇宙飛行士だった。
「マサルの望みはほんとに極端なんだから。世界の平和に月? もうちょっと何かあるでしょう……」
奴隷を買ったのも体目当てだし、大きい家もそうだしなあ。野球もあくまでTVを見て憧れた子供の頃の夢で、結局地域のクラブにも野球部にも入らなかった見る専門だったし。
「ないよ。もうみんなの体だけでいいよ」
本当は時間がほしい。休みがほしい。しかし俺がサボると後々響いてきそうだし、俺が休むと他にガツンと負担がかかるのだ。とりあえず計画が落ち着くまではがんばるしかない。
「まあそれはともかくとしてミズホの話なんだけど、俺たちとエルフだけでいけるのか?」
「そうじゃな……人も雇うかの」
「冒険者か?」
「それもじゃが、妾が考えたのはビースト領の獣人とヒラギス軍じゃな」
「負担じゃないか?」
「短期で良いのじゃ。それで傭兵代金をきっちり払えば、ヒラギスも多少は潤うじゃろう?」
ヒラギス奪還作戦の生き残りなら戦力としても間違いはないか。移動は転移だし、俺たちが掃除もしたしで、ヒラギスでの軍や冒険者は暇になりつつある。
「いい考えだ。明日にでも宰相殿……いやウィルに相談するほうがいいか」
あいつもヒラギスの人間になるんだし、フランチェスカにミズホ開拓の指揮を任せたからちょうどいい。
「それはそれでいいとして、明後日の帝都の式典なんだけど、ちゃんとした衣装で行こうと思ってるんだ」
「今持ってる衣装じゃダメなの? 新しく作るにしても間に合わなくない?」
エリーがそう首を傾げる。持ってる衣装っていうか装備だな。
「俺もそろそろ勇者として大々的に名乗りをあげようと思って。前にエルフの里で作ってお蔵入りしてた派手な装飾のついた鎧があるだろ? それでウィルとフランチェスカの婚姻を、神の使徒の名で祝ってやろうかと考えたんだ。俺だけでもいいけどパーティで揃えたほうが派手でいいかなって。どう思う?」
「いいわね。どのみちわたしもブランザ伯として紹介されるし、どうせならできるだけ派手にやりましょう!」
「登場の仕方も派手に、それから口上も考えねばな!」
「ウィルとフランチェスカ、びっくりするわよー」
「いやいや。驚かすのはやめてやろう。帝国側にも教えておかないといらないトラブルがおきそうだろ?」
サプライズは失敗した時に悲惨なものだ。
「じゃあいいけど。装備も一度合わせたほうがいいわね」
「うむ。新しく必要なら突貫で作らせれば間に合うぞ」
食事を終えて、みんなで装備を取り出して衣装合わせをしていく。
「他はいいけど、マントが地味ね」
そうエリーが自分の装備そっちのけで俺のコーディネートを考えている。俺の装備は青系の騎士っぽい鎧に黒のマントだ。あと顔をヘルムで隠せるのがポイントである。
「マントも青でまとめてみる? 赤に金色、いっそ白がいいかしらね?」
「婚約を祝うんだから白がいいかな」
青はともかく、白は神殿のカラーであるが赤や金より無難だ。
「じゃあ神殿のシンボルもあしらいましょう」
そうアンも口を出してくる。そうなるともう完全に神殿騎士である。
わいわいとやっていると、デランダルさんが待ちくたびれたのか呼びに来てしまった。
「明日も楽隊がいるなら、我らも音楽とともに入っていけば印象的ではないか?」
待たせているデランダルさんを見て、リリアがそんなことを言い出す。勇者入場のテーマソングか。悪くない案だ。
ドラゴンクエストのオープニングは勇者だからってありきたりすぎか? じゃあロッキーのテーマとか、YMOのライディーンとかもいいかもしれないな。あとはアリスのチャンピオンとか? 洋楽もいいかもな。スタンド・バイ・ミー、スターウォーズのテーマ曲。
「みんなで聴いて選ぶか!」
「ねえ、帝国国歌の編曲は!?」
「あれはもういいでしょ。普通に出来はいいし、これ以上いじるところないと思いますよ」
公式の場で披露するのに緊張するのはわかるが、元が名曲なのだ。受けるのは間違いはない。
「しかしだね」
「新曲、聴きたくないですか? また名曲揃いですよ?」
国歌とか考えるのは責任重大すぎるし大変だけど、自分用のテーマソングを考えるのはめちゃくちゃ楽しいな!
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【リシュラ王国、王宮の一室】
「マサル・ヤマノスとはどのような人物なのだ?」
アルブレヒト国王陛下がウィルとフランチェスカにそう切り出した。
「神託を受けた勇者で、剣聖の弟子にして最強の魔法使いです、叔父上」
フランチェスカがそう答える。
「この本もあの者、マサルの知識を元にして書かれた。そして月へ行くと言っていたが……」
「はい。大変に頭の良い人物でもありますね、陛下」と今度はウィルが答えた。
「ヒラギスではマサル・ヤマノスとその仲間だけで戦況を支えたと言っていたな。神国皇帝とガレイ帝王ですらマサル・ヤマノスに恐れを抱いているようであった」
ヒラギスでの戦果は散々にウィルの口から語られたのだが、どうやらかなり盛っていると思われているようだ。
「ですが普段はとても温厚で頼りがいのある人物ですよ。私も冒険者をしていて死にそうなところを助けられました。俺は女好きだから男なんか助けないんだって言いながら、困っている者が居れば手を差し伸べる」
そうして家出をして冒険者になってリシュラ王国へと流れ着き、無茶をして森へ入り、オーガに追われ町のあるほうへと逃げたことをウィルは話す。ヒラギスでの戦果や帝国での騒動のことを話してはいたが、そうしたウィル個人のことは国王やフランチェスカの父親には初めて話す。
「追われてオーガの集団を町へと引っ張っていったんです。シオリイの町は防壁もしっかりとしていましたしそこそこ冒険者も居ましたが、そのままオーガを連れて行ってしまえば、どれほどの被害がでたことか。そこを助けてもらって、もちろんその後酷く怒られましたが、マサル殿は無一文になった私に当座の生活費と家の世話をしてくれ、冒険者ギルドでの訓練も用意してくれたんです」
兄貴は俺のことをただの駆け出しの冒険者としか思っていなかったし、俺も兄貴のことを使徒などとは思いもよらなかった。そう懐かしくウィルは当時のことを思い出す。
「女好きなのか? 確かに周囲はきれいどころで固めておったな」
そう内務大臣のルクナーゼ子爵が問い返した。単純な女好きでもないかなとウィルが返事を考えていると、フランチェスカが答えた。
「それはマサルの唯一とも言える欠点ですが、美点でもあるのです」
「それは美点、なのか?」
「欲がないのです、マサルには。ミズホを王家の直轄地か私にやろうとマサルは言っていたと思います。あれは本気でそう言っていたのです。自らの手で魔物を殲滅し、砦を築き、農地を作って、そうして手に入った豊かな地を民が食えればそれでいいと、もし私が望めばあっさりと譲ってくれたでしょう」
だがそれだけに簡単に受ける訳にもいかないとウィルは考える。これ以上恩を受けて、どうやってそれを返せばいいのやら。だから国王陛下たちが妙なことを考えないうちにと、ウィルがまた話し始めた。
「ヒラギス避難民の居留地で飢えた避難民を見て、マサル殿は私財をすべて投げ打って食料を調達しました。その後のヒラギス奪還でも誰からも報酬は貰ってませんし、そのすぐ後、俺を送って帝都へ行った時、手持ちのお金がないと言うので私がお金を、金貨の入った箱を用立てたのです」
せめて少しでも恩返しをとウィルは考えたのだ。金貨にして五〇〇枚。
「そうしたらその日のうちに帝都の貧民窟に養育院を作るのに全部使ってしまった、すまないってマサル殿は言うのです」
あれにはさすがに呆れたものだが、実に兄貴らしい立派で高潔な行動だ、そうウィルは思った。
「その望遠レンズもエルフ式城壁もマサルの発案で、どちらからも銅貨一枚得ていないのです」
「しかし女好きなのであろう? ならば……」
「それは辞めておいたほうがいいですね、内務大臣殿。行きずりで遊んでいるところなんて見たことはありませんし、普段も奥方とエルフ以外には近寄りもしません。リリアーネ殿もすでに四人も奥方が居るからと最初は拒否されていたくらいです。うちも私の姉妹をと引き合わせてみたんですが、あまり興味を示して貰えなくて、お祖父様もずいぶんと困った様子でした」
「その線はダメか。いやしかしヒラギスでは領地を貰ったのではないのかね?」
「ああ、それは説明をしていませんでしたね。あれも獣人を助けるためなのです。獣人は村々で分かれて暮らし、国どころか領地も持ちません。ドワーフのような共同体もないから、戦になると使い潰される。実際ヒラギスではそうなりかけていたんです」
帝国軍先遣隊の敗北と、その後の居留地の獣人たちを囮に仕立てた強行突破作戦。
「獣人の国がないから、領地がないから真っ先に犠牲になるのだと、ならば獣人の領地を作るのだとマサル殿はおっしゃって、あれも完成すればいずれは獣人が領主となる予定となっています」
「神国皇帝の妹君はどうなのだ? 近々嫁入りすると聞いたが」
「それに関しては皇帝陛下の個人的事情も絡むので詳しくは話せませんが、イオニティース様もまたマサル殿によって救われたのです。イオニティース様はその恩を返すため、神国を、皇帝陛下をマサル殿の味方に引き入れたのですよ」
「困った者を見れば見捨てられない。マサルはまさしく聖人。神の使徒に相応しい信じるに足る人物ですよ、叔父上」
高潔から聖人に格上げ。フランチェスカも兄貴の素晴らしさがわかってきたようだと、ウィルは嬉しく思いながらも続けて言った。
「エルフもマサル殿には恩義を感じてますし、全幅の信頼を置いています。しかしその分、特にリリアーネ殿などはマサル殿の敵には容赦しませんから、言葉にはご注意を」
そう内務大臣のほうへ向けてウィルは言う。本人があまり気にしていなくても、周りがピリピリして怖いのだ。
「エルフの独立の話も、結局はマサル殿を助けるため、恩を返すためなんです。勇者の後ろ盾がリシュラ王国の属国では力不足だと、実際に今は帝国や神国との関係強化に動いています」
「エルフの独立、どうにか止められぬか?」
内務大臣殿はそんなことを言うのを、無理だろうなとウィルは考える。フランチェスカが言った。
「むしろもっと力を付けてもらったほうが、同盟国としては助かるのではないですか?」
「ふむ。どうせ止められぬなら、エルフの独立を後押しして恩に着せるのも有りか」
「エルフは受けた恩を長く忘れません、叔父上」
「エルフが独立したいと言ってきたら認めよう。そうしてなるべく我が方に有利な同盟関係を構築するのだ」
「エルゼス公爵はどう動きましょうか?」
そう内務大臣殿が言う。政敵である先王の弟、エルゼス公爵は外務大臣である。エルフが動けば必ず横槍を入れてくるだろうが、素直に賛成するか反対に回るか。
「それはリリアーネ殿に相談しましょう。私とフランチェスカが王家に付いている以上、エルフはこちらの味方です」
そうウィルが言い、フランチェスカが言葉を続けた。
「それにエルゼス公爵はマサルが嫌いそうな人物です。尊大で、平民を人とも思わない。エルフの独立もミズホの開拓も、エルゼス公爵には気が付かれず進めたほうがいいでしょうね」
「ではそろそろそのミズホへの開拓計画を考えることにしませんか?」
帝都ではずいぶんと迷惑をかけてしまったし、剣闘士大会でも自分たちが不甲斐ないばかりに兄貴に余計な手間をかけさせた。今回こそは手際よくやり遂げて、少しでも兄貴の役に立つのだ、そんなことを思いながらウィルは話を進めていった。