軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

303話 剣術修行、千年計画の進行状況

「もし周囲に強い相手が居なくなったら、どうやれば強くなれますかね?」

全員の相手を二戦ずつしたところで修行を打ち切り、師匠にそう問いかける。そろそろエルフの里へ移動する時間だ。

今は師匠が居るし、他にも何人か俺より強そうな人が居るが、それを上回ってしまった時どうやればより強くなれるのか? 光魔法に加えてゾーンを覚えたことで強くなりすぎて、まともな戦いになる相手が一気に減ってしまっているのだ。

「そうさな。ワシの場合はまずは旅に出て相手を探し求め、魔境へも何度も出向いた」

しかしかけた時間の割にあまり成果はなかったようだ。完全な無駄とも言えないが、一〇回旅に出て、せいぜい一回当たりを引けるかどうかという感じだったらしい。

「むしろ面倒事が多かったな。マサルなら良くわかるであろう?」

なんとなく想像はつく。光輪流との争いにも勝利した師匠は、すでに世界最強の剣士としての名声を獲得しつつあった時期らしく、俺のように移動する度に何らかの厄介事向こうからやってきたようだ。

それで色々と面倒になって帝国でも辺境のビエルスにやってきたのだという。

「ビエルスは元々が何代も前の昔の領主が、冒険者の引退後の場所を用意するということで発展した場所でな」

当初は自分のところの領民の冒険者のために小規模にやっていたらしい。魔境沿いの辺境の領地だったから人材というのはとても貴重だったのだ。

冒険者としてやっていけなくなって故郷へ戻った者へ仕事を宛がった。軍の比較的楽な部署だったり、村落の警備兵。あるいは農地を開拓させて与える。希望があれば職人や他の仕事への転職の手助けもした。

冒険者としてやっていくのが厳しくなったといっても魔物と戦って生き残った者たちだ。無能では生き残れない。第二の人生でも成功できた者は多く居たし、大抵はそこそこの生活を送ることができた。それすらできないほど弱っていたとしても領主の援助と、仲間の冒険者たちから手助けも得られた。まわりは皆元冒険者だ。その窮状は理解できた。

引退後の冒険者の仕事の斡旋は成功を収めて規模を大きくしていった。人が増えたので魔境沿いの何もない場所、ビエルスの地が新たに開拓された。長い年月を経てビエルスは引退した冒険者が集まる村となり、やがて町へとなった。

ビエルスの評判を聞いて帝国中の冒険者が引退後の場所に選ぶことも多くなった。冒険者だけの町だ。仲間が多く居心地が良かったのだ。

師匠が来た時には町は今とほぼ同じくらい発展していて、剣術道場もいくつかあったらしく、しばし腰を落ち着けるのにいい場所だと思ったそうだ。面倒になればすぐそこが魔境だ。まともな人間なら追っては来ないし、お手軽な修行場ともなる。

すでに剣聖と呼ばれ始め伝説をいくつも作っていた師匠が道場を開くとたくさんの剣士がその門を叩いた。若く有望な剣士たちに、剣聖に挑戦せんとする強い剣士たち。待っていれば向こうから勝手に人がやってきた。

ビエルスにまで来ない者で気になる者、噂になるほどの者がいれば弟子を派遣して確認させれば良かった。

そうして並み居る道場破りをすべてねじ伏せ、弟子の育成をしていくうちにいつしか、ビエルスは剣の聖地と呼ばれていた。

すでに世界最強の強さを誇っていた師匠だったが、ビエルスで自らの剣術を広めていた時期にも剣の腕を確実に伸ばしていったという。

一人では剣術を発展させるのには限界がある。新たな知らない流派をいくつも知ったし、師匠が驚くような技や術理を考え出す者が時折現れた。

それでしょっちゅう町へこっそり降りて道場を見て回っていたのか。

それにひと所に腰を落ち着けることで、じっくりと剣術と向き合うことができた。理想の剣術とは何か? そのイメージ。新たな技。剣術への理解、他者への理解、自らの体への理解を深めていった。

「やろうと思えばすべてを剣の強さに繋げることができる。この歳にして未だ新しい発見がある。強い者と戦うのは近道ではあるが、別にそれだけでもないということだ」

「じゃあその理想の剣術とは?」

「かつては掴んだと思ったこともあった。だが今はわからぬな」

まあそうか。そんな物があれば、これまでに教えてくれていただろう。

「だが理想の技の一つならば教えてやることはできる。光魔法をくれ」

師匠に 加護(ブレッシング) と 鼓舞(チャージ) をかける。

「やはり光魔法は良いな。さすがは神の加護、勇者の使った魔法だ」

そう体の動きを確かめるようにして言うと、俺と少し距離を取って向かい合った。剣をするりと抜き、上段に構える。それはまるで一点の彫像のような微動だにしない美しい立ち姿だった。

「しかと見よ」

魔力が高まり、そして一閃。

剣筋は見えた。しかし反応できなかった。

「マサルの光魔法に、魔法で留める技も取り入れた新たな烈火剣だ」

十分な間合いがあったからもちろん剣は俺へは届かなかったが、一瞬死んだと思った。もしほんの僅かばかり師匠が間合いを詰めていれば、俺は為す術もなく真っ二つになっていたことだろう。そう考えると冷や汗がぶわっと吹き出した。

「奥義による一撃必殺。これがワシの教えられる理想の技、一つの到達点よ」

今のをもう一度、ちゃんと構えを取って受けたとして、どうにかできただろうか? 魔力があったから発動タイミングは取れるはずだが……

無理だ、そう結論付ける。一〇〇回やれば一〇〇回斬られる。そんな確信があった。

ゾーンを会得して多少なりとも近寄れた。そう思ったのだが、まだこれほど差があるのか。

これは理想とか強い相手が居るとか以前の問題だな。やはり地道に修行をして力を増していくしかない。

「ん? もう一戦やりたいのか、サティ。そろそろエルフの里に行くからこれで最後な」

師匠の技を見て血が騒いだか。俺もそうだったのでリジェネレーションをかけて烈火剣の構えを取る。

構え、腕の振り。それは以前教わった通りだった。俺もできるしできているはずだ。

魔力を集中し、一気に解き放つ。

その一撃はするりとサティに躱される。

そこで動きを止め、顔を見合わせ首を傾げ合う。何が違う? 何かが違う。力は最高に出ていたはずだ。限界を超えたパワーに腕と肩が軋みを上げている。今できうる最高の烈火剣。だが師匠の技とはまるで別物だった。

形だけ真似た薄っぺらい、力任せの技だな。ギュンターさん風に言うと美しくない。魂が籠もってない。

「一万回、剣を振ってから何が悪いか考えるのだな」

考え込む俺に師匠が言う。そうして考えたらもう一万回剣を振るうんだろうな。果てしない。

「すまない。やろうか」

今は考えても仕方がない。師匠の言う通りまずは剣を振ろう。

俺の言葉にサティが頷き動いた。それを受け、反撃していく。俺のように奥義を出す素振りもなく、サティは地道にやるつもりらしい。

じっくりと付き合ってやりたいところだが、実際問題ゾーンの習得なんて一朝一夕でできるもんじゃないしな。今日はさっさと終わらせてもらおう。

とはいえ、サティも俺の動きにも慣れて最初ほど簡単でもない。初戦あっさり勝ったのは不意打ちみたいなもので、もうしっかりと対応してくるから、俺は俺で強くなった部分を活かして着実に追い詰める必要がある。

体の動き、剣の動きにはいくら速くても次の動きに移るには時間がかかる。今は光魔法を俺だけ使っているから速さが圧倒的なアドバンテージとなる。わかっていても回避は不能。読みが深まればそういう手順を組むこともできる。まあそれも手口が読まれるまでだが、初見相手では圧倒的だ。

あるいはそれを覆すのが奥義だが……あ、防がれた。

奥義を使ったのか。瞬間的な出力上昇による防御。しかしそれでは後が続かない。奥義の無茶な使用というのは身体的ダメージが大きい。

しかしサティはグッと踏み止まると反撃に打って出てきた。その反撃の剣を一撃二撃と捌く。

サティの剣が突然重くなった。対応できないほどではないが動きも明らかに速くなっている。奥義を使った瞬発的な動作でもない、持続した動きだ。

今までにない強烈な剣戟に俺のほうも余裕がなくなってしまう。光魔法でブーストしている俺に迫るほどのパワーが出ている。

教えて一時間と立たずに、もうゾーンに入れたのか?

どうやらそうらしい。いつもとは違う動きと力強さ。だが受けきれないほどじゃないな。力が出るあまり、明らかに制御しきれていない。適当な隙に攻撃すればあっさり勝てそうだが、せっかくのゾーン状態だ。存分に動きを試したいだろう。

しかしサティの動きが急速に悪くなる。体が限界か。ゾーンに引きずられて無闇に全力を出しすぎたな。

サティの剣を跳ね上げて、剣を突きつける。

「終わろう」

「ま、まだっ」

「ダメだ。もう体がふらついているぞ?」

俺に言われてようやく自分の体の状態に気がついたようだ。がくりと膝をついて、はっはっはっと荒く息を繰り返す。

俺の時はたった一戦で倒れそうなほど体を酷使することはなかった。サティのゾーンは俺よりかなり出力が出ているのだろうか。せっかく俺のほうが強くなったと思ったら、また追いつかれそうだ。

「相に入った感覚はわかったな。心配するな。一度できれば次はもっと楽にできるようになる」

俺の説得にサティの表情が和らいだ。よろよろと立ち上がると自ら回復魔法をかけた。

「本当にできたんすか? もう?」

「はい。マサル様の言った通りでした」

言ったが。言ったけどさすがにすぐにどうこうなるとは思わなかった。サティは俺の言葉を心から信じたのか。

「お、俺ももう一戦お願いします!」

ウィルがまたお相手を願いでてきたが、ウィルはもう大会前日。休ませたほうがいい。

「今日はここまでしておこう。俺もこの後仕事があるしな」

全員を集めて回復効果のある 加護(ブレッシング) をかけて腰を下ろすように言う。

「疲労回復に関して話をしようか」

折に触れて話したことはあるかもしれないが、きちんと体系立てて話すのは初めてだ。

「そもそも疲労とは何か? まずは筋肉の疲労。これは筋繊維のダメージによって起こる。筋肉っていうのは筋繊維、糸状になった筋肉の線の集まりなんだ。それが伸び縮みすることで筋肉が動く。ダメージでわかりやすのが筋肉痛だが、筋肉痛にならなくともある程度運動すれば筋繊維には傷がつく」

そしてその筋繊維が回復する過程で太く、丈夫になることでごつい筋肉が作り上げられるのだと話す。

「その筋繊維を動かすのにエネルギーが必要で、それが糖やタンパク質だ。こいつは脂肪や筋肉の中に蓄えられていて、使えばもちろん消費されて、その補充は食べ物から内臓を経由して血液に乗って運ばれてくる。筋肉へのダメージは回復魔法で治るとしても、失われたエネルギーの補給には時間がかかるんだ。自然回復だと部位にもよるがだいたい二四時間から四八時間で栄養補給と筋肉のダメージが回復するらしい」

回復魔法でどれくらい時間短縮できるのかは不明だ。俺の昨日の疲労がだいたい一八時間ほど完全休養してもまだ残ってることから考えて、やはり最低でも二四時間。おそらく四八時間での完全回復というのはそう間違ってはいないはずだ。

あとは水分補給も重要だと追加で説明する。水分は常時失われるから適切に補充が必要だし、塩分やミネラルなんかも適切に補給する必要がある。

「栄養が不足した状態でさらに動くと、必要なエネルギーを得るために筋肉すら分解して消費されてしまう。休息と栄養補給は本当に重要なんだぞ。ああ、普通にしてればそこまでは気にする必要はない。山を走る時も食べ物を持っていってただろ? あれくらい過酷でもちゃんと補給しながらで、毎日とかじゃなければ平気なはずだ」

その他にも神経の疲労。これは脳の疲労だろうか。脳も筋肉並にエネルギー消費が激しいから、補給は重要。それと内臓もだな。必要な栄養を得るために全力で稼働すると徐々に疲労していく。

「いいか? 疲労回復に必要な時間は二四時間から四八時間だ。もう休んでおかないと二日後のフランチェスカとの対戦、万全な状態で戦えないぞ?」

回復魔法で筋肉を修復して筋肉が肥大するのか心配したことがあったが、回復魔法を常用しても特に問題なく俺の筋肉はついてきているし、自然回復するより筋肉を酷使できるから効率が悪いということはない気がする。

「それで疲労回復に一番いいのは睡眠だな。それと十分な食事、栄養。軽い運動で血の流れも良くすることも効果がある。あとはお風呂とかマッサージもだな。体と精神を落ち着ける。リラックスする。何かで楽しむこともいいらしい。楽しい時とかあんまり疲れとか気にならないだろ? 疲労を感じるのも結局は脳だから、精神状態も回復に重要な要素らしい」

これもたぶん楽しかったり元気が良かったりすると、体が良く動いて血流が良くなるし、ホルモンや酵素なんかもバンバンでるからとかの科学的な理由もあるはずだ。

「楽しむっすか……」

ウィルは本戦前のプレッシャーでそれどころじゃなさそうだ。

「想像してみろ。勝てばフランチェスカと夫婦だ。俺がやってるみたいな夫婦生活だ」

「おお……」

おっと。後で性行為、自慰行為の禁止もこっそり言っておかないと。ボクサーなんか試合前は禁欲らしいから、スタミナに大きく影響するんだろう。ヤリすぎると腎虚って言って腎臓の機能低下もあるらしいし。

いや……ここにそんな初心な者はおらんな。童貞かもしれないのはウィルくらいのものだ。

「そうそう。自慰行為は止めておけよ? 射精はスタミナを消費するらしいから二日前から禁止な」

そうして微妙な表情のウィルに見送られて転移をした。俺もこんな生々しいことをわざわざ言いたくはないが、教えておく必要があるから仕方ないだろう?

修行の後はエルフの里での千年計画の進行状況の確認である。ここ数日は知識の統合と基礎的な理論の確認を中心にしてもらっていた。まずは科学の基礎を理解してもらわなければ高度な技術への発展は期待できないし、知識をある程度周知して貰わなければ似たような質問が頻出するからだ。

基礎は化学、物理、数学、生物学、天文学とかなり広範囲に渡る。まずはこの世界が何か。身近な水や空気、土や火、そして人間が何で作られているのか。地球と天文学に重力の作用。原子や分子、運動やエネルギーの概念。それを扱うための数学。時間や度量衡の統一の重要性。

飛行機や電気なんかは工学の分野になるから範囲外だ。作るとしても別冊だな。

「基礎をまとめた教本は明日には予備的な原稿にまとめられそうです」

教本作りの責任者に抜擢したエルフがそう報告してくれる。計画の話を最初から聞いておおよそ理解してくれて、あまり質問を差し挟まない有能な人材だ。

「今日は泊まるからできた分を後で持ってきてくれ。チェックしてみよう」

その部屋では一〇人ほどが大量の紙を相手に格闘していた。何か聞きたそうにチラチラとこちらを見ているが、質問は書面でということにしてある。そっちもそろそろ溜まってきたから確認する必要があるな。

教本が完成すればとりあえず基本的な質問は本を読めと言えば終わらせられる。その本もどうやって量産するかが頭の痛いところである。とにかく図が多いので手書きと木版画に頼ってちまちま作っていくしかない。

「一つだけ疑問なのですが魔法はどのような位置づけなのでしょうか?」

責任者のエルフがそう尋ねてくる。基礎の教本には魔法の記述はない。

「わからん。原子以下のレベルだと素粒子と呼ばれる物質になるんだが、俺の元居た世界では研究中でほとんどわかっていなかった。かろうじて存在が確認されたというレベルだな。恐らく魔法はその素粒子レベルの現象なんだろう」

「魔法粒子というものが存在すると?」

「仮説としてそう考えるしかないな」

それで粒子加速器と、それを使った観測方法、粒子の衝突と生成を解説する。

「粒子の観測方法というのはどのように行うのでしょう?」

「粒子の観測には光電子増倍管というものを使うんだ。入った粒子は光電子増倍管によって数を増やして観測がしやすくなる、出てくる数値を計算してどの粒子がどのくらいの頻度で入ってきたか調べるんだが……」

素粒子レベルも同じことをするのか? 光電子増倍管の仕組みとか作り方? そんなものはさすがに知らん。名前とだいたいの役割を知っていただけで褒めてほしいくらいである。

「理論的な説明を最初に考えるんだ。原子や電子、陽子の重さや速度、エネルギー量から、衝突によって事前にどのような素粒子が出るか、仮説を立ててできるだけ計算しておく。そして検出結果と理論が合致すれば、理論が正しいということになる」

魔法を感じることができるのはなんでだろう。それから探知系スキル。転移や空間魔法も科学に調べることができれば面白いかもしれない。

とりあえずこれをと、追加の知識を書き記した紙を渡しておく。内容を何人かでチェックしてちゃんと理解できるかどうかや、疑問点を上げて戻してもらうのだ。

基礎的な科学の次は工学と理論物理学となる。ニュートン力学はわかるが相対性理論は概念くらいしか理解できていないし、量子力学となればお手上げだ。超弦理論とかワームホールとか複数ある宇宙論なんかも知ってはいるが、どれもテレビで見ただけ程度の知識で、俺自身ろくに理解もしてないようなことを人になんとか説明する。

たぶん概念レベルの話でも取っ掛かりがあるほうが、研究は飛躍的に進むはずだ。

工学もひどい。材料や電気、航空力学。機械や建築、原子力や情報工学などなど。ここらへんは過程をすっ飛ばして最終製品を見たことがあるだけの知識が多い。

たとえば0と1の回路からコンピューターってどうやって作るんだ? その0と1の一番基本的な回路とやらはどうやって作る?

電波もどうやら送受信するのに増幅する装置が必要になりそうだし、電池制作も難航している。

二〇年で月へとか無謀な挑戦だったかと後悔している。だが絶対に口には出さない。サティみたいにできると信じさせれば、案外どうにかしてくれるんじゃないだろうか?

理論を調べてまとめているグループと話し終えると、次は実働しているチームの視察をする。飛行機と電気関連、天体観測。そして医療チーム。木をパルプに変えて紙の量産の試行錯誤をしているグループもある。レンズ作成はまだ神国のドワーフ工房のみで、近々帝国とエルフの里での生産を始める予定だ。

他にもやりたいことは多いが、人手不足の解消と基礎理論の周知を徹底してからになる。

航空機部門なんかは順調に成果が上がっている。無動力飛行はすぐに成功して、次は動力飛行を目指す。電気モーターとプロペラを組み合わせての飛行だ。電池はまだないから電気は魔法使いが作る予定だ。離着陸も完全に魔法でやっていて、なんなら機体のコントロールも全部魔法である。着陸しようにも今はゴムがないのだが、垂直離着陸で滑走路が不要なのは便利ではある。

目標はドラゴンも届かない高高度からの魔境の偵察飛行だな。高度は魔法の補助で稼げそうだが航続距離が必要だし、空気の薄い高度では気密にしたコックピットか酸素ボンベが必要となる。

今日はその辺も話しに行こうか。手近な目標があったほうが開発は捗るだろう。航空機の制作班はスペースが必要だったからエルフの里の外部、新しく二重になった新規鉄筋城壁の内側に作ってある。第二研究所だ。

その新しい鉄筋城壁は七、八割くらいの完成状況らしい。完成すれば人手が余るし、エルフ以外の冒険者や軍を入れることができる。

あとエルフの里でやっているのはポーション製作と魔力開発法の習得だな。この二つの事業も重要だし、人手も多くいる。ポーション製作の習得は一年くらいを見込んでいるそうだ。

魔力開発法の普及もまだ始まったばかりで、今は施術ができる者をどうにか増やそうとしているところだ。

繊細で高度な魔力操作が必要なのもさることながら、一二種の魔力型に対応した一二人の施術者をセットで揃える必要があって時間がかかっている。

神殿から送り込まれた神官たちから最初のグループがそろそろできそうなので、祭りの終了時に大々的に発表して帝都の神殿で魔力開発法の施行を開始、そして追加の施術者の募集をかける。

施術者からは新たな施術者を生み出せるので、時間はかかるだろうが、一年もすれば安定して魔法使いを増やせるようになるはずだ。

「おお、ちょうど良いところに来たの。石油が見つかったそうじゃぞ」

第二研究所に行くとリリアが居て声をそうかけてきた。後ろには壺がいくつも乗ったテーブルがある。おお、なら視察は後回しだな。

「蒸留システムは完成しているな? じゃあ石油の精製を試してみよう」

蒸留システムはお酒の蒸留器の流用である。熱して蒸気を取り出し、それを冷やした成分が石油の生成物となる。それで何が出てくるか見てみる。確かガスと軽油と重油。他にも何か出てきたはず。その何かがプラスチックとかの原料のはず。

はず、たぶん、おそらく。こんな知識ばかりで嫌になるが、それでも石油なんかはまだ知識がまともなほうだ。

「採取は水魔法で上手くいったのか?」

いかんいかん。今は石油に集中しよう。

「うむ。問題なかったようじゃの。それにドバドバ吹き出しておって、汚れるのを気にせんかったら桶で直接掬える状況だったらしいぞ」

「場所は? 確保はできたのか?」

「人のおらん王国の辺境じゃったから占領してしまえばなんとでもなるじゃろう」

酷い臭いの汚染物質の噴き出る地域扱いで、利用できると知らなければ誰もほしがらんだろうしな。

「よしよし。石油は鉄並に重要な資源物資だからな。しっかり確保しとけば後で大儲けできるぞ。できれば石油の出る地域は周囲の土地もまとめて領有しておいたほうがいい」

精製施設も現地にあったほうがいいかもな。

「転移地点は?」

「まだじゃ。それほど重要ならば明日、妾が確保してこよう」

「頼む」

エンジンはまだ作れないから用途は限られるが、それでも冬場の暖房や灯り、火炎瓶にして兵器にも使える。各地の砦の防衛に役に立つだろう。

「じゃあ蒸留して何が出てくるか見てみようか」

灯油ができたらとりあえず石油ストーブを試作してもらおうか。エンジンの開発、どうするかなあ。電気モーターと役割は被るんだが、蓄電池が高度化するまではエンジンのほうが効率はいいはずだ。かなり難易度が高い品だが、だからこそ早めに試作を始めてもいいかもしれない。

教本作りが終わったら全体会議みたいなのを一度開催するか。俺一人で考えるのにも限度がある。

「兄貴!」

石油の蒸留の準備をしているところにウィルがやってきた。ギュンターさんにエリーもいる。エリーの転移で連れてきてもらったようだ。

「 加護(ブレッシング) くださいっす!」

「俺には 鼓舞(チャージ) も頼む」

言われるままにウィルとギュンターさんに魔法をかけていく。ゾーンを覚えるために修行の続行を決めたらしい。

思い切ったな。確かに使えれば圧倒的に有利になるし、疲労は短期決戦で勝てば何の問題もない。

「サティも手伝ってきたらどうだ? ここなら護衛もいらないし、すぐそこの空き地で修行できるし」

サティもゾーンを覚えてすぐだ。動きを試したいだろう。少し頷くとウィルたちと第二研究所から出ていった。

「マサル君!」

入れ替わるようにデランダルさんがやってきた。挨拶もそこそこに用件を話しだす。

「手が空いたんでドラムを作ってみたんだ。ちゃんとできているか見てくれないかい? サティは?」

「サティならすぐ外で剣を振ってますよ。それより蓄音機を作ってたんじゃ?」

蓄音機も別に遊びじゃない。音を信号に変換しないと、音声通信する機械が作れない。それでまずは蓄音機だ。蓄音機の発明者は電話機も作っていたからおそらく技術的に近いのだろう。

「材料待ちでね。マサル君が忙しそうならサティだけでも借りても?」

ドラムを叩かせたいのか。

「ウィルも一緒なんですよ。すぐそこで修行をやってるんで手伝ってやってくださいよ。それが終わってからならサティを連れて行ってもいいですよ」

ゾーンを覚えようとしているから、そう簡単には終わらないだろうけど、ちょうどいい。ウィルの剣術指南役なんだ。少しは仕事をするべきだろう。

「ウィルフレッド殿か……それはいいけど、何か臭わないか?」

熱した石油からガスが出てきた。ガスの回収とか考えてなかった。今日は少量だし調査に必要な分だけ取ったらとりあえず散らしておくか。

「火は一度消して、ガスは容器に集めるだけ集めたら残りは外に風を流して散らしてくれ。火のほうには絶対に行かないようにしてくれよ。爆発する」

ウィスキーの蒸留器じゃ火とガスの出る位置が近くてダメだな。臭いの問題もあるし、別の専用の場所を作るか。

ガスは現代なら圧縮して液体にしてボンベに詰めるんだが……圧縮方法もボンベもない。

「とりあえず容器を増やそう。それと金属のパイプを伸ばして火と排出口は離すんだ」

今のところは風魔法で常時散らせば大丈夫だろうか。

「壺一個分だけ最後まで火にかけてどうなるか見てみよう」

ガスを圧縮するためのポンプと、多少の圧力に耐えられる金属の容器を試作することとメモに取る。ポンプはどうせいつか必要だ。できれば電気モーターと組み合わせたいが、とりあえず手動で動くものの試作かな。

誰にやってもらおう……教本を作っているチームが余るな。あそこの人員は優秀だ。きっとさくっと作ってくれるだろう。

「よし。じゃあもう一度火を入れてくれ!」

なかなか前途多難であるが、一歩ずつ進めていくしかない。