作品タイトル不明
295話 ダークエルフの暗躍
会場の裏手に入ったところで帝王陛下が部下に指示を出していく。
「ゴールドハウブズにはエルフの女のことを洗いざらい喋らせろ。使用人も抑えるのだ」
ダークエルフを捕縛するならエルフも同行させたほうが良かったか? だが帝都では余所者で土地勘もない。
今は大事な時期だ。この前やらかしたばかりで、またエルフを派手に動かして問題は起こしたくない。知らせればリリアは式典そっちのけで大騒ぎするだろう。
捕縛に向かったのは帝王直属の騎士なのだ。優秀だと信じよう。
「他に何人ダークエルフが帝都に入り込んでいるか、早急に調べねばなりません」
個室に入ったところでそう切り出す。
「まずはゴールドハウブズのところのエルフを捕まえてからだ。そやつを尋問すればそれもわかろう」
それもそうだ。広い帝都。闇雲に探すより効率的だ。尋問も気になるが、それより帝王陛下との話し合いだ。
「ダークエルフか。本当に居たのだな」
「いるんだろうなとは思っていましたが、まさか伯爵家に巣食っているとまでは……」
「そやつはダークエルフで確定なのか?」
「伯爵家で長年エルフを雇っていたなんて話、たぶん噂でも聞いたことがないんでしょう? いくらエルフが帝国であまりいい扱いをされてこなかったからって、そこまで存在を隠していることが後ろ暗いことのある証拠ですよ。エルフに存在が知られて姿を見られれば、一発でダークエルフってバレますからね」
「エルフで犯罪を犯して逃げていたとかの可能性もあるのではないか?」
「そうですね。そういったまったく本国のエルフと関わらないで生きてきたエルフという可能性もないではないとは思いますが、そもそもエルフの体型は細いんです。胸の大きい、豊満なエルフというのは存在しません」
太ったエルフが居ないのは体質もあるのだろうが、狩猟と最低限の輸入に頼って、食生活が質素だからだろうか。
「かつて一部のエルフが神を裏切って邪神側に付いた時に、肉体強化を願ったそうなんです。それでダークエルフは肌が黒く、豊満な肉体を持つようになったと伝えられています」
確か六〇〇年ほども前の話だったか? さすがに生きているエルフも存在しないほどの昔だ。
「エルフだけじゃありませんよ? 四種族すべてに裏切り者が居たそうです。それで当時の各国の首脳は存在を隠してしまったらしいです」
姿を見たことのない裏切った人間や獣人、ドワーフはどうなったんだろうか? 元から少なかったのか、六〇〇年の歳月で全滅してしまったのか。
「肌の黒い豊満なエルフか。簡単に見つかりそうなものだが」
「変装していなければね?」
薬で肌を白くする。とことんやるなら耳も潰してしまう。そうなればただの豊満な魔法使いと区別がつかないのだと説明する。
「そうですね……エルフ耳じゃなくても、魔法使いの女で胸が大きい。飛び抜けた美形。何年経っても若々しい。これくらい条件が揃えば、捕まえて調べてみればいいかもしれません」
間違って人間が捕まる可能性もあるが。
「帝都の入り口で検問をかけるか?」
「胸の大きな人間とどう区別をつけますか?」
耳の確認くらいはしてもいいかもしれないが、そこまでしたところで城壁を乗り越えての侵入はそう難しくはない。やってみてもいいかもしれない。そんな程度で労力をかけたとこで、そんなにあっさり捕まるダークエルフではあるまい。
「五〇〇年生きるエルフなんです。外で工作をするようなエルフは手練揃いだとリリアも言っていましたよ」
実際俺も殺されかけたあげく逃げられた。俺たちが占領してた陣地のど真ん中でだ。
「なんとも厄介だな」
本当にな。考えれば考えるほど、入り込んだダークエルフを捕まえるどころか、発見すら困難に思える。
「こうなると俺もあまり表に出ないほうがいいかもしれません。今なら顔はそれほど知られてないようですし」
また暗殺なんてされては堪らない。もちろん成功なんてさせる気は毛頭ないが。
「そうだな。それに千年計画も、今以上に情報漏洩には注意すべきであろうな」
何かの研究とか変わった物を作ってるという程度なら平気だろうが、計画の全貌なり一端なりはまだ当分は魔物側には知られたくない。
「上手く捕まえられますかね?」
「相手は伯爵家だ。必要なだけの戦力は差し向けておるはずだ」
帝王陛下が絶対に逃がすなと命じたのだ。手違いが起こらぬよう、万全の態勢で捕縛に向かうことだろう。
「それで鉱毒の話はどんな感じなんですか?」
「辺境の鉱山はまだ調べている最中ではあるが、帝都近郊の鉱山は調べ終わった。結果は五件が無対策での鉱毒の垂れ流し、十二件、管理の甘い鉱山があった」
垂れ流し五件のうち三件がゴールドハウブズの鉱山だったという。そしてどれもドワーフが管理していない鉱山だった。
ドワーフの専門技術者を雇用するには高い金がかかるし、長老会議がバックにいるから賃金を値切ることもできない。しかし鉱山管理は別にドワーフの専売特許というわけじゃない。子飼いの管理者を育てて任せたほうがローコストとなる。
エルフでも自分のところでやってみようかという話もあったくらいだしな。
だがそうして信頼のできるドワーフを排除して年月経った結果、管理技術があやふやになり、鉱毒の処理が甘くなる。もしくはゴールドハウブズのところのようにダークエルフが恣意的にやる隙を与えることになる。
「川魚や川の周辺での狩猟も一年か二年、禁止すべきです。鉱毒を飲んだ魚や動物を食べることは、鉱毒を食べるのと同じことになります」
これはもっと早く言っておくべきだったな。俺の言葉にそうすると帝王陛下が頷く。
「ゴールドハウブズの処分はどうなるのでしょうか、陛下」
話が途切れたタイミングでエリーが声を上げた。
「処刑の上、家門の取り潰しだ」
罪の次第によっては一族郎党の処刑。少なくとも当主の極刑は免れない。ダークエルフと繋がっていることを考慮しないとしてもだと、帝王陛下が言う。
「家じゃなくて家門ですか?」
そう疑問に思って尋ねる。
「そうだ。ゴールドハウブズに連枝する家もすべてだ。クライアンス。お前にも責任を取ってもらうぞ」
大人しく付いてきて話を聞いていたクライアンス王子に、帝王陛下がそう告げる。
「どのような罪で、でしょうか。お祖父様」
さすがにゴールドハウブズに巻き込まれて破滅するのは御免なのだろう。
「確かに私はゴールドハウブズとは交流があり、共に仕事もしておりましたが、それは東方方面を担当した者として当然のこと。親戚関係を結んだり、必要以上の便宜を図った訳でもありません」
あくまでもビジネス上の関係だって主張か。確かにそれなら責任を取らせるのはやりすぎかもしれない。
「ましてやゴールドハウブズの鉱山運営になど、関与のしようもないのです。むろん何の責任もないとまでは言うつもりはありませんが、ゴールドハウブズと同列に扱われるのは心外というものです」
そうクライアンス王子は反論を終えた。
「ブランザ家の没落に関してはどうなんですか、兄上?」
ウィルの言葉に「それは……」と言い淀む。
「ブランザ家が失策をして辺境送りとなり、ゴールドハウブズがその領地を拝領した。そして東方方面の通行税が大幅に下げられ、交易は活発となり、兄上はその功績を常々誇っていたではないですか?」
「魔物に荒らされた砦と領地の復興には金が必要だったのだ。ゴールドハウブズはそれがあったし、ブランザ領と隣合わせで都合が良かったのだ」
「ですがゴールドハウブズを強く後押ししたのは兄上だった」
「それは認めよう。通行税を大きく下げるには、俺の言うことを聞く貴族が必要だったのだ。だがそれで東方国家との交易は数倍に増え、帝国の利益となった。お祖父様、すべては帝国のためにやったことなのです」
「つまりブランザ家の没落に関して、兄上はまったく関与していないと?」
「直接的にはないと言える」
クライアンス王子はしぶしぶといった風にそう答えた。
「それはどういう意味ですか、兄上?」
だがウィルの問いにクライアンス王子は黙して答えない。
「答えよ。それとも尋問が良いか?」
帝王陛下がクライアンス王子に告げてようやくその重い口を開いた。
「そういった話を部下としたことがあるのです。あの家は邪魔だ。潰れてしまえば都合が良いのにと」
諦めたようにそう答えた。しかしそれだけ? 伯爵とすらそのような会話はないと?
「ブランザ領の通行税を下げてほしいとの要望がずいぶん前から周辺から出ていたのです」
「ならそう命じれば良かったのでは?」とウィル。
「一割や二割ではほとんど効果がない。その上、その程度でさえブランザ伯は拒否したのだ」
通行税は領地に取って生命線といっていいものだ。特にブランザ家はそれに多くを頼って領地を富ませていた。その通行税を下げさせるには交換条件が必要だった。帝国としてブランザ家に何かしらの利益を差し出す。だがそうなるとそれはクライアンス王子の手柄とは言えなくなる。
「半分にせよとの要請をしたのだが、それが少々拗れてな。どうしたものかと思っていたところに都合よくやらかしてくれた。あの件はただの事故だった。あのタイミングで魔物の襲撃があるなどと誰がわかる? 砦を短期間開け放っただけならただの不始末で、それを理由に通行税を下げさせれば十分だったのだ」
連絡の行き違いを故意に発生させて、ブランザ伯が守備するはずの砦を半日なり一日なり無防備にする。そしてそのことを咎める。そんなゴールドハウブズの計画だったのだろうと、クライアンス王子は素直に話した。
「あくまでこれはゴールドハウブズが勝手にやったであろうことで、私の関与はない。それだけは言い切れます」
だがそうして取り上げた領地をゴールドハウブズに与えて、通行税を二割にまで下げさせた。
「二割? 二割下げたんじゃなくて、五分の一に?」
「そうだ。それで数年で交易量は倍以上となったのだ」
それでも通行税は元の四割程度までしか戻らなかった。しかし交易量の増加によって人が多く行きかい、お金を落とす。周辺の領地の産物も売れる。商売も大きくなる。人も集まり人口も増える。帝国と周辺地域全体としての税収は通行税の減りを大幅に上回り、今なお増加しているという。
結局のところブランザ家が邪魔だというクライアンス王子の言葉を忖度して、ゴールドハウブズが動いたのだ。命じたわけではない。あくまでも部下としたただの会話、雑談であり、伯爵とすらそのような会話をしたことはない。
恐らく部下が勝手にクライアンス王子の望みを伯爵に伝えたのだろう。それはどこまでも伯爵の勝手な忖度なのだ。真偽官に追求されたところで、それを罪とするのは難しい。
しかしクライアンス王子は部下がそう動き、伯爵が何か策を講じたのであろう確信なり示唆なりがあった。真偽官が介入した時に罪を逃れるため、直接的な関与を避けるための手法。慣例のようなものなのだ。
「だからこそ事が成った後、ゴールドハウブズはクライアンス王子の後ろ盾で新しい領地を得たのですよ。マサル殿」
そうウィルが詳しく説明をしてくれ、クライアンス王子もそれで間違いはないと認めた。今更嘘をついたところで、疑わしいと調べられれば真偽官に偽証は通用しない。素直にすべて話したほうがいくぶんかはマシなのだ。
「私にブランザ家を潰す意図などまったくなかったのだ。それだけは信じてほしい」
もしダークエルフが居なければ、都合の良い魔物の襲撃もなく、ブランザ家は健在で、半分程度にされてしまった通行税に文句の一つでも垂れていただろうか。
「しかしダークエルフの目的はなんなんだろう?」
多少領地が荒れようが、エリーの実家が潰れようが、魔物にとってそれほどの利益はないはずだ。
「ゴールドハウブズは侯爵になるって言っていたわね。その後は?」
「ゴールドハウブズの娘と王家の者との縁談とか?」
俺とエリーの疑問にウィルがそんな推測をする。侯爵家で経済力があり、王子の後ろ盾があるとなれば、それは必然ともいえる流れだ。
「時間をかけて帝国王室にまで食い込む算段だったのか……」
たとえゴールドハウブズの子どもの代で上手く行かなくとも、その次の代か、またその次の代なら? エルフにはたっぷりと使える時間があるし、何代もの世代を超えてゴールドハウブズの家に仕えるのだ。家中での権力は絶大となるだろう。
そうして王家にまで及んだ影響力で何をする? 何ができる? 何もせずとも帝国中枢から密かに情報収集をされるだけでも恐ろしい話だ。
「それなら鉱毒を流したのは失策では?」
俺の言葉に帝王陛下が答える。
「侯爵となって王家と縁続きになればどうとでもなると思ったのだろう」
実際、帝国への利があるなら、多少の違法行為は黙認される。ブランザ家の没落も薄々は何かの工作だったであろうことは周囲もわかっていて、それでも多大な利益を生み出したことでむしろ上手くやったと、称賛さえされていたのだ。
鉱毒ごときは大きな利益のため、民草を多少犠牲にする程度のことだと軽く見たか。それとも侯爵となるのに工作資金が不足していたとか? 鉱毒の処理には余計な資金がたくさん必要となる。それが一切なしでいいなら鉱山の利益は大きくなるだろうし、帝都を汚染もできてダークエルフにとっては一石二鳥だ。
そもそもしばらくは誰にも気付かれない想定だったのかもしれない。それを俺が暴き、直接帝王陛下に訴えた。
もし何かの拍子に露呈しても、それは本来なら一カ所だけのこと。すぐさま隠蔽工作をしてしまえばいい。それが帝王陛下により一斉調査がされて、その全貌が明らかにされた。
「ゴールドハウブズはただの手駒だったのね……」
「あの様子じゃ同情はできないけどな」
もしかするとあのゴールドハウブズの酷い性格も、ダークエルフ仕込みの可能性がある? もしダークエルフがゴールドハウブズが子どもの頃から仕えていたなら、性格を歪ませるなど簡単にできたはずだ。
利益を重視し、他人を顧みない、いかにもな悪人に育て上げる。
「クライアンスの処分だが……マサル殿はどうしたい?」
そう帝王陛下が俺に言う。俺か? 俺が決めるのか。死刑と言えばあっさりと死刑になるだろう。エリーに聞くと、わからない、今は正常な判断はできそうもないと言う。
一旦謹慎でもしてもらって後日考えるか?
「ウィルはどう思う?」
俺じゃやっぱり無理だ。今だろうが後日だろうが判断がつかない。ウィルパパもウィルの言葉で許して上手いこと収まったのだ。
「俺……私は……」
ウィルでも即答できないか。死刑から無罪放免まで。どの判断でも妥当な気もするし、間違っている気もする。
「兄上は帝国のために働いて、そこに私心はなかったんですか?」
「私心はもちろんあったさ。だがそれは帝国のためでもある。お祖父様の、そして父上の後を継ぐべく私は誠心誠意働き、手段を尽くし、努力を重ねてきた。決して権力を欲してのことではないのは断言できる。必要ならば帝国のために自らの血肉を捧げる。その覚悟があるからこそ我ら王族は帝国を支配する資格がある。
必要ならば貴族はもちろん臣民の一人まで、残らず帝国のためには犠牲になるべきだ。王家のものは幼い頃よりそう教えられて育つ。だからこそウィルフレッド。お前は無能な自分に耐えきれず家を飛び出したのではないか?
今回の件も間違ったことをしたとは私は今でも思っていない。すべては帝国の繁栄のためだったのだ」
もしそこに俺という異物が存在しなければ、ブランザ家など単に不運だったのだと切り捨てられたままで終わったことだろう。
「どちらが帝国のために正しいか。お前ならわかるな? ブランザ伯はわかっていなかったのだ。帝国に奉仕すべき貴族が、自分の領地を、領民のみを愛した。それが伯爵の罪なのだよ。王家の者や貴族たちが好き勝手に自らの欲望を優先するようになれば、帝国といえども瞬く間に崩壊しよう。
それをもって罪とする、勇者が私を断罪すると言うなら、それを甘んじて受けよう」
そう言ってクライアンス王子は口を閉ざした。
「もはや問題は帝国だけの問題ではないのですよ、兄上。この世界の、人族すべてのために俺は、マサル殿は動いているのです」
そう言ってウィルは俺へと向き直った。
「マサル殿、俺は兄上が好きだし、埋もれさせるのが惜しいほど優秀です。許せとは言いません。ですから俺たちへの協力をもって償いとしてほしい」
俺はそれに答えずエリーに視線をやる。
「私も正直、クライアンス王子にはそれほど恨みも感じません。真の敵はダークエルフ、そうよね?」
ゴールドハウブズに関しては言うまでもなく処分は確定している。だから残りの仇はゴールドハウブズ家に仕えていたダークエルフとなる。
「そうだ。俺たち人族同士で争っている余裕はない。ウィル、俺はクライアンス王子を許そう」
ほっとした様子でウィルが頷いた。ウィルの兄の処刑などは俺としても嫌すぎるし、中途半端な処罰も、優秀だというこいつを敵にする可能性があるなら、いっそ許して味方にするのが最善だろう。
「では兄上はマサル殿のために働いてもらいます。いいですね?」
「わかった」
「クライアンスはマサル殿の下に付けるゆえ、ランディーズ共々自由に使うがいい」
親子共々かあ。何かそういう縁があるのかね? それともウィルに近かった故の不運か。だが別に無茶な働かせ方をさせる気もないし、協力者が増えた程度に考えておくことにしよう。
「それとブランザ家の元の領地に加えて、ゴールドハウブズの領地も丸ごと空くことになる。すべてブランザ家に返還しても良いが?」
ついでのように帝王陛下が言う。領地か。
「どうする?」
「ちょっと考えさせて。こんなにあっさり何もかも解決するなんて思わないじゃない」
レセプションで食べ道楽をしようと早めに出てきたら、わずか一時間ばかりで親の仇は死罪になり、奪われた領地は倍になって戻ってきそうだ。確かに考える時間が必要だな。
「色々と衝撃的だったし……一番は縁談があれの差し金だったとか、ショックなんてもんじゃないわ……」
エリーが縁談を受ける可能性もあったのだ。そうしたらブランザ家は落ちぶれた上に、丸ごとゴールドハウブズの派閥に取り込まれることになったのだろうか。そしてエリーが居なければ、俺たちが帝国へと向かう理由もない。
「領地に関しては保留でお願いします」
「領地が戻るなら爵位も戻すことになろう。それも考えておくように」
爵位もか。だがゴールドハウブズの尋問の結果を聞いてからでも遅くはないし、お義兄さんにも聞いてみる必要がある。
「しかしお義兄さんにこんなことを話すのか?」
「もちろん一緒に付いてきてくれるわよね?」
そして俺が説明するんですね。わかります。
ゴールドハウブズが破滅して、領地が倍になって戻ってきました。爵位も取り戻せますよ、お義兄さん!
絶対に喜ばないな、うん。いま順調に育っている領地との兼ね合いもあるし、難しい話になりそうだ。
いっそ領地も爵位も辞退してそっとしておくか? ああ、だけどそうなるとエリーの父の汚名がそそがれないままになってしまうのか。ブランザ家が元の領地、爵位を取り戻してこそ、エリーの出奔から始まった物語は完成する。
「エリー。一緒には行くけど、これはエリーがちゃんと自分で説明するんだ」
「そう……そうね。ナーニアも連れて、すべて……全部終わったと。私とナーニアの父の名誉は回復されたんだと……」
父を失い領地を奪われ、出奔して冒険者として四年、俺と会ってから一年の五年間の思いだ。それにかける言葉は俺には出せず、涙を流すエリーの肩を抱きしめた。