軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

293話 帝都、秋祭り前日

二日間、がっつりと狩りとも殲滅作業ともいえる経験値稼ぎをしたわけだが、ヒラギス国境の魔物掃討は終わらなかった。

恐らく七割か八割。もしかすると九割くらいは殲滅できたと思うのだが、なにせ国境地帯とされる領域は人力で探索するには長くて広い。しかもほとんどが山岳地帯となっているから、広範囲に及ぶ探知があってなお、魔物の駆除は手間がかかった。

山岳地帯は生命が豊富だ。気配察知は生命体を探知する。分かるのは数とそのおおよそのサイズだ。小動物は除外できるが、一定以上のサイズの動物だとオークや他の魔物では区別が付かない。動物も遭遇してしまえば危険な種も多いが、ほとんどは山や森に潜み、人里を騒がせることはない。

魔物を殲滅するために膨大な動物をすべて殺すことは時間もかかるし現実的ではないので、どうしても確認作業が必要となる。

それでもいっそ生命体を全部駆逐してしまえばいいのではとやってみたら、どかんどかんとやっていると近場の動物が逃げていく。魔物も逃げるか隠れるかして、追跡する手間が生じて余計に面倒になっただけだった。

「どうする?」

そうして二日目、日が落ちるまで魔物を探し、倒して回った後に、ビーストの町へと戻り、今後の対応の相談をする。

「一定の成果は得られたし、これでヒラギスへの流入はかなり減るはずよ。ただ、ある程度の集団を残しちゃうと繁殖して増えちゃうこともあるのよねえ」

そうエリーが言う。地図もない似たような山ばかりだと、ある程度は勘で移動しながら狩りをするしかない。完全な殲滅を目指すなら、地形を確認しながら探知にかかったのはすべて確認して抜けのないようにするべきなのだろうが、そんなことをすれば二日が一〇日になっても終わりそうにもない。

まあ少なくともイオンやエルフ組の経験値は目論見通り稼げていて、スキルも必要な分はおおむね取得できた。転移の使い手も俺とエリーに加え、リリア、ルチアーナ、シャルレンシアと増えて、移動関連の仕事は相当楽になる。

「いっそ大規模な山狩り隊でも編成するか?」

「やるとしても我らの役目ではなかろう。ヒラギスとて魔境沿いに住む者たちなのじゃ。魔物への対処くらい心得ておる」

「そうだな。じゃあ宰相殿に状況を報告して、あとは任せよう」

リリアの言葉に頷き、そう結論を出す。必要ならまた俺たちに応援を要請してもらえばいい。

「今後の予定だけど話していた通り、明日は自由行動。明後日からは帝都のお祭りだ。俺たちもその期間の一〇日間は休暇に入る」

もちろん俺は千年計画に関しては何かしらの作業なり確認なりがある。他の者もどうしてもやるべき仕事はあるだろうが、明日で片付けられるだけ片付けておくのだ。

「本戦が始まるまで、毎日ウィルの修行に付き合ってやるよ」

「すごく助かるっす」

剣闘士大会は予選が三日。一日休んで二日の本戦がある。ウィルは本戦から参加だからあと五日ほどは練習期間が取れる。最後の追い込みだな。

「パーティのお誘いが何件も来てるわよ」

「エリーが出たいなら出てもいいぞ。俺は出ない」

はいはいと頷いてエリーが続ける。

「どうしても外せないのは帝王陛下主催の祭りの開催を祝うレセプションと、エルド将軍から誘われてる私的なやつね」

レセプションはお祭りの初日の昼間。エルド将軍のは俺の都合に合わせてくれるらしい。まあそれくらいなら仕方あるまい。

「じゃあエルド将軍のは二日目か三日目あたりかな」

エルド将軍には顔を出すって約束してたからな。私的なほとんど身内だけでやる集まりと言っていたし、軍人メインだから服装も適当。むしろ実戦装備推奨である。

「伝えておくわね」

「師匠がマサルに礼を言いたいから一度連れてきてくれと」

次はティリカからオーグレン氏からそんな連絡があったと知らされる。

「王都でか?」

ティリカが頷く。本当に礼を言うだけなら直接言えばいいから、真偽院として正式にやっておきたいか、他の用事でもあるのだろう。

「じゃあ帝都のお祭りが終わってからだな」

そろそろ王国へも一度戻ったほうがいいんだけど、ウィルとフランチェスカの婚約がどうなるか、その結果待ちだ。これは俺じゃなくてフランチェスカの都合だな。フランチェスカが俺の仲間に加わるかどうかって話も宙ぶらりんだし、ウィルとの関係がはっきりしないと国王陛下への説明もできないから、俺もそれに合わせた形だ。

「他に何かあるか?」

「南方の転移ポイントはまもなく終わりますが、東方はどういたしましょうか?」

これはルチアーナだ。南方国家方面のどこで何か起こってもすぐに対応できるよう、転移ポイントを作りに行ってもらっていたのだ。

東方国家方面はリリアがやる予定だったのだが、それどころじゃない忙しさの現状である。

「引き続き頼めるか? ペースは任せる。必要なら俺も手伝うから」

できればずっと掛かり切りだったルチアーナを休ませてやりたいが、転移ポイント作りはかなり重要だ。

「シャルレンシアに手伝わせますので、マサル様のお手を煩わせることはありません」

「わかった。じゃあ終わったらちゃんと休暇を取るんだぞ」

「休暇よりもその、報酬というか、何かご褒美的なモノをいただけたらと……」

「俺にできることなら構わんぞ」

俺の言葉にルチアーナは嬉しそうに頷いた。ルチアーナは俺を困らせるようなことは言わないが、何がほしいのか聞いてみたところ、俺とデート的なことがしてみたいらしい。

「じゃあお祭り中に時間を取ろうか。うん? ああ、シャルもご褒美がほしいのか? じゃあ時間を取っとくよ」

ルチアーナとシャルレンシアは加入が遅かったのもあって、あまり仲良くする時間が取れてない。シャルレンシアとかまだ手も出してないものなあ。ミリアムもルチアーナと同時期だが、俺の護衛をしてる関係で折に触れていちゃつく時間はあった。

あとはイオンだな。今日はさすがに皇帝陛下は不在だが、何かしたら殺すとまで言われてまたイオンに怒られてたし、監視も付いている。護衛も兼ねた女性の騎士だが、完全に皇帝陛下へ忠誠を誓っているらしい。俺が何かすれば、即皇帝陛下の知るところとなるだろう。

ただ俺もイオンも関係を深めることに関しては急いではいないのだ。イオンは仲間として活動するだけで十分楽しいようだし、俺も別にお相手に飢えているとかじゃないし。

もしかして血は繋がってないしお兄ちゃんが好きなんてこともあるのかなってストレートに聞いてみたが、別にそんなこともないらしい。年が結構離れてるのもあって、兄というより保護者のような感じだと言っていた。

そしてそんなことを聞くな、デリカシーがなさすぎると後でエリーに怒られた。

エリーによると、イオンは普通のことをしてみたいのだという。これまでは体が不自由だったし、重要なお役目もあるしで籠の鳥だったのが、今は自由になって冒険者としても活動することになった。だから今まで諦めていたことを色々とやってみたいのだという風な話が、女の子たちの間であったらしい。

中高生の恋愛みたいなことでもしてみたいのだろうか? 登下校で一緒に歩いたり、手を繋いだり? いや、俺もイオンも常時護衛付きだし、一人になれる時間とか皆無だしで結構難易度高いぞ……

そもそもそれほど呑気な行動を取るための時間があるか? 帝都のお祭りと休暇が終わった後はどうなんだっけ?

あれ? 案外余裕があるのでは? もちろん魔物の動き次第になるが、もし魔物が動かなければ、かなり俺は楽になるはずだ。なにせ千年計画ですら人に任せてしまったからな!

そうしたら修行の時間を取るか。それと王国関連の話だな。帰還してヒラギスの報告を一緒に国王陛下にするよう、フランチェスカに言われているし。忘れそうになるが俺は王国民で子爵位をもらう予定なのだ。

「マサルはまだ何かあるの?」

考え込んだ俺にエリーがそう声をかけてきた。

「いや、急に余裕ができたなって思って」

休暇って自分で言っといてなんだが、ガチの休暇になりそうだ。

「そもそもヒラギスが片付いた後にこんなに忙しくなるなんていうのが想定外だったのよ?」

「ヒラギス……王都からか。ずっと忙しかったもんな」

王都ではトラブルがあって剣闘士大会に出て、帝国に入ったあとはヒラギス避難民を助けてビエルスでは修行の毎日。そのあとはヒラギス奪還作戦から、最近の帝都での治療とかもろもろだ。

「それがやっと平常に戻りつつあるってことか?」

「そうなればいいけど、マサルのことだしすぐに何かあるわよ。絶対ね!」

「お祭りの間は大人しくしておく……」

それがいいとエリーも頷く。問題はたいてい俺が起点で起こるのだ。注意していても向こうからやってきてはどうしようもないが、無用な危険は回避できるなら回避すべきだろう。

「ウィル、レセプションは軽く顔を出すだけにするから、歓待は不要って帝王陛下に伝えておいてくれるか?」

「挨拶とかはしないんすか?」

やったほうがいいんだろうが……

「挨拶は昨日派手にしてみせただろ? あれ以上必要っていうなら直接俺に頼みに来いとでも言っといてくれ」

一週間にも及ぶ治療や貧民窟の救済で帝都への便宜もたっぷり図った。これ以上は不要だ。

「マサルは社交界嫌いだとでも言っておけばいいわ。実際そうなんだし」

エリーが言い、リリアも助け舟を出してくれる。

「挨拶なら我らがやれば良かろう。そもそもが王家の森の件のテコ入れであろう?」

「そうですね。そのあたり、父上と相談しておくっす」

「当日はなるべく地味な格好にしておこう。誰か用意しておいてくれるか?」

「恥ずかしくない程度に地味な感じの衣装ね。見繕っておくわ」

そうエリーが請け合ってくれた。地味な格好をして気配を消していれば、レセプションで俺の発見も困難になるはずだ。レセプションはそれでいいだろうし、剣闘士大会なんかも観戦のみだ。エルド将軍も俺に迷惑をかけるような人ではないはずだし、今回はトラブルらしいトラブルが起こる要素はない。休暇はのんびり過ごせそうだ。

翌日の午前中は千年計画である。さすがに一日や二日では大きな進展はない。俺から伝えた知識の整理をしてもらっているのだが、何しろ分野が多岐にわたる。研究を進めるのに人手がもっとほしいと要望された。

頭のいい人材と俺から言って、色んなところから引っ張ってもらってきたのだが、誰もが優秀な人材だ。これ以上引き抜くのも難しい。エルフからかなりの人数が参加しているが、それもこれ以上となるとエルフ側に支障が出そうだ。

「抜本的な増員を考えるなら教育からやる必要があるんだが、そうなると教師役もいるぞ」

そう言って教育制度の話をしてみるが、国民全部に義務教育を施すなど現段階では夢のまた夢だ。

大規模な募集は情報漏洩の問題もあるし、やるならスポンサーたちと相談して説得する必要もある。

この世界の既存の徒弟制度で募集をかけるにもどういう名目でやるか。科学研究をやる人材募集では一般には意味がわからんし、具体的なことだとやっていることは職人レベルのことが多い。

ある程度の素養が必要となるし、誰でもいいとはならないのも難しい点だ。

「とりあえず今の人員でやっていてくれ。増員に関しては考える」

神国は独自に人員を増やしているが医療研究がメインだし、帝国は帝都に研究所を作ってから本格的に募集をかけることになる。帝国人に気軽にエルフの里へ行けとは言えないからだ。研究所は王家の森に作るから、恐らくお祭り以降の話になるだろうか。

帝都の神殿からも人材はエルフの里へとやってきているが、それは魔力開発法のための人員だし、あとは王国だな。リリアやフランチェスカと一緒に国王陛下に事情を話して、協力を要請するが、それもお祭りの後になる。

午後はウィルの修行に付き合って、終わった後はエリーから農地作成を頼まれていたので、ビーストの町、俺のヤマノス村。それからエリーのお兄さんの村を回った。

「農夫にも頭のいいのがいるんじゃないか?」

思いついて同行しているエリーに言ってみる。

「文字も読めるかどうか怪しいわよ?」

「文字が読めるのを条件にする。それで集まった者にテストをしよう」

合格すれば金貨一枚とかで募集をかける。

「それと教科書を作ろうか」

活版印刷を試しているグループがあるから、量産して配布する。定期的にテストをして優秀な者を見つける。農夫になりたいというものはそもそもテストを受けようとはしないだろうし、金貨一枚目当てでも少なくとも教科書を理解できるレベルの者が農夫の中に増えることになる。

教科書は一般教養レベルの話に加えて、ほんの少しだけ科学技術に関する記述も加えておく。

「それはマサルがやるの?」

「たたき台は俺が作るよ」

それくらいは仕方ない。

「とりあえずうちの村とかビーストの町で文字が読めて農業研究をしたい者がいないか探してみてくれないか?」

どうも農業関係は人気がないのだ。メインでやろうって人材が少ない。

「収穫量を増やす研究って名目で、文字の読み書きができるのをうちで雇うって形にしよう」

農業用の研究所を外部……ビーストの町にでも作って試用期間を設けて、使えそうなら正式雇用してエルフの里へと送り込む。

「それもマサルが見るの?」

「エルフの里から誰か連れてきてみてもらう」

それで正式雇用になったら、最初の募集の通り農業研究をするのもよし。他の研究に回るのもよし。そこらへんは希望を聞いて柔軟に対応だな。

「マサルは本当に休む気があるのかしらね?」

「千年計画関連は休暇中もやるって言ってたろ。進められる部分はなるべく進めておきたいんだよ」

軌道に乗れば俺の手を離れるだろうし、俺に何かあっても大丈夫になる。さすがに死んだりなんてことは考えてないが、何かに巻き込まれて何カ月も拘束されるなんてことはあるかもしれない。

「まずは文字が読み書きできる者を探してみるわね。住民である程度の学のある者を把握しておけば何かの役に立つかもしれないし」

「そいつを教師役にして文字を読める者を増やそう。暇な時間にやらせればいいし、読み書きできるようになれば報奨金を出す」

「金貨一枚も出すの?」

「読み書きだけなら銀貨一枚とか二枚くらいにしておこう。難しいほうのテストなら金貨一枚だ」

「教師役には合格した生徒の人数に応じて報奨を出しましょうか」

基本給プラス成果給か。悪くない案だ。

「うちが関わってる村と町で試して、上手くいくようなら広めよう」

とりあえず読み書きができる者を増やすのはエリーがやって、俺はテストや教科書の考案をすることになった。

「マサルといるとほんと仕事が増えるわね」

「本来誰かがやるべきことを見つけてるだけだぞ」

教育は貴族や神官、商人なんかは独自にやっているようだが、農村での教育は放置されているのが現状だ。さすがに村長レベルになると読み書きくらいはできないと話にならないが、農夫の識字率はゼロから数えたほうが早いくらいだ。

教育だけじゃない。医療や福祉、農業研究なんかも俺が手をつけるまでろくにやっていない現状が俺からすればおかしいのだ。

「でも読み書きの本格的な普及の前に、紙の量産体制だな……」

印刷技術ができても、紙が用意できなければ意味がない。

「それはいつになりそうなの?」

「わからん。紙になるパルプを木を砕いて抽出するのに先に動力を作らないといけないんだ」

動力は今ある水車でもいいが、それだとどうしても限界があるし、そもそもがパルプから紙を作る技術の開発もまだである。

「それでそのための人材が足りないと。先は長そうね」

少なくとも紙と印刷に関しては重要だとの認識があって、優先して取り掛かってくれているから近々成果はでるだろうか。

「何もないところからなんだ。じっくりやっていくしかないな」

こんな状況で休んでていいのかって気がするが、焦りも禁物だ。

「読み書きの推進も急ぐことはないし、明日からはちゃんと休暇にしような」

「帝都の大劇場で色々出し物が見れるらしいから見に行きましょうよ。毎日やってて、王族席があるからウィルに言えばいつでもいいらしいわよ」

劇場では歌とか演劇が見れるらしい。漫才とか手品はないのかな? 手品は魔法がある世界じゃ流行らんか。

「落語とか漫才っていう、人を笑わせる小咄をする専門家が俺の元居た国にいてな。たとえばこんな話が――」

思いついた話をしてエリーやサティを笑わせてみた。笑いは異世界でもそこそこ共通しているようで、平和な世の中になったらお笑いを広めてみるのもありか? そんなことをのんびりと考えながらその日の残りの仕事を進めていった。