軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

291話 源流

帝都の冒険者ギルドは大賑わいだった。お祭り前で冒険者も集まってきているのだろう。受付前も人でごった返していたが、エリーが用件を告げるとVIP待遇ですぐに奥の部屋へと通された。

「Aランク冒険者、エリザベス・ヤマノス殿。Sランクへの昇格申請ということですが……」

Aランクなのはギルドカードで確認できても、エリーは帝国ではほぼ無名だ。やってきた偉そうな担当者も果たして昇格に値する人物なのかどうか、疑わしいとでも思ってるような態度だった。

それもそのはず、Sランクは英雄と呼ばれる者たちのランクだ。それが無名であるとか、そもそも面談する前の書類選考で落とされても文句は言えないのだ。

「ええ。これがヒラギス宰相殿とエルド将軍からの推薦状よ」

だが推薦状の存在で担当者は態度を改め、居住まいを正した。

「拝見させていただきます」

そう言って恭しく書状を手に取り、中を改める。読むにつれて驚いた顔になり、書状から顔を上げて俺を見て、サティや師匠たちを一回り見回した。

「マサル殿というのは……」

いまの視線は俺を探してたのか。それで俺を見て、こいつは違うと思ったんだな。わかるよ。

「こっちがパーティリーダーのマサル・ヤマノス。サティ、ミリアム、あとパーティメンバーじゃないけど、色々手伝ってもらっている剣聖、バルナバーシュ・ヘイダ殿よ」

俺を見て今度は微妙そうな顔をする。わかるよ。ほんとにこいつがって思ったんだよな?

「光魔法の使い手で、剣聖の弟子。そして最強の魔法使い?」

「まあその通りですね」

さすがは帝都の冒険者ギルド。当然のように真偽官が立ち会っているから、適当なことも言えない。

「ヒラギスでの活躍に関しては我々も伝え聞いております。マサル殿の剣術の腕はどの程度なのでしょう、剣聖様」

そう師匠のほうへと質問を飛ばした。

「どこへ出しても恥ずかしくない程度には鍛えておる。例年通りの剣闘士大会なら間違いなく優勝できる」

「剣聖の弟子の中だと五、六番手……いやもう少し下かも」

そう付け加えておく。

「だが魔法も使えばもはや勝てる者はおるまい。こいつが最強の魔法使いというのは誇張ではないぞ」

「ふむふむ。興味深い。マサル殿のこれまでの経歴とヒラギスでの詳しい話をお聞きしても……」

「いや待った。昇格申請は俺じゃない。エリザベスだけですよ?」

経歴を一からとかヒラギスの詳細とかどんだけ話させる気だ。やっぱ昇格を断っておいて良かったな。

「マサル殿なら問題なく昇格は可能ですし、冒険者ギルドとしても強く高名な冒険者が増えるのは喜ばしいことなのですが」

冒険者ギルドとしても俺の名を宣伝として活用できると。まあ別にそれでもいいが、興味はないし、価値も見出だせない。エリーは冒険者ランクを上げるのは夢だったしな。

「パーティで誰かがSランクなら、それでパーティ自体がSランク評価なんでしょう? ならそれで十分です」

そう言って立ち上がる。

「エリー、外で暇を潰してるぞ」

変に説得されるのもめんどくさい。ここは逃げの一手だな。

「ええ。長くなりそうだったら先に戻ってていいわよ」

エリーのお許しを得て、ミリアムを残して退出し、サティの提案でギルドの修練場を見に行くことにした。

修練場も混み合っていて、見学者も多かったが、がっつり訓練をしている者が結構な人数居た。どうやらほとんどが剣闘士大会の最後の追い込みをしているらしい。

「相手になりそうなのは居ないみたいだな」

しばし見学してそう結論付ける。全体的なレベルは高いが、ウィルに匹敵しそうなのはいない。もちろん本当に強いのはこんなところで最後の追い込みなんてしないのだが。

「そうですね。このくらいでしたら問題なく勝てますね」

サティも俺の言葉に小さく頷く。

「ずいぶんと大口を叩くじゃねーか」

不意にそう声をかけられた。さすがに問題発言になりそうだから、俺もサティも誰にも聞かれないようなささやき声だったんだが……

振り返って見た相手は獣人か。獣人は基本的に耳がいい。そして時折、自然の聴覚スキル持ちとしか思えない者もいるようだ。

「でも今ここで剣を振るっているのは、いいとこ本戦にいけるかどうかってところでしょう?」

聞かれてたなら取り繕っても仕方がないとそう答えておく。ただ、声をかけて来た獣人はかなりやりそうな雰囲気がある。まあそれでもせいぜいオーガ上位ってところだろうけど。

「お前も大会に出るのか?」

「俺たちは出ませんよ」

「出場したことは?」

「ありませんね」

「なのに相手にもならないか? 確かにいまやっているのは本戦出場が目標って連中ばかりだが、それでもお前のようなガキが馬鹿にできるような剣士じゃねーんだ」

馬鹿にしたわけじゃないんだがな。純粋な実力の評価だ。

適当に謝るなり逃げるなりしてもいいのだが、こんなことでエリーを置いていけないし、俺の周囲には今日もエルフの護衛が距離を取って警戒しているのだ。

「じゃあ試しにわたしが相手をしてあげましょうか?」

そう言って前に出るサティを見て、それで何かを感じたのか。

「多少はやりそうだな。田舎から出てきたのか? どこの流派だ?」

「王国から、流派は 源流(げんりゅう) です」

サティが素直にそう答える。ほう。師匠の流派はそんな名前なのか。初めて知った。だがその獣人は大笑いをしだした。

「言うに事欠いて源流かよ! そいつは面白い冗談だ」

「何か面白いことでも?」

なぜ笑われているのかまったく理解できずにそう尋ねる。

「いいか? 源流ってのは剣聖とその弟子のみが名乗れる特別な流派なんだよ。すべての剣術の源。だから源流と呼ばれるんだ。軽々に名乗っていいもんじゃねーんだよ。わかったか?」

なるほど。直弟子だけが名乗れるのだとすると、俺たち以外では一〇名にも満たない。過去に居た直弟子を加えても相当レアなんだろう。しかも王国からって言ったもんな。まあビエルスからってのも違う気がするし。

「俺たちの流派は源流だ。それで間違いないぞ」

獣人も喧嘩腰というわけでもなく、大口を叩く若者をたしなめてやろうという雰囲気なので、俺も淡々とそう答える。

「俺の話を聞いていたか? その流派は冗談で名乗っていい名前じゃないと言っているんだ」

獣人がそう言って怒りの表情を浮かべる。俺の説得力のなさよ……

気配を消して見ている師匠が笑いを堪えている様子もちらりと見えた。師匠が出てくればそれで解決だろうに、まるで他人事みたいにさあ。まあ出てきたら出てきたで無用な騒ぎになりそうであるが。

「俺も嘘は付きたくないんでね。腕なら見せてやってもいいぞ?」

ここで剣聖に本当に師事していたのだとかサティがソードマスターなのだとか言い募ったところで、結局は腕の証明は剣でするしかない。

「いえ、ここはわたしが。同族のよしみで指導をしてあげます」

サティは少しお怒りのご様子だ。

「いいだろう。だがお嬢ちゃんの次はお前だ」

俺たちをわからせてやる、か? うーん、舐められてる。

「俺は回復魔法を使えるから、怪我をしたら治療をしてやるよ。安心して倒されてこい」

俺の挑発で獣人は完全にやる気になったようだ。何事かと注目が集まってきているのは嬉しくないが、まあちょっとした暇つぶしくらいにはなるだろう。

修練場備え付けの剣を借り、立ち会うスペースを開けてもらう。なんだなんだと見物人も集まってくる。

「この嬢ちゃんは源流の剣士で、今から俺に剣術の指導をしてくれるそうだ」

その言葉にどっと笑いが起きる。相手の獣人はご多分に漏れずいい体格をしている。サティとでは大人と子ども。それでサティが指導する側というのは俺が見てもコミカルな光景だ。

「大人気ないぞ、ボルドス!」

「怪我させんなよ!」

「その嬢ちゃん、悪い大人に騙されてるんじゃないか?」

観衆はサティの味方のほうが多い様子だ。そして誰かに騙されてるという言葉に獣人は確かにと頷いた。

「源流というのはお前らに剣を教えた者に言われたか? だとしたらとんでもないヤツだな」

ほんとそれな。今も面白そうに見てるだけだし、あれは悪い大人だわ。

だが獣人の懸念もサティが目の前で剣を振るって見せると消し飛んだようだ。

「こりゃあまさか……?」

「行きますよ」

その言葉に獣人は真剣な顔になって構えを取る。しかし何もできずに剣を肩に、トンと当てられた。

何が起きたのかわからなく、呆然としている。

「もう一度です。これは指導ですから」

剣を戻したサティに、獣人がじりじりと後退し距離を取る。それを見てサティが軽い歩みで距離を詰め、そしてまた何もできずにまたサティに剣を突きつけられた。

相手の呼吸の隙をついて攻撃する技、無拍子。すっかり習得してしまったな。

「どうしました? 攻撃もしないと勝てませんよ?」

愕然とした表情が必死の形相に変わり、サティに打ち掛かるが、サティに軽くあしらわれ、またも剣を体に当てられる。本気になったところで腕もスピードも違いすぎるのだ。

「まじめにやれー」「遊ばれてんじゃねーか!」

だがそんな野次もすぐに静かになった。まるで大人と子ども。反撃を試みたところで、精強なはずの獣人の剣がまったくサティに届かない。その実力差は誰の目にも明らかだった。

「ま、まいった」

ついに何をしても勝ち目はなしと悟った獣人の心が折れた。

「言うことはそれだけですか?」

「確かにお嬢ちゃんには源流を名乗るに足る腕がある。大口を叩いたのは俺のほうだった」

獣人はそう言って素直に頭を下げた。圧倒的な決着にわーっと歓声が上がる。観客はサティの勝利に大盛り上がりだ。

「当然です。わたしは……」

サティの言葉が中断される。ざざっと人の波が割れて帝国騎士が数人、現れたのだ。

「これはなんの騒ぎ……げぇ!? キャッスルブレイカー!」

帝国騎士はサティを見てそう声を上げる。 城破り(キャッスルブレイカー) 。サティにそんな二つ名が付いてるのか。

「帝国騎士がこんなところで何を?」

俺にも気がついた騎士にそう尋ねる。

「はっ! 戦力強化のためのスカウト活動であります!」

俺に声をかけられた騎士が直立不動になってそう答える。サティに城を正面から抜かれたり、俺にボッコボコにされたりしたのが問題になっているのかね?

「俺たちは冒険者ギルドに用事があって、そのついでに修練場に寄ってみたんだけどな」

源流と名乗って笑われた話をする。

「なんと命知らずな……」

いや、この程度で殺したりはしないが?

「貴様ら、サティ殿はソードマスターだぞ? 我らが一〇〇人でかかったとて勝てはせん」

その言葉に冒険者たちがざわめく。改めて驚く者、頷く者。キャッスルブレイカーの件は箝口令が上手くいっているのか、知っている者は居ない様子だった。

「スカウトですか。なら腕を見なければなりませんね。良ければわたしが見てあげましょうか?」

サティの言葉に別にいいぞと頷く。どこの冒険者ギルドに行ってもだいたいこんな感じになるんだ。

「俺も相手をしようかな」

見てても暇だし、今日の修行代わりにもなる。後進の指導も最近は必要だと思っているんだ。

「もしお二人のお眼鏡に叶う者が居たら、すぐにでも騎士に取り立てましょう」

その言葉に冒険者たちが色めき立つ。兵士でも騎士見習いでもない本物の騎士は、最下級ではあるが貴族の扱いとなる。それも世界最大の国家である帝国の騎士、貴族だ。一生食いっぱぐれはないし、平民にとって最大級の名誉、成り上がりだ。

「あんたを倒せれば、騎士に推挙してくれるんだな?」

真っ先に俺の前に出てきた若い剣士が興奮した様子で言う。サティは無理と見て俺に狙いを定めたか。馬鹿めー。

「残念だが俺はあの娘よりほんのちょっとだけ強いんだ。倒すのは無理だと思うぞ?」

俺の言葉に絶望的な表情を浮かべる。

「よし、しゃべってないでやるぞ」

結構な時間が過ぎてエリーがやってきたので選考会はお開きとなった。残念ながら騎士にしても良さそうという者はなし。しかし見込みがありそうな者が三人ほど居たので、兵士か見習いならと推薦しておいた。

剣術の腕は抜きん出ているとは言い難かったが、剣筋が良かった。きちんと修練を積んだ素直さというのは剣に出るもので、剣を交えた後の俺のアドバイスに対しても真摯な対応だったのだ。

それだけの判断で推薦は間違っているかもしれないし、あるいは正解かもしれない。だが選択しないと前には進まないんだ。

「ずいぶんと丁寧に指導していたではないか?」

修練場を後にしながら師匠が言う。俺はきちんと相手の腕を確かめて、そして簡単であるがアドバイスも必ずしてから終わった。こういったイベントではいつもはサティのほうが人気なのだが、今日は終盤俺の方の待ち列が長くなって、終わりと告げるとえらく残念がられた。

「そういう気分だったんで」

俺の始めた計画が、剣士の存在意義を消し去ってしまうかもしれない。そんな未来を考えると少しは優しくしてもいいのかなと思ったのだ。

「しかし源流ですか? 初めて聞きましたよ」

「ワシが名乗ったわけではない。いつの間にかそう呼ばれるようになっておったのだ」

ワシの剣の成り立ちは話したことがあろうと、そう師匠が続ける。天輪流を始め、色々な流派の集大成。しかし言葉を変えれば寄せ集め、悪意を持っていえば剽窃とも取れる。それが師匠の剣術だ。

それ故、自ら流派を名乗ることはしなかった。その感覚はわからないでもない。流派を名乗り、自分の手柄とすることを恥じたのだ。

「源流、いい名前じゃないですか」

その言葉に師匠はふんと、鼻を鳴らした。いまだ認める気にはならないらしく、話題を変えてきた。

「お前は指導者向きかもしれんな」

サティは感覚派だからな。師匠の言葉を聞いてエリーは感心したように言う。

「ほんとマサルはどの分野に進んでも上手くやっていけそうよね」

「そうかな?」

じゃあなんでニートだったんだろうな。それとも異世界の環境で鍛えられ、覚醒でもしたということだろうか?

だが結局どれもこれも加護があってのことだしなあ。加護がなんにもないとしたら……料理くらいか? それとも発明家として……は無理か。それだとどこかの権力者とか長老会議とかに捕獲され、飼い殺しにされて終わりそうだ。

「それでこの後はどうするの?」

「帝都の養育院を見に行って、レンズ作りの様子を見に神国にも寄る」

養育院ではたくさんの子どもがきゃっきゃと遊び回っていた。貧民窟の子どもはほぼ集め終わったそうだ。親元に居た子どももしっかり面倒も食事も見てくれるってんで、昼間は養育院に預けることになったようだ。

資金は帝国からきちんと出て、運営にも不安はない。神殿及び帝国肝いりということで、イチャモンを付けてくる組織もない。

レンズ作りのほうも順調だ。人が増え、敷地が広がっていた。隣近所を丸ごと買い上げてガラス工房にしてしまったらしい。

レンズを量産する部門と、試作品を作る部門を分けてかなり効率よくやっている様子だ。

エルフや帝国の出向者たちもしばらくはここでレンズ作りを学ぶようだ。

「エリーは何か用事があるか?」

二カ所の視察はすぐに終わり、そう尋ねる。

「んー、私は明日に備えて休養にしようかなって」

「じゃあ俺も一緒に休むかな」

冒険者ギルドで体力も少し使ったことだし。

「えー、変なことする気なんでしょう?」

昨日のアンを真似て、でも嬉しそうにエリーが言う。

「しないよ。ガチでしない。しっかり休養する」

「なんでよ! そこはやりなさいよ!」

そこまで言うなら変なことをしてやろうかな!

しかし俺たちが戻った頃にはみんなも休養のために戻ってきていて、特に変なことが発生することもなく、まったりとした午後を過ごすことになったのだった。

明日の戦いに備えて。