軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

271話 貧民窟、神殿建設、そしてお金の話

貧民窟の治療を進め、神殿長からの応援要請で帝都内の治療に赴き、エルフの風精霊で飛んで戻るとエリーはソファーに丸まってすやすやと眠り、イオン様たちは所在無げに待っていた。

「予定では六日間の長丁場ですからね。休める時に休んでおかないとダメなんですよ」

そう小さい声で言ってエリーの横に静かに腰を下ろす。初日から予定外のことが盛りだくさん過ぎて、適度にどころか積極的に休んでいかないとどこかで潰れかねない。

イオン様と何か話そうかと思ったがエリーが横で寝ている。俺も休んでおこうかと、落ち着いたところにまたトラブルである。

「マサル様、少々問題が起こったようです」

何かと思えばチャラ男が仲間を引き連れてやってきたそうだ。俺が獣人の兵士に仕事は警備で一般人には手を出すなと言ってあったので、どうしたものかとのことである。

「ん、なに……」

エリーも目が覚めたようだ。

「大した事ないから休んでていいぞ。ミリアム、そのままエリーに付いててくれ」

どうやらチャラ男は結構な人数を引き連れてきたようだ。数的には兵士たちと、下手をすれば同数くらい居るだろうか。武装もそれなりにしっかりしている。

お陰で水を貰いにやってきた住民が巻き込まれてはたまらんと距離を取って、水場の列が半分くらいのスペースに減ってしまっている。幸い治療の方は待機場所を少しずらして一応安全な距離を取れている。

確かに少々困った事態だ。戦えば勝てるだろうが双方に死人が確実に出る。エルフの魔法もこうも住民が居てはそうそうぶっ放せない。しかし向こうも完全装備の兵士には簡単に手出しできなくて睨み合いになってしまっている。

スタンボルトで制圧してしまうか? しかしさすがに何百人も一気には無理だし、対話で解決できるならそれに越したことはない。

「ここは俺たちの土地だ! 余所者は出てけっ!」

ギャング団の要求はそんな感じだ。それで俺たちが出ていったらどうするんだ。治療も水も途中なのに、案の定、住民たちは余計なことをするなと睨んでいる。

譲歩をすれば話は簡単だ。治療が終わった後、この土地を明け渡す約束をすればいい。

このまま戦っても勝てるし、増援ならいくらでも呼べる。しかし戦って撃退したところで、生かしておけばまたやって来るだろう。まさか皆殺しにするわけにもいかない。そしてずっと兵士を張り付かせておくわけにもいかない。そうチャラ男が言ったのはまったくその通りであるのだ。

しかしこの土地の用途がすでに決まってしまった。帝都に戻った時に神殿長と話して、この場所を神殿にしたいというお願いをされた。貧民窟にも救済が、それもちゃんと継続するものが必要だという意見に俺も、一も二もなく同意したのだ。

「おう、神官さんよう。ここは譲ったほうがいいんじゃないか?」

俺に気がついたチャラ男が、死人が出るぜと脅してくる。俺と師匠とサティで全員ぶちのめせないかな。そうしたらびびって二度とやってこない。そんなこともないだろうなあ。

あとは金か。多少の金で解決できるならそれも悪くないが、そんな金があれば貧民窟の救済に回すべきだろう。

「お前らごときでヒラギスを生き延びた兵士に勝てるとでも?」

そう言いながらやっぱり一度ぶっ飛ばしておくかと考える。よくよく見れば戦闘力のありそうなのは前衛のみ。あとは武器を持ったただのチンピラって感じだな。スタンボルトで半分くらい倒して残ったのは刃引き剣で峰打ちして回る。そうして全員捕まえて帝都の兵士に引き渡そう。犯罪者として奴隷紋を付けられれば、もう二度とやんちゃはできないことだろう。

そうして神殿を建てるなら騎士団を置けばいいし、ギャング団の主力を捕縛した後なら十分維持できる。神殿も役に立つとわかれば住民も味方してくれるはずだ。

「兵士が何人居てもかんけーねー。うちのボスはなあ、あの剣聖の弟子だったお人なんだぜ!」

ふむ。恐らくチャラ男のすぐ後ろにいる、いかつい顔の風格のある感じのやつかな。確かに腕が立ちそうな立ち姿だ。しかし剣聖の弟子とな?

確かに師匠の弟子なら兵士の一〇〇人や二〇〇人相手でも、戦況をひっくり返すだけの実力はある。面白い。

「おいおい、神官様が剣なんか構えてどうしようってんだ?」

チャラ男がそう言って下品に笑う。今からお前のボスをぶちのめすんだよ。

「剣聖の弟子とやらの実力、どの程度か俺が見てやろう」

そう言ってボスを示し、前に出て来るように促す。剣聖の弟子とはいってもその実力はピンキリだ。高弟やソードマスタークラスならさすがに危険だが、それはないだろう。ないよな?

弟子といっても短期間で下に落とされる奴が結構いる。ギャング団のボスになるくらいだ。恐らくそういった脱落組だろう。

「ふむ。その顔、確かに見覚えがあるな」

「げえっ、な、なななななんで剣聖様がここに!?」

師匠がふらりと前に出てきたのを見て、そいつは露骨に狼狽えだした。うん、ビビるよな。

「本当に弟子なんですか?」

「バーナビーのところの弟子だったはずだ。オーガに上がってすぐに居なくなってしまったがの」

弟子って騙りかよ。まあオーガクラスに上がれるくらいなら十分に腕は立つから盛っちゃったんだな。

しかし聞いてみるとバーナビーというのが師匠の弟子の弟子くらいの位置にいるビエルスの道場主なんだそうだ。弟子の弟子の弟子? 完全な嘘とも言いきれないか?

「ジョルジュ、だったか?」

「あ、あっしなんかの名前を覚えて!?」

「うむ。面白い剣を使う将来有望な剣士だと思ったものだが、こんなところで燻っていたとはな」

マジでよく覚えてたな。師匠は暇があればオーガクラスや下町の道場をこっそり見に行ってたらしいが、それにしたって年間何百何千人も剣を学びにやってくるだろうに。それとも本当にこのジョルジュとやらが、師匠の興味を引く逸材だったんだろうか。顔は確かに厳つくて特徴的だが。

「腕には自信があったんですがね。あんな化物揃いの場所じゃあ、とてもじゃないですがやっていけませんや」

上のほうはなあ。本当の天才か、俺みたいなチート持ちか。あるいは死ぬほどの修練を積む覚悟でもなければ、すぐに心が折れても仕方がない。

「剣聖様はどうしてこんなところへ? 帝都へいらしてたってのは風のうわさで聞いておりやしたが」

先日の俺が攫われた騒動のことはそこそこ広まっているのか。

「そやつの護衛よ。どうじゃ、ワシらと一戦交えてみるか?」

「めめめめめっそうもない! ご勘弁くだせえ」

ボスは完全に戦意を喪失したようだ。剣聖の実力を少しでも知っていれば、普通は挑もうなどと思わない。この年にしてなお世界最強の剣士の座に座る、生きる伝説だ。

「師匠、こいつらはお任せしても?」

まあ良かろうと、師匠は少々残念そうな様子で頷く。戦闘が回避されたのでがっかりしているのだろう。俺が一瞬やる気を見せたからな。しかし平和的に解決できるならそれに越したことはない。

「この治療や水の提供が聖女様の肝いりだとは聞いておるな? ワシはヒラギス奪還戦からずっと聖女様に協力して動いておる。貴様もワシの弟子を名乗るなら、聖女様に協力せよ。ここに神殿を作るのだ」

「あっしのような者を弟子と……へい、全力で協力させていただきやす! おい、おめーらも聞いたな? 俺たちは剣聖様、聖女様に協力してここに神殿を作るんだ!」

師匠は弟子の弟子どころか、ビエルス系の剣士を全部弟子と思っている節がある。まああながち間違ってないし、実際こうやって師匠が一声をかければビエルスの剣士は喜んで動く。

「戻りましょうか」

剣をアイテムボックスに戻し、近くに居たイオン様にそう声をかける。どっと疲れた。踵を返そうとしてチャラ男がこっちを見ているのに気が付いた。めっちゃ睨んでる。俺が悪いとでも言いたげだ。きっとあまりにも簡単に状況がひっくり返されて、心情的に何一つ納得がいってないのだろう。

チャラ男をちょいちょいと呼び寄せる。威嚇するように肩をいからせてやってくるチャラ男に静かに語りかける。

「これだけは言っておこう。お前のボスは剣聖の弟子の、その下の門下生。俺は剣聖の直弟子だ。次に俺に舐めた口を聞いたら」

目にも留まらぬ速さで腰の短剣を抜いてチャラ男の首に突きつけた。

「命はないぞ」

チャラ男には何が起こったのかわからなかっただろうが、その首筋に感じる冷たい剣の感触は間違いようがない。

「あなたのボスはオーガクラスが化け物揃いだと言いましたね。一度はそこに足を踏み入れた人です。きっと相当強いんでしょう」

そうサティも言う。

「そ、そうだ。うちのボスはほんとうにつええんだ……」

「でもわたしたちはそんなオーガクラスの化け物を全員倒して剣聖の弟子となったのですよ」

「もし戦いになっていたら師匠が出るまでもない。俺とこいつの二人だけでお前ら全員死んでたぞ」

そう言って剣を引くと、チャラ男がヘナヘナと崩れ落ちた。考えてみれば先ほどの場面で戦闘になったとして、師匠が手伝ってくれた可能性は低そうな気がする。いい修行になると喜んで俺たち二人に任せっきりにしただろう。

「すいません、お待たせしました」

待たせたイオン様にそう言って今度こそ拠点に戻り始めた。これでチャラ男はもうちょっかいをかけようとは思わないだろうが、しかし見た目で舐められるのは問題が多いな。目立たないのはいいんだが。シラーちゃんが前使ってた暗黒騎士風鎧でも使ってみるか? でも体格的に小さいのはどうにもならんからなあ。

「本当にみんな殺してしまうおつもりだったんですか?」

「まさか。ただの脅しですよ」

ほっとした表情のイオン様に、やろうと思えばできましたが。そう付け加えた。

もしやっちゃった場合、もちろん殺しはしないが、一人で一〇〇人以上相手をして、しかも怪我をしたやつの治療も俺の役目ということになったのか。それとも初手のスタンボルトで半分くらい倒せば戦意を喪失しただろうか。後ろのほうは数で脅すためのただの数合わせだったみたいだし。

それともボスと一騎打ちで終わったか? そっちのほうがすっきりして被害も少なそうだが、それも希望的観測だな。負けを認めないボスが部下たちをけしかけ、一気に乱戦になっていたかもしれない。やっぱり平和的解決が一番だな。師匠様々だわ。

もうさすがに何もないと何もないだろうと拠点に戻って一眠りでもするかと思ったのだがそうはいかないようだった。

ギャング団が張り切って働いたそうだ。今までギャング団に慮ってこない奴が結構いたのと、移動もままならないような病人の輸送も手伝い、治療希望者が一斉に来てしまったのだ。

うんまあ一気に来てくれた方が俺は楽だしいいんだけんだけどね。

ちょっと気合を入れて治療を進めていく。エリーもまだ寝かせてるから軽症者も俺の担当だ。

そうして何度か範囲治療をしてくれたイオン様も魔力の限界となった。

「あの、マサル様もそろそろお休みになさったほうがよろしいのはないでしょうか」

ミスリルの神官団も魔力が尽きていた。聖女様は早々に休んでおり、エリーもお休み中。もちろん帝都の神官などとうの昔に治療から手を引き、治療希望者の整理誘導をしてもらっていて、いま治療をしているのは俺一人という有様である。

言われて疲労感と魔力の残りを確認する。疲れはしているが、それでもヒラギス戦の最後のほうに比べるとまだまだ余力はある。

「俺はまだ大丈夫ですよ。それよりミスリルの神官さんたちをそろそろ送り返しましょうか? それともついでに帝都見物でもしていきますか?」

滞在費用くらいは持ちますよと言う俺に、まだ納得いかない感じのイオン様だし、もっと教えておいたほうがいいか。

「この程度なら俺の魔力は尽きません。加護のこともあって回復速度のほうが早いんですよ」

まあさすがに一人でやりだすと減るほうが早くなるが、それより問題となるのは疲労のほうだな。

何か聞きたそうなイオン様だったが、師匠も戻ってきた。

「外街にはジョルジュの組の他に五つくらいのグループがあるそうでな。ジョルジュのところより大きなところが二つある。なんとか交渉して、無理でも命に変えても抑えると言うておるが、支援をもらえると助かるとのことだ」

支援か。金、兵力、権威とか? 具体的に何を寄越せという段階でなくて、俺たちに何ができるかとの問い合わせのようだ。金も出せる。兵力も回せる。権威も帝王陛下や帝国軍への伝手もある。だがどれも面倒だな。もう端からぶっ飛ばして回りたい。それか貧民窟の上空に五、六発フレアでも打ち込んで脅すとか。いやしかし、魔力の無駄か。

疲れて思考が雑になってる。もっとこう、平和的でスマートにいかないものか。あいつらをいい感じに脅すか、利益があるような案。それでチャラ男のことを思い出した。

「そいつらは要は土地がほしいんでしょう?」

あいつは土地土地と必死だった。川辺は広さ自体はそこそこあるが、実際に使える場所が少ない。だから外街は家やバラックでごちゃごちゃと密集してしまっていて、新しい土地に目の色を変えた。各勢力の力関係があって勝手に土地を整地することは難しいし、やはりなんといっても貧民窟は不法占拠なのだ。帝国に睨まれるような派手なことはできない。

「ここはやれませんが、別の場所を俺が整地しましょう。それを分け合えばいい」

後からでいいなら家も作ってやってもいい。神殿も現地のギャング団も平等に土地が手に入るのだ。誰も文句は言うまい。

あとは神殿に対する拒否反応だが、それはもう地道にどうにかしてもらうしかない。今回の事で多少は改善されるだろうし、これ以上俺に手が出せる分野でもないだろう。

「良さそうだな。話してこよう」

次はミスリルの神官団の輸送だ。聞いてみると帰国希望者は数人で、後は帝都見物に釣られて残ってくれるそうだ。治療期間中は居てもらって魔力が回復する都度、働いてもらえばいい。

ついでにイオン様がしっかりと増援を送るようにと帰る神官に指示を出していた。明日の応援は期待できそうだ。

戻ってくると整地の話がもうまとまっていた。場所も決まっているというので、すぐに移動して整地してしまう。貧民窟を挟んで治療場所のちょうど反対側だった。

そうしているうちに次の治療希望者が溜まっていて、範囲回復を何度もかけていく。

「帝都滞在人数が多くなりそうなら神国の人の受け入れ準備もしないと。フローレンス神殿長に相談して、滞在費用も人数分。そういえばイオン様たちは報酬とかはもらえるんですか?」

帝都の神官たちはいい。自分たちの地元のことだ。新しい神殿や貧民窟の住民感情の改善という利益もある。しかし神国の神官にとっては他国でのことなのだ。

「これは聖女様のお手伝いで神殿の業務の一環としてやっておりますから、報酬などいただけません。それと滞在費用などもご心配なさらずとも大丈夫です。これでも皇帝の妹なのです。使えるお金には困っておりません」

「じゃあ手伝ってくれた方には何かお礼ができないか後で考えておきましょう」

何もないというのはよろしくない。会社なら業務の一環としてでも出張手当に残業代、夜間手当と追加報酬が出る案件だ。

「いえあの、目のことがありますので、この程度では恩返しにもほど遠いと申しますか……」

「ああ、それはまあ気にしなくてもいいですよ」

ちょいちょいとスキルを上げただけだし、それとミスリル神官団へのお礼は別物だろう。お金でお礼をするにしても相場がわからんから後で神殿長に相談だな。

「そう言うわけにも……それよりも応援は本当に必要なかったのでしょうか?」

「さすがにこの時間は悪いでしょう」

今すぐ応援を呼びましょうかとも言われていたのだが、イオン様たちが来た時間はまだ起きている人がいる時間だったが、今はもう夜中である。この時間に叩き起こして連れてくるのもな。

「マサル様は今日一日治療をなさっていたのでしょう?」

「いや午後からですよ」

「午前は農地作りをしていたでしょ。マサルもそろそろ休んだほうがいいわよ?」

そうエリーが起き出し、あくびをしながら言ってきた。

「今日は休めそうもないぞ」

貧民窟の治療は今が最盛期だ。俺が休むと治療してくれる人が居なくなる。

「さすがに無茶ではないかと思うのですが」

「一日くらいなら何ともないですよ。さすがに二日も三日もだと無理ですが、明日はゆっくりさせてもらおうと思ってますし」

神国を始め、色々なところから応援が来る予定だから、何もなければ明日はそんなに働かなくてもいいはずだ。

「そういえばエリー、俺のお小遣いとかうちの財政っていまどうなってんだ?」

そろそろ手持ちのお小遣いが心許ない。

「はっきり言って赤字ね。もうしばらくすると鉱山からの収入があると思うんだけど」

その鉱山の初期投資で現金がかなり飛んでいった。戦争での持ち出しもあったし、その期間の報酬はゼロ。冒険者ギルドからの報酬が多少あるはずだが、金額は期待できない。ヒラギスからの報酬は領地という形でもらっている。ヒラギス以前のお金はすべて、ヒラギス居留地につぎ込んだ。そうエリーが指折り数えて説明してくれる。

「ヤマノス村用の資金には手を付けたくないし、マサルのお小遣いは今手持ちにある分だけね」

マジかよ。思ったより厳しかった。ヒラギス関連でエルフから巨額の資金が流れ込んでるから、俺も自分が金持ちなのかとなにか勘違いしてたわ。

「この件のマサル様たちの報酬などは……?」

「ないわ」

「今回の治療は俺が言い出して始めたことなんですよ。むしろ俺が報酬を出す側な気がしますね」

ここしばらくはエルフが無給で何でもやってくれてるからお金が必要なかったんだな。今日動かした獣人の兵士もエルフからビースト領用の資金が出てるから、俺から出す必要はない。俺のお小遣いもリリアにお願いしてみようかな。

考えてて悲しくなってきた。

「それはさすがに……」

イオン様は俺の悲惨な財政状況に言葉もないようだ。恥ずかしい。

「俺は冒険者ですからね。お金なんて稼ごうと思ったら狩りに出たらいくらでも稼げますからね」

「その暇がないんだけどね」

エリーの言葉に頷くしかない。金策しようと思えばいくらでもできるんだが、こんな何の報酬もないボランティア活動に、暇が作れないほど俺は必死になっている。

「それは……マサル様が勇者だからですか?」

なんで無償でこんなことをしているのかって疑問か。

「俺は勇者ではありませんよ」

少なくとも今はまだ。

「では信仰心でしょうか?」

「それも違う気がします。元々が水の問題だったんです」

帝都での汚染水問題を聞き、エルフの精霊を帝城横の王家の森を譲り受けて設置するために、汚染水を飲んで病気になった者を治すのと、聖女の権威を高めてエルフの精霊設置を後押しするための治療活動。エルフは帝都の一等地に領地を得るし、聖女は声望を高める。それが今回の一件だと説明する。

俺の利益? きっと目の前のイオン様がそうなんだろう。

それにこれは俺の将来、未来への投資だ。ここでがんばっておけば二〇年後の生存確率は確実に上がっていくはずだ。

「マサルはね、エッチだし俗っぽいところもあるけど間違いなく高潔な人物よ。救いを求める者がいたら手を差し伸べる。たぶんそれだけのことなのよね」

高潔と言われるのはあんまり好きじゃないが、エリーにも無理を押して協力してもらっている手前、強くは言えない。それに肯定も否定もせず、エリーに言う。

「エリーたちが手伝ってくれるからやっていけてるんだよ。ほんと助かってる」

信頼できるエリーたちにまるっと色んな事業を丸投げしていられるからこそ、こうして思いついたことを好き勝手にできる。

イオン様は俺の説明に納得したのかしてないのか。目を閉じて考え込んでいる様子だ。やはりイオン様には早いうちに仲間になってもらうべきだな。そう何度目かの思いを新たにする。そうすれば色々なことに納得を……

サティが俺の注意を引いてきた。お財布? 俺にお金くれるの? そこには金貨二枚と銀貨一枚が入っていた。

俺も自分の財布を確認する。入っていたのは銀貨が何枚かと銅貨だけ。銀貨一枚でも一万円相当で、感覚としては万札が数枚財布にあるようなものなのだが、サティより手持ちが少ない。いやミリアムも財布を出さなくていいから。さすがにこの二人のお小遣いはもらえない。

「ほら、わたしのお金を半分あげるから持ってなさい」

見かねたエリーがお小遣いを分けてくれた。金貨一枚で一〇万円相当。それが一〇枚も!

「あの、そういうことなんで滞在費用とか報酬はもうちょっと後で……」

そうイオン様に頭を下げる。神国からやってくる人数によるが、金貨一〇枚程度じゃとてもじゃないが足りないだろう。自分から言っておいてほんと申し訳ない。

「いえ、お金はわたくしのほうですべて、いくらでも用意させますので! マサル様はどうか、どうかお気遣いなさらずにお願いします」

それならお任せしてしまおうか。今のところお金を稼いでる余裕なんてどこにもないし。

「あら。もしかしてイオン様はお金持ちなんですか?」

エリーの疑問に俺が答える。

「さっき言わなかったっけ? ミスリル皇帝の妹様だよ」

エリーが目を見開く。

「マサルはまたなんでそんな」

そんなヤバそうな人を引っ掛けてくるのか。それとも重要なことを真っ先に言わないのか、だろうか。

「ごめんて」

どちらにせよ俺はそう言うしかなかったのだった。