作品タイトル不明
249話 帝国エルフ友好関係樹立記念式典
帝王が帰った後、その日の正午くらいに、俺たちはさっそく帝国王城に遊びに行った。名目はヒラギスで共に戦ったエルフとの友好関係樹立の記念パーティだそうだ。
式典は初手、帝王の演説から始まった。
「先日は多少の行き違いはあったものの、こうしてエルフを帝都に迎えられて嬉しく思う。帝国はヒラギスで共に戦ったエルフを歓迎しよう」
帝王自らの歓迎の言葉に、エルフを遠巻きにしていた列席者がどよめいた。
「此度のヒラギスを奪還した戦いではエルフの働きは大きく、常に前線を支え、その勇猛果敢振りは――」
うんぬんかんぬん。帝王自らのベタ褒め演説に、こちらもリリアが帝国軍を抜きにしてヒラギス奪還は不可能であったとかなんとか、美辞麗句を並べ立てて返礼をした。
「このような世の中じゃ。帝国とエルフは共に手を取り合って、魔物の脅威に対抗することが、人族全体の利益となろう」
そう言って最後は帝王としっかりと握手を交わした。肩を並べた同格の立場でである。それほどエルフを重くみているのかと、列席した帝国の重鎮たちは驚いた様子だった。だが一部の、昨日謁見の間に居た者たちだろう。彼らはさもありなんと納得した様子だった。
昨日の今日でエルフが団体で、しかも昨日とまったく同じ戦闘用の装備で、王城に乗り込んで来たときはかなりの緊張感に包まれた帝国側であったが、帝王とエルフの姫の演説。そして式典後のパーティが始まり、エルフの愛想が非常に良いことを知るや、徐々に打ち解けていった。
パーティ用の礼服を用意する案もあったのだが、時間があまりなかったのと、同じ装備で出向くことで、誰が誰と和解するのか、わかりやすく周囲に示す狙いもあったのだ。
特に実際に戦ったエルド将軍や剣術指南の人、黒の親衛騎士の団長らは真っ先にサティに群がった。
「いまだに信じられん。この体でどうしてあれほどの力が出せるのか」
「エルド将軍に打ち負けないパワーに、小柄な体格を活かした速さ。反則だな」
「マサル殿というのか。サティ殿以上という剣の腕、ぜひとも拝見したい」
サティは俺から離れないから必然、俺も取り囲まれることになった。騎士や軍人畑の者たちは俺たちに興味津々である。
「今日は念の為に休養を取ってますが、後日であれば手合わせしてもいいですよ」
そう言うサティに集まった者たちは一層盛り上がった。
「おや、バルバロッサ将軍ではないか。昨日は王城に居なくて良かったのう?」
「手勢がヒラギスですからな。騒ぎは知っておりましたが、部下もおらぬのでは何もできますまい。まあもっとも、部下が居てもエルフに弓を引くのは猛反対されたでしょうな」
近くではリリアがやってきたバルバロッサ将軍に嫌味を言っている。一頻りのやり取りの後、俺の方へもやってきた。
「お初に……ではありませんな。マサル・ヤマノス殿」
まあな。何度も会ったバルバロッサ将軍はひどく穏やかで丁重で気持ち悪くすらあった。おっさんにもてなされても全然嬉しくないのだ。
「戦場での度重なる無礼、どうかお許しください。それで謝罪と戦場で世話になった礼に、ぜひとも我が家へとご招待したいのですが……」
「まだヒラギスが忙しいんだ。町を一から作っているところでね」
森の伐採からやぞ。それを一カ月でまともな領地にする。忙しいなんてもんじゃない。
「獣人の里ですな。しかも北方砦に隣接する場所とは気は抜けますまい。よろしければ我が家からも職人などを派遣しましょうか?」
んー、どうかな。素直に考えれば申し出は有り難いものだが、今の所手始めすぎて人手が足りてる以前の問題だ。とりあえず保留だな。もし増員が必要そうなら頼むかもしれないと答えておく。
「そうそう。食料支援もですな。我が領の食料倉庫を攫って、輸送計画を立てさせているところでして。近日中にも第一陣がヒラギスに向かって出発することでしょう」
リゴベルド、バルバロッサ両将軍の領地はヒラギスに近い場所にある。だからこそ奪還軍の先鋒に選ばれたのだ。俺たちで輸送することも考えたのだが、そういうことであるなら任せても大丈夫そうだ。
「ほんの 一刻(二時間) ……いや半刻ほどでも良いのです。出向くのが面倒というのなら、こちらから出向きましょう。ですからぜひとも……」
バルバロッサ将軍がなおも話そうとしたところで、会場がざわめいた。おや、あれはウィルパパだ。最初の式典には居なかったし、話にも出なかったからもう神国に出発でもしたと思ったのだが……こっちに来た。
「……」
なんか言えよ。睨み合ってるみたいになっちゃってんじゃん。周りもめっちゃ距離取ってるじゃん。
「……済まなかった、勇者殿」
そう言って頭を下げるウィルパパの顔は少し憔悴している様子。俺との会談次第で廃嫡幽閉まであり得たしな。
「いいよ。あんたはウィルの父親だしな」
「そうか。息子には感謝せねばな」
まったくだ。身内の家族じゃなければここまでの温情はかけない。
「そうそう。人は一人では生きられない。あんたの今のやり方じゃ、帝国は立ち行かなくなるぞ」
帝王とウィルとちょっとでも相談すれば良かったんだ。帝王は事の重大さをわかっていた。ウィルは俺が誰かを知っていた。エルド将軍なんかも知れば当然大反対したことだろう。それだけで昨日のような騒動は避けられたはずだ。
「そう思うか?」
「思う思う。俺なんかずっと人に頼りっきりだよ。捕まってても結構余裕だったろ? 絶対に助けに来るって信じてたからだよ」
「信じる、か」
「いくら能力があっても、一人でできることなんて大したことないんだよ」
仲間を集めて育てて、誰もが超の付く一線級の戦力になっても、それでも尚ヒラギスでは足りず、エルフにビエルスの剣士に、そして帝国軍にも頼った。
「そうそう、部下の人は元気か? 手首切り落としちゃったけど」
「ああ、サティ殿に言われた通り、すぐに治療して無事動かせるようになった」
「そいつは良かった。昨日も言ったと思うけど、俺は帝国とは仲良くしたいと思ってるんだ」
サティにやられた兵士や騎士で治せないほどの傷を負ったものは一人もいなかったそうだ。
「そっちも思うところはあるだろうが、ほら。握手握手」
廃嫡しないならこいつが次期帝王。そうでなくても軍の総司令だ。今後世話になることも多くなるだろう。帝王によれば間違いなく優秀らしいし、ウィルも父親推しだ。仲良くしておいて損はない。
あと二〇年は戦うのだ。軍人畑を歩んでいてまだまだ働き盛り。その上、俺にこうやって負い目を作った。利用価値は大きい。
「頭を下げるな、堂々としていろ。次期帝王なんだろ?」
済まなかったと再び頭を下げかけたウィルパパを制止する。俺の言葉でウィルパパは落とし気味だった肩を上げ、しっかりと胸を張った。それでいい。自信喪失したままで次の帝王とか任せられんわ。
「まあがんばれよ。部下とか右腕は無理だけど、たまの転移くらいならやってやるから。なんならミスリル神国も送っていってやろうか?」
転移ポイントはまだないけど、ルチアーナ主導で帝国とその周辺への転移ポイントを増やす計画があるらしい。ミスリル神国を優先するようにいえば二、三日で準備ができるだろう。
俺の言葉にウィルパパは苦笑しつつ、マントを格好良く翻して堂々と退出していった。
「終わりましたか?」
そう言って次にやってきたウィルが連れてきたのは、着飾った美人さん二人。
「紹介します。姉のヴァイオレット、末の妹のオルフィーナです」
パーティ用の衣装なのだろう、姉のほうはキラッキラにゴージャスなドレスに、バッチリと盛られた髪。妹のほうは清楚系で可愛らしい感じにコーディネートされ、これぞまさにお姫様という出で立ちの二人にサティも食い気味に見ている。
「まあ、この可愛らしい方が昨日の、あの?」
「わたしと変わらない背格好ですわ、お姉さま。信じられません!」
姫姉妹の方々はサティに興味津々である。まあそうだよね。リリアや聖女様、それに剣聖にも多少の人が集まっていたが、この場の主役はやはりサティである。
たった一人で帝国の王城に乗り込み、主を救って堂々と歩いて出ていった。剣聖の伝説の再現だ。
で、姉のほうは俺を見てちょっと微妙そうな表情をした。ウィルからいい感じの話を聞いて、もっとイケメンを想像していたのだろう。ごめんよ、地味で。
「このお二人がウィルの言ってた姉妹だね。マサル・ヤマノスです」
そう言って俺の嫁候補として差し出された姉妹と対面をする。わざわざ連れてきたってことはまだ諦めてなかったのか。
二人も優雅にお辞儀をして改めて名乗った。
「ウィルはね。俺のことが好きで義兄弟になりたいらしくってね。婚約だなんだって話、あんまり真に受けないほうがいいよ」
「まあ、そうなのですね?」
「俺は一応子爵位を貰う予定はあるんですが、いまは一介の冒険者です。既婚者でもあるし、帝国の王女様をお迎えするような柄じゃないんです」
「でも勇者様なんでしょう?」
姉のほうがかわいらしく首を傾げてそう聞いてくる。
「うーん、それなんですが……勇者が勇者として名を上げたのは、やっぱり魔王を倒したからだと思うんです。俺はほんとにただの冒険者にすぎません。魔王と戦う予定もない。ただ勇者がかつて使った光魔法を使えるようになっただけで、偉大な勇者の名を継ごうだなんて思っていないんです」
「ずいぶんと謙虚ですのね」
「周りが持ち上げすぎなんですよ。すごいって言うならこのサティのほうが何倍もすごい」
「サティ様のお話、ぜひとも聞かせて頂きたいですわ!」
妹のほうがそう希望を述べて、サティはお姫様に声をかけられてうっきうきで答えた。
「はい! 何から話しましょうか」
「では最初からお願いしますわ」
「そうですね。最初はエルフの方が交渉に赴いたのです。ですがそれが失敗に終わって――」
リリアが実力行使だと吹き上がったところで、これはダメだと思ったのだという。どうにかしないとエルフ、帝国双方に被害が出る。思い出したのが剣聖の伝説。単騎で王城に乗り込み、王に直訴する。
「師匠に一人で行くと言うと、この剣をくださって、そして言われたんです。一つだけ約束しろ。なるべく人は殺すなって」
ウィルの姉妹はきゃっきゃ言いながら楽しそうにサティの話を聞いている。それを横目にウィルに尋ねた。
「お前の婚約のほうはどうなってんだ?」
「認めては貰ったんですけど、やっぱり勝たなきゃダメみたいで……」
まあそうか。今回の騒動はウィルの婚約とは全然無関係だもんな。それで状況が変わるとかはないだろう。ただ少なくとも勝てばフランチェスカに婿入りするのを認めて貰えたのは朗報だろう。
「戻ってから剣の修行は?」
「やっぱりできてないんすよ~」
「素が出てるぞ」
まあ帰宅の報告やら俺の誘拐やらでそんな暇なかっただろうしなあ。
「こっちにはまだ戻ってこないのか?」
「もうしばらく城に居ないとダメそうです」
こそっと教えてくれたところによると、エルフと勇者への対応について、 帝王(祖父) に助言を頼まれているのだという。なにせまったく交流のなかったエルフである。情報がまったくない。どう対応していいものかわからない。
ウィルにしても手綱を握っておかないと、帝国が暴走とまでいかなくても、俺たちに対して妙なことをしかねないと心配なようだ。
確かにウィルが居なければエルド将軍は斬首。ウィルパパは廃嫡になった可能性は高い。詫びももっと強引に押し込もうとしていたかもしれない。
「俺も二日間なんにもできなかったし、後でちょっと付き合ってやろうか」
「いいですね。ほんと兄貴のところは環境がいいですよ。いつでも相手がいる」
誰でもいいってわけじゃないしな。俺たちレベルともなると、練習相手すら普通は事欠く。
「勇者殿の剣術ですか! ぜひとも見てみたいですな」
サティに群がっていた一人が耳ざとく聞いていたのかそう言い出した。周囲も見たがっているようなので、パーティ会場の庭に出てやることになった。ちょっとした余興だな。サティと姫姉妹も話を中断して見に来るようだ。
「軽くな」
俺の言葉にウィルが頷く。ウィルは王子様の衣装で装備もないから、木剣で寸止めルールである。
ただし、本当に軽くやるわけではない。ダメージが軽くの意味である。
特に合図もなく、開始する。ゆるい剣合わせから、一気に動きを加速させる。それになんなく付いてくるウィルに周りは歓声を上げたが、この程度はまだ小手調べ。
ウィルをじわじわと追い詰めながらふと考える。昔はこうやって見世物になるのが大嫌いだった。いまでも好きってわけじゃないが、さすがにビエルス、ヒラギスと人に注目される生活を送っていい加減慣れたんだろうな。慣れざるを得なかったと言おうか。
まあ成長したってことなんだろう。
「よし。まあ二日閉じ込められたくらいじゃさすがに腕は鈍らんな」
そう言うとウィルに突きつけていた木剣を下げた。
「もう一本、もう一本お願いします!」
「あの、我らにもぜひとも剣のご教授を……」
見学の騎士の一人が言い出すと我も我もと言い出した。まあいいか。会場にいる騎士はせいぜい二〇人かそこらだ。
「そこに並べー。全員相手をしてやろう」
うおーと騎士たちが盛り上がる。なんか懐かしいノリだな。いつか冒険者ギルドでサティと同じようなことをやったのを思い出す。
サティによればエルド将軍の他にかなり強いのも居たそうだが、さすがにサティに重傷を負わされてすぐには出てこられないだろうか。
重装備の騎士を相手に木剣じゃ脆いと、得物を鉄剣に替え、一人、二人と片付けていく。ビエルスのオーガ上位ほどじゃないが、さすがに安定した強さはあるな。しかも防御に長けていて、一本取るのにそれなりの手間がかかることもあった。
一〇人くらいを終わって、ふと順番待ちの行列を見たら、どうも人が減った気配がない。そう思ってたら、今度は五人まとめて出てきた。
「素質はあるのだが、剣を始めたのが遅くてな。それでなるべく経験を積ませたいのだ」
師匠がそんなことをエルド将軍と話している。師匠が追加を呼び寄せさせたのか。
「なるほど。そういうことなら協力致しましょう」
わかるけどさ。サティたちとの立ち合いが一番効率がいいにしても、いつも同じ相手では経験という面ではどうしても不足する。
帝国軍の総司令代理が俺の修行に協力する? しかもこいつは兄弟子である。きっとまともじゃない。軍曹殿も修行となれば相当過酷なメニューを毎回用意してくれていた。
俺の育成法を相談する二人は実に楽しげな様子である。師匠業というのはたいした利益がないように見えて、実際その通りなのだが、それでも師匠がたくさんいるのは実は趣味の領域なのだからだろう。弱っちかったやつを鍛えて強くなっていくのをみるのは喜ばしいものなのだ。
だがやられる方はたまったもんじゃないこともしばしばである。しばらくヒラギスに逃げるか……
しかしとりあえずは無尽蔵に出てくる帝国軍の相手である。五人まとめてとなると、さすがに簡単に片付けるとはいかない。連携もしっかりしているし、俺の手の内を把握し、それに対応してくる。参謀は剣聖とエルド将軍である。俺に弱点があるとは思わない。だが、着実に俺が嫌がる手を打ってくる。
「体力を削れ! 休む間を与えるな!」
「粘れ粘れ! 帝国軍の威信にかけて、あっさりとやられるなよ!」
「勇者殿から一本取ったやつは昇進と金一封だぞ!」
五人ずつ出てくるのも最初の二組で終わり、その後は倒される者が出るたびに交代が参戦して、常に五人と戦う状況となった。最初は五人相手でも一人欠け二人欠けすると、すぐに俺を抑え切れなくなってたからな。
賭けも始まったようだ。勇者が何人抜きできるか。対戦相手に兵士も交じってきた。恐らく剣の腕が立つやつが集められてきたのだろう。
と思ったら次の相手が一人になった。立ち居振る舞いが達人のそれ。しかも殺気が迸っている。
「剣術指南の人だ」
サティがぽそっと言った。昨日サティにやられた恨みを俺で晴らそうってか。かなりの腕利きで、サティにすら手傷を負わせ、仕留めるには奥義を使ったと言っていた。
「待っててくれたのか。優しいな」
動く様子のない相手に休憩できて、俺の呼吸は落ち着いてきた。
「すでに五〇人はやっているだろうに。剣聖の弟子は化け物揃いだな」
加護持ちが特別なんだ。高いステータスのお陰か、俺たちには常人離れしたスタミナが備わっている。最初の頃は本気で動くとすぐにへろへろになったものだが、普通の修行で体ができてきてからは飛躍的にスタミナが伸びてきた。
それと慣れだな。何度も一〇〇人抜きみたいなことをやっていると体力の温存法も、適度な力の抜きかたもわかってくるというものである。
「今日は名乗らないのか?」
名乗ってくれないと名前が思い出せない。
「負けておめおめと名乗れるものか」
サティに負けても別に恥じゃないと思うんだけどな。まあいい。やるか。
いきなり鉄剣同士を激しく打ち合わせる。俺は完全に体が温まっているし、剣術指南の人も最初から全開だ。
これは……確かに強い。ウィルあたりだといい勝負か、負けてしまうかもしれん。
鋭い。一言で言えばそんな剣だった。剣の速さもあったが、切り返しが早い。手数が多い。
手数の多さというのは普通、剣の動きを小さくして実現するものだったが、こいつは流れるような切り返しで、一撃一撃の強さを維持したまま達成していた。
剣の動き、腕や足の運び、タイミング。速度を殺さない効果的な剣の軌道。防御に集中し、じっくりと観察する。
剣の切り返しはむろん基本的な動作であるが、こいつはそれを技と呼べるまで昇華していた。なるほど、参考になる。
「こうか」
剣術指南の人の切り返しを真似して剣を打ち込む。切り返し、また打ち込む。攻守が交代した。だがいきなりの完全なコピーは難しい。足りない部分を相手を上回る速度で補う。それで十分効果的だったようで、剣術指南の人は必死の形相で俺の攻撃を防いでいる。
欠点もわかった。速度や手数を重視しすぎると攻撃が単調になってしまう。それで圧倒してしまえば何の問題もないが、相手が同格だったり格上だった場合、決め手に欠けることになる。
大事なのは緩急。そして相手の意表を突くこと。
フェイントを仕掛ける。予測した場所に剣がない。ずらした場所に速度を落とした剣をこつんと当てる。予想外の弱い打撃に相手の剣が泳ぐ。
そこに強い剣を打ち込み完全に相手の剣を弾く。そして鋭い切り返しも利用した劣化雷光剣で仕上げだ。
「気合を入れるのはいいが、少し気負いすぎたな。もうちょっと冷静になっていれば、こうも簡単にいかなかったはずだ」
倒れた剣術指南の人にそう助言をしておく。強いのは間違いなく強かった。だが俺はこのクラスと毎日のように戦っているのだ。しかしこの剣術指南の人は基本格下とやることが多かったのだろう。そこで差が出た。精神的な余裕の差だ。
しかし中々良い技だった。雷光剣との相性がいいから実戦でも使えそうだ。
「次!」
俺やサティを相手にしてしまったのが不幸の元であったが、敗者にかける言葉はこれ以上はない。ここで心が折れるか、さらに修行をして強くなろうとするかは本人次第だ。
しかし心配する必要もなかったようだ。脇に退いた剣術指南の人は、ずっと俺の戦いを観察し続け、いつかリベンジでもと考えている顔つきだった。
まあこっちもそれどころじゃないしな。果たしてあと何人やれば俺は解放されるのだろうか?
逃げようにも周りは盛り上がり、サティたちも応援してくれている。
今日パーティだよね? そもそも俺に詫びを入れるためのものなんだよね? ほんとなんで必死になってこんなにも戦わされてるんだよ。
実際今回も得るものがあったというのが余計に、何にも言えなくて腹立たしく思えた。