軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

233話 神々の遊戯

ダークエルフはあっさり見つかった。公都の西側は元農地ですっかり草原のようになっており、見晴らしはいいが人ひとりが隠れられそうなところはたくさんあったのだが、例のダークエルフは特に身を隠すようなこともなく、冒険者らしき一団と野営地を構えてのんきに談笑していたとエルフからの報告が入った。

「何も知らない冒険者を護衛に雇って、ついでに情報収集でもしてるのかね?」

「魔族の分際で好き勝手しおって!!!」

リリアは激おこである。

「気持ちはわかるが落ち着け」

しかしダークエルフほど人と変わらんと、警戒のしようがないな。かといってエルフにとって魔族側に寝返ったダークエルフは最大の汚点。一般に情報の公開はしたくないだろう。

それに指名手配するにも変装が比較的簡単に出来てしまう。俺が襲われた時だって肌は白くしていて、胸のことさえ無ければエルフとしか見えなかった。真偽官みたいな便利な存在はいるものの、絶対数は少ないし、そもそもやろうと思えば不法侵入不法入国なんてやりたい放題。

一度見つけたらその機会を逃さず、どこまでも追って殺す。それが一番確実らしい。

俺たちはゆったりとしたスピードのフライで向かいつつ、エルフたちが周辺の探索と警戒にあたる。魔物の動きはない。ダークエルフと護衛の冒険者以外の姿もない。森が近いというのが気にかかるが、ダークエルフが逃走しやすいようにだろう。その森にも伏兵を隠している様子もない。

「森に逃げ込まれるとやっかいじゃな」

「単独みたいだし、本当に和平の交渉に来たんじゃないのか?」

「魔族と和平などあり得ぬ。裏があるに決まっとる!」

まあそこはティリカがいるし、裏があっても聞き出すのは可能だろう。

「うーん、まあいいけど、絶対に手出しはするなよ? あと話し合いだけで終わったら、追手とかを出すのも禁止な」

「むう」

不満そうだが、魔族側と話し合えるなどまたとない機会だ。それを和平の使者を殺しにかかったなんてことになったら、そんな機会は二度と訪れないだろう。

「これは厳命だ。ダークエルフに手出しも、追手も許さん」

「わかったのじゃ……」

「何か仕掛けてきたら、俺たちがどうこうする前に、師匠が首を刎ねてくれるよ。俺だって二度も命を狙われたくはないからな」

そんなことを話しているうちに現地に到着したようだ。遠巻きに監視と包囲をしているエルフの一団と合流して、もう一度指示を徹底しておく。

「一応俺たちもぐるっと周囲を回ってみようか」

ふと思いついて言っただけなのだが、森のほうで探知に何かがかかった。

「中型の魔物っすね」

小型が人間サイズくらいまでで、中型といえば車とかゾウサイズとかなりの大きさがある。

「森の中とはいえ、中型の魔物を見つけられんとは……」

「急だったからな。責めてやるなよ」

とりあえず見ておくかと森へ降りて、サティを先頭に慎重に向かう。隠れ場所は何の変哲もない茂みだった。ぱっと見てもゾウくらいあるサイズの魔物が隠れているとは到底思えない。

「地面に埋まってる感じですね。掘ってみましょう」

そう言ってサティが無警戒な感じで近寄って容赦なく暴きにかかった。藪のちょっと奥、腐葉土を被って隠れているようで、目視じゃ発見は難しそうだ。

腐葉土を掘り返しても魔物は動く様子はない。普通なら危険ではあるが、サティなら探知もあるし、不意打ちで攻撃されても対処は容易だ。

「居ました。グリフォンですね」

ひょっこりと顔だけを覗かせた魔物を見てサティが言う。わりとレアな魔物だな。

「動きませんね」

サティが手を伸ばすが、さすがにクワッと口を開けて威嚇されたので手を引っ込めた。

「これで移動してきたのか。よく躾けられてるんだな」

サティに続いて俺たちが近寄っても、低く唸るばかりで身動きひとつしない。

「どうしますか?」

「ほっとこう。そう危険でもなさそうだし」

「かわいい。ほしい」

ティリカが言う。顔だけ出してじっとしている様子は確かにちょっとかわいい。

「このような人里に近い場所に魔物は危険じゃな。ティリカもこう言っておるし討伐するべきではなかろうか?」

なかろうかじゃないし。確かにダークエルフの足を潰しておくのは有効な手段だが、和平の会談相手にすることじゃない。それに乗騎にしようにも魔物だ。人のいる場所でおいそれと出せないから普段使いに向かないってのもある。

「ダメだってば。サティ、かわいそうだし、元に戻しておいてやれ」

「はい、マサル様」

グリフォンをあとに、再び念入りに周囲を探索し、他に何もないと確信してからダークエルフのところへと向かった。

空から数十メートルまで近寄って見える位置にゆっくりと降り立つ。

「じゃあ行くか」

今度はサティと師匠を先頭に、続いてリリアで俺は中衛で隣にはティリカ。相手も単独だし増援はなし。俺たちだけで向かう。

「待ち合わせの相手が来たようだ。お前たちはもういいぞ」

「はい。姐さん、お気をつけて」

冒険者の一団はダークエルフに頭を下げて、わいわいと無防備にしゃべりながら俺たちの横を通りすぎていく。

「エルフか。こんなところで何の用事なんだろうな?」

「馬鹿っ。姐さんに詮索無用と言われたろ」

「金はたんまり貰ってあるしな」

「楽な仕事だったなー」

本当に何も知らない冒険者か。この分だとどこまで入り込まれているかわからんな。たとえば簡単な情報収集ならこの冒険者みたいなのや、商人あたりからいくらでもできそうだ。この世界、情報を得る手段は基本人伝、誰もがやっていることで特に怪しくともなんともない。

警戒しようにもエルフだけではヒラギス公都すらカバーしきれなかったし、そのためにいまの何倍もの人員を投入するのは現実的ではないだろう。

当のダークエルフも肌は白いし、耳を隠してしまえば人間と区別のしようもない。やっかいな。

「ふん、相変わらずぞろぞろと護衛を連れて、臆病なことだな?」

「俺を殺したくて仕方のないやつがすぐ近くにいるものでな」

後ろでリリアが獣のように唸っているのが聞こえた。いきなりの挑発にもう激高しているようだ。今回の会談では発言禁止にしておいて正解だった。

ダークエルフも俺の言葉で顔に怒りをにじませた。こいつ、まじめに話し合う気があるんだろうか?

「それで? そっちから呼び出したんだろう?」

そう切り出すとダークエルフがようやく言った。

「今日は話し合いだけだ。貴様に手を出すつもりはない。座ったらどうだ?」

ティリカの反応はない。嘘ではないようだ。ダークエルフとは焚き火を囲んで座るような形になるが……

椅子をアイテムボックスから取り出し、少し距離をおいて座る。罠の可能性は低いと思っていたのだが、俺の暗殺に失敗して顔に大火傷を負って敗走したのをやはり逆恨みしているようだ。あんまり近寄りたくない。

そして俺を守るように、サティと師匠が前を固める。一歩でも踏み出せば十分に剣が届く距離だ。

「剣聖!?」

唐突に現れた(ように見える)師匠にダークエルフは狼狽えて腰を浮かせた。

「ほう。魔族にまで知られているとは光栄なことだ」

「わ、私に手を出せば、再び戦いが始まるぞ?」

「話し合いだけならこちらも手出しはしない。約束しよう」

「神に誓ってか?」

「神に誓ってだ。そちらこそ妙な真似はしないことだ。何かあれば首を刎ねる。逃げようとしても周囲はエルフで包囲しているし、グリフォンの居場所も押さえてある」

グリフォンのことが出るに及んで、またダークエルフの顔が歪む。

「話し合う気はあるのか?」

追い詰められたと知って覚悟を決めたのか、どっしりと腰を下ろし、静かにそう言った。

「無論だ。だが一度は殺されそうになったんだ。多少の警戒は許せ」

「多少……?」

「神に誓ってそちらの安全は約束しよう。こちらからは手出しは一切しない。退去のときも見送るだけだ」

仕方のない話であるが、こう双方が警戒してはなかなか話が進まんな……

「和平や休戦に関する話し合いに来たのだろう?」

そう言ってもう一度話をするように促すと、ダークエルフは軽く頷いて話しだした。

「単刀直入に言おう。勇者よ、我が王の仰せだ。この世界の半分の支配権と副王の地位を約束しよう。我がほうにつけ」

「は?」

「我が王は貴様のことを大層気に入ったようだ。最高の待遇でお前を迎える用意がある」

「王、魔王か」

そして世界の半分。また大きく出たな。

「魔王とは貴様らが勝手に呼び習わしているだけだ。我が主はこの世界すべての支配者。ただ一人の真なる王」

魔王か。魔族の支配者。やっぱいるのか……

ふと気がついて尋ねる。

「その王は近くにいるのか?」

「我がほうにつくならいつでも会えるぞ」

案外近くにいるのか? 俺が勇者だと周囲から見られ始めたのは北方砦の戦いが始まって光魔法をバンバン使いだしてからだ。威力偵察の時のどこかに居たのかもしれないな。

「副王にというなら直に会って話すべきではないか?」

それともこれこそ罠だとも考えられる。魔王や世界の半分を餌におびき出す。

「単身で来るなら歓迎しよう」

「俺の身の安全は約束してくれるんだろうな?」

「私からは何も約束できない」

危なくなっても転移で逃げられるか? だがリスクが高すぎるし、そもそも俺一人で魔王を倒しにかかって確実に倒せる可能性はどれほどあるか。

会いに行って油断させておいて、転移でみんなを呼び寄せて。それなら上手くいきそうか? だが転移が使えるのもバレていると考えたほうがいいだろうし……

まあいまは魔王からの申し出のほうだ。

「世界の半分に副王、それは本当にお前の王が言ったのか?」

「そうだ」

すぐ後ろにいるティリカからは何の反応もない。本当にそういう申し出があったのか。それで部下のこいつはエルフの只中に、単身決死の覚悟でやってきた。本題は俺の引き抜きで、和平や休戦というのはただの口実だったか。

「和平や休戦の話は?」

「和平は無理だ。休戦なら私の権限で、ある程度の期間なら可能だ」

休戦でも結べれば……いや、それより先に世界の半分だな。

「世界の半分といっても人族の世界は支配外だろう」

「時間の問題だ。それに我らの領土は広大だ。人族の領域など誤差にすぎぬ」

時間の問題と言ったぞ、こいつ!?

「じゃあ人族の領域を含めて俺にくれ」

「構わんぞ。だが人族は滅ぼす。それは変えられん」

わかってはいたが、実際に口にされてみると少々衝撃的だ。部分的な侵略行為や、場当たり的な軍事行動ではなく、組織的な、人族すべてに対する宣戦布告。

「俺の力は見たな? 本気でやりあえば、双方が酷いことになるぞ?」

俺の言葉にダークエルフは小馬鹿にしたように鼻を鳴らす。

「人族と魔族の人口比を知っているか?」

どれくらいだろう。俺たちが一〇〇万動員してる時に、魔物は一〇〇〇万以上の軍勢を用意していた。とすると一〇倍くらいか?

「一対一〇くらいか?」

「一対一〇〇〇だ。貴様らに勝ち目など端からないのだよ」

一〇〇〇倍。そんな数字があり得るのか? 領土が一〇倍としても人口密度が一〇〇倍? こっちの人口密度がかなりすっかすかで開発の余地は相当あるにしても、一〇〇〇倍はさすがにない気がする。

だが盛ってるにせよ、一〇〇〇倍が一〇〇倍、あるいは一〇倍ですら相当にヤバい。

「だから勇者よ、生き延びたければ我らの側に付くのが正解だぞ? もちろん貴様の仲間たちも歓迎しよう」

俺たちだけ生き延びてもな? 俺も最初はそんな風なことを考えてたけど、いまは周りも見捨てる気はないし、そもそも神に信仰を捧げたのだ。たった数日で裏切ることなんてできないし、魔物の仲間になるとか冗談でも断る。

「世界の半分か……」

全然興味はないけど、一応悩む振りをしておく。やっぱこのダークエルフおしゃべりだわ。重要そうな情報をあっさり教えてくれる。

「でも所属を変えたら光魔法とかたぶん使えなくなるぞ?」

「心配ない。貴様ほどともなれば、我らが神は喜んで祝福をくださるだろう」

「ほう。たとえばどんな?」

「魔法の付与は問題ないし、どっちかというと肉体強化が得意ではあるな」

「オーガみたいな?」

「そうだ。各種族、それぞれ特色のある強化が与えられている」

「オークはなんの強化なんだ?」

「あれは生命力だ。どんな環境でも生き延びて生殖して増える。粗食に耐え、成長も早い」

サバイバルとタフネス系か。それでオークばっかりわらわらと居るんだな。

「じゃあゴブリンは?」

オークも強化の特徴がわかりにくかったが、ゴブリンはそもそも強化されててあれなのか? 子供のような体躯に体力や力も見たまんま。それでも凶暴で、武器を振り回されては油断はならないが、はっきりいって雑魚そのものだ。

「あれはなあ……祝福を賜るときにやらかしたのだ」

ほうほう。興味深い。

「各種族の代表が考え考え希望を申し述べる場でぐずぐずと迷った挙げ句、あれもほしいこれもほしいとわがままを言ったらしい」

オークのタフネスと、オーガのパワーと鎧のような体皮と、トロールの巨大さと。

「全部ほしいと愚かにも望みおった。それで機嫌をそこねた神はゴブリンからそれらをすべて取り上げた」

それからは神の赦しを得るべく、地道に各種族の下働きのようなことをしているらしい。幸いにして頭の良さや器用さは望まなかったので、多少の知能と並程度の器用さだけがかろうじて残り、こっちでいうとドワーフのような役回りで色々なものづくりを担当しているという。

やっぱ神様って怖いとこあるわ。

「魔物って……もとは人族なのか? 祝福をもらったら俺もあんな感じになっちゃうのか?」

「違うぞ。我が種族は肌の色が変わった程度だろう?」

あと胸な。しかし違う種族だったか。でもベースは近そうだし、どこかの時点での祖先が一緒の霊長類なのかね? それとも豚から二足歩行に進化した豚霊長類とか? 元の世界で遺伝子の比較とかできれば面白そうなんだが。

結局のところ今の状況は、二つの種族の生存競争ということになるのだろうか? だがどちらかが絶滅するまで殺し合うなど馬鹿げている。

「和平を要求する」

「あり得ない」

即答された。リリアの言う通りか。

「勇者よ、貴様の手で何百万殺した? それが今更和平を乞うのか?」

「俺は反撃しただけだ。それに副王に迎えるのはいいのか?」

「我が王と神に忠誠を誓えばな?」

「ならなおさら王と神を差し置いて、お前が決めていいことではなかろう? 王とやらと和平の交渉くらいはさせろ」

「王とて神の意思には逆らえん」

「神の意思?」

「知らぬのか。知らぬのに貴様は……」

くっくっくっとダークエルフはおかしそうに笑い始めた。

「勇者とは実に都合のいい駒なのだな。何も知らずとも神の意思を忠実に遂行する」

「神の意思とはなんだ?」

「永遠の闘争だよ。我らは争うことを原初の時より定められているのだ」

「そんな教義、あったっけ?」

そう後ろを振り返り、アンに尋ねてみる。

「聞いたことないわね」

まあ片方がやる気十分なら、俺たちに発破をかけずとも戦争はなくなりそうもないか。

「貴様らの神こそ、諸悪の根源。やつは人族と魔族を争わせ、血を流すのを眺めて楽しんでいるのだ。この世界はゲーム盤、神々の遊戯場なのだよ」

足りなかったピース。魔族からみたこの世界。神々の 遊戯(ゲーム) 。俺たちはその駒か。

もしゲームが一方の勝利で終わったらどうなる? それも敗北で。単に ゲーム盤(世界) を放棄するだけだろうか? それともリセットをして、新しいゲームを始めるか……

それこそ紛うことなき世界の滅亡。ゲームの終焉。

「ゲームは我々の勝利で終わる。我らが神はさぞかしお喜びになるだろう!」

俺の側の神は永遠の闘争を望み、魔族側の神は勝利でゲームを終えることを望む。これでは確かに和平は無理がある。

「もしこの世界が本当に神々の遊戯なら。もし永遠の闘争が定めというのなら……それが終われば、世界も終わるぞ?」

「それがどうした? 我らは勇敢に戦い、神の御下に召されるのだ」

これが魔族の行動原理か。現世での祝福も与え、死後の生か輪廻転生かは知らないが、死んだあとのこともきっちり約束する。

こっちの教義にも同じような話はあったが、死後や来世にかけるなんて俺は御免こうむる。

「休戦が可能なら、ヒラギスに散った魔物をどうにかしてくれ」

和平の余地はない。むろん俺が裏切ることもない。ならばせめて休戦だ。

「面倒だから嫌だ」

「おい!?」

「あいつらは好き勝手動いて命令などろくに聞かん。直接命じれば言うことも聞こうが、私にヒラギス中を回って下っ端を集めて回れと?」

確かに面倒そうだ。

「それで集めたオーク共を北方砦を通して戻すのか? あいつらがずっと大人しくしていると思うか? 私は忙しいんだ。そんな面倒ごと、絶対に嫌だ」

休戦もダメじゃねーか……

「暴れているのは好きにするがいい。簡単だろう?」

切り捨てるというより最初から管理するつもりも、管理する方法もないのだろう。

「じゃあ副王の件は少し考えさせてほしい」

なにがじゃあかわからないし、裏切りを考えるつもりはないが、交渉の余地は残しておきたいし、こう言っておけばさすがに暗殺者を寄越すこともないだろう。

「少しとはいつまでだ?」

二〇年くらいって言ったら怒られるか。

「一年」

「半年だ」

「ではその間の魔族の侵攻をすべて止めろ」

「無理だな。範囲はヒラギスのみだ」

あとはやはり下っ端の動きは掣肘できないという。役に立たねーな。

「わかった。半年間、ヒラギスと……エルフの里とその周辺での大規模な戦いは双方控える。そういうことでいいな?」

エルフの里と聞いてダークエルフがまた怒りの表情を見せた。だが本拠地を攻められて交渉もクソもないし、妥当な提案だと思うのだが。

「良かろう。半年後、答えを聞きに行く」

そう言うとダークエルフは立ち上がり、ヒュッと甲高い口笛を吹いた。

しばしのち、バッサバッサと飛んできた立派なグリフォンに乗り込み、去っていくダークエルフを俺たち一行は黙って見送った。みんな今の話を考えているのだろう。

どこでどうやってまた会うのとか一切決めてないが、まあいいか。またダークエルフが苦労するといい。俺は副王の話などに応じるつもりはないから、会えなくとも不都合はなにもない。

「今日の話は、休戦の部分だけエルフには話していい。あとは当面、極秘にしておいてくれ」

「まさか、本当に考えてるなんてことはないわよね?」

アンがそんなことを聞いてきた。身内に心配されるくらいなら、ダークエルフも可能性があると考えてくれてるだろうかね?

「これっぽっちも考えてない。あれはただの時間稼ぎだぞ」

「そうよね! ずいぶん真面目な顔をして考え込んでたから、ちょっと心配しちゃったわよ!」

エリーまで……いや、初期の頃の俺を知っている者からすれば、あり得なくもないと思うのか?

「アンとエリーが俺のことをどう考えてるかよーくわかった。二人共あとでお仕置きな」

「「ええっ!?」」

お仕置きタイムとか久々だな! 楽しくなってきたぞ!

「リリア、戻ったらフランチェスカに連絡をいれるのを忘れないでくれよ」

「こんなことの後にっすか!?」

「さっき話した通り、日常は予定通り進めるんだ」

「そうじゃぞ。我らが魔族になぞ敗れるものか! 幾千幾億の魔物が来ようと、すべて返り討ちにしてくれるわ!」

うむ。しかし魔王に一〇〇〇倍の数の魔物。定められた永遠の闘争に神々の遊戯。

話されたことはあくまで魔族の側からの一方的な見方にすぎない。嘘がないのは確かなのだろうが、鵜呑みにすることもできない。

「まあやるしかないんだけどな?」

魔族が人族の殲滅を神の意思として遂行しようとする以上、俺たちはそれに立ち向かうしかない。

そして勝たねば未来はない。人族にも、この世界にも。