軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

147話 国境の村

昼間はそうでもないと思ったが、夜の闇の中、篝火に照らされるシラーちゃんの暗黒鎧は、初めて見るとなかなかに恐ろしい姿のようだ。

俺たちがアンのいるという村長宅へと向かうと、篝火の周囲に集まっていた村人の波がざざざっと割れた。声をかけようと近寄った者もぎょっとした様子で、声掛けを躊躇した。

中身はかわいいシラーちゃんだし、よく見るとぴょこっと出ている耳と尻尾がキュートなんだが。

普段は大きな盾を背中に装着して移動している都合上、マントで鎧を隠すこともできないし、最前線で戦わせるから、フランチェスカのように革鎧というわけにもいかない。

新しい鎧が完成するまでだし、さほど実害はないはずだ。それにフードで軽く顔を隠しているだけのリリアとティリカが、シラーちゃんに隠れてまったく目立たないのはいいかもしれない。

「その鎧、なかなかの反響ではないか」

「はい、リリア姉様。さすがはエルフの鍛冶屋。いい仕事ぶりです」

村人に露骨に恐れられてるのに、シラーちゃんはそんなことを言ってむしろ喜んでいるようだ。

「気に入ったんだ、それ?」

「こうやって私に注意が集まれば、それだけ他が安全になるだろう?」

魔物相手にどれほどの効果があるかはわからないが、対人なら確かに絶大だな。

「良い覚悟じゃ、シラーよ。ほんとうなら妾がその役目をしたかったのじゃが」

盾役は譲ってやるということなんだろう。

実際リリアの盾能力は精霊ガードでかなり高い。魔法での攻撃力も申し分ない。いまのシラーちゃんではリリアに圧倒的に劣る。

だが俺と一緒でリリアは汎用性に優れているから、前衛に固定するよりフリーハンドにしておいたほうが何かと便利だ。

それにリリアを最前列にするなら、俺かサティでいいだろうと、ずいぶん迷っていたところに盾役の加入でほんとうに助かった。

「お任せください、リリア姉様」

「うむ。じゃが盾役が辛かったらちゃんと言うのじゃぞ? いつでも代わってやるからの」

まだ前衛を諦めてなかったのか。ポイントは魔法系に優先して割り振るから、剣術や盾スキルを自力習得できたら、前衛に立つのも許すという話をしているんだが、今のところ前衛スキルが生える様子はない。剣や盾どころか、ろくに運動もしたことのない者が戦闘スキルを取得するまでの道のりは長い。

だがエルフは気も長い。まだ修行を始めてほんの二ヶ月ほどだし、何年かかけてじっくり覚えればいいと考えているようだ。

リリアは俺みたいに魔法をぶっ放しつつ、敵に切り込んで行くスタイルを目指しているらしい。

別に俺は突っ込みたくて突っ込んでいったわけじゃないんだけどな?

広場を突っ切って少し歩いて見えてきた一番大きな家が村長宅で、その一室でアンが治療中だった。ウィルとフランチェスカも部屋の隅に控えている。治療待ちをしているのはあまり緊急でなさそうなご老人方で、もう大方の治療は終わったということだろう。

「お疲れ様。どうだった?」と、アン。

「ちょうど巣を作ってるとこだったみたいで、きっちり潰しといたよ」

「おお! さすがはAランクパーティ。仕事がお早い」と、これは村長さん。

続けて巣の場所や様子などを詳しく説明しておく。恐らくもういないとは思うが、夜だから確認は限界があることも。

しかしとりあえずは巣を潰すだけで、俺たちの仕事としては十分なようだ。村人も戦えるし、いよいよ危なくなったら近隣から救援を呼べる体制もあるという。

「ところでその、報酬のお話なのですが……」

そういえば報酬の交渉もなしに出ちゃったな。

俺としてはアンが受けた仕事だから神殿のボランティア活動だと思ったが、冒険者として受けた依頼と考えると、うちはAランクパーティ。結構な依頼料が発生するはずだ。

「今回は神官殿からの依頼ですので、お話はそちらへ」

俺の言葉に村長がほっとした様子だ。

どの道がっついたところでこういう村にはお金はさほどない。冒険者ギルドから多少は討伐報酬も出るだろうし、細かいことはアンに丸投げだ。エリーもそれで構わないという。エリーはここ最近はお金よりも名声という感じだ。

相変わらずパーティの決定は俺とアンとエリーでやっている。リリアも多少は口を出すが、今日のようなお金の話はどうでも良さ気だ。新しく入ったシラーちゃんも金銭面は気にしないほうだったし、ウィルも実家はとてつもない金持ちだ。装備は全部エルフに作ってもらってるし、お金に関してはガツガツする必要がない。

「それよりも今日の宿は? 疲れたから早めに休みたい」

「ここの二階に用意してもらってる。お風呂もあるよ」と、アン。

部屋は大部屋で全員入れ、お風呂も二、三人がゆっくり入れるくらいの広さがあるようだ。

今日はお風呂に入って軽くご飯食べたら寝よう。宴会とかは絶対やらないぞ。

二回の戦闘では俺は疲れるようなことは全くしなかったが、今日は夜明けに出発してずっと移動していたのだ。それに移動中の警戒探知はサティの耳がフライ中は風切音で役に立たないし、どうしても俺の探知がメインとなり、これが結構疲れるのだ。

しかし案の定、歓迎の宴席を設けたいと村長が申し出てきた。

さてどうしよう。好意で用意してくれるのを無下に断るのも、そう思ってたらシラーちゃんが助けてくれた。

「主殿はお疲れだ」

それで村長が一発で黙った。暗黒鎧も便利な時があるな。

「先を急ぐ旅です。宿を用意してもらえるだけで十分ですよ」

そうフォローしておく。それに今日の反省会と、レベルが上がったからスキル振りも相談しないといけないし、ゆっくり宴会する時間はない。

そうだな。先に集まって反省会やっちゃうか。

「アン、残りの治療手伝うよ。終わったら集まって明日の予定を相談しよう。みんなは先に部屋に戻って寛いでて」

二人がかりで治療はすぐに終わった。

泊まる予定の部屋はそこそこ広く、ベッドを追加できるよう家具も隅に寄せられていた。

サティに手伝ってもらい、装備を脱いで楽な格好になり、床に適当に車座に座って、反省会を始めたのだが……

フランチェスカがいる。明日の予定を相談するって言っちゃったしな。追い出すのもアレだし、まあいいか。

「さてと。新メンバーも加えて初の実戦だったわけだが、今日の戦闘に関して何か意見は?」

「二人とも良くやってたんじゃないかしら」

そうエリーが言い、他のみんなも賛同している。

「俺もそう思うが、もうちょっと楽で安全な戦い方もできなかったかなーと」

なおかつ二人に経験値をがっぽり稼がせられる方法がいい。

「でもヒラギスまでに実戦経験も積ませたいから、今日みたいな戦い方なんでしょう? ある程度の危険は仕方ないわよ」

安全に経験値を稼いで強くなるのも悪くないとは思うが、二人はどうなんだろうね?

「ウィルとシラーはどう思う? 今日いきなりオークに突っ込ませちゃったけど」

「私はもっと危険な戦いでも平気だ、主殿」

「俺はこのくらいで十分かなって思うっす」

意見が割れたな。

でもとりあえず今日くらいの危険なら許容範囲ってことでいいか。

「私ももっと前に出してもらっても構わないんだが」と、フランチェスカ。

あんたは出来れば大人しくしていてもらいたい。

「でもあまり危険なことはさせないって、公爵と約束したのよね」

「自分の鎧を使わせてもらえれば、オークの攻撃くらいでは危険もないだろう」

確かにそうだが、あのキンキラした鎧を使うのもなあ。どうせ普通の狩りならフランチェスカの出番はないだろうし。

「フラン様は護衛対象ですから、戦う必要はないんですよ?」と、サティが珍しく意見を出した。

「だが私ほどの戦力を遊ばせておく手はあるまい?」

「じゃあうちで手に余るくらいの敵が出てきたら頼むとして、当座は今日みたいな感じでお願いしたい」

「心得た」

そんな場面にはまずならないだろう。うちをピンチにするには国を滅ぼすくらいの戦力が必要になる。

「それとフランの分の報酬はどうする? 今日も少し戦ったし、この先も戦闘に参加したいんだろう?」

「私は報酬はいらないぞ」

まあフランチェスカも金持ちだし。

「だから遠慮無く酷使してもらって構わない」

「今日一匹倒しただろ。これで冒険者に混じってオークを倒したことがあるっていつでも自慢できるぞ」

「せっかくこうやって旅に出たんだ。もっとひりつくような戦いをだな……」

実戦で死にそうになったことがないから、そんなことを言えるんだよ。

「それなら私がいつでも相手をしてあげますよ?」

「それよりも私はマサルとやってみたいな。サティより強いんだろう?」

矛先がこっちにきやがった。軽くならいい修行になるし、相手をしてもいいんだけどな。

「時間の余裕があったらね」

今日のペースなら、あまり修行する時間は取れそうもない。一日八時間くらい飛んで、休憩を入れて、さらに戦闘だなんだと時間を食えば、夜明けから日没まで移動しっぱなしになりかねない。実際今日はそんな感じだったし。

「そのことなんじゃが。今日一日飛んでみて、まだまだ精霊に余力がある。それでフライの移動速度をあげようかと思う」

一日の移動距離は変えずに、八時間かけている距離を五時間か六時間くらいに短縮するという。

「正直、一日八時間も飛びっぱなしは辛い」

ああ、それはよくわかる。乗っかってる方は徒歩や馬車よりずいぶんと楽だが、ほとんど精霊任せとはいえ、魔法を発動しっぱなしは術師側も疲れるようだ。

俺も警戒する時間が減って楽になるところだが……

「なら時間の余裕は取れそうだな。楽しみにしておくぞ!」

まあリベンジするのもいいか。フランチェスカの戦い方はたっぷり見たし、体調が万全なら剣のみでももうちょっと戦えるかもしれない。

「戦闘といえば、村の人がここのところ急に魔物が増えたって。それがヒラギスから流れてきてるんじゃないかって話なんだけど」と、アン。

「ここからヒラギスって、えらく遠くないか?」

馬車でも二ヶ月はかかるって距離だぞ。

「遠いからここ最近なのよ」

ヒラギスが落ちて五ヶ月くらいか。ヒラギスに空いた穴から、遠路はるばるこの辺りまで魔物が侵入してきてるのか。

それが本当なら、まっすぐヒラギスを目指すこのルートって、魔物にがんがんぶつかるってことか?

「でもそんなことになってんなら、なんでもっと早く奪還作戦を開始しないんだ?」

大規模な戦力を集めるのに時間がかかるのはわかるが、五ヶ月もあればとうに作戦を決行できたはずだ。

「ヒラギス方面はもうすぐ雨季っすから、それを嫌ったんでしょうね」

ウィルによると場所によっては水没するほど雨がひどいらしく、ヒラギスの奥深く入ってから軍が身動きできなくなったら死活問題となる。

なるほど。それで作戦開始時期が天候次第ということで不明瞭なのか。

「他に何かないか? ない? じゃあ先にお風呂だな。サティ一緒に入ろう。シラーもどうだ?」

シラーちゃんの体に鎧ズレで傷がついてないか、全身隅々までみてやらないとな。

ティリカとリリアも一緒に入ってくれるようだ。五人もだとちょっときつきつだが、それもまたいいものだ。

旅の間はエロいことはなしかと思ったが、お風呂場で多少ハメを外すくらいなら許されるんじゃないだろうか?

入れ替わりにアンとエリーがお風呂に入っていった。

ウィルとフランチェスカは……外か。カンカンと木剣を交える音がする。

「俺たちも少し剣を振っとくか?」

「はい、マサル様」

今日は軍曹殿に見せてもらったあの技の練習だ。フランチェスカに見せるつもりはないから、サティとシラーちゃんを連れてこっそりとウィルたちとは離れたところへ。

一度見せてもらっただけだったが、ヒントはあった。構えと足あとだ。

サティが気がついたのだが、あの時軍曹殿の軸足側に、通常じゃつかないくらい深い足あとが残っていた。

恐らく足の力を剣の振りに乗せて瞬発力を高めていたのだろうが、現状で俺たちが再現できたのはただのパワーのある一撃で、あれほどの速度が出ない。

「足の踏みが足りてません。軍曹殿のはもっと深かったです」

もちろん俺たちも全力を出しているんだが、それでも浅い。土とはいえ、練習場は踏み固められた硬い地面だ。そう簡単に足あとが付くようにはできていない。

それが付くほどの踏み込み。相当な負担が足にかかったはずだ。軍曹殿は膝を壊している。治ったという話は聞いたことがない。

見せるだけ見せてさっさと指導を終えたのは、もう膝がかなりやばかったのかもしれない。

「剣の道は奥が深いな」

「はい。修行が楽しみです」

「食事の準備が出来たみたいだな。今日はこれくらいにしておくか」

村長の家人が呼びに回っている声が聞こえてきた。

村長宅に戻ると、湯上がりでほこほこしたフランチェスカが風呂場のほうから出てきた。

「あのウィルというのは良い腕をしているな。なかなかいい練習になった」

まあ剣術レベル5だからね。ウィルもいい修行になるだろう。

しかしウィルがフランチェスカの相手をしてくれるならちょうどいいな。それにウィル個人としても、隣国の王族と個人的な誼を通じておくのも悪いことじゃないだろう。

「そうそう。あいつには素質を感じるんだよね。鍛えあげたらすぐに俺くらい戦えるようになるんじゃないかな」

まあ俺と比べればだいたい素質があるように感じるんだけど。

「ほほう」

フランチェスカは少し興味をそそられたようだ。

よし。旅の間、ウィルはフランチェスカ担当にしておこう。やつも帝国の王族。俺や他の誰かが手を出しちゃうとまずいが、やつとなら何か間違いがあったとしても、たぶん平気だ。