軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

146話 帝国国境へ

居間に集まり、フランチェスカも交えて明日からの旅の打ち合わせをすることにした。

まずはヒラギス国境のブルムダール砦まで、順調なら一週間程度。そこから剣の里へは四日。剣の里からエリー実家へは二日の距離。寄り道なしで行ければ二週間ほどの旅となる。

「そんなに早いのか!」と、フランチェスカは驚いている。

荷馬車なら砦まで二ヶ月。速度優先で移動しても最低一ヶ月。徒歩ならもっとだろう。この一週間というのは破格の速度だ。

「本来ならもっと速度は出るのじゃがの」

今回は九人プラス実戦用のフル装備でかなりの重量になる。

最速で行きたいなら俺とリリアのみで軽装にして、召喚馬のマツカゼも併用すれば砦まで二日で行けないこともないのだが、急がなければならない理由もない。

精霊のフライはおおよそ50kmの巡航速度で、一日に無理せず飛べるのは八時間くらい。二時間ごとの休憩もいる。精霊の疲労もだが、使い手のリリアの体力も考慮する必要もある。

明日は王都のエルフさんに途中まで送ってもらい、帝国国境方面の町へ。そこからルートをはずれ、無人の国境線を目指し、夜までには帝国領に入る予定だ。

「なんでまたそんな辺境を通る?」

そうフランチェスカが聞いてきた。

街道すらないルートをなぜわざわざ選択するのか? それはお尋ね者がいるからです。街道沿いの宿場町だと手配書が回っているかもしれない。

「フライで最短距離を進みたいのと、あとはついでに魔物を狩っていく」

まあこっちの理由も嘘じゃない。移動優先だが、見つけたら狩る。ウィルとシラーちゃんの経験値稼ぎと実戦訓練も兼ねる。

「ほう」

魔物狩りと聞いてフランチェスカの顔付きが変わった。

「魔物と戦った経験は?」

「討伐に出たことはある」

しかしリリアと同じパターンで直接戦ったことはないと。

「弓は扱えるか?」

「人並みには。だが火魔法も使える」

「じゃあ後衛のほうがいいか?」

魔法使い兼、緊急時の護衛がいいだろうか。普段は一番安全な位置でもあるし。

「前衛がいい。前衛を希望する」

「剣の出番はまずないと思うけど、それでもいいなら」

うちの前衛二人がまずぶつかるはずだし、俺とサティもいる。フランチェスカの出番は確実にないと思うんだが。

「前衛にする」

まあいいけど。

旅自体はある程度説明してあったようで、それ以上特に付け加えることもなく、打ち合わせは終了した。

あとは明日の朝、エルフの里へシラーちゃんの装備を受け取りに行くくらいで、出発まで暇そうだ。

「じゃあみんな、あとは明日に備えてゆっくり休もうか」

休めるときに休んでおきたい。そう思って言ったのだが、サティからおずおずと修行のお誘いをされた。

修行なんか剣の聖地に行けば、たぶん死ぬほどやらされるんだろうが、軍曹殿にあんなことを言われたばかりだ。それにあの技のこともある。

「よし、やるか!」

「はい!」

軍曹殿のあの技。再現できればフランチェスカに勝てるだろうか?

「まあでも暗くなるまでな?」

今日の夜はアンジェラちゃんらしい。外だと恥ずかしがってあんまり相手をしてもらえないし、今日はたっぷりと相手をしてもらおう。

■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■

出発初日。エルフさん二人にフライで途中まで送っていただく。

限界まで飛んで一人目をその場で投棄。二人目も限界まで酷使して、最後はリリアの出番の三段式である。

ここまで比較的安全な街道沿いを通ることもあって、重量軽減のため最低限の装備だったのを、フル装備に変更して改めて出発した。

午前中は何事もなく過ぎた。王都と帝国への主要ルートである。多少外れたくらいで魔物はそうそう出ないようだ。単独や小さい反応はスルーしたから、もしかすると多少の魔物は見逃していたかもしれないが。

しかし午後の一回目の休憩が過ぎて、たぶん国境付近だろう。何かの集団を見つけた。

人間じゃなければオークだな。

「リリア、速度を落としてくれ。何かいる」

ざっと三、四〇匹くらいだろうか。森が深いので目視では確認ができないから、ある程度接近したところで地上に降りて確認する。

「オークの声です」と、サティ。

「よし、殲滅しよう」

俺の言葉にみんな頷く。

「サティは待機。オークキングか群れのボスをみつけたら即弓で倒してくれ」

オークといえど、キングクラスが混じってると油断がならない。

「はい、マサル様」

これでオークキング対策はいいだろう。後はどうするか。

四〇匹弱。危険を考えなければ、ウィルとシラーちゃん二人でも倒せないこともない数だとは思うが……

「最初に魔法で一撃して、後はウィルとシラーに任せてしまいましょう」と、エリー。

ある程度減らして混乱した状態なら、危険も少ないか? こいつらフルプレートだし。

「そうだな。なるべく弓で減らして、残ったのを剣に持ち替えて倒せ。手に余りそうなら援護する」

ウィルもシラーちゃんも緊張した面持ちで頷いた。二人ともフルフェイスのヘルムで目しか見えないけど。

重装備での初めての実戦だが、休憩中に動きは確かめてある。二人とも剣術はレベル5だ。オークはもちろん、キングクラスでも油断しなければ倒せる力はあるはずだ。

魔法はリリアに担当してもらう。リリアはいまだレベル22。精霊魔法と風魔法をレベル5にしたが、まだまだ経験値は必要だ。

「私は?」

「フランは待機。二人が危なそうだったら助けてやってくれ」

「了解した」

俺が先頭でゆっくりと近づく。続いてリリアにウィルとシラーちゃん。少し離れて他のメンバー。

シラーちゃんの暗黒装備は比較的静かなんだが、ウィルががちゃがちゃとうるさい。安物はやっぱりダメだな。

特に隠れもしてないから、音でバレても問題はないが……見つかった。

「リリア!」

すぐにリリアが詠唱を開始した。

ボロながら比較的装備がいいのがいて、そいつがボスっぽいので狙うように指示をする。

「エアストーム!」

リリアの放ったエアストームが、こちらに向かってきたオーク集団のど真ん中で炸裂する。五、六匹は吹き飛んだだろうか。それに群れのボスらしきオークも倒せた。目視の範囲ではオークキングもいなさそうだ。

ウィルとシラーちゃんが矢を撃ち始めた。ウィルは弓術レベル1でシラーちゃんはレベル4。

シラーちゃんは着実にオークを仕留めている。ウィルのほうは、命中率はいまいちだな。木が密集している中、動きまわるオークを狙うのは難しい。

一度だけオークから矢が飛んできたが、サティがその弓オークを仕留めた。矢はエリーが作っておいた土壁に阻まれた。

接近されるまでに一〇匹くらいは倒せただろうか。残りは二〇匹ほど。

魔法攻撃での混乱で時間はそこそこ稼げたが、思ったより数は減らせなかった。

ウィルが弓を置いて素早く剣と盾に持ち替えた。シラーちゃんは少し手間取っている。

ウィルが前に出て、最初のオークをさっくりと倒した。遅れてシラーちゃんも参戦する。

ちょっと切り替えのタイミングが危ないな。次からはもうちょっと早くするか、土壁を出しておいたほうが良さそうだ。

「おい、まだ援護しなくていいのか?」

フランチェスカが剣を構え、飛び出していきたそうにうずうずしている。

「大丈夫だ。そのまま見ていろ」

俺も正直心配なんだが、二人だけでよく食い止めている。

「それより回りこんできてるのがいる。そっちを倒しておこう」

多少の知恵があるのがいるようで、森に紛れて側面から静かに接近してきているのが五匹。気付かず奇襲を許せば、普通のパーティなら壊滅しかねないだろう。

「任せろ!」

フランチェスカなら五匹程度大丈夫だろうが、防御の弱い革鎧だし、事故を起こされても困る。

「一人一匹ずつやろう」

どうやらオークは横に散開して一斉に襲ってくる作戦のようだ。ここまで暇にしているアンとエリーとティリカとリリア。それにフランチェスカでちょうどいい数だ。

「サティはそのまま警戒を」

「はい」

奇襲のオークが雄叫びを上げて襲いかかってきたが、待ち構えていた魔法で瞬時に四匹が倒れた。

最後の一匹も、仲間が倒れてまごまごして棒立ちになってるうちに、フランチェスカの剣で一撃で倒された。

二人のほうも終わったようだ。生き残ったオークが逃げ出している。重装備の二人には追いつけないだろうが、シラーちゃんが弓に持ち替えた。一匹、二匹と倒した。だが最後一匹は取り逃がしそうだ。

「サティ!」

サティが俺の言葉で即座に矢を放った。木々が密集した森の中で豆粒くらいになったオークの背中に、矢が吸い込まれるように命中し、最後のオークも倒れた。

探知範囲に生き残りはいなさそうだ。

やはり前衛がいると安定感が違う。正面から、なんの小細工もなく叩き潰せる。

リリアの精霊ガードで矢程度なら心配もないし、もし敵が手強そうなら、土魔法でちゃんとした陣地を作ればいい。強固な砦を作っておけば、敵がこの一〇倍二〇倍でも問題ない。

二人増えて一番良かったのは、この程度だと俺が働かなくてもいいことだな。それで周りを見て対応を考える余裕ができる。

「もう終わりなのか?」

特に活躍する場面もなく、フランチェスカは不満そうだ。

「まあオークだとこの程度だな」

二人とも安定して戦えてたし、最初の魔法もいらないくらいだったな。

サティが二人を連れて、息のあるオークがいないか確認をしている。

「どうする? 先に進む? 少し周辺を探索していく?」と、エリー。

俺とサティの探知範囲外に群れがまだいる可能性がなくはないが……

「回収して先に進もう」

今回は移動優先だ。念入りに殲滅したところで、どうせどこからともなく湧いて出てくるのだ。

でも本当にどこから湧いて出てるんだろうな?

■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■

夕日が赤く染まる頃、サティが村を発見した。進路を外れていたので素通りしかけたが、村から立ち上る煙を目ざとく見つけたのだ。夕方なので調理の煙だろう。

「ちょうどいい。宿を頼もう」

辺境の村では神官のアンジェラさんの出番である。

警備のいる村の門の近くに降り立つと、一瞬警戒されたが、神官がいるとわかるとすぐに歓迎された。その場にいた年配の、村長と名乗る人が出てきた。

「我々は旅の途中なのですが、一夜の宿をお願いできませんか?」と、アンが申し出る。

「それは構いませんが、安全な宿を提供できるかどうか」

見ればずいぶんと物々しい雰囲気だ。結構な人数が武器を持って集まっていて、村長が門に詰めているのもたまたまではなさそうだ。

「数日前からハーピーが飛来するようになったのです。一度は撃退したのですが……」

アンがちらりとこちらを見たので軽く頷く。

ハーピー死すべし。他の魔物でも当然助けたが、特にハーピーには恨みつらみがある。

念の為にティリカを見るが、村人が俺たちを騙そうとかそういうこともなさそうだ。

「わかりました。我々でなんとかしましょう」

「本当ですか!?」

「巣の位置はわかりますか?」

「あちらの方角から飛来するようです、神官様」

その情報だけで十分だ。ぴゃっと行って、倒してこよう。そして今日もお布団で寝るのだ。

「私は残るね」と、アン。

残って治療と布教活動をするそうだが、もし入れ違いにハーピーが襲ってきた時に、誰か残しておいたほうがいいかもしれない。

「じゃあ俺も護衛に残るっす」

「フランもお留守番な」

「私も行くぞ!」

「ハーピー相手だとフランはあんまり役に立たないんじゃないか? それに戦闘は俺の言うことを聞くって約束だよな?」

フランチェスカが一緒だと使えないスキルもあるし、置いていけるなら置いていきたい。

「むう……」

「どっちにしろ今回は魔法でどーんだ。剣士の出番はない」

二人の経験値も稼ぎたいが、今回は村も近いから、確実に殲滅する。またリリアにやってもらおう。

「ま、すぐ戻ってくるから待っててよ」

「気をつけてね、みんな」

アンや村人たちに見送られ、フライで飛び立つ。

しかし一日に二回の魔物の群れとは、こっち方面は魔境からは遠いから少ないかと思ったのだが。

移動速度が早いせいだろうか? 速度が五倍だとして、もう普段の五日分は進んだ計算になる。それで群れが二つなら、多いとも言えないか?

この魔物との遭遇するペースで心配なのはアイテムボックスだな。また大岩を捨てることにならないように、早めの重量の調整がいりそうだ。

教えてもらったほうへと飛ぶとすぐに巣がみつかった。

軽く偵察して、リリアがレベル5の風魔法をどーん!

ハーピーの死体を回収して終了。実に簡単だ。

巣は作りかけのが多く、どうやら引っ越してきたばかりのようだ。

「お疲れ様、リリア。今日は大活躍だな」

「いやいや。楽して経験値を稼がせてもらって、こちらが礼を言わねばならんところじゃ」

まあそうだな。剣士と比べるとほんとうに楽だ。防衛戦でもあれば弓が活躍するんだが、剣士だと普段の経験値稼ぎは結構命がけになるな。もっとどうにかできないものか。

「じゃあ戻ろうか」

念の為に俺の召喚獣'フク'を付近の偵察に出して、村に帰還した。

すっかり暗くなっていたが、村は盛大に篝火が炊かれて、明るく照らされている。

「どうでした?」と、門番の村人。

「もう大丈夫。巣を見つけて全滅させました」

「おおー!」と、村人たちから歓声があがった。

ただし、他にもいるかどうかがちょっとわからん。夜目の利くふくろうで偵察はしているが、よく考えるとハーピーはこの時間は巣に引き篭もってるし、巣があっても見つけるのは難しそうだ。

「アン……うちの神官は?」

「神官様なら、村長の家で治療をされております」

「じゃあこれ」と、ハーピーの死体を門前の広場に放出する。一応倒した証拠だ。

「倒したハーピーです。村で好きにしてください」

今日の宿はどうなってるかな。みんなで泊まれる部屋があればいいんだけど。