軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

126話 サティの特訓その2

村の自宅で朝食を終え、皆で王都に移動してほどなく軍曹殿が訪問され、エルフ屋敷の庭の一角にある、小さい訓練場にてさっそく指導をしてもらうことになった。

サティの練習台部隊にはお祭り初日ということもあって、午前中は自由行動にした。それに昨日の三セットをやってみた感じ、一日中サティの相手をするのは体力的に厳しそうだ。最大限協力してもらうにしても、足腰が立たなくなるまで働かすわけにもいかないだろう。それでも半分くらいは王都見物に行かずに居残って訓練を見に来ている。物好きだな。

「まずは久しぶりに二人の腕を見せてみろ」

ついでに俺の腕も見ておこうというのだろう。サティのお相手に指名されてしまった。軍曹殿が来るまで少し準備運動でもと、フル装備の準備してたのは失敗だった。決して軍曹殿の訓練が嫌だと言うわけではない。ただ、本格的にやるならそれなりの覚悟が必要だ。出来れば今回はサティの訓練だけにしておいて欲しい。

サティと相対する。そろそろ一本くらい取りたいとは思うが、転移剣があっさり防がれたようにサティは対応能力が極めて高い。不意打ちや小手先の技は一度見せてしまえば二度目からは効果も薄く、もう正攻法で攻めていくしかなくなる。

気合を入れる。勝てないにしても無様を見せるわけにはいかない。万一修練不足とでも思われて、またあの特訓を組まれるわけにいかないのだ。

一気に踏み込む。昨日はまだまだノリが足りてなかった。サティの言う、あまり強くない時だったのだろう。

思いだせ、軍曹殿との地獄の特訓を! 今こそ俺の真の力が覚醒する時!!

攻撃に意識を全振りだ。防御は無視。防御系スキルの作動か本能で躱すに任せる。それだけやってどうにか相打ちできるかどうかだが、木剣相手にフル防具である。相打ちならダメージはサティのほうがでかいのだ。

剣に力を乗せる。だが力任せでない、細かくコンパクトな振り。でなければ素早いサティが捉えきれない。

数合、剣を交える。サティとは実力差がそれほど大きくはないはずだ。時々は一本が取れるし、サティにしてもこちらの攻撃を楽々捌いているということもない。

だが一手、いつも打ち負ける。プレートの上から軽い一撃をもらった。

「サティ、もっと力を乗せて攻撃するように。大会ではその程度のダメージで進行は止まらん」

攻撃の手を休めた俺たちに軍曹殿が言う。

「は、はい」

「私が止めるまで続行だ」

呼吸を整える。

多少のダメージを食らっていいともなればまたやり様はある。ちょっと訓練がハードになってきた気がするが、まだ許容範囲内だ。

再び打ち合い。

「やめ。サティ」

すぐに制止がかかった。

「はい、軍曹殿」

「もっと足を使え。この訓練場を全面使う感覚だ」

「はい」

再開。サティがフットワークを使い出す。ただでさえ素早いサティが余計に捉えづらくなる。

「もっと素早く! 体勢を低く! 左右に体を振れ!」

更に軍曹殿のアドバイスが飛び、みるみるうちに動きが改善されていく。

剣が――当たらない!?

空振った剣に、ほんの僅か体が泳ぐ。ガッ。肩口に大きな衝撃。完全にバランスを崩す。

「やめ! サティ」

「は、はい」

軍曹殿に呼ばれ、更に色々と助言を貰っている。

今のは結構効いたな。鎧の金属部分じゃなかったら骨までいってたかもしれん。

「いいか、マサル?」

「はい、いけます」

再び相対する。サティがちょっと涙目だな。思えば練習とはいえ、まともに攻撃を、有効打を貰ったのは初めてだ。それを気にしてるのか。

「サティ、今くらいのだと全然ダメージはない。もっと強く当てるんだ。じゃないと大会を勝ち抜けないぞ」

「はい、マサル様」

真剣な表情でサティが頷く。

再開。低く体勢をとったサティが即座にまっすぐ突っ込んできた。ヤバイ、守りを――頭に衝撃。尻もちをつく。

正面のサティに備えたところに上段に攻撃を食らったのか……まったく見えなかった。恐らくいま軍曹殿に教えてもらった技なのだろう。

「今のはよかった。その調子だ」

手を引いて立ち上がらせて貰い、サティに言う。

頭は少し痛むが、ヒールをかけるほどでもない。

「フル装備だからな。この程度じゃダメージにはならん」

再び念を押しておく。

実際、軍曹殿との防具なしでの訓練に比べれば、全然大したこともない。

「サティ!」

軍曹殿に呼ばれて、再び指導を受けている。

俺もちょっと考えないと、このままではサティにフルボッコにされてしまう。

サティみたいにフットワークを使うか?

下策だな。劣化な動きしか出来ないだろうし、俄仕込みじゃ余計にボロボロになりそうだ。

足をしっかりと地につけて、サティの動きに惑わされないようにしないと。

感覚を研ぎ澄ます。目だけに頼ってはダメだ。

両手の力を抜く。

なんとしてもサティの攻撃を防ぐ。これ以上攻撃を食らってはサティが泣く。

どんな動きをしたところで、剣は一本。その届く範囲に入らねば攻撃は当たらない。それを見極める。理屈ではそのはずだ……

再開。サティは今度もフットワークを使うが、大きく緩急をつけて来た。お?と、思ったが何か変な動きだ。無理にやろうとして動きが不自然になっているのか。まあサティとて、なんでもかんでもいきなり出来るものでもないのだろう。

しかしチャンスである。この隙に――

軍曹殿の終わりの宣言が告げられ、二時間ほどのみっちりとした訓練が終わった。サティはまだ余裕がありそうだが、俺が体力の限界である。

あれから俺の攻撃をまともに食らい、サティはガタガタになった。付け焼き刃の戦闘スタイルでやられるほど俺も弱くはない。だが最後の方は動きも良くなってきて、また互角くらいにはなってきた。明日にはもう勝てなくなるかもしれない。

「明日も同じ時間で良いか?」

「それはもちろん大丈夫ですが、あまりこっちにかまけていてギルドのほうはいいのですか?」

「構わん。ギルドとしても優勝が狙える者に注力するのは当然のことだ」

サティは冒険者ギルドの代表も務めることになるみたいだ。

「そういうことでしたら、明日もお願いします」

「うむ。ところでやはり貴様は出んか? いい経験になるぞ」

「こういうのはちょっと……」

剣の道を極めたいわけじゃないからこうやって訓練すれば十分だし、強さを測りたいならサティが出るからある程度わかる。賞金や名声も必要ない。出る理由がないのだ。

それにあのでかい、プロ野球の公式戦が出来そうなサイズの闘技場。観客は万単位だろう。絶対無理だわ。

「ここ数年、ギルドから優勝者が出ておらん」

それでギルドは勝てそうな選手には出場を薦めているそうな。

「サティが出るなら俺が出ても意味がなさそうですが」

「相性というものがある。サティと比べて貴様の実力がさほど見劣りするとは思わん」

「そういえばサティが俺の力にムラがあって、実力さえ出せれば自分とそう違いはないと言ってましたが……」

「確かに貴様はムラが大きい」

「大きいですか」

「人は普段、その持てる力の半分も出しておらん。それを安定して使えるようにするのが訓練であり経験なのだ」

だから大会はいい経験になるぞと軍曹殿は言う。

まあなんと言われようと出ませんけどね。

強くなることは必須事項であるが、剣でそれを実現するのは茨の道だ。レベルアップが望めない以上は訓練で伸ばすしかなく、それにかかる労力は魔法に比べて桁違いだ。とても辛い。痛い。それでいて魔法より地味だ。

「強くなる道はいくつもあります」

転移剣は軍曹殿に通用するだろうか? そのうち試してみたいものだ。空間魔法が得意なのは知られているし、短距離転移くらいなら見せてもたぶん平気だろう。

「貴様がそれほど有能な魔法使いでなければ剣で大成する道も……いや、言っても仕方がない話ではあるな」

軍曹殿の評価に心が痛い。今回もチートでずいぶんとスペックアップしてるしな。だけどこっち方面の強化はもう頭打ちなんですよ……

「剣の道はサティに任せますよ。もちろん俺も修行は怠るつもりはありませんが」

その後は長居は無用と軍曹殿はギルドへと戻っていった。大会まで指導で忙しいのだろう。

「俺は少し休憩させてもらうが、サティはどうする?」

「もっと続けたいです。やっと動きがわかってきました」

「じゃあ村に戻るか」

とりあえずこの場にいる者を拾って村に戻った。残りはエリーが輸送してくれる。今回のイベントにエリーは、パーティと我が家の名声を高めると非常に協力的である。王都で留守番もしてくれて、来客時などは呼びに来てくれる手筈だ。

村ではエルフの部隊が既にスタンバイ済みだった。

サティがエルフたちを蹴散らしていくのをシラーと一緒に見学する。エルフさんが結構な人数を揃えてくれたのでしばらくはサティも忙しいだろう。何人かティトス並の使い手もいるようで、一周するのにも時間がかかりそうだ。それに怪我人が出るたびにサティも手を止めて、休憩も兼ねて治療を見る。

「主殿は本当に強いのだな。これ程とは思わなかった」

シラーは田舎村の出身である。奴隷となるまで村から出たこともなく、比較対象はほぼ村人のみ。こちらに来て鍛えてやってはいるが、俺の強さがいまいち推し量れなかったのだろう。

それが昨日今日とサティとガチでやりあったり、外部から招聘した部隊を蹴散らしてるのを見てようやく頭に染み渡ったということか。

「惚れた?」

「主殿がお望みなら私はいつでも……」

ちょっと恥ずかしそうにいうシラーちゃんにはとてもそそられるが、まだ好感度が足りない気がするな。決定打というか、フラグが足りてない。リリア風に言うなら運命的な何かが。

「ああ、一周目が終わったみたいだな。行ってくる」

シラーの頭をぽんと叩いてサティのところへと向かう。今のところイエスともノーとも返事が出来ない。加護が付く前の好感度を測る方法でもあればいいのにな。

昼前にクルックとシルバーが来訪した。きっとご飯を狙ってきたのだろう。祭りの間中エルフ屋敷の食事は姫様を歓待するために普段以上に豪華である。

初めて入る貴族街にエルフ屋敷。そして豪華なランチに終始ごきげんな二人だった。

「俺たちはいい友達を持ったな!」

クルックの言葉にうんうんと同意するシルバー。

そして食事を楽しむとすぐに帰るという。修行の邪魔をする気は毛頭ないようだ。ただ一つ、置き土産をしていった。

「ラザードさんが会いたがってたぜ」

「それって……」

あの人が俺に用があるとかバトル方面以外に思いつかない。

「ああ。大会に出ないならちょっと手合わせをしてみたいそうだ」

「優勝を目指してるならサティのライバルだからな。無理だって言っといてくれ」

「無理なら大会後でもいいって」

「マジか」

軍曹殿によれば俺との実力は伯仲してるらしい。ガチでやるのははっきり言って怖い。

「そうだな……お前らまた遊びに来てもいいぞ。だから上手いこと断ってくれ」

「上手いことって言われてもなー」

「この前倒したドラゴンの肉も出そう」

「よし、任せろ!」

だがこのことは失敗だった。シラーちゃんが呆れた顔で見ているのに気がついた。手合わせから逃げるのは戦士として失格ということなのだろう。

他のみんなは俺のことをよくわかっているのでそんなもんだろうという感じだ。ある意味信頼されている。

「ラザードさんとの決着はいずれ付ける。だがそれは今じゃない」

「え、それ伝えちゃってもいいの?」

「も、もちろんだとも。今は俺も修行中だ。時期が来ればこちらから出向く」

「命知らずだな……だが間違いなく伝えよう」

シラーちゃんの好感度が下がるよりマシだ。剣の実力は伯仲しているという。魔法を使えば勝機は十分にあるはずだ。それに祭りが終われば帝国に行くし、当分会うこともあるまい。

大会で本気のラザードさんの戦いも見れるだろうし、対策を考える時間はたっぷりある。

「主殿、先程のラザードという方はそんなに強いのか?」

二人が帰るとすぐにシラーが聞いてきた。シラーちゃんは自宅警備がお仕事なので、外に出ると途端に暇になり、大抵は俺かサティにくっついている。

「剣の腕は俺と互角くらいだそうだ。昔は全然敵わなかったんだが」

「なぜすぐに決着を付けない?」

「互角じゃダメだ。やるからには勝たないとな」

「うん、そうだな。負けるのはダメだ」

それで納得してくれたようだ。

午後からはルヴェンさんも来てくれた。エリーに連れられて村に。ゲートがバレても大丈夫なくらい信用はあるらしい。

オルバさんやナーニアさん、いつの間にか混じっていたタークスさんとの再会を喜ぶのもつかの間、さっそくサティのお相手をしてもらった。

Aランク間近だった現役Bランクの重装戦士である。さすがにサティに勝てるということもなかったが、防御力重視の重装甲は、サティの鋭い攻撃であっても木剣ごときではびくともしない。

それではと試しに俺と組んであたってみるとサティを圧倒した。圧倒である。

このルヴェンさん、フォローする動きが非常に上手い。俺はルヴェンさんから距離を置かないようにして戦うだけで、要所要所でサティへの妨害が入る。サティがルヴェンさんを相手にしようにも俺がそれを許すはずもない。

もし俺たちも革防具なら小さい有効打を積み上げて勝つ目もあったかもしれない。だが本番形式だと有効打でも戦闘可能とみなされれば試合は続行である。サティは俺たちから致命傷の判定が出そうな打撃を取ることができなかった。

何度か俺たちが勝って次に交代となった。数周目の戦闘でサティは戦術を変えてきた。はっきりと小さい有効打を積み重ねてくる。ヒットアンドアウェイを繰り返す負けない戦法。

一見上手く回っているようでも俺たちのは付け焼き刃の連携だ。何度も戦ってるうちに何がしかの弱点を見出したのだろう。サティのフットワーク戦術も厳しい訓練の中、洗練されてきたようだ。

捉えられない。決着が付かなくなってきた。俺もルヴェンさんもスタミナが切れて動きが悪くなる。軽装のサティは元気である。

戦いの最中生じる小さな綻び。もちろんそれはムラのある俺の方だ。

夕闇迫る頃、ついに一本いいのをもらってしまった。

翌日。午前中の軍曹殿の指導。

その後の体力の限界まで繰り返される長時間の訓練。スタミナの少ないエルフさんは人員を増やして対応していた。

回復魔法は間に合わなかったものの、短い期間で非常に密度の濃い修行をこなした。

サティに叩きのめされ、あるいは体力を使い果たし死屍累々となった我が家の訓練場で、サティだけはただの一度も膝すらつくこともなく最後まで訓練をやり通し、剣闘士大会予選の日を迎えた。