軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

114話 城塞建造魔法

リリ様の自室に荷物を回収に行くと、大きな山が三つできていた。

「ちょっと多いですね……」

思ってたよりずっと多い。

一〇畳ほどの個室に入るか入らないかぎりぎりといったところだろうか。山積みになってる分、解いたら二部屋使ってもきついかもしれん……

「がんばりました」

パトスさんの姿が見えないと思ったら、ずっとこのリリ様の荷物の準備をしていたらしい。少々疲れた顔をしている。

リリ様の出立は急だったし、徹夜の作業だったのかもしれない。

「本来行くはずだった王都でしたら、ある程度の家具も揃っていたのでこれほどの荷物はいらないのですが……これでもかなり減らしたのです。アイテムボックスに入るでしょうか? 無理なようでしたらこちらで輸送いたしますが」

「運ぶのは平気ですが、部屋に入るのかと」

「それは……」

ティトスさんが改めて荷物を見て考え込んだ。

「よし! パトス、半分に減らすのじゃ」

「ええっ!? 姫様、無理ですよぅ。これでも本当に必要なものしか!」

「じゃがいきなり迷惑をかけるわけにもいくまい? 此度は修行も兼ねておるのじゃ」

「い、今からまた選別を……これ一晩かかったのに……」

「パトス、やるのです。私も手伝いますから」

「父上に挨拶が終われば出発じゃ。三〇分でやれ。出来ねば手ぶらでよい」

「「!?」」

「くっ……急ぎますよパトス。とりあえず必要最低限な分を選別……いえ、先に一旦荷ほどきをせねば……」

崩れ落ちるパトスさんに、悲壮な決意で荷物の山に手をかけるティトスさんの姿。

それをただ見守るリリ様。

「せっかく用意してもらったんですし、全部持って行きましょう」

二人が可哀想だし、下手したら出立が遅れそうだ。

「む、そうか? それならばよいが」

「よろしいのですか、マサル様?」

「ほんとに必要なものは持ってきてもらったほうがこちらとしても助かりますし、スペースにもまだ余裕がありますから」

入りきらない分はどこか……屋上の茶室がいいか。あそこが結構広いし。

リリ様の気が変わらないうちに回収回収。

「お世話になりました」

最後に王様たちに別れの挨拶をして帰還である。

お世話になったと言ってみたものの、今回は何の世話になったのやらよくわからない。

お土産がたくさんなのは確かだが。

「リリをよろしく頼みますぞ」

「はい、お任せください」

で、リリ様も一通りの挨拶が済んで、エリーがゲートを発動しようとしたらティトスさんパトスさんもちゃっかり乗り込んできた。

「ええっと、ティトスさんとパトスさんも……?」

「我らのことはお気になさらずに。姫様のお暮らしになる場所を確認して報告せよと王に頼まれております。それに荷ほどきも我々でやらないと……」

確かにリリ様ではあの大荷物をどうにかできそうにない。

それにお姫様の扱いに関してはまだ不明瞭な部分が多い。冒険者としての修行ならお付の人は拒絶すべきだろうが、嫁としてなら姫様として付き人の存在は必要だろう。

そのあたりの判断はまだまだ保留だ。

「父上が心配するのもわかるがこれは修行じゃ。冒険には連れて行かぬぞ?」

「もちろんです。姫様が落ちついたのを確認し次第、里に戻ります」

「ならばよい。待たせたの、ゲートを頼む」

王様たちに見送られながらゲートが発動した。

ゲートの到着地点は塔の最下層、一階の何もない部屋。

入り口は上にしかないからたぶん一番安全だ。

問題は昼間から真っ暗なことである。セキュリティも考えて出入口をきっちりと封鎖してあり、まったく光が差さない。

説明するのを忘れていた。ゲートなんて身内でしか使わんからな……

「な、なんじゃ!? 目がっ!」

「姫様!?」

エルフ組が軽くパニックを起こした。隣のリリ様がぎゅっと体を押し付けてくる。

おお、役得。

「ライト」

アンがさくっと明かりを点けてくれた。

「お……なんじゃ、暗かっただけか」

「今みたいにゲートは転送先の状況がわかりません。だからほら、ここは日もささない奥まった部屋になってるんですよ。出入口からは遠いし、きっちりと封鎖もしてるんで、転送地点としてはかなり安全です」

「なるほどのう」

そう言って周りを見渡して、やっと俺に抱きついているのに気がついたようだ。

あ、顔が赤くなった。色が白いとわかりやすい。

すっと体を離したので手を差し出すと、きゅっと握ってくれた。

「部屋に案内しましょう」

「う、うむ」

考えてみればリリ様とまともに触れ合ったのって初めてじゃないだろうか。

こういう初々しい反応をされると、ゆっくりやってもいいかって気がするが、どうしたものか……

「じゃあ私はオルバに報告してくるわね」

エリーはサティを護衛に連れて二人で出かけて行った。

他はリリ様に割り当てる部屋の確認である。

四階のエリーとアンの部屋の廊下を挟んで向かいの二部屋。共に一〇畳ほどのスペースだ。

荷物を出す前に、まずは部屋の壁を取っ払う必要がある。

壁に手を付けて、土魔法を発動!

建物と分離した壁を、倒れる前にすばやくアイテムボックスに収納する。

「おおー」

端から見るとまるで消えたようにしか見えないだろう。いや、実際消えたんだが。

土魔法と空間魔法の合わせ技は魔法に慣れ親しんだ異世界人にとってもちょっとした驚きだったようだ。

あとは壁を切り取った部分を土魔法で綺麗に整えて、部屋全体に浄化をかければ完成。

三分かからずリフォーム完成である。

広くなった部屋にリリ様の荷物を放出する。

リリ様のほうはこれでいいとして、俺はこれから一仕事をしなければいけない。

城作りのリベンジだ。今度こそ立派な城に仕立てよう。

まずは塔の横のスペースの木を伐採して整地する必要がある。

山頂とその周辺の木を刈り取って均せば、かなりのスペースが出来るだろう。

さっそく入手したエルフ謹製の斧で木を切り倒していく。

切れ味がいい。スパッと刃が木に入り込む。

とはいえその程度では木こりは楽にはならない。かなりきつい肉体労働である。

サティのやってた剣でスパスパやるやつも結局のところ、サティが息を荒げるほど全力を出す必要があるし、労力という点ではゆっくり切っても変わりがない。

三本くらい切ったところで、魔法でやればいいと思いついた。

何を馬鹿正直に体を使ってるんだろう。

エリーみたいに魔法でやればいいのだ。

ゴーレムに斧を持たせるのを真っ先に考えつくが、解決法として単純すぎる。もっと魔法らしい方法がいい。

まずは土魔法で木の根っこを掘り返してみた。

しかし思ったより根が深く張っている。下手したら隣の木と絡まり合ってる。

引き抜こうと思ったらかなり掘らないといけないし、余計に手間がかかりそうだ。

召喚はマツカゼ(大)に力づくで折らせると切り口が汚くなるからダメだな。木は後で利用する。

火はもちろんダメ。水も使えそうなのはない。

風のエアカッター。あまり使ったことのない魔法だが、カッターというからには切れるだろう。

実際上位のウィンドストームは木をなぎ倒していたし。

「エアカッター!」

ザシュッという音と共に木に裂け目ができた。

近場にある一番大きな、一抱えくらいの太さのある木に試してみたが、一発でとはいかない。

というか斧の一撃とあまり変わらない。レベル2なのにちょっとしょっぱい。

カッターをもっと細くして切れ味をよくして――【エアカッター】発動!

切れる深さが余計に減った……

じゃあそのままにして魔力を多く、集中して――【エアカッター(強)】発動!

切れ幅は増したが、ちょっと込める魔力に対して切れる部分が少ないな。

さらに込める魔力を増強してみる。

目当ての木は綺麗に切断されたが、その向こう側の木もついでに被害を被っていた。

威力がなければ切断できないし、威力が大きすぎればそのまま飛んでいってしまう。木ごとにきっちりと威力の調整とかはできそうもない。

一人でやるならいいけど、こういう作業は誰かしら一緒にやるから誤射が怖い。日常作業に使うには少々威力が高すぎる。

発射方向を地面に向ければ危険度は減るだろうか。

だが数をこなすのにも強化型だと消費魔力も馬鹿にならんな。

木こりが出来そうな、木こり専用の召喚獣……カマキリ型の魔物とか?

だがもちろん手元にはいないし、木こりをするために召喚獣を探し求めるなどと、そもそも楽がしたいのに本末転倒すぎる。

うーん、いいアイデアが思い浮かばんな。とりあえずゴーレム出してやらせておくか。

三メートル級のゴーレムを召喚して、古い方の斧を持たせる。

パワーだけはあるから、木こりくらい楽勝だろう。

「いけ、ゴーレム!」

と言っても勝手には動かない。こっちでコントロールしないと微妙な作業はやってくれない。

斧を振りかぶらせて、エアカッターの実験台にした木に思いっきり打ちつけた。

ベキッといい音がして斧の柄が折れた。力を込めすぎた……

ゴーレムにやらせるなら専用の装備がいるな。人間用ではヤワすぎる。

鍛冶屋で頼んで巨大斧を作ってもらおうか。

ゴーレム用の装備はいいかもな。

いや、自作でいいのか。また土魔法の出番だ。

土を集め、ゴーレムに見合うサイズの巨大な石斧を形成する。

ゴーレムの手は人の手を模してあり、きちんと動きはするが、器用さはゼロだ。握りもゴーレムの手に合わせた形状にしてすっぽ抜けたりしないように試行錯誤して調整する。

形はそれっぽいものが出来たが材質はただの石。簡単には壊れないように硬化魔法で念入りに固めておく。

斧の強度を確かめながら木を切ってみるといい感じだ。自分で切るのとそうペースは変わらないが、休む必要がない分効率がいい。そして俺は監督していればいいから楽だ。

それにゴーレムに武器を持たせるのはいいアイデアだな。斧は片手で扱えるから盾を持たせれば、オークキングあたりにも少しは対抗できるかもしれない。

木こりは一旦中断して、盾も土魔法で作って持たせてみる。

いいかもしれん。問題は武器を作るのに魔力はいいとして、結構時間を食う点だな。

それに俺が操作しないとまともに動かないのと、動作が遅いのはどうしようもない。

実用になるかどうかは使い方次第だろうな。攻城戦や敵を待ち受ける戦闘で大型ゴーレムに武器を持たせれば、戦術の幅が広がるかもしれない。

やはり武器は鍛冶屋に依頼するか?

だがそうすると運用するゴーレムの数やサイズに柔軟性を持たせようとすれば必要な数が――

「あら、ゴーレム?」

ゴーレムの武器を使った戦闘法を考えたり試したりしてるうちにエリーとサティが戻ってきた。

「うん。土魔法でゴーレム用の武器を作ってみた」

練習して動かし方も慣れてきた。もうちょっと慣れれば実戦でもいけそうだ。

「すごく強そうです!」

三メートル級のゴーレムが巨大な盾と斧を構え、振るう姿は実に迫力がある。

「使えそうなの?」

「状況次第でってところだな」

結局のところただぶん殴るのよりは多少は攻撃力があがる程度だし、防御力は増すにしろ、そのために準備に時間はかかる。魔力も余計に消費する。操作の手間もかかるから一体のみの操作になる。

普通の土メイジならそこまで手間をかけるなら、その分ゴーレムの数を揃えたほうが楽だし戦力は充実するかもしれない。

「それで家作りはどうなったのかしら?」

忘れてた。木こりしてたんだった。

「……家を作るのにまずはこの辺の木を切ろうと思ったんだ。でも一人でやるのはめんど……効率が悪かったんでゴーレムを使えばいいんじゃないかと思って斧を持たせたら普通の斧じゃゴーレムのパワーに耐え切れなくて武器を土魔法で作ったんだけど盾も作って持たせたらゴーレムが強化できるんじゃないかと思って色々試してた」

「つまり全然進んでないのね?」

「左様でございます……」

「手伝うわ。ちゃっちゃとやってしまいましょう」

「はい、エリザベス様」

やはり一人でやろうというのがそもそもの間違いだったのだ。

人数がいると早いな。特にサティ。

切り開かれ整地された山頂部分を前に家のサイズと間取りを改めて考える。

一階は玄関ホール、居間と応接間。それに食堂と調理場。

二階は書斎とか客間。

三階は俺たちの生活スペース。

それと地下室。ここは建物を作る際に使う土の分で勝手にできる穴の有効活用である。他から土を持ってきてもいいが、めんどくさい。倉庫にでもすればいいだろう。

イメージを固める。かなりの大きさだが、城壁作りで大型の建造物の作成にも慣れてきた。一気にいけるはずだ。

その代わりに形状をイメージしやすいように単純な箱状、内部の間取りも簡単に分けるだけにする。入り口も窓も何にもないが、細かいところはあとでやればいい。

「おお、すっきりしたのう」

荷解きが終わったらしく塔からみんなが飛び降りてきた。四階建ての屋上からである。

エルフ組も魔法使えるから平然としているが、ちょっと問題だな。こっちを建てたらいい加減に玄関くらい作っとくか……

大雑把に考えた間取りを説明して、特に異論もないようなので作成に取り掛かることにした。

みんなを離れた場所に退避させ、跪いて両手を地面につける。

必要となる膨大な魔力の集中を開始する。

土魔法のイメージに沿って魔力が大地に充満する。

魔力の発動にともなって大地が鳴動し始めた。

イメージと魔力の集中。今回はとりわけイメージが大事だ。

全員見に来ているのだ。失敗は出来ない。

いや気を散らしてはいけない。集中集中。

――気がつけば陸王亀を倒した時に匹敵するほどの魔力が消費されようとしていた。

ヤバイ。これ以上はヤバイ。

冬なのに冷や汗が流れ落ちる。

想定より魔力消費が大きい。一旦中止するか?

攻撃魔法じゃないから、ここで魔力を逃してもたぶん、目の前の地面がどうにかなる程度のはずだ。

ギリギリまで制御を――

魔力の集中がなんとか完了した。地面の微振動が静まる。

危ないところだった。なんで俺はこんなところでピンチになってんだろう?

しかし無事詠唱は完了した。仕上げは派手だ!

「 城塞建造!(ビルドフォートレス) 」

適当に考えた呪文名を合図に、轟音を発し地面が一気にせり上がった。土煙が舞い上がる。

土煙が収まったあとには、巨大な箱が出現していた。

土が茶色かったし、のっぺりしてるから見た目はダンボール箱のようだ。

壁に手をつけてアースソナーで構造をチェック――強度や壁の厚さも完全にイメージ通り。

たぶん壁の強度を高めるのに思ったより魔力を使ってしまったのだろう。やはりぶっつけ本番の魔法は危険だな……

「どうかね、諸君。我が土魔法の威力は!」

だが冷や汗をかいたことはおくびにも出さず、見学者たちにさらっと披露しておく。

「マサル様、すごいです!」

そうだろうそうだろう。

「妾の言った通りじゃろう、ティトスよ」

「はい、本当に凄まじいとしか言いようがありません」

何がどう言った通りなのかは知らんが、感心してくれるのはいいことだ。

「これはもう住めるのか?」

「見ての通り入り口もまだだしね。ここから内装を整えるのが大変で」

「それならば内装は我らエルフにお任せください。すぐに職人を手配いたしましょう」

どうしようか。自分である程度やろうと思っていたが、派手に作ってみせたことで面目は保てた。もうここから人にぶん投げても俺の威厳は損なわれないだろう。

「ならお願いしようかな」

でも入り口だけは作っておこう。