軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

113話 出立の準備

朝食後は一家で集まって今日の予定の確認である。

もちろんリリ様も参加だ。出立の準備はもういいらしい。何かやっている風には見えなかったから、相変わらずティトスさんあたりにお任せなのだろうか。

だがそのあたりの事情に関しては一旦脇に置いておくことにする。とにかくエルフの里での用事を早く終わらせて、このアウェイの地から我が家に帰りたいのだ。

「戻ったら家を作ろうと思うんだが」

リリ様のこともあるが、領主になるなら今の塔ではどうしたって手狭だ。

「そうね。今度はもっと豪邸にしましょう」

「うーん。それは仕方ないんだけど今の家もやっと住み心地が良くなってきたのに」

「そんなにすぐには出来ないし、当分は今のままだな」

ただ家を建てるだけなら土魔法があれば実に簡単だ。問題は内装である。

土魔法で作っただけでは家というより倉庫かただの箱で、雨露がしのげればいい旅ならともかく、快適な住環境を実現するには、一からやるとなるとかなりの手間暇がかかる。

誰が手間をかけるかというと、俺かアンである。

土魔法でやる作業以外にも、必要な家具を一つ買うだけのことでも、例えばベッド。サイズや耐久性、使い心地、マットの種類や布団やシーツ。他の家具との調和も考えないといけない。

予算も考慮する必要がある。工場での大量生産品などないこの世界では、安い物は本当に品質が悪いし、だからって高級品を選ぶと馬鹿高い。

サティやティリカじゃ手に余るし、エリーは一番いい品を指さして、これがいい!とか言って買ってきそうだ。任せられない。

だがアンは我が家で一番忙しい。家事全般をサティとともにやっているし、冒険者をやるための訓練や神官としての活動もある。塔のほうですらまだまだ未完成だし、これ以上負担をかけるわけにもいかない。

「大体の要領は分かったし、家具とかは貰ったのがあるだろう? 新しい家は俺がやっとくよ」

塔を作ったことで経験を積んだし、エルフに貰った家具もある。予算も潤沢だ。急いで作る必要もない。

また仕事が増えたが今後何年も暮らすことになりそうだし、ちょっと気合をいれて作ってみることにしよう。

家作りは俺に一任。もちろん手伝えるところは手伝って貰うつもりだが。

あとはオルバさんや伯爵に報告に行ったり、冒険者ギルドへと行ったりと一人メンバーが増えたとてやることはこれまでとそう違いはない。

「冒険にはいつ行くのじゃ? クエストはもうないのか?」

「クエストなんて滅多にないですよ? それに冒険者稼業は冬の間はお休みです」

まあ俺の冬休みはどこ行った状態なのだが。領地関連の作業が一段落ついたら暇になると思いたい。

「なんじゃと……楽しみにしておったのに……」

休みじゃないにしてもいきなり冒険はない。スキルを取って修行してからだな。

「休みと言っても仕事はありますし、修行もするんですよ」

「そうじゃな。修行は大事じゃな」

仕事は大事じゃないのだろうか。

「修行の一環で魔物の討伐はやってもらおうと思ってます」

ちょっとがっかりしてるようなのでそう付け加えておく。

「そうか! 修行は得意じゃ任せておけ!」

修行が得意とか意味がわからんが、そう言うなら軍曹殿のブートキャンプはどうだろうな。リリ様が前衛をやるなら、あれは戦士の修行としては最強だと思うんだ。

でもエルフの姫に隷属の首輪はまずいか……手っ取り早くていい考えかと少し思ったが無理そうだな。

大雑把に今日の予定を決めてから、まずは俺たち専用の宝物庫へと移動した。

現時点で何が必要かわからなかったので、家具類は全部回収しておく。

自給自足に近い生活を送っているだけあって、その他の必要そうな物もだいたい揃っていた。

食器や調理器具。細々した日用雑貨。

質のいいタオルの詰め合わせがあったのは収穫だった。

小物は全部適当な箱や袋にひとまとめにして詰めこむ。そうすればアイテムボックス内では1個という扱いで、枠をあまり圧迫しない。いい加減な仕様というかフレキシビリティーにあふれているというか。

あんまり厳密に判定されても困るから文句はないのだが。

部屋のほとんどのスペースを埋めていた家具や小物群がアイテムボックスの中へと消えてずいぶんとすっきりした。

続いて武具も見て回る。弓などはさすがの品揃いだったが、剣や槍が少ない。

剣はどれも品質はいいのだが装飾重視の軽めの剣が多かった。エルフの体力に合わせてあるのだろう。

数少ない大型の剣の中から一本、前の剣に近い物がみつかったので自分用に貰っておくことにする。少々装飾過多だが剣自体の切れ味は良さそうだし、握りやバランスも申し分ない。

金目の物を大量に家に置くことがネックだったのだが、もう遠慮しても意味がないし、家具だけ全部持って帰って他のを置いて行くのも武具職人の人に悪いだろう。

武器類も根こそぎ頂いていくことにする。

短剣に槍、斧もあった。斧は木こり用に使えそうだ。少々勿体ない気もするが。

「リリ様、ミスリル銀やオリハルコン製の武器はないんですか?」

「魔法金属は我らはほとんど使わんから作っておらんな」

聞けば魔法に耐えうる金属の加工はドワーフの独占技術なのだそうだ。

当座はさっき見つけた剣でいいとして、魔法剣が使える剣は探しにいかないとだめだな。

俺が槍を見ている間、サティは弓をチェックしていた。

アンは良さげな盾を見つけたようだ。メイスはなかった。エルフは鈍器は使わないんだろう。

エリーは欲しいものに既に目星をつけていたようで、すぐに杖を選んで手にしていた。

ティリカは魔法使い用のローブを手の空いたエリーに選んでもらっている。

「ティリカ、これを使いなさい。かなりいいローブだわ」

エリーが魔法使い用のローブを見つけてきた。

ティリカのは安物なので、いいのがあるなら取替だな。

「わたしはこの杖」

そう言って、地味な杖を見せてくれた。今使ってるのとそんなに変わらん気がするが、特殊な素材が使われておりかなり良い品だそうだ。

魔法を使うときに杖を愛用しているのはエリーだけである。

エリー曰く、魔力の集中がしやすくなるんだそうだ。何か利点はあるんだろう。

「サティ、いい弓があったか?」

真剣な顔で弓をチェックしているサティに聞くとふるふると首を振る。

「もっと強い弓が……」

今使っている教官に貰った弓もいい品で不満もないんだが、今回みたいな拠点防衛で使う用にもっと強い弓が欲しいそうな。

「ならあとで弓の店も見に行くとするかの」

「そういえば、リリ様の装備は?」

「妾は弓も剣も使えんしいらんじゃろう?」

そう言うリリ様の今の装備は上等ではあるが、防御力の低そうなただの服だ。

「冒険者になるなら防具は必須ですよ」

「精霊が守ってくれる」

「盾役をするならあったほうがいいんじゃないですか? サティにぶち抜かれてたでしょうに」

「む、むう」

防具の中にフルプレートメイルが何点かあり、中の一番小さいサイズのものがリリ様に合いそうだ。盾役をするなら防御重視だ。

「これなんかどうです?」

鋼鉄製だろうか。銀色に輝く美しいフォルムの全身鎧である。

サティと協力して、リリ様に鎧を装着していき、ツインテールもほどいてヘルムもすっぽり被せ、適当な盾を持たせれば完成である。

サイズは多少調整が必要だが、使用感を確かめるくらいなら問題はなさそうだ。

「お、重い」

問題は重すぎて身動きすらままならないことか……

補助しつつなんとか動いてもらったのだが、すぐにヘルムの内側からこもった呼吸音がぜぇぜぇと聞こえてきた。

ちゃんとしたフルプレートアーマーは非常に重い。盾込みだと五〇kgくらいはいくかもしれない。

全く鍛えてない人だと身動きもままならないし、倒れれば起き上がることすらできなくなる。

「一応持って帰りましょうか」

リリ様が脱いだ鎧を箱に放り込んでおく。肉体強化にポイントを振れば重い鎧も何とかなるかもしれないし。

「持って行っても使えんと思うがのう」

戦闘スタイルをどう設定するにせよ、防具は絶対に必要だ。最低限、革装備くらいはしておいてもらわないと。

何にせよ防具も全部回収する。

武器や防具を用意してもらった箱に詰め込み終わると、あとはエリーとアンが見ている装飾品コーナーである。

「ど、どうしようかしら? こんなにいっぱい」

アンが俺が見に来たのに気がついて聞いてきた。

確かにテーブルの上にぎっしり並べられた宝飾品は四人で分配したとしても多すぎる。全員で付けられるだけ付けても余裕で余りそうだ。

「とりあえず全部持って帰っとけばいいんじゃないか?」

他のも丸ごと持っていくんだし、これも貰っていけばいいと思うんだが。

「ダメよ! そんなに贅沢しちゃ!」

必要な物資はともかく、贅沢品をもらうのには葛藤があるようだ。

エリーならともかく、宝石をジャラジャラつけてる神官とかいたら確かに嫌だが。

「じゃあ欲しいのだけ選んで持って帰る?」

「そうね……どれにしよう……」

「これとかどうかしら?」

俺の意見をいれて、エリーとアンが即座に選定に入った。

一個一個確認しては二人であーだこーだと言い合っている。長くなりそうだ。

そんなに欲しければ全部持って帰ればいいのに。

サティのはこれが似合いそうだと俺が渡したネックレスで満足したようで、ティリカも色違いでお揃いを選んだ。アンとエリーはまだまだかかりそうである。

「俺たち、他行ってるからゆっくり選ぶといいよ」

付き合っていられない。二人は置いて行くことにした。ティリカの召喚獣のねずみを連絡用に預けて行く。

「じゃあ次は弓と馬具じゃな」

ティトスさんが護衛につき、城の外へと向かう。

城は外から見ると巨大で地上からだと全貌がわからないくらいで、白い石材か何かで統一されていて、非常に美しい。城の周辺は建物がいくつか立ち並び、エルフが行き来している。正面は広場になっていて、あとは木と畑が広がる田園風景で、町じゃなくて里という呼び名が相応しい眺めだ。

家は森や畑の合間に散して建てられていて人口密度は低そうだ。

「職人街はあっちじゃ」

そう言ってリリ様が指差す方向には、農地と林が広がるばかりで里の外壁くらいしか見えない。

どうするのかと思ったらリリ様がフライを発動してひとっ飛びである。

エルフの住宅は壁に沿って多く建てられているようで、職人街も壁の近くに設置されていた。

町並みはこれまで見た異世界の町とそう違いはない石造りだが、道がどれも細い。

馬車を使うことがほとんどないそうなので、道を広くする意味がないのだという。

それにエルフの里はそれなりに広大だとはいえ、農地も含めるとそうそう土地に余裕がない。普通だと壁の外に農地を作って壁の中が居住区となるのだが、魔境に近いここだとそれも無理なんだそうだ。

というか外に農地がなくてよかったよ。それらしいものがなかったからがんがん範囲魔法ぶっ放してたけど、普通の町なら農地が壊滅してるところだったわ。

農地があったとしたら当然魔物が踏み荒らしただろうけど、俺のメテオの方が確実に被害が甚大だったろう。

そんなことを話したり考えたりしてるうちに弓のお店に到着した。

弓の専門店というか、工房だな。完成品の展示とともに、作りかけの弓や道具類、素材などが所狭しと置いてある。

「おお、これはこれはリリ様に英雄殿! ささ、ゆっくりと見ていってください」

工房主のエルフに大歓迎された。

さっそくサティの希望を説明する。

「サティ様の体格に合うのであれば、こちらの弓が一番強度がありますが」

だがサティは引いてみて気に入らないようだ。

工房主が一回り大きい弓を出してきたが、それもダメだという。もっと強いのをと。

「ではこれがうちにある一番強い弓です」

そういってサティの身長の倍はあろうかという馬鹿でかい弓を持ち出してきた。

「こいつはさっきの弓の五倍以上の張りがあります。人力では絶対に引けません」

なんでそんな弓置いてるんだよ……

工房主がニヤリと笑いながらサティに弓を手渡す。

「アサルトリザードの角のいいのが入ったので試しに作ってみたのです……がっ!?」

サティがその大弓をゆっくりとギリギリと引いていくのを見て、工房主が驚きの声を上げた。

だがほんの少し引けただけか。

うーうー言いながら必死に力を込めているが、サティでもそれ以上引くのは無理なようだ。

「魔法……は発動してない。そもそも獣人に魔法が使えるはずが……」

魔法? もしかしてレヴィテーションを使うのか。

「サティ、レヴィテーションだ」

「はい」

もう一度構え直し、サティがレヴィテーションを発動させ、弓が一気に引き絞られた。

エルフは全員メイジだそうだし、機械式にするよりも使い勝手はいいのかもしれない。

「使えないこともないですが、魔法の調節が難しいです」

弦を戻してサティが言う。

サティのメニューをチェックしてみると、ごっそりとMPが減っている。撃てて三発ってところか。

実際作ってみたはいいが、扱いの難しさと重さが不評で使い手がいないという。

専用の鋼鉄の矢も加えれば、持ち運びも困難になる。そして拠点で使うなら手に持つ弓に拘る必要もないし、攻撃魔法もある。

俺も貸してもらって試してみるが、俺の力だとぴくりともしない。

レヴィテーションを発動してみるが、引くだけでも加減が難しい。その上敵に狙いを定めるのは相当な熟練がいりそうだ。

「強さは――サイズを――」

俺が角弓で遊んでいる間にサティと工房主が弓の仕様を相談していた。

「この強度で――サイズがこれくらいとなると――材質を――」

「あの、おいくらですか?」

相談がまとまり、サティがおそるおそる値段を尋ねる。エルフの弓の特注品を作るのだ。それなりの値段だろう。

「お金なんて頂けません! ご希望でしたら一〇でも一〇〇でも無料でお作りしますよ!」

「お金のことは気にするな。必要ならすべて我らが負担する」

ちなみにエルフ製の弓の値段であるが、特注品は別として案外普通の値段だ。もちろん高級品なりの値段はするが、外で買うのと変わりがない。

「エルフしか買えんし、外で勝手に売るのは禁止されておる。生産力が高くないから、あまり持ち出されては里での物資が足りなくなるのじゃ」

「じゃあ俺の貰ったのも売ったりしたらまずいです?」

「それは好きにして構わんぞ。あくまで転売目的での購入を禁止しておるだけじゃからの」

なるほど。外に持ち出せば転売で簡単にボロ儲けできそうだ。

それでエルフの使う品まで持ち出されては困るだろう。

「この弓もぜひお持ちください! 専用の矢もつけますので!」

工房を出る時、さっきの大弓を押し付けられた。

名をアサルトリザードの角弓という。

まあサティは喜んで受け取っていたし、そのうち役に立つこともあるかもしれない。アイテムボックスに仕舞っておけば邪魔にならないだろうし。

次は馬具屋である。といっても馬具の店ではなくて、革細工の工房のようだ。革の防具なども並べてあり、むしろ防具がメインだろうか。

「店主! 馬具が欲しい」

「はっ、リリ様」

工房の裏にある庭に回って、秘密厳守を約束させてからマツカゼを召喚して見せる。

「ほほう。いい馬ですな」

目の前で馬が現れて驚いたようだが、召喚に関してはスルーして仕事に集中することにしたようだ。

手早く採寸をして在庫にあった鞍を持ってきて調整を始めた。

マツカゼに関しては普通サイズなので、それで対応できた。

調整が終わった鞍などをアイテムボックスに仕舞い、マツカゼも消し、マツカゼ(大)を召喚し直す。

「召喚魔法というのも便利そうですな……ああっ!?」

馬というのにも巨大すぎるマツカゼ(大)を見て腰を抜かさんばかりに驚いている。

やっぱりこれが普通の反応か……

「魔物……いや……馬、ですな。これは馬で馬具を……このサイズとなると……」

「普通の鞍に、それと五……六人くらい乗れる感じの鞍が作れませんかね」

リリ様が加わって六人になったんだった。

「これだけの巨体なら……複数人用の通常の鞍と、輿のようなものもあるといいかもしれませんな」

なるほど。象に乗っけるやつみたいな感じか。いいかもしれない。

鞍は急げば今日中にでも作れないこともないが、輿も含めて三日は欲しいという。

それで四、五日後に一度見に来て、微調整することになった。

で、こっちの用件が終わって、エリーとアンはどうだろうとティリカに聞いてみると、まだ選んでいた。

「回収!」

「「ああっ!?」」

城の宝物庫に戻ってもまだ決めてなかったので、全部回収しておいた。

あとはリリ様の荷物を回収すれば、エルフの里でやることは終わり、出立の準備は完了。ようやく家に戻れる。