軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

108話 精霊の歌

家具と武器を適当に調べていると、城内に沢山の人が集まりつつあるのに探知で気がついた。きっと式典に参加するエルフたちなのだろう。

「あの、リリ様。式典って必要なんですかね? お礼ももう十分頂きましたし、俺たちのことがあまり広まったりするのも困るんですが」

贈り物のチェックをしているのを待っていてくれたリリ様のところへと行き、声をかけた。

「すまぬが戦勝式典はやってもらわないと困る。皆が礼を言いたがっておるのじゃ。個別にするよりはいいじゃろ?」

確かに個別にやるよりは一気にやるほうがまだマシではあるが。

「情報に関しては箝口令を出しておるから、マサルたちのことがエルフから外部に漏れることはないじゃろう」

それなら少しくらいは我慢するか。式典中はエリーの後ろにでも隠れて気配を殺していよう。

「じゃが式典の前にマサルに聞きたいことがある。クエストとはなんじゃ?」

クエスト。探求、任務。この場合なら任務が近いだろうか。普通に意味は通じるようだが、こちらではあまり使わない言葉らしい。

里での戦闘が終わってクエストをクリアしたと、ぽろっと漏らしたのをしっかり覚えていたのか。バタバタした中でもう忘れてるかと思ったし、よしんば覚えていても特にどうということもないかと考えていたのだが。

「ギルドの仕事とか、だった気がするなあ……」

「冒険者ギルドに知らせが行ったのは妾たちが砦についた後。マサルたちが新しく依頼を受ける暇はなかったはずじゃ。それになぜあのタイミングでクリアしたと言った? よくよく考えてみれば、あの時点では正面の敵の敗走はわかったかもしれぬが、全体の戦闘の終結まではわかるはずもない。単なる一時的な後退かもしれぬではないか? それを状況から判断したにしてはひどく確信があるように見えたぞ」

確かにちょっと変なタイミングだったかもしれない。

「それにクエストじゃ。冒険者ギルドで聞いたが、ギルドは通常では依頼といい、クエストという言い方はせんそうじゃ。誰がそなたらにクエストとやらを依頼した? その内容はなんじゃ?」

全部教えて黙っておいてもらうか、黙秘権を行使するか……

だがこの尋問、どういう意図があるのだろうか。

「そなたらの見せた力、どれも尋常ではなかった。話に聞くかつての勇者でもこれほど派手な力は持っていなかったというぞ」

勇者。やっぱりのその言葉が出てくるのか。

「あのですね、リリ様」

どうしたものか。みんなと相談したところで情報の扱いを決めるのは結局俺の役目だし。

構わずリリ様は続ける。

「魔境の様子がきな臭いと古老がいうのじゃ。もしや魔王が復活したのかもしれぬと」

「魔物が大規模に攻め込んできたのは私が生まれてからも何度もありました。ですが今回は陸王亀のこともあります。魔物が再び、魔王の元に糾合されたのかもしれないと里でも一番の年寄りが言っているのを最初は馬鹿なことをと思ったのですが、姫様の話を聞くとあながちそうとも言い切れなく……」

ティトスさんがもうちょっと詳しく説明してくれた。

魔王。本当に魔王が誕生したのだろうか。

サティとティリカがこちらの様子がおかしいのに気がついたのかやってきた。

「数百年前。かつて、魔王が生まれし時、神が勇者を遣わし、魔王を打ち破った」

「魔王が復活したと?」

いかん。ちょっと胃がきゅーんってなってきた。気分が悪い。

アンとエリーも何事かと戻ってきた。

「わからぬ。じゃがマサルが勇者ならば、魔王が復活したと考えるのが妥当じゃろうと、妾は思ったのじゃ」

「それじゃ順序が逆でしょう。それに俺は勇者じゃありませんよ。な、ティリカ」

「この目に誓ってマサルは勇者ではない」

よし、ナイスフォローだ、ティリカ。真偽官の太鼓判ならリリ様も疑わないだろう。

「ちょっと普通より力があるくらいで勇者っていうのは短絡的じゃないでしょうか。それになんで俺限定なんです? 他のみんなも力は見劣りしないでしょう?」

ドラゴンを呼べるティリカや、勇者大好きエリーなんかが勇者候補としてオススメだ。

「クエストのことを言ったのはマサルじゃし、重要な決断はすべてマサルがしておったではないか」

あの全力を出しきらねばいけなかった状況下で、そこまで気を回す余裕なんてなかったな。それに今日も俺が全部決めてたわ。

「マサルの力を見れば勇者じゃないかって考えるのはわかりますけど、それは間違いですわ、リリ様」

戻ってきたエリーもそう言ってフォローしてくれる。

「じゃが普通の冒険者が何一つ報酬も求めず、命をかけるのか? 他の冒険者は報酬をやると言うと大喜びで受け取っておったぞ。それになぜ力を隠したがる? 神官と真偽官が一緒なのも、嫁じゃと言うがいかにも怪しい」

「俺、途中で逃げようとしたじゃないですか。それを踏みとどまったのは説得されたからですよ。報酬をいらないと言ったのはギルドから貰える分と持ち帰ったドラゴン二頭で十分だったからですし、力を見せないのはこんな面倒事に巻き込まれないためですよ。二人が嫁なのはたまたまです」

報酬か。里の戦闘では経験値が物凄く手に入ったからな。それにクエストのクリア報酬もあったし、ドラゴンも手に入ったし、何よりさっさと家に戻りたかった。

それに普通の冒険者も無償で命をかけそうな気がするぞ? ティトスさんに雇われた冒険者とか。

「そうか……勇者ならば魔族側に情報が漏れては危険なのじゃろうと思って、みなにしっかりと口止めをしたのじゃが」

「口止めはいいとして、勇者のことは他の人には?」

「勇者に関する話はティトスとパトス以外には言っておらん。大事じゃからまずは確認と思っての」

ならそっちは大丈夫か。だがもし魔族がいたとして、俺が勇者じゃないにしても使徒だってバレたら。それでなくてもこの前の戦いでは派手にやったし、目を付けられてもおかしくない。

「俺が魔族に目を付けられる可能性ってあるんですかね?」

「そのことも話そうと思っておったのじゃ。だいぶ派手にやったからのう。エルフから情報が漏れる心配はないが、戦場で見られておるかもしれんし、注意はしたほうがよい」

見られただろうか? 大規模な魔法は城壁に隠れながら撃っていたし、見える範囲の敵はほぼ殲滅できていたはずだ。普通に戦っていた部分では目を付けられる理由はあまりないだろう。エルフにしてもフレアクラスの使い手が何人もいるのだ。

「魔族って本当にいるんですか?」

「いる。エルフ族の裏切り者のことは話したな? かなり昔じゃが実際に戦ったエルフもおるそうじゃ。それにやつらは肌が黒くて胸が大きいエルフというだけで見た目は普通に人族に紛れるし、時折人族の領域にも侵入してくるらしいのじゃ」

防衛戦のあと、魔族の話を色々調べたんだそうだ。

「それってまずくないですか?」

「わからぬ。魔族に関しては本当に情報が少ないのじゃ。我らが裏切り者を見つけたら即殺し合いで生きて捕獲など一度もなかったそうじゃ。しかし本当に違うのか? もし勇者ならば仲間に入れてもらおうと思っておったのに」

なるほど。エリーと同じ、勇者の仲間になりたい派だったか。

「王女が冒険者なんて許されるはずがないでしょう?」

自分のことを棚に上げてエリーがそう言う。

「もしマサル様が本当に勇者で、勇者足りえる人物であれば、姫様を託せると思ったのです」

「マサルはティトスも、他のすべての報酬も跳ねのけた。これはきっと間違いなかろうと思ったのじゃ。それにマサルには命を救われておるからな。命の恩には命をもって報いねばならぬ」

今日の序盤の報酬を片っ端から断ったのもまずかったのか。普通の人ならきっと大喜びなんだろうが、俺にとってはいらないものとか貰えないものばっかり出してくるんだものな。

命を助けたのは最後のドラゴンの時のことか。そりゃ自爆攻撃しようとしてたら止めるだろうさ。

「勇者なれば、王も同行を許さざるを得なかったでしょう」

「俺は勇者じゃありませんけどね」

「それではマサル様、クエストのことはどうなのでしょう?」

あー、そうだね。ティトスさんはとてもいいところに気がつくね!

「そうじゃ! そもそもそのことが疑問じゃったのじゃ!」

クエストはどこから受けたのだろう。謎の組織からの指令が直接脳内に。それともただの俺の妄想ってことならどうだろう。中二病ごっこをしてましたとか。

「クエストはですね……」

今考える。考えてるから。

「クエストとはなんじゃ?」

「ええっとですね」

そうだ。クエストは依頼の俺の地方の方言ってことにして、戦闘が終結したのがわかったのは俺の探知スキルのせいにしよう。でもちょっと苦しいか……? 嘘をつくのはティリカ嫌がるし、探知スキルを見せてみろって言われてもそこまでの範囲はもちろんないし。

もう知らねーって適当に言っとくか。俺は勇者じゃないし、クエストは極秘事項。何も言うつもりはないと。それでいいな。

疑惑は晴れないだろうが、別に悪いことをしているわけじゃないのだ。追求される謂れもないだろう。

俺がそう考えたあたりでパトスさんが俺たちを呼びにやってきた。

「姫様。式典の用意が整いました。マサル様たちを案内せよと王の仰せです」

「式典ですね! 皆さん待ってるんでしょう? 急ぎましょう!」

式典が終わったら適当に誤魔化して一旦逃げよう。開拓の話は後回しでいいや。たぶん認めてもらえるだろうし。

黙っててくれるなら話してもいいかとも思うのだが、パーティに入りたがるとなると話は別だ。エルフの王女とか面倒の種になるとしか思えない。

「まあよい。じゃが、後で絶対に話してもらうぞ?」

いっそ式典もばっくれちゃうかなあ。別に俺一人いなくても、四人も残っていれば大丈夫だよな?

あっちの窓から……いや、転移魔法を試してみようかな。

挙動不審な俺をエリーが見ているのに気がついた。目が合う。これは逃走経路を探していたのがバレたな……

「マサル、またなの?」

またとはいうが、実際に逃げたことは一度もないだろ!

「いやあ、なんていうか気分がすぐれないんだよね」

「アン、反対側を」

そう言ってエリーに片方の腕を掴まれ、アンにもう反対側を抑えられた。

「気分が悪いならヒールかけよっか?」

精神的なものですので……

「大丈夫なのか?」

リリ様が心配して聞いてくる。

「マサルは式典とかそういう目立つ場が本当に苦手なんです」

「今逃げようとしてましたわ。油断も隙もない」

「待ってようかとちょっと思っただけだよ!」

できれば家に先に帰って。

「済まぬがもう少し付き合って欲しい」

「もちろんですわ。さ、マサル。行くわよ!」

「はい……」

しっかりと二人に腕を抱えられ、城の廊下をリリ様たちから少し遅れて進む。ぎゅっと体も押し付けられて、普段であるなら大変に気持ちのいいシチュエーションなのだが、この先のことを思うとあまりうれしくない。

「それにしても、ティトスさんは惜しかったんじゃない、マサル?」

エリーが顔を近寄せてきて、そんなことを言う。リリ様たちとは距離があるし話が聞かれることもないだろう。

「ちょっと粗相をしたくらいで奴隷とかダメだろう」

「それはそうなんだけど、ハーレムを増やすチャンスだったじゃない? 戦力にもなりそうな人だし」

「ハーレム増やしていいの!?」

「ダメとは言わないわよ。この前の戦いはかなり厳しかったし」

いまの五人でも火力は圧倒的だし、十分やっていけると思っていたのだが、それでもこの前の戦いでは不足だったのだ。

「アンはどう思う?」

「私もパーティメンバーを増やすのは必要だと思う。前もそんな話はあったでしょう」

マジか。もらっておけばよかったのか……今から欲しいって言ってもいいかな? でも無理やり奴隷にして愛がないのも嫌だしなあ。

「戦力目当てで奴隷にするのもね」

「でも一〇人くらい奴隷を増やせば手っ取り早いわよね」

考えたこともあるんだが、何の能力もない奴隷たちが突然比類なき戦闘集団に変貌する。それはどう考えてもかなり怪しい。まあこれはどうしても戦力が欲しい時の最終手段だろうな。

「それがかわいい女の子ばっかりで、俺が手を出しても?」

「ちゃんと面倒を見るならいいわよ」

「必要なら仕方ないしね。加護のことも考えると四人で終わるとは最初から思ってないし、男はマサルが嫌でしょ」

アンが加護の部分をことさら小声で言った。

男はかなり嫌だな。選り好みできない状況なら仕方がないが、出来るなら全力で回避したい。

「本当に大丈夫? 怒らない?」

「思うところはあるけど、命がかかってるのよ」

「マサルが私たちを大事にしてくれるのはわかってるしね」

「サティとティリカはどうかな?」

「大丈夫じゃないかな? 四人でこの話はしたことがあるし」

そうアンが答える。

うーむ。でも先の話だな。今はまだ新婚生活を楽しみたいし、四人で満足なんだよね。世界の破滅も当分先だし。

「今回はいいや。別に急ぐこともないよ」

これは歩きながらできる話でもないし、またあとでゆっくり相談しよう。

廊下を巡り、階段を二階分降りるとそこは玄関ホールだろうか。外へと開放された扉と反対側には巨大な扉。扉の脇には衛兵も立っている。

そして扉の向こうには多数の人の気配。

「魔力がすごいわね」

「里中のエルフと精霊が集まってきておるからの」

それにしてはなんだろうこれ。魔力がざわめいている? 魔法を使うときに魔力を集めているのとも違う感じだ。大量の魔法使いがいるからか、それともこれが精霊の本来の魔力なんだろうか。

ティトスパトスの両名により、大きな扉が開けられる。

巨大なホールにぎっしりとひしめく大量のエルフ。中央だけ通路が開けられ、その先にはエルフ王たちが立っているのが見えた。

ざわめいていた室内が一瞬にして静かになり、こちらに注目が集まる。

ここを歩いて王の前まで行くのか……

それにしてもホールに満ちる魔力が心持ち高まっているように感じるのは気のせいか?

リリ様を先頭にホールに足を踏み入れる。腕は離してもらっているが、さすがにもう逃げられない。気配を全力で殺すのが精一杯の抵抗である。

徐々に高まる魔力に反して静まり返るホールを歩く。精霊らしきものがたくさん見えるが、多すぎて混じりあい、個々の姿はよくわからない。

そしてやはり段々とホール内の魔力が強くなっている。

「音が……?」

サティがつぶやく。そう、たしかに何かの音が聞える。なにかの音楽……歌のような……

ホールの中央付近で、先頭のリリ様がついに立ち止まった。

「歌?」

エリーも周りを見渡して言う。

「歌……精霊の歌じゃ。妾の精霊も歌っておる」

魔力が一定のリズムで脈動して歌みたいに……?

ホールのエルフも目を見開いて俺たちのほうを見ていた。ホール中の精霊がどんどんとこちらへと集まってきている。

「精霊の歌……一度だけ聞いたことがあります。リリ様が生まれた時、たくさんの精霊が集い、祝福の歌を歌ったのです」

ティトスさんがそう言い、パトスさんも続けて言う。

「でも姫様の誕生した時でもこれほどたくさんの精霊じゃなかったです」

ホールに魔力が充満し、淡い光が満ちる。魔力が高まるがそれは危険や不安を感じさせるものではなく、そこからは精霊の喜びの感情が伝わってくる。

「妾は初めてじゃ。これが精霊の歌か……」

オーケストラの演奏にも似た、壮大な交響曲にも似た、だが楽器でもない、声でもない、魔力により紡がれた歌が、ホールに集ったすべての人間の頭に直接響き渡る。

歌が始まった当初のざわめきも途絶え、静謐な、無音のホールには複雑で美しい精霊の歌だけが聞こえた。

精霊の感情だけでなく、思いも直に伝わってくる。

ありがとう、ありがとう! 里を救ってくれてありがとう!

それはまるで無垢な子供のような純粋な思いだった。

俺たちを囲んだ精霊の直接的な感謝の気持ちに心が震える。

俺たちも、ホールに集ったすべてのエルフも、精霊の歌を全身で浴びるように感じ、聞き入った。

やがて精霊の祝福の歌は絶頂に達し、ゆるやかに弱まり、歌も止まった。

そして最後に精霊の声が響き渡る。

(神の加護を受けし者達に感謝を捧ぐ――)

「やはりそうなのじゃな!」

リリ様が振り向いて嬉しそうに俺に言う。

今の言葉、リリ様にも聞こえたのか。もしかしてホール中のエルフにも……

精霊の歌に聞き入り静まり返っていたホールにざわめきが戻ってくる。

エルフたちが互いに顔を見合わせ、今見た、感じた光景を一斉にしゃべりあい、それは俺たちにも漏れ聞こえてきた。

「これほどの精霊の歌が生きているうちに聞けるとは」

「最後に精霊の声が……」

「神の加護と?」

「神の加護を受けし者達としかとこの耳で」

「神に遣わされし英雄?」

「勇者……」

「勇者だ」

「神の加護を受けし勇者!」

「あの力、只者ではないと」

「勇者がエルフ族の元に降臨なされた!」

ああああああ、どうするのこれ!?

近くにいたエルフの一人が跪くと、それに釣られて連鎖的にホールにいたすべてのエルフが片膝をついていく。

もはや立っているのは俺たちとリリ様、王様と王妃、あとの二人は王子だろうか。

すべてのエルフが跪く中、王様たちがゆっくりとこちらへと歩いてくる。

「エルフの里を救った勇者よ! 神の加護を受けし者よ! エルフから永遠の感謝を捧げよう!」

そう言って王たちまでもが膝をつき頭を垂れた。

やっぱ逃げればよかった。