軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

106話 伯爵との交渉

翌朝、まずは砦に寄り、Aランク審査が終わってないかの確認のためにギルドへと立ち寄る。

Aランクともなれば交渉でもハッタリが効く。だが審査はまだ続行中のようだ。

「昨日、クライトン伯爵様からあなた方のパーティに関して問い合わせがありましたよ。そのうち仕事の依頼が行くかもしれません」

ランク審査のことを尋ねた後、応対してくれたいつものギルド職員がそう知らせてくれた。

「私たちの情報をペラペラしゃべってないでしょうね?」

「もちろんです。調べればわかる程度と、あとは非常に戦闘力が高く優秀だと教えておきました。でも土魔法に興味があるみたいでしたよ。依頼は建設関係かもしれませんね」

具体的な仕事の依頼があるならともかく、いくら領主の問い合わせでも必要以上の情報を提供することはないようだ。特に俺たちは情報を秘匿するようにお願いしてあるし。

「この後会うし、下調べでしょうね」

「直接の依頼ですか? なるべくならギルドを通してもらいたいのですが」

「別件よ。実は――」

エリーが開拓事業のことと、今日領主とそのことで話し合いに行くことを簡単に説明する。

「まさか引退は考えてませんよね?」

「しないわ。当面は代官を置くことになるわね」

「それならいいのですが」

「まあ今日の領主との交渉次第ね。開拓の規模は小さいから冒険者ギルドとはあまり関係のない話だけど、ちゃんと決まったらまた教えるわ。行きましょう、みんな」

■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■

「大きいなー」

空から見て素直な感想を述べる。

領主の住む町、ミヤガはこの地方最大の都市である。シオリイの町など比較にならない広大な土地にそれを囲う長大な壁。内部の建物もゆったりとした配置で道幅も広い。

中心部にある立派な建物が領主の館だろう。大きい庭もついており、鷹の目でよく見てみると、そこにはたくさんの人が集まっているようだ。祭りか集会でもあるのだろうか。

「なにマサル、大きい町を見たことがないの? 王都や帝国の都市はもっと大きいわよ?」

異世界にしてはってことなんだが、それは黙っているのが平和というものだろう。もっとも壁に囲まれた城塞都市なんて日本にはないし、なかなかに大きいと思ったのはまったくの本音だ。

「領主の館の場所もわかったし、そろそろ降りて町に入ろう」

大都市だけあって、門周辺の警備も厳重だ。武装した兵士が数十人詰めている。あまり空から近寄って警戒されるのも嬉しくないのでかなり手前で着地する。

壁の外にある農地も広大だ。冬季で作物は少ないようだが、何かの作業をしている人がちらほら見える。

人の行き交う街道を少し歩き、門に到達すると、兵士が集まってきてあっという間に取り囲まれた。

「伯爵様がお待ちだ。案内しよう」

昨日仮設村まで知らせを持ってきた来た騎士の一人だ。俺たちを待ち構えていたらしい。

門に居た沢山の兵士も大都市だからってわけでもなかったようだ。ミヤガの町のメインストリートを完全武装の兵士たちに囲まれ、丁重に護送される。

「これは脅しにかかってるわね。きっと威圧して、交渉を有利にしようって腹よ。びびっちゃだめよ、マサル」

エリーが小声で俺にささやく。

今日の装備はよそ行き用のただの服である。剣も町に入る前に仕舞っておいたのだが、これなら完全装備で来ればよかった。兵士は二〇人程度とはいえ、こちらは丸腰で防具もなく、至近距離でみっちり囲まれている。

彼らは特に敵意を示しているわけではないし丁寧ではあるが、明らかに警戒されている。通りにはお店も多いのに覗くこともできない。

「平気平気」

まあでもたかが二〇人だ。この程度で今更びびったりもしない。一人メイジがいるのが気になるが、隊長を含め兵士の練度はそこら辺の冒険者とそう変わりないようで、何人いたところで俺とサティの敵ではない。不意打ちでも食らわなければ対処は余裕だろう。

それに今日はただの話し合いのはずだし、あちらさんも実力行使は考えてはいないだろう。エリーの言うとおり、話し合いの前にちょっと圧力をかけておこうって腹なのだ。狡っ辛い。

その程度だと思っていたのだが領主の屋敷に到着し門を抜け見たものは、整列した完全武装の兵士の軍団。地上からだと数は不明だが、千以下ということはなさそうだ。

空から見て人が集まっていたように見えたのはこれか……

「これって」

「エルフの里に救援に向かった部隊が昨日帰還したのだ」

兵士の一人が教えてくれた。

緊急の呼び出しはこれを見せつけるためか。確かに普通の冒険者なら、これを見て領主に逆らおうなどと思わないだろう。Bランク程度の冒険者を脅すには十分な数だ。

だが俺たちの相手をするには足りない。千ではなく万単位を用意するべきだ。もしくは軍曹殿のように一騎当千の戦士を。

エルフの里の防衛戦の時のことを思えばこの程度、どうということもない。

しかしそれはそれとして、整然と居並ぶ兵士の前を盛大な注目を浴びつつ領主の前まで連れて行かれるのは、気分がいいものではない。ある意味効果はバツグンである。

領主がいたのは、練兵場の一角に建てられた百名程度が座れそうなスタンドの中央にあるボックス席、貴賓席だろうか。豪奢な服を着、偉そうに一人だけ座ってる中年男性が領主だろう。高い席から威圧するようにこちらを見下ろし、隣に立った男と何やら話をしている。

スタンドの階段をのぼり、貴賓席に案内され、領主の前に立つ。

交渉はもしかしてここでやるのか……

高い位置にある壇上からは兵士たちがよく見え、兵士からもこちらがよく見える。注目度は抜群である。

「貴様がマサル・ヤマノスか。Bランク冒険者。魔法剣士。土魔法が得意だそうだな」

低く、威圧するような声色。いかつい顔に整えられた顎ひげ。がっしりとした体つき。腰には剣を佩いている。一言で言えば武人だろうか。

「は、はい。本日は話し合いの席を設けていただきありがとうございます、クライトン伯爵」

挨拶をすれば俺の役目はとりあえず終了である。本日の話し合いはエリー主導でやってくれることになっている。

「まずは伯爵に友好の印として贈り物を。マサル、あれを出して頂戴」

貴賓席からすぐ下はグラウンドになっており、下にいる兵士に移動してもらえればこの場から直接出せそうだ。

「すいません、大きいのでスペースを空けてもらえますか? もっとです。もっと下がってください」

兵士たちからは何事だろうかと余計に注目を浴びる。だが巨大なドラゴンを出すのだ。間違って押し潰しでもしたら怪我どころでは済まない。

「首だけなんてケチくさいのはなしにしましょう。全部よ」

エリーのささやきに俺も頷く。

今のこの状況で首だけというのもないだろう。相手の圧倒的ホームで初っ端から押されている交渉を少しでも有利にする必要がある。別にこちらは押されているつもりもないが、あちらは完璧に優位に立っていると思っているはずだ。まあ武力的なことは置いておいて、こちらのほうが立場が弱いことには違いないんだが。

ようやくドラゴンを出せるだけのスペースが出来、エリーに頷いた。

「我々が先日狩った獲物ですわ。なかなかの大物ですので、伯爵と部下の方々でご賞味いただければと」

「贈り物が獲物とは冒険者らしいが、殊勝な心掛け……だ……」

少し出す位置が高かったようで、ズゥンと地響きを立てて出現した全長二〇メートルほどもあるドラゴンを見て伯爵の言葉が止まった。でかいので壇上から見ても顔が真正面である。グラウンドの兵士からはざわめき声が上がる。

ズタボロの死体とはいえ巨大なドラゴンが突然出現したのだ。驚くだろう。掴みはバッチリである。

「これだけあればすべての兵士の方々に提供しても十分足りますでしょう?」

「地竜……なんという巨大な」

エリーさんがドヤ顔である。自分で倒した獲物だものな。

「だがそれ以上に、これだけのものを収めてのける空間魔法とは……冒険者ギルドが優秀だと言ったのは本当のようだな」

椅子を指し示される。伯爵の正面に一つ。テーブルを挟んで差向いである。俺にそこに座れというのだろうか。たった一人で? だが伯爵側も座っているのは伯爵一人。他は後ろで控えて立っている。

「贈り物、しかと受け取った。後ほど皆で楽しませてもらうことにしよう」

座った俺に話しだす。ドラゴンでは多少驚いたくらいで動揺もないようだが、対応には改善が見られるようだ。最初の脅すような感じが消え、少なくとも交渉に足る相手だと認識されたのだろう。

伯爵の位置からは俺の背後の、全身をズタズタに切り裂かれて絶命している巨大なドラゴンが嫌でも目に入る。目障りでも解体するかメイジを何人も連れてこないと動かすこともできない。

とはいえ伯爵も数千の軍を率いているのだ。地竜一匹討伐できるくらいでは、客観的に見ても戦力の優位性が覆るというわけでもない。

「それで開拓の件なのですが」

「単刀直入に言おう。開拓した土地は私が買い取ろう。もちろん相応の値段でだ」

「えーと……」

単刀直入にすぎる。でも売らないって言ったほうがいいんだよな。売るって言ったら楽に終われそうな気がするが。

「売るつもりはありません」

言い淀んだ俺を見て、後ろに立ったエリーがすかさず割り込む。

「では開拓を許すわけにはいかんな」

「伯爵の許可は必要ありません」

俺の頭越しに議論が始まる。もっと友好的にいかないものなのか。贈り物も奮発したのに。

「我が領地、我が領民だ。私の許しもなく開拓など」

その許しを今日はもらいに来たのだが、最初から許すつもりもなさそうな気がすごくするぞ……

「土地は未開拓地で誰のものでもありませんし、王国内での住民の移動は自由です」

だが伯爵の言うことにも一理ある。土地は伯爵の領地の庭先だし、移住してくるのもすべて伯爵のところの領民である。

「私には領民を守る義務がある。大事な領民を危険な開拓事業に参加させるわけにはいかん」

「開拓地はクライトン領のすぐ隣。危険は同じですわ」

「実力はあるようだが、冒険者を続けるそうではないか。それで領民を守れるとでも?」

痛いところを突いてくる。その辺りの事情は村長さんが話したのだろうが、転移魔法まではあの人知らないしなあ。

「父祖の世代よりこの地は我らクライトン一族が守り治めておるのだ。どこの馬の骨とも知れん冒険者風情が我が領地をかすめ取ろうなどと、許せるものか!」

結局のところ怪しい冒険者というのが気に入らないってことなんだろうね。馬の骨なのはその通りなんだし、どうしたものか。

これ無理じゃないか? マルティンみたいに力で脅すってわけにもいかんだろう。

「ですがそのような理由で開拓を差し止めることはできませんわよ?」

「……そうだな。止めることはできん」

開拓は王国の法で認められている。

「だが領民に危険な開拓計画に加担しないよう通達を出すことはできる。私には領民を守る義務があるのでな」

「それは!?」

領主が禁ずるのだ。それでも参加するという村人がどれほどいるだろうか。やっぱり無理そうだな……

「売るのが嫌というのなら、貴様らを騎士として取り立ててやろう。我が配下としてだが領地は得られるし、いずれは独立した領主にしてやってもよい。いい話であろう?」

「話になりませんわ」

「話にならないのはそちらのほうだ。そもそも冒険者がなんの後ろ盾もなく、開拓を進めること自体が間違っておるのだ」

「開拓は王国で許されております」

「開拓を進めたところで、もし何かあったらどうするのだ? 保障は誰がする? 後ろ盾はいるのか?」

事故った時の保障。安心保険。冒険者ギルドはそんなのはやってくれないだろうな。

エリーの実家は貴族だが、領地は帝国。それも王国の反対側だそうだし、むしろこっちがお金を送って支援をしてるくらいだ。後ろ盾なんて無理だろう。

俺たちなら一つの村程度、何があっても守れるし後ろ盾など必要はないんだが、要は伯爵が認められる保証人を立てろってことだろう。一介の冒険者に無理難題をいいやがる。

「保障は諸神の神殿がします!」

俺がエリーと顔を見合わせていると、ここまで黙っていたアンがそう宣言した。

神殿が後ろ盾になってくれるなら強力ではあるが、知り合いの神殿関係者は遠方で、こちらの人とはまだ全然交流はない。支援や後ろ盾などしてもらえるのだろうか?

「ほう? 今回の開拓事業は神殿の肝いりでしたか、神官殿」

もちろん神殿は今のところは全く関知していないし、伯爵もそれはわかっているようだ。

「これから話を……その、急な話ですし」

「それで公式の支援が得られるのですかな? 要請すれば騎士団が動くほどの?」

「今のところはまだどこまでの支援かは……」

「話になりませんな」

アンは頑張った。あとで慰めてやろう。

「では真偽院が後ろ盾となる」

今度は後ろで大人しくしていたティリカが俺の横に来て言った。

一応ティリカの師匠さんからは何かあった時の協力は約束してもらっているがどの程度だろうか?

話によるとここら辺には真偽院自体がなく、マルティンのように単身赴任者がいるのみのようだが。

「馬の骨が不満なら真偽院が保証しよう。後ろ盾にもなろう。マサルは私、三級真偽官ティリカ・ヤマノスの正式な配偶者である」

「真偽官……い、いや真偽院が後ろ盾になると言っても、真偽院には実働戦力があるまい」

真偽官の出現にはさすがに動揺しているようだ。アンに関しては服装からして神官風なのだが、ティリカは目さえちゃんと見られなければ真偽官とはわからない。村でもティリカが真偽官だというのはまだ知られてない。

「ない」

「確かに真偽院の身元保証ともなれば信用できるだろう。だがここは辺境、頼りになるのは力のみなのだよ」

力、ね。そもそもだ。俺たちがいなければこの領地は、今頃どんなことになっていただろうな。

イナゴに荒らされ、エルフの里を落とした魔物には蹂躙され、たとえ守りきれたとしても甚大な被害が出ただろう。

知らぬとはいえ、頼れるのは力のみ! なんて言ってドヤ顔をしている伯爵にぶちまけてやったらさぞかし気持ちいいだろうな。

いや、イナゴの出た村って伯爵の領地だったっけ? こっち方面に向かったというのも憶測だった気がするな。

「力ならそこのドラゴン程度ならいくらでも討伐できる実力がありますわ。それに加えて真偽院の支援。神殿との交渉はこれからですが、何がしかの支援を受けられる公算はあります。それでもご不満ですか?」

「だが肝心の貴様らが不在ではどうにもなるまい? それとも冒険者を引退して村の運営に専念するかね?」

「それは……」

エリーも言い返す言葉が出ないようだ。

冒険者を続けるのは絶対条件なんだし、どうしたものか。

「冒険者を続けたまま代官をおいて領主になろうなどと、虫が良すぎるのだ」

転移魔法があるからそこはクリアできるんだが、ゲートのことはまだ秘匿したい。だが手札を伏せたまま交渉しようというのは伯爵の言うとおり虫が良すぎるのだろうか。

ここで議論が煮詰まった。

先ほどの通達の脅しにしても、真偽官に突かれればボロが出る。代官を置くことにしても通常の範囲内のことで問題視されるほどでもない。武力が足りないというが、小さな村一つを守るだけなら自警団レベルの戦力があれば事足りるから、俺たちが常駐する必要もない。

どれも伯爵が開拓を差し止めるための理由としては弱すぎるのだ。

だがこちらとしても伯爵が認めないまま開拓を進めるのは問題がある。

いよいよ面倒くさくなってきたな……諦め……いや、今日のところは出なおして対応策を……

「マサル様」

双方が次の手を考えている最中、サティが声をかけてきた。

なんだ? まさか次はサティの出番か? でもサティに後ろ盾のあてとかないはずだよな?

「何か来ます」

探知を全開――魔力反応がすごい勢いでこちら向かってきている!?

立ち上がり、サティの指差す方を確認する。空からだ。この魔力は……

「空からの侵入者だ! 総員侵入者に備えよ!!」

伯爵の後ろにいた武官も気がついて大音声で警告を発する。兵士が集まり、立ち上がった伯爵を守るように囲む。

「いやちょっと待って。あれって」

「来るぞ、伯爵をお守りしろ! 構え、弓!!」

「待って!」

だが一冒険者のか細い叫びなど誰も聞きやしない。指揮官の命令でしか動かないのは行き届いてるってことなんだろうが。

そして完全武装の兵士が剣や槍を構え、弓で狙う中、俺が出したドラゴンの頭の上にエルフの王女リリ様他二名のエルフが降り立った。

「なに故、里に来ないのじゃ!」

間髪おかずに俺のほうを指さしてリリ様が言う。俺が里に行かないんでわざわざこんなところまで探しに来たのか。

「ここ数日忙しくてですね……」

「リリアーネ様!? 私のほうは何の要請も受けておりませんが」

俺と共に伯爵もリリ様に返答をする。兵士たちはエルフと気がついた時点で暴発することもなく戦闘態勢は解除してくれた。

「クライトン伯爵か。貴様は呼んではおらん」

「は?」

いきなり人の家にやってきて挨拶もせず、お前なんぞ呼んでおらんというのは意味がわからんだろうし、失礼すぎるな。リリ様、伯爵を怒らせに来たのか? これ以上状況をこじらせるのはやめて欲しいのだが。

「姫様、まずは伯爵にご挨拶をされるべきでは?」

お付の騎士の一人、ティトスさんがリリ様に声をかける。ナイスフォローだ。

「おお。それもそうじゃな。あー、クライトン伯爵。此度の救援、大変に感謝しておる。後日、そのことに関しては正式に使者が訪れるであろう」

「はっ、エルフ族への救援は盟約なれば、当然にございます」

リリ様は人間界でもかなり偉いようだ。ずいぶんと尊大な態度なのだが、伯爵が自然に頭を垂れている。

「しかし戦には間に合わず、多くのエルフの命が失われました。なんと詫びればよいのか」

「気にするな。救援は我らのほうで断ったのじゃ」

「しかし冒険者は使ったというではないですか!」

なんとなくわかってきたぞ。つまりエルフが救援を断って砦で防衛を固めるように通達をしたところに、冒険者が里に救援におもむいて救ってしまった。伯爵が軍を動かしてやったのは戦後処理のみ。手柄は全部冒険者が持っていってしまった。そこに冒険者が村を作る話が持ち込まれた。

ただの八つ当たりのような気がしないでもないが、俺たちも当事者であるし微妙なところだ。

「ああ、うむ。当初は里を放棄する腹づもりだったのじゃが、思いの外冒険者が有能での……」

「なるほど。そこの冒険者がそうなのですか」

伯爵が苦々しげにこちらを見る。

「そういうことじゃ。このドラゴンもその時のものじゃな」

そう言ってドラゴンの頭をたしたしと何度か蹴りつけると、ようやく本来の用件を思い出したのか俺に顔を向ける。

「おお、そうじゃった。マサル! 里に行くぞ!」

「いや、いまちょっと取り込んでましてね」

「クライトン伯爵に用があるなら早く済ませよ」

「お待ちください、姫様。マサル様、これはどのような会合なのでしょう?」

ティトスさんが助け舟を出してくれる。気が利く。

「ええっとですね……」

ここまでの会談の流れを説明する。

「開拓の後ろ盾か。いいじゃろう。妾が後ろ盾になろうぞ!」

「いや、しかしですな」

これに伯爵が難色を示す。王女という地位はあっても、リリ様は何かの役職を持ってるわけでもないし、部下もこの二名のみである。

「なんじゃ? 妾の保証では足りんか? ならば父上の許可を正式に得、エルフ族を挙げての支援を約束しよう」

「それでしたら開拓は認めますが、エルフ族を挙げてなどと王が許すのでしょうか? エルフはこれまで外部との接触は最小限でしかしてこなかったではないですか」

「そうじゃな。もし父上の許可が得られなかったら、開拓の話はなしでよいし、クライトン伯爵がかねてから願い出ておった交易量の増加も進言してやろう。こちらは約束はできんが交易の管轄は兄上じゃ。妾が願えば多少の融通は利かせてくれよう」

「……その条件ならば飲みましょう」

「こっちもそれでいいわ。マサルもいいわね?」

少し考えた伯爵がリリ様の案に同意し、エリーも賛同した。

かなり勝手に決められたが、エルフは間違いなく支援をしてくれるだろう。伯爵もエルフの後ろ盾ならさすがに認めざるを得ないし、もしダメでも交易の増加という利得が得られ損はない。

「ああ、うん」

伯爵と合意を得られたのはいいが、エルフ族を挙げての支援とな?

開拓は小さな村一つの予定なんですけど……