作品タイトル不明
0層 激戦後のアイスがいっちゃん美味い
目が覚めて腹部を見ると、痕跡すら残さず治っていた。
不思議なことだが、考えても分かりそうにないので思考を放棄して帰ることにした。
不幸なことに、服の一切合切は不意打ち鯨突進で壊滅していた。要するに着るものが無いのでパンイチ確定なのである。
「ま、命あっての物ダネってことで」
21層へ続く階段に印をつけてから1層へ転移。
受付へ向かう。
今は水曜の夜19時。つまるところ三日は学校を無断欠席したわけだ。俺も不良の仲間入りだな。
「こんばんはー」
「こんばんは! お疲れ様で――ぇ?」
「金曜日の夜くらいに潜った八百枝っす。ログ残ってます?」
「え、金曜日の夜……というかあの! 服は! それにすっごい血だらけですけど! た、タオル!? 救急車!?」
お、いつもの新人さんだ。もう新人扱いではないのかもしれないが、俺にとっては永遠の新人だ。
いやー、前回決めてくると啖呵を切っておいてこれだからな。申し訳ない。
「平気ですよ。ちょっとすっ転んで服がこれだけしかなくなっただけなんで」
「せんぱーい!!」
全然聞いてないな。
少し待つと大慌てで見慣れた人物がやってきた。
「八百枝さん!」
「お、 司條(しじょう) さん、どうも! いやー、いい夜ですね」
「五日も音信不通で心配したんですよ!」
「いやいや、土日はスマホも無事でしたよ?」
「……それ以降は?」
「服と一緒にお亡くなりに!」
「どうしてそうなるんです! それにその血! 自分がどういう姿なのか分かってます!?」
「くっ、紳士なのに手鏡を忘れるとは俺も老いたものよ……」
司條(ロリきょぬー) さんは、パシャッと唐突に写真を撮ってそれを見せてきた。そこには、顔中血まみれで、腹部には円形の血の跡とそれが垂れてできた自然の血の服が。ちょっとグロッキーかもしれない。
「大丈夫です。返り血とかじゃないので危ないことはしてませんって」
「自分の血だというならだいぶ重症に見えるのですが? ……とりあえずシャワー室行ってください。服は用意しておきますから」
そうして無理矢理シャワー室へ押し込まれた。
身体を洗い、久しぶりの風呂を浴びて、司條さんの用意したスポーツブランドの服一式が置いてあった。さながら休日に本格的な格好してランニングしてるおっちゃんみたいな服装である。
協会内部のコンビニでコーヒー牛乳を買って飲みながら応接室みたいなところで本部長と司條さんと向かい合う。
「ぷはぁー、っぱ風呂上がりのコーヒー牛乳こそ至高」
「あのねぇ……もう少しは反省の色を見せて欲しいな」
「言ってやってください本部長!」
「確かに君に攻略の面で期待しているところはあるとも。でもだからこそ――」
「あ、20層攻略しました」
「よくやった!」
「これ戦利品たちっす」
「……」
本部長の後方から鬼のような圧がかかっている。
「コホンッ、学校からの連絡と親御さんからの連絡も来ているんだ」
「うげぇ、マザーあんどファザーからもかー」
スマホ壊れててよかった。データだけ無事そうなのは逆に怖いまである。そもそもスマホは家かダンジョンでしか使わないのでこのまま録画データだけ取り出して解約してやろうかな。
そんなこんなありつつ、俺は無事だったドロップ等々を提出して帰途についたのだった。
◇
コンビニで買ったハイパーカップを食べながら自宅の扉を開けると、そこには(父)親の顔より見た(母)親の顔があった。
「きゃあ泥棒!」
「おかえり。随分無茶したみたいじゃない」
「どうしてここに、いやそも、どうやって入った!」
「行方不明扱いで家宅捜索されてたからよ。みんな入れたもの、親なんだから入れるに決まってるでしょう?」
そうかな?
そうかも。
普通封鎖とかされてそうなもんだが、死亡扱いで解除されたとかだろうか。よかった、俺が紙で管理するタイプの男の子だったら今ごろ警察と親に性癖がバレてるところだったぜ。
「あんた、ちゃんと食べてる? 洗い物どころか冷蔵庫の中蒲焼きのパックと変な瓶の飲み物しかなかったわよ」
「食べてるっての……もしかしてその飲み物飲んだ?」
「なんかスッキリする味だったわ」
「マジかよ」
冷蔵庫に入れたあれはキュアポーションだ。万病に効く薬なのに普通に飲みおってからに。相場を知ったら腰抜かすんじゃなかろうか。まあ抜かした腰もポーションで治せるからモーマンタイってことで。
とはいえ俺もたまに飲んでるしいちいち言わないけど。
「ほら、突っ立ってないで手洗いうがい!」
「はーい、ただいまー」
手を洗い、マイマザーが用意していた料理の前に座った。今日の夕飯はカップ麺らしい。
「いただきまーす」
「いただきます」
「そういや我らがファザーさんは?」
「帰りの便でどっかいった」
どっか海外から帰ってきたのは知っていたが、そんな
近所のスーパーで目を離したら居なくなってたみたいな現象が空の旅で起きるのだろうか。
「ハイジャックにあって墜落して別々で流れたみたいなのよね。私はとりあえずそのままこっちまで泳いできた感じ」
「マジかよ。母強しってこういうことなんだなー」
「向こうも向こうで無人島っぽいところに流れ着いたみたいだし、明日迎えに行って、そのままアメリカ辺りに行こうかしら」
「元気なようでなにより」
「消息不明だったあんたに言われると笑えるわね」
「っしょ?」
カップ麺をそれぞれ二杯楽しみ、 〆(シメ) のアイスを食べてごちそうさま。家族と食べたのなんて何年ぶりだろう。多分去年食べたな。俺の両親、毎年帰ってくるタイプのよく分からない働き方をしてる半浮浪者だからな。どこから金が出ているのかはよく分からない。
「それじゃあ行くわね。あんまり人様を心配させるんじゃないよ」
「はいはい、いってらー」
「いってきます」
そうして母親が出発したのを確認し、俺はにこやかに舌打ちした。
「せめて片付けてけよ……」
部屋は家宅捜索か何かした状態のまま、部屋の片付けを始めたのだった。