軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

13話 気にし過ぎ?

長旅の疲れを癒し、明日より本格的に業務に携わる。夕食を終えたフィービーは部屋に戻ろうと食堂を出て行ってすぐオルドーに呼び止められた。

執務室に入れられ、何を話されるのかと緊張しているとオルドーに伝わったらしい。

「ああ、そう身構えなくていい。怖い話じゃない。明日から君には職員として働いてもらう。主に孤児院の子供達の相手を頼もうと思う」

文字の読み書き、計算の仕方は現在の職員も教えており、特にフィービーには刺繍を教えてやってほしいとオルドーは続ける。

「君の刺繍は社交界でかなりのものと聞く。頼まれてくれるか」

「私でお役に立てるなら。刺繍は得意ですが大袈裟に褒める程のものではないですよ」

「そう謙遜することはない。事実、君の刺繍入りのハンカチやポーチは大変好評だと叔父上が言っていた」

誕生日プレゼントにフィービーの刺繍入りのハンカチやポーチをアイや友人、ジゼルも欲しがる為、毎年贈る人によってテーマを変えて作成をしてきた。きっと友人達が話したのをフィデスの耳にも入ったのだろう。少し気恥ずかしさはあれど嬉しくない筈がない。

「刺繍は亡くなった母に教わったんです。亡くなる直前まで私に教えてくれました」

「……フィービー」

編み物や簡単な服作りは義母に、刺繍は亡くなった母に教わった。二人の母に教えられた技術が誰かの役に立てる。こんな日が来ると過去の自分は想像すらしていなかった。

急に声が低くなったオルドーに驚きつつ、あることを話される。

「子供達に読み書きを教える職員に“ダイアナ”という名の女性がいる。ローウェル公爵家の娘と同じ名前だが……」

オルドーが何を言いたいか察し、微笑を浮かべ緩く首を横に振った。

「ご心配なく。私の友人にもダイアナはいます。帝国でダイアナという名前は珍しくありません」

「そうか。ぼくの考え過ぎだったようだ」

「いえ。お気遣いありがとうございます。私の母の名前もダイアナなんですよ」

「……知ってる」

好きな人の想い人の名前が大好きな母と同じ名前といえど、ダイアナという名前を嫌うことはない。

「君が気にしていないならいい。明日からよろしく頼む」

「はい! 此方こそ」

話は終わり、執務室を出たフィービーは自身の部屋へ戻るとベッドの端に腰掛けた。

「明日から頑張らなきゃ」

居場所を与え逃げる手助けをしてくれたフィデスや事情を知って此処にフィービーを置いてくれるオルドーへの恩を働くことで返したい。仕事に慣れたらフィデスにお礼の手紙を送ろう。その時は、ダイソンやハンナ、アイ達にも送る。今現在所持している封筒と便箋で足りるか確認をしようとクローゼットの前に立ち、中を開き旅行鞄を開けた。

「えっと…………ギリギリね」

次に休みを与えられた時に町へ行って買い足さないといけない量しかなく、手帳にこのことを記していく。

鏡台は五日以内に届けられる。ついでに引出し付きの机も購入した。仮にフィービーが此処を出て行くことになっても家具は次の利用者に使われる為、増える分には良いとオルドーに許可は貰っている。

「届くのが楽しみだわ」

——執務室で黙々とフィデスへ手紙を書くオルドーは一旦手を止めると深い息を吐いた。フィービーの経過報告といったところ。すぐに届かない為、ある程度情報が溜まり次第送る。

自分で淹れたお茶を飲みながら先程のフィービーとの会話を思い出していた。

フィービーの亡くなった母の名はダイアナ。フィービーの婚約者ミゲルが何より優先する令嬢の名もダイアナ。

「……」

フィデスが書いた北の教会支部にフィービーを送ったと記される手紙には別の内容も書かれていた。

【もしもの時は、君の友人の許へフィービーを逃がしてやってほしい】と。達筆な字には似合わない物騒な言葉。理由を知っているオルドーは溜め息に近い吐息を零した。

「ローウェル家の娘がダイアナなのも、アリアージュ家がこんな状況でも婚約を解消しなかったのも……」

先の言葉をオルドーは口にしない。言葉を飲み込むようにお茶を半分近くまで一気飲みした。

「ダイアナ=ローウェルが毎回都合よく発熱を起こすのにはカラクリがありそうだな」

フィービーとミゲルがデートをする当日になると必ず熱を出し、ミゲルを強制的に見舞いに来させて二人の邪魔をする。アリアージュ家にローウェル家の密偵がいるのは明らかだが、オルドーは他にも気になることがあった。ダイアナは幼少期より病弱だがオルドーの記憶が正しければ、薬さえ正しく摂取し続けていれば成人する頃には完治している筈。何故ならオルドー自身もダイアナと同じ病によって病弱な幼少期を過ごした。病に効果のある薬は既に開発されており、資金が豊富なローウェル家が手に入れられない訳がないのだ。

書き掛けの手紙を裏返し、マグカップを持って席を立った。

考え過ぎだと今度は溜め息を吐いた。フィービーが北の教会支部にいるのは自身とフィデスしか知らない。この地に貴族は滅多に訪れず、仮に訪れるとしても先にオルドーの耳に入る。そうなったらフィービーを屋敷に匿えばいい。少しの間、不便な生活を強いるが我慢してもらうしかない。

厨房に入ったオルドーは慣れた手付きでお茶の用意を始めたのだった。