軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第五話  火付けの容疑者

パーティーの総括を進めていたソラ達の下へ近衛隊士が報告にやってきた。

「魔窟の状況は?」

何度も窓の外を見ていたソラは無事に鎮火していた事には気付いていたため、被害規模を訊ねる。

「魔法使いの家が二軒全焼、四軒が全壊しました。王都守備隊が消火に当たり、警備隊はまだ魔窟への立ち入りを制限しています。立ち入り制限は現場の検分が終わるまで続ける予定です」

近衛隊士の報告に王太子はほっと息を吐く。

想像より被害は少ないが、現場検証は夜の間できないため、魔窟への立ち入りは明日の朝以降になるだろう。

ソラは腕を組み、近衛隊士へさらに質問を重ねる。

「不審火か?」

「おそらくは……」

近衛隊士は真剣な表情で頷く。

「あまり火を使用しない魔窟での火事ですから、王都守備隊も火付けの線で捜査に当たっています。現場に着いてすぐ、消火に当たる者と目撃者や容疑者を探すものとに分かれ、一部成果があったようです」

「もう容疑者が絞り込めたの? すごいじゃないか」

王太子が嬉しそうに守備隊をほめる。

王太子とは反対に、ソラは嫌な予感がして眉を寄せる。

「それで、その成果というのは?」

「……魔窟は住人以外があまり近づかない地域ですので、よそ者は目立ちます。そこで、本日魔窟に出入りしたよそ者を調べたところ、出火元である家に出入りしたものが二人見つかりました。……殿下、この場で申しあげてもよろしいのですか?」

近衛隊士がソラとチャフ、ブライアン男爵を気にして王太子に問いかける。

王都での不審火に関する捜査情報であるため、ソラ達に聞かせることに躊躇いがあるらしい。

王太子は「問題ないよ」とあっさり許可を出す。

近衛隊士がソラを気にしつつ口を開く。

「出火元の家は長らく家人が旅に出ており、合鍵を持ってこの家に入っていた者がおりました。近所の者の証言では掃除をしていただけで、火をつけるような子ではないとのことですが」

「――名前は?」

鋭い声で問いを発したソラに、近衛隊士が一瞬の間を挟み、報告する。

「サニアという熊の獣人です」

「なんだと⁉」

驚いて立ち上がったのはチャフだった。

「サニアがそんなことするはずないだろう⁉」

「トライネン子爵、殿下の前だよ」

隣にいたブライアン男爵がチャフの服の裾を引いて椅子に戻す。

はっとして椅子に戻ったチャフが眉を寄せて近衛隊士を見た。

「容疑者は二人と聞いたが、もう一人はサニアの護衛についていた火炎隊士か?」

「その通りです」

「それこそありえない。火炎隊士が火付けなんてすると思うのか?」

苛立ちを隠せていないチャフの声に、近衛隊士が苦い顔をする。

近衛隊士もおかしいと考えているのだろう。

ソラは長い溜息を発し、立ち上がる。

「殿下、私は先に帰らせていただきます。いくつか調べなければなりません」

「仕方がないね。詳しい情報がないから今は手の打ちようがないし、先に帰ってもいいよ。東部貴族が何か言ってくるだろうから、その対策を立てたいところなんだけどね」

王太子が手をひらひらと振ってソラの帰宅に許可を出す。

「続報が入ったらすぐにソラ卿の家に使者を向かわせるから、準備だけはしておいて」

「助かります。それでは失礼」

許可されずとも帰るつもりだったソラはすでにテーブルから離れていた。

早足で会場を出ると、すでにゴージュが馬車を回してきていた。

「話は聞いているみたいだな」

「さっき、ラゼット殿から報告がありましてな。サニア殿はすでに屋敷に帰ってきているそうですぞ」

「わかった。急いでくれ」

馬車に乗り込んで自ら扉を閉めたソラはゴージュを急がせる。

屋敷への道を急ぎながら、ソラはパーティーでのメロヴイン伯爵の態度を思い出す。

「東部貴族の仕掛けだとすれば、思い切ったな」

王都で火付けなどすればたちまち反逆罪に問われる。

反逆罪に問われるリスクを考えたうえでソラを排除すべき対象と認めたわけではないだろう。

たとえ火付けがばれても被害が小規模ならば東部貴族の離反を恐れて王家も罪に問えないと踏んだのだ。

王太子の考える南部西部貴族派閥もまだ動き出したばかりでまとまりを欠いており、東部貴族と正面から戦えはしない。

今しかできない策だからこそ、多少のリスクを無視してソラを排除に掛かったのだろう。

屋敷に到着したソラはすぐに馬車を降り、玄関で待っていたラゼットと共にサニアが待つ食堂に赴いた。

コルが気を利かせて淹れたらしいホットミルクを飲んでいたサニアがソラを見て立ち上がる。

「――座ったままでいい。コル、俺にはハーブティーを頼む」

ソラは厨房のコルに声をかけ、サニアの対面に腰掛けた。

サニアが椅子に座り直し、俯いた。

「迷惑かけてごめんなさい」

「謝るようなことじゃないだろ。それより、話を聞かせてくれ」

コルが運んできたハーブティーを受け取り、ソラは一口飲んで話を促す。

サニアがぽつぽつと話し出した。

「ソラ様がパーティーに出かけた夕方ごろから魔窟に行って師匠様の家の掃除してたの。資料とかも読んだ。家を出たのはもう暗くなってたけど、魔窟は明るいから魔窟を出るまでランプに火はつけなかった」

「魔窟に入ってから一切火を扱ってないんだな?」

ソラが念を押すと、サニアはこくりと頷いた。隣で護衛役をしていた火炎隊士がサニアの言葉を保証する。

「隣の家の人に挨拶したんで、火事が起きるまでの時間は裏付けが取れると思いますぜ」

「火事発生までどれくらい時間があったんだ?」

「火事が起きたことを知ったのは私が屋敷に帰って来て、魔窟の空が明るいことに気付いた時」

サニアの証言を踏まえて、ソラは魔窟から屋敷までの時間をざっと試算する。

「サニア達は歩いて帰って来たんだよな? どこかに寄り道はしたか?」

「徒歩だよ。コルさんに頼まれていた料理酒を買いにケルンの箱って飲み屋さんに行った」

サニアの証言が正しければ、魔窟を出てから一刻ほど経ってから火事が起きたことになる。

馬車を使ったと疑われても、十分に不在証明が可能だ。出火元の家の近所の魔法使いやケルンの箱の主人から証言が得られれば、サニア達は容疑者から外れる。

「その話、捜査に来た王都守備隊には話したのか?」

「話したよ。ただ、王都守備隊じゃなくて王都警備隊が来たんだけど」

王都守備隊の下部組織、王都警備隊は王都の治安を守る組織である。ゴージュたち火炎隊の古巣だ。

火事の捜査も治安維持をつかさどる警備隊の仕事なのだろう。

妙だ、とソラは眉をひそめる。

パーティー会場へ報告に来た近衛隊士は容疑者としてサニアの名前を挙げている。

しかし、サニア達の証言の裏付けが取れた時点で容疑者から外すのが当然だった。

警備隊がサニア達の証言を伝える前に近衛隊士が報告に来た可能性もある。

だが、伯爵であるソラの側近の名前を容疑者としてあげるからには、相応の状況証拠があったはずだ。

獣人だから、という考えが一瞬浮かび、ソラは立ち上がる。

「サニアはここで待っていろ。捜査には可能な限り協力する事、ただしどんな理由があろうと屋敷から出るな」

ソラが命じると、話を聞いていたラゼットが首をかしげて疑問を挟む。

「警備隊とかが来て一時的に身柄を要求してくる可能性がありますよ?」

「断れ。たとえ国王陛下が直接乗り込んできても追い返せ」

「すごいこと言ってますね」

ラゼットが呆れたように呟き、にっこりとほほ笑んだ。

「――かしこまりました。塩も撒いておきますね」

「そうしろ。ゴージュ、リュリュと一緒に魔窟へ出かける。俺はリュリュを呼んでくるから、表に馬車を回してくれ」

ソラがハーブティーを飲み干してリュリュを呼びに行こうとすると、食堂の入り口に外出着に着替えたリュリュが立った。

「魔窟に行くんでしょ? 連れてって」

呼ばれる前から魔窟に赴いて現場検証に参加するつもりだったらしい。

準備を万全に整えているリュリュのやる気にソラは笑みを浮かべて頷いた。