軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第一話  変質する同盟

「荷を積むのに何時まで掛けるつもりだ、お前ら!」

ジーラにある商会連合の総合商館にて、ホルガーの怒声が響いた。

怒声を向けられた壮年の商人は、空気の震えなどまるで意に介さない。

意味ありげに隣のふくよかな女商人を見て、肩を竦めた。

「なんとか言いやがれ、腐れ商人ッ!」

苛ついた様子でホルガーは椅子を蹴り飛ばす。

上座に置かれていたその椅子は、他の物より少しだけ上等な作りをしていた。

装飾は施されていないが優美な曲線で構成された上座の椅子が、派手な音を立てて壁にぶち当たる。

つい先日までその椅子に座っていた銀の娘の姿を思い浮かべたのか、壮年の商人が眉を顰めた。

「以前、議決した通りに船を動かしている。約定は違えていない」

「時間が掛かり過ぎだって言ってんだ。話逸らしてんじゃねぇぞ?」

「それについては今後調査し、報告がまとまり次第──」

「調査なんざいらねぇんだよ! お前らがわざと船への積み込みを遅らせてんだろうがッ!」

のらりくらりと言い逃れようとする壮年の商人を、ホルガーは糾弾する。

「そんな事をしても当方に利益はない。言いがかりは止めてもらおうか」

「……イェラに義理立てすんのもいい加減にしろ。頭ん中花畑の小娘は死んでんだ。事実、帰ってこねぇだろうが」

ホルガーの言葉に、会議室の商人達が鋭い視線を向けた。

会議室にいるのは、ホルガーとザシャ、そして三名の商会連合創立メンバーだ。

商会連合への出資額によって発言の重さが変わる会議の場にいる事からも分かる通り、三名の商人はいずれも大手商会の長である。

ホルガーとザシャは多数の中小商会の出資分を肩代わりし、中小商会から後押しされたという名目で、会議の場で議決権を有するに至っている。

商会連合を乗っ取る意志が明白であり、状況から考えてイェラを襲撃した疑いが強い。

そのため、議決権を有する三名の商会長は極めて非協力的な態度を取っていた。

苛立ちを込めた爪先で床を突きながら、ホルガーは三名の商会長を睨みつける。

「あんまり舐めた態度取ってやがると、市場から閉め出すぞ」

「ホルガー殿、あなた方が抱える中小商会で我ら三商会を追い出せるとでも?」

「──やってみるか?」

売り言葉に買い言葉、勃発しかけた闘争にザシャがわざとらしい咳払いで待ったを掛けた。

「ホルガー、焦る場面ではありません」

静かに諭され、ホルガーは舌打ちする。

「付き合いきれねぇ」

ずかずかと床を踏み鳴らしながら、ホルガーは会議室を出ていった。

ザシャは机に手を突いて立ち上がり、ホルガーの後を追う。

扉の前で会議室を振り返り、感情を込めずに三名の商会長に声を掛けた。

「あなた方も喧嘩の相手を選んでください。劣勢なのは分かっているでしょう?」

商会長達の苦々しい顔を見届けて、ザシャは扉を閉める。

廊下の突き当たりで、壁に背中を預けているホルガーを見つけた。

目が合うと、ホルガーは黙って歩き出す。

ザシャは早足で追いついて、隣に並んだ。

総合商館を後にしてしばらくすると、ホルガーがおもむろに口を開いた。

「腐れ商人共を始末するぞ」

ホルガーは言葉と共に首を掻き切る仕草をして見せる。

暗殺するつもりなのだろう。

短絡的ではあるが、死体さえ出なければ大きな問題にはならない。

しかし、ザシャは首を横に振った。

「総合商館に軟禁すれば良いでしょう。直に中小商会はほぼ完全に掌握できます」

ホルガーは不機嫌に鼻を鳴らし、ザシャを横目で睨んだ。

「なら、あの馬鹿共の相手はザシャがやれ。こっちは銀を集めておく」

面倒事を押し付けて、ホルガーはそっぽを向く。

ザシャは特に反応を返さず、話を続ける。

「結局、銀での取引になりましたか」

「仕方ねぇだろ。お偉い国王様々も、銀の流出に右往左往してんだからな」

「銀貨の含有率を下げれば良いものを……」

「貨幣には見栄が付き物なんだよ。だから、銀を市場にぶち込む用意がある振りをするんだろうが。察してやれ」

ホルガーが知った風な口振りで言い、肩を竦める。

「含有率と一緒に信用まで目減りしてはたまらない、と──」

ザシャは納得して言葉を紡いでいたが、道の先に見知った眼鏡の男を見つけ、口を閉ざした。

ホルガーと目配せし合い、ザシャは眼鏡の男に片手を挙げて挨拶する。

「イレーネオ、双頭人形の使いですか?」

イレーネオは眼鏡のズレを神経質に直しながら、無言で頷いた。

ホルガーが面白がるような空気を出し、イレーネオの顔をのぞき込む。

「おいおい、えらく不機嫌だな?」

鬱陶しそうにホルガーを押しのけ、イレーネオが歩き出す。

後ろに付いて歩きながら、ザシャはホルガーに視線を向ける。

「イェラやチャフ子爵が見つかったわけではないようですね」

「みたいだな」

小声で語り掛けると、ホルガーは同意した。

騎兵隊まで使った暗殺は失敗したと聞いている。

しかし、チャフに深手を負わせた事で、結果的には及第点に達していた。

チャフが表舞台に立っても傷を悟られない程に回復するまでの時間、ホルガーとザシャに猶予が生まれたのだ。

ホルガーが笑みを浮かべ、ザシャに向かって口だけを動かして言葉を伝える。

──銀の件、悟られるなよ?

ソラだけでなく、双頭人形をも対象に含めた注意。

ザシャも口だけを動かして、答えた。

──最後に笑うのは我々ですからね。