作品タイトル不明
第九話 ジーラ商会連合
ソラはゴージュとサニア、リュリュに、チャフを交えたメンバーで会議を開いていた。
テーブルにはソラ伯爵領の地図が広げられ、壁には王国全土の地図が張られている。
ソラ伯爵領の地図には白と黒の二色の石が置かれていた。
サニアが黒の石をジーラと書かれた町の上に置く。
「黒がジーラ商会連合の本拠地と取り込まれた商会が多い町、白はソラ様とウッドドーラ商会で取り込んだ商会が多い町だよ」
ソラは地図に置かれた白と黒の石から囲碁を連想しつつ、俯瞰的に状況を分析する。
──勢力の多寡では遙かに負け、政治的には窮地、地理的にはやや劣勢、といった所か。
ジーラ商会連合はソラ伯爵領の中央部全体にまとまった勢力を形成し、勢力圏はソラを越えている。
「妙な配置だ」
地図を眺めていたチャフが眉を寄せ、言葉を落とす。
指し棒を取り出して地図上の二点、ソラ伯爵の北部と東部の村を示した。
どちらもソラに味方する村である。
この二つの村は子爵領主の頃からソラが建て、難民を多数送り込んで発展させた。
北はベルツェ侯爵領、東はトライネン伯爵領にそれぞれ輸出する品の倉庫を兼ねる重要な貿易拠点となっている。
「この二つの村に加え、ジーラ商会連合の勢力圏内に食い込んでいるこの薫製木材の村、まるで輸出業を監視するような配置だ。……ソラ卿、いつから今の状況を予想していたんだ?」
チャフの着眼点にソラは笑みを浮かべる。残念な事に、仮面が邪魔をしてチャフには分からなかったようだ。
「残念ながら、この状況を予想して薫製木材の村を発展させた訳じゃない。俺はあの村を貿易都市にしようと考えていたんだ」
「倉庫の方は否定しないのか」
「ジーラ商会連合の監視としての機能に加え、貿易都市設立の際の拠点として運用するつもりだったのさ」
ソラが貿易都市に配属する人材の不足に悩んでいる間に、ジーラ商会連合に先を越されたのだ。
貴族二人の会話を耳に入れつつ、ゴージュが地図上の川を視線でなぞり、口を開く。
「しかしながら、ソラ様が村を作って下さったおかげで、兵の配置は楽ですな。主要な河川はすべて押さえられる」
隣に座っていたサニアがゴージュの言葉に頷き、主要な河川を指差した。
「どの川も商品の輸送に使うけど、この配置なら貿易品も把握できるよ。倉庫に一時保管して闇取引とかも難しいね」
他領との境に倉庫を建造して商品を保管する。取引相手は倉庫から商品を盗み出して他領へ密輸、倉庫を持つ商会は商品を盗まれたと言って関与を否定する。
そんな手法も、他領から遠い地に倉庫があっては運び出せる商品の重量に制限がかかり、難しくなる。
可能な限り相手が裏で動けないよう、ソラは自らの勢力でジーラ商会連合の勢力を囲んでいた。
「──だけど、そろそろ限界だね」
リュリュが冷ややかな眼で地図を見回して、呟いた。
ジーラ商会連合の勢力圏を目に見える形で表した理由を指しているのだろう。
ソラはゴージュに視線を向けた。
ゴージュはソラの視線を受け、コルが事前に纏めた資料を片手に話し出す。
「資料によると、ジーラ商会連合が商品の護衛を名目に傭兵を雇い、問題が起きとりますな。今は倉庫や船の警備にしか使われておりませんが、武装した私兵を持つジーラ商会連合に対して怯える者も出ておるようで、自警団からも武装強化の申請が出とりますぞ」
ソラは机に肘を置き、ため息を吐いた。
傭兵を雇っていると事前に聞かされてはいたが、ジーラ商会連合の勢力図を見ながら聞くと深刻さが増してくるのだ。
中央部にまとまった勢力を持つジーラ商会連合に対し、ソラは伯爵領の僻地を一周する勢力を持っている。
敵を取り囲めるが、兵を動かすと移動距離が長くなり、兵力を揃えるまでに時間がかかる。
寡兵での包囲は敵を小さく纏めてこそ効果があるのだ。
現状では各個撃破されるだけである。
ソラの元には毎日のように様々な貴族から苦情が寄せられていた。
ジーラ商会連合の拡大を危険視している貴族は、何もソラだけではないからだ。
今すぐジーラ商会連合を解散させろ。ただし、国王陛下に睨まれたくないから協力はしない、と様々な貴族から素敵なお便りを頂いていた。
肝心の国王からはジーラ商会連合の存在を黙認しろ、と婉曲な表現で書かれた手紙が届いている。
孤立無援のまま、資金不足で人材不足のソラはジーラ商会連合を抑えなければならない。
しかし、リュリュが言ったように、限界が近かった。
ソラはしばし黙考する。
前世の記憶からある歴史上の単語が浮かび上がっていた。
──ハンザ同盟、か。
ハンザ同盟とは、ハンザと呼ばれる商人ギルドが皇帝に臣従を誓う帝国都市の有力者となり、諸都市と結んで貿易を独占した、都市同盟である。
歴史上ではデンマークを破り、商路を脅かす海賊の討伐なども行っていた。
しかし、それも都市国家として連合し、武力を保持していたからこそできた事だ。
ジーラ商会連合がいくら傭兵を雇っても、本来はそこまでの脅威へ成長する前に叩く事ができる。
問題なのは、ソラが子爵として処刑されてから伯爵となって帰ってくるまでの空白期間を利用された事。
そして、ソラの保持戦力が極めて少ない事だ。
クラインセルト伯爵軍は腐敗が激しく革命を起こさないとも限らないため、空白期間中に国王が解散させている。
他領であれば打ち破れる傭兵の集団も、ソラ伯爵領では明確な脅威となっていた。
しかも、国王からは手を出すなと釘を差され、他領からの支援を受けられない。
──ジーラ商会連合は貿易を独占する権利の見返りに、王家に資金を援助する気か。
今はまだ、王家に潤沢な資金を援助できる規模ではないが、ソラ伯爵領で地力をつけ、他領に進出すれば夢ではなくなる。
王家も貴族の力が弱まり、ジーラ商会連合を通して経済を掌握できる。
──孤立無援どころか、王家が潜在的な敵だとすれば……詰んだな。
ソラは一同を見回し、密かに決意を固める。
──ジーラ商会連合を潰すしかない。
そうと決まれば、とソラはチャフに視線を移した。
チャフはジーラの町官吏代理であるイェラと関係がある。
本人が悩んでいる様子はあるものの、何も語らないためソラには関係が分からなかった。
──チャフがイェラをどう思っているのか、知る必要があるな。
場合によっては、作戦メンバーから外さなくてはならない。
ソラは口を開いた。
「チャフ、俺と共にジーラ商会連合と王家の関係を探ってくれ」
「オレもイェラの考えが知りたいから構わないが、陛下に煙たがられないか?」
「仕方がないさ。殿下にも連絡を取ろう。ジーラ商会連合を黙認する事が王家の総意かどうかでも、対応が変わってくる」
ソラの決定に異議を唱える者はいなかった。
「これにて、会議を終了とする」
会議の終わりを告げたソラは、サニアとリュリュを見た。
「サニア、簡単な魔法陣を作成してくれ。リュリュは青銅板の用意を頼む」
唐突なソラの頼み事にサニアとリュリュは揃って首を傾げた。
互いに顔を見合わせ、リュリュの視線に促されるように、サニアが疑問を口にする。
「別にいいけど、何に使うの?」
「少し試したい事があるんだ」
ソラはチャフをちらりと見て、はぐらかす。
──準備だけはしておかないとな。