軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十三話 拝金主義者の道しるべ

「王都で会う事になろうとは、想像もしていませんでした」

「オレもだ。君が王都にいるのは、計画とやらが関係しているのか?」

チャフは銀髪の娘と並んで、夜の王都を歩いていた。

屋敷に向きかけていた足を戻し、銀髪の娘を宿まで送り届ける事にしたのだ。

「そうです。聞いて驚いて下さい。計画はあと一手で完成する所にまで到達しました!」

銀髪の娘は嬉しそうに跳ねて、喜びを表現する。

子猫が蝶でも追いかけているように見えて、チャフはつい笑ってしまった。

銀髪の娘は不満そうに横目で睨む。

「笑いましたね? まぁ、さっきみたいに眉の間に皺を寄せているより健全ですし、許してあげます。今の私は寛大な気分ですから」

クスクスと喉の奥を震わせる銀髪の娘は、不意に真面目な顔になった。

「……参加をためらっている事も、許してあげます」

チャフは銀髪の娘から目を逸らした。

クロスポートにて計画への参加を誘われた時、チャフは答えを返さなかった。

答えの代わりに、質問をしたのだ。

チャフはまた、同じ質問を銀髪の娘にぶつける。

「君が計画をクラインセルト子爵に持ちかけない理由を知りたい」

「……」

銀髪の娘は歯がゆそうな顔で押し黙る。

チャフは問うべきかを悩みながら、夜空を見上げた。

このあやふやな星空のしたならば、どちらの答えであっても許される気がした。

「君の計画は知られて困るような……悪なのか?」

銀髪の娘は不愉快そうに眉をひそめる。

チャフはゆっくりと視線を銀髪の娘に戻した。

二人は立ち止まり、視線を合わせ続けた。

「……私にとっては正義です。腐敗貴族の正義は、私にとっての悪」

銀髪の娘は言い切った。

正義の定義を持ち、目標を見据えているからこその言葉だった。

チャフは悔しさに胸を痛める。

自分が出来ずに思い悩んでいる事を、目の前の娘は実践しているのだ。

──優れている者は星の数ほどいる。

シドルバー伯爵の言葉が脳裏をよぎった。

記憶を振り払って、チャフは銀髪の娘の表情を窺った。

銀髪の娘は目を閉じて深呼吸し、気持ちを落ち着かせていた。

しばらくして、銀髪の娘は目に決意を込め、チャフを見据える。

「──悪がまかり通る世界に疑問を抱きませんか? 飢え苦しみ、死んでいく者達を踏みつけて、金儲けに奔走し、蓄えた財産の過多で人に優劣をつける。金、金、金、金ばっかり、私はうんざりです。金がなければ人じゃない? それなら、私が金をバラまきます。分配します。クラインセルト領に住まう全ての民を人にしてみせます」

銀髪の娘は宣言した。

彼女が先頭を切り、進み続ける道の先にある、目標を。

「──ですが、結局は私も金儲けをしています。……皮肉な事に、理想には金がかかる。だから、私も唾棄すべき拝金主義者です」

自分を酷評して、銀髪の娘は自嘲気味に笑った。

銀髪の娘はチャフへ一歩近付く。

「夜道を歩く見知らぬ娘を放って置けず、宿へ送り届ける。貴方はクラインセルト領で生きるには危険なほど、優しい人です。今に騙されて奴隷商へ連れて行かれますよ?」

銀髪の娘は疲れた笑顔で小首を傾げた。

チャフの手が暖かな何かで包まれる。銀髪の娘の両手だった。

「拝金主義者の私が目を曇らせ、目標が見えなくなっても、貴方なら見続けられるはずです。計画には沢山の人が参加してくれますが、目標が見えている人は余りに少ない。……先頭に立つ者が私だけでは足りないんです」

銀髪の娘は深く頭を下げた。

「計画への参加をお願いします」

チャフは瞑目し、銀髪の娘の両手から自らの手を抜いた。

暖かさと柔らかさが遠ざかる実感はとても苦しい物だったが、チャフは銀髪の娘から距離をとった。

「オレは人の前を進めるほどの力がない」

──知においても、武においても、半人前だ。

ソラに負け、フェリクスに負け、訓練しても勝てない。

目標も正義も見つけられない。

嫌気がさして、王都をさまよい歩いていただけだ。

「……力も金も、私が貸します」

銀髪の娘は再び手を差し伸べる。

「……そんな情けない事は出来ない」

チャフは手を取らなかった。

銀髪の娘が驚いたように目を見開き、すぐに寂しそうにまつげを伏せた。

「情けない、ですか。……私、情けないんですね」

困ったように笑う銀髪の娘を見て、チャフは一瞬呆けた。

発言の意図が誤って伝わった事に気付き、チャフは慌てる。

「まて。君が情けない訳ではない」

「いえ、良いんです。言われてみれば確かに、二度も断られたのに縋るような事を言って、情けないですから。駄目ですね、私……」

「いや、だから──」

一人で納得してしまう銀髪の娘に、チャフは誤解だと説明しようとする。

しかし、銀髪の娘は聞こうともせず、チャフに背を向けた。

「最近、私の足跡を嗅ぎ回っている方々の影がちらついて、少し弱気になっていたみたいです」

申し訳ありませんでした、と銀髪の娘は謝った。

銀髪の娘は肩越しに振り返り、笑顔を見せた。

鈍感なチャフでも、空元気だと一目で分かった。

銀髪の娘にとって、自分の発言がどれほどの衝撃だったのかを知り、チャフは二の句が継げなくなる。

「もう大丈夫です。最後まで頑張ってみせますよ」

銀髪の娘はガッツポーズして、歩き去った。

チャフは追う事が出来なかった。