作品タイトル不明
256.
「うわぁ、大きいねぇ~!」
大きいというより、長い。
皇帝達はまるで声の出し方を忘れたかのように、視線だけが黄龍に釘付けになっていた。
それにしても、まるで願いを叶えてくれそうな龍だ。黄色いが。
だが、身じろぎはするものの、身体を自由に動かせないように見える。
『ふははは、魔力を圧縮するために黒の身体は小さいからな、ワシと比べるのは可哀想というものよ。それとそこの者は 玄耀(エンヤオ) の子孫か? そなたとよく似た気配がするぞ、 明珠(ミンジュ) よ』
「ええ、わたくしのお父様です。黄龍様」
これまで黄龍に隠れて見えなかったが、夢で見た女性が姿を見せた。
その目には怯えの色が見える。
初めて見る俺達を警戒しているのだろう。
そんな事より、さっきから黄龍が黒の事を言っているが、ジェスの正体がバレているのではと気が気じゃない。
「黄龍様、お初にお目にかかります。 我(わたし) は現皇帝の 黄景耀(ホアン・ジンヤオ) と申します」
『うむ。して、これまで姿を見せなかった皇帝が 何故(なにゆえ) 参ったのだ? そこのエルフが関係しておるのか? ワシをこの地に封じたあのエルフの関係者か!?』
話しているうちに、段々と黄龍がヒートアップしてきた。
凄い殺気に身体を押さえつけられているようだ。
直接殺気をぶつけられている藍之介は、今にも倒れそうな顔色をしている。
「黄龍殿、私はあなたを封印した蘭に騙され、行方を追っているのです」
藍之介が毅然と告げた瞬間、殺気が消えた。
皇帝や将軍も、止めていたであろう息を吐く。
鱗の艶は悪いが、こうして見る限り、弱っているようには見えないな。
「あのおじさん、ほとんど魔力がないね。ジュスタン、エルフの里のお風呂でボクがもらったお水持ってるよね? あげていい?」
ジェスの言葉で俺の考えが間違いだと気付く。
俺には見えないが、ジェスにはハッキリ見えているようだ。
エルフの里を出る時に、米や醤油の他にも色々持たせてくれたが、その中に竹の水筒もあった気がする。
確かあれが命の水だったはず。俺は 魔法鞄(マジックバッグ) から竹の水筒を取り出した。
「これだな? だが、世界樹から離れているからあまり効果はないかもしれないぞ」
「主様の魔法鞄は時間遅延でしたよね? だとすれば汲みたてからさほど変わらないでしょう。世界樹との距離ではなく、湧き出てからの時間によって効能が落ちるので」
藍之介の言う通りであれば、出発当日に汲んだ状態とほとんど同じだろう。
ジェスは水筒を受け取ると、小走りで黄龍に近付いた。
「おじさ~ん! このお水すっごく美味しいから飲んでみて!」
「あっ、おい!」
あまりにも普通に黄龍に近付いたせいで、将軍が慌てて声をかける。
だが、先ほどの殺気のせいか、足は動いていない。
黄龍は床に伏したまま、素直に口を開け、ジェスはその口にトポトポと命の水を流し込んだ。
『くはぁ……、美味い。こんなに美味い水は久々だ。エルフの里以来だな。感謝するぞ、小僧』
「ボク、小僧じゃなくてジェスだよ! ジュスタンが付けてくれたんだ!」
そんな会話をしている間にも、黄龍の鱗の艶がよくなったのがわかった。
その途端に、世話係の女性がジェスに駆け寄り、跪いて両手を握る。
「ありがとうございます! わたくしの龍力だけではどうにもならず……! 日に日にお力を無くされる黄龍様を見ているしかできなかったのです」
「ジェスと言ったな。 我(わたし) からも礼を言おう。その娘は 我(わたし) の娘で 黄明珠(ホァン・ミンジュ) という。五代前から皇帝の子の中で、東宮を除いた年長者が黄龍様の世話係をするという決まりができたのだが、その 明珠(ミンジュ) が当代の世話係なのだ」
「はじめまして 黄明珠(ホァン・ミンジュ) です。お父様、この方達は黄龍様の封印を解くために参られたのですか?」
「う、うむ。そなたから黄龍様が弱っていると聞いて、どうにかならないかと相談したのだ」
ん? 皇帝は封印を解くとは言っていない。
それはそうか、帝国が豊かなのは黄龍のおかげだからな。
弱った状態で黄龍が死ねばこの帝国が終わると聞いていても、命の水で回復した姿を見たら欲が出たのだろう。
「藍之介、黄龍の封印はどうにかできそうか? 蘭がやったのなら、同じエルフのお前なら何とかできるかと思ったのだが」
「……そうですね。私の魔力では厳しそうです。黄鱗帝国にいた時の身体は、茜よりも魔力が膨大だったようですね。もし、ジャンヌ殿の倍ほどの魔力があれば、力技で封印を破壊する事も可能でしょうが、そんな魔力は長くらいでしょうか」
「だが、萌をここに連れてくるわけにもいかないだろう」
「そうですね、基本的に長は里を離れませんから」
知らない名前が出ているせいか、黄鱗帝国の三人はオロオロしながら俺達の話し合いを見守っているだけだった。
その時、ジェスが水筒を俺に返しながら言った。
「じゃあ、お父さん呼ぶ? お父さんはお母さんより、もっとも~っと魔力が多いよ?」
『やはりジェスは黒の子か! 確かにあやつの魔力ならば、この封印も壊せるだろう。昔会った時にはすでにワシの魔力量を超えておったからな。萌に黒とは、懐かしい名前を聞けて嬉しいぞ』
黄龍は懐かしむように目を細めているが、俺はジェスの正体が確実にバレる未来に頭を抱えていた。