軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

203.

全員が動けるようになってから階段を上って行くと、血と粘液が混ざったようなものがフレデリクの行き先を教えてくれた。

魔塔から出ないと踏んでいたが、その予想は外れて跡が外へと続いている。

「まずいな、まさか街で暴れているのでは」

フェリクスが呟いた時、外から次々に悲鳴が聞こえた。

急いで飛び出すと、幸いにもフレデリクは周囲の人が目に入っていないとばかりに、王都の外へ向かおうとしている。

「馬を準備している時間はないな。仕方ない、馬車で追いかけるぞ」

変貌したフレデリクに怯え切っていた御者達を、デジレがほぼ脅して馬車で追いかける事になった。

デジレの部下達は全員ダメージが大きかった事と、剣が使い物にならないくらいボロボロになってしまったので、王宮への報告係として別行動してもらう事に。

その馬車の御者は胸を撫で下ろしていたので、よほど変貌したフレデリクが怖かったのだろう。

フレデリクの痕跡を追っているが、馬も怯えているのか、騎馬と比べてゆっくりにしか進まない事に焦りを感じる。

しかも、同行者にアリアも増えて馬車が四人乗りになったせいで、魔塔に向かっていた時より狭苦しい。

不幸中の幸いは、俺の隣がデジレでなくアリアになった事だな。向かいがデジレだから圧迫感があるのには変わりないが。

進行方向から悲鳴が途切れる事なく聞こえ、人々が走って逃げているのが窓から見える。

いったいフレデリクはどこへ向かっているんだ。

その時御者が話しかけてきた。

『フェリクス様、このままですと王都を出て山脈に続く街道に向かってしまいますが……』

「構わん、行けるところまで追いかけてくれ」

『はい』

御者の言う山脈は、王家の森とは別の方向にある。

麓は緑豊かではあるが、富士山のように頂上へ向かうほど植物が少なくなっていて、恐らく富士山より高い山々だ。

この山脈があるから、山脈の向こうの国に脅かされる事がなく、そして海路での交易を余儀なくされているらしい。

「しかし、あの毒でよくここまで移動できたな。再生能力のおかげか?」

あの毒はドラゴンすら殺せるらしいが、年月がたち過ぎて毒の成分が劣化でもしたのかもしれない。

だが、弱っているのは間違いないから、今の内にとどめを刺さなければ。

[フレデリクSIDE]

「はぁはぁはぁ……、こんなはずでは……! あの方に会えればきっと何とかしてくれるはず」

あの方はこの山脈に住んでいると言っていた。

人族では解析できないこの通信魔導具もあの方が授けてくれたのだ。

毒にやられて山脈に向かっているとメッセージを残しておいたから、きっと助けに来てくれるだろう。

早く魔素を排出するポーションを飲まねばならないが、この毒のせいで、魔素を排出した瞬間私は死ぬと思われる。

先に解毒するしかない。あの方の叡智であればこの毒の解毒も可能だろう。

「おや、随分と醜い姿になっているじゃないか」

絹のような金の髪に、緑の瞳、男性とわかっていても美しいという言葉しか出て来ない私の味方が姿を見せた。

「あ……あぁ……、お助けください……! 解毒を」

グシャ!

耳障りな音と衝撃が走った。何が起きた?

「汚らしい……。『 清浄(クリーン) 』」

私の身体がこの方の腕で貫かれた……?

腕が引き抜かれた瞬間、血を吐き、身体は地面に横たわる。

私の血で汚れた腕はすぐに清浄魔法で血の汚れひとつなくなった。

「ゴフッ、 藍(あい) 様……なぜ……」

「お前がしくじった時点で計画は破綻したんだ。あ~あ、また二百年くらいしてから計画し直すかな。せっかくお前が王になったら乗っ取ろうと思っていたのに。もうお前は用なしだよ」

私は何のために玉座を求めていたのだ。

最後に感じたのは信じた エルフ(・・・) に頭を踏み潰される感触だった。

[ジュスタンSIDE]

「止まれ! アリアは見ない方がいい」

山に入って馬車を降り、先頭に立ってフレデリクの痕跡を追っていたら、残骸と呼ぶにふさわしい状態のフレデリクの遺体があった。

死因は明らかに毒ではない。

潰れた頭部と、胴体にも穴が空いている。

「これは……他の魔物に遭遇したのか?」

「恐らくそれは違うかと……」

楽観的なフェリクスの意見を、デジレが否定した。

俺もこの死に様は、ただの魔物相手ではないと思う。

しかし、今から捜索して、このフレデリクを殺した相手と遭遇するのは得策ではない。

とりあえずはフレデリクの死により、この件は終わりとなった。

当然魔塔は大騒動となり、副魔塔主は自分は魔塔主の器ではないと辞任し、結果的にアリアが魔塔主となった。

そして驚いた事に、アリアと兄弟弟子だからと副魔塔主にはカールが着任したらしい。

ちなみにアリアの方が先に先代の弟子になったので、アリアが姉弟子だそうな。

魔塔のゴタゴタが収まった頃、フェリクスとクラリスの結婚式が盛大に行われた。

ジェスがもらってきた陛下からの手紙には、自分も結婚式に参加しようと画策していたら王妃にバレて、かなり怒られたと書いてあったとか。

結婚式が終わると、当然エルネスト達はラフィオス王国へと帰る。

港で見送ったら、俺は今は連絡が取れなくなったという、コーヒーを入荷していた山脈の山岳民族とやらを探しに行くつもりだ。

なぜかそうした方がいいと勘が告げている。

「では、道中の安全を祈っています」

「ジュスタン団長もこの先の旅の安全を祈る。一段落したらラフィオス王国へ一度帰って来てくれ」

「わかりました」

エルネストと握手を交わし、部下達にも別れの挨拶をする。

「団長、本当にいいんですか?」

「逆に危険だと思うんだよねぇ」

「エルネスト様に直談判したんだろ?」

心配そうに部下達が視線を向けた先はシモン。

「オレがいた方がジェスだって嬉しいよな~?」

「うん! いっぱい遊べるね!」

「ほらな? 団長だって内心嬉し……」

俺の視線を受け止め、シモンは口を閉じた。

ついうっかり俺が、もしかしたら今回の件はエルフが関わっているかもしれないと言ったら、エルフを見てみたいからとエルネストに俺に同行する件を直談判したのだ。

エルネストは俺の事を心配していたのもあって、ジュスタン隊の精鋭が一緒なら安心だと許可を出してしまった。

船が出航し、馬達もエルネスト達に預けたので俺とシモンとジェスの三人は、エルドラシア王国の王都を出るための馬車乗り場へとやって来た。

そこへ息を切らしながら走って来る人物が一人。

「ちょっと! 挨拶くらいして行きなさいよ!」

「アリア! なんだ、見送りに来てくれたのか? さてはオレ達がいなくなるのが寂しいんだな~?」

揶揄うようなシモンの言葉に、アリアは目に涙を溜めていた。

そしてシモンの胸倉を両手で掴む。

「ラフィオス王国に帰る時は、必ず魔塔へ寄りなさいよ! どうせここの港から帰るんでしょ!? あたし……っ、シモンに会えなくなるの……やだ……」

結婚式までの間に、観光と称した街歩きに誘われていたようだが、シモンはどうするのだろう。

驚きで固まっているようだ。あ、動いた。

「そうだなぁ。またこの王都に寄った時に、オレが思わず口説くくらいのイイ女になってるか確認しに行くから、女磨いて待ってろよ」

「約束だからね!」

胸倉を掴んだままの腕に体重をかけてシモンを引き寄せると、唇に触れるだけのキスをしてアリアは走り去った。

「ふむ。お前がアリアと結婚でもすれば、いつでも最新の魔導具が手に入るかもしれんな」

「いやぁ、それはあと数年育ち具合を確認してからじゃないと……」

「気持ちはわかるが、結構最低な事言っているからな? 馬車が来たから乗るぞ、ジェス、シモン」

「はぁい!」

「へ~い」

馬車に乗り込んだ俺達は、新たな旅へと出発した。