軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第79話 太田ダンジョン再調査②

11階層に下りると、以前とは様子が違っていた。

「なんていうか……普通のダンジョンって感じだね」

「ああ。おタマちゃんを助けたときとは違うな」

以前は、部屋と部屋との間に3本の通路があったり、 天井(てんじょう) に不自然なでっぱりかあったりと、今から思えば、いかにも「施工途中」といった雰囲気があった。

一方、今は……。

《普通のダンジョンだな》

《こりゃ立入禁止解除じゃねーか?》

《まだ喜ぶのは早い》

《モンスターの出現状況を見てからだな》

《こーちゃん、頼んだ!!》

《安心して見てられる。【空間転移】持ちのAランクはすばらしい》

「当時と同じ構造なら、たしかこの隣が……」

慎重に通路を進み、隣の部屋に行くと。

《ポイズンリザード×2!!》

《タマちゃんが毒くらったやつ》

《見たことある》

《ここ、タマちゃんが前回落ちた部屋だな》

《10階の落とし穴も同じあたりにあった》

《あのときと配置一緒なのかな》

《固定配置か!?》

《結果的にタマちゃんグッジョブかもしれない。固定配置かも》

《たしかに参考になった。警戒の必要あり、と》

《タマちゃん、グッジョブ!》

《タマちゃん、グッジョブ!》

「えへへ、なんか褒められてる……」

「お、おい……。油断するなよ」

「うん、りょーかい! ね、ね、こーちゃん。【毒吸収】スキル、貸ーしーてー。あたし、リベンジしたい!」

「【レンタル】スキルか。ま、いいよ」

同意した瞬間、俺からおタマちゃんに【毒吸収】スキルが移動した感覚があった。

「えへへ、いくよっ! せいっ!」

おタマちゃんは素早く敵に駆けより、刀で 二筋(ふたすじ) の 弧(こ) を描いた。

ポイズンリザードは斬り裂かれ、体内から毒液がブシャアアア!!と噴き出した。

おタマちゃんの頬に 一雫(ひとしずく) の毒液がぴちゃりと弾ける。

《あ、毒液が》

《これがあるから 厄介(やっかい) 》

《新太田ダンジョンの難関フロアかも》

《大丈夫か?》

《毒吸収、レンタルできてる?》

すると、おタマちゃんは人差し指で毒液をぬぐい、言った。

「えへへ、効かないよ。こーちゃんのスキルがあるから」

《いいなー、毒吸収スキル》

《毒さえ無ければ、ポイズンリザードはザコだからな》

《完全にこのフロアのメタスキル》

《こーちゃんがここで覚えんたんだっけな》

《オレもこーちゃんと同じ虫採りスキルほしーよー》

《うらやましい》

《便利スキル》

「はは……」

俺の【童心】スキルが欲しいというコメントを見て、笑ってしまう。

昔の俺が何度「こんなクソスキルはいらない」と自己否定してきたことか。

あんなに呪ったスキルなのに、今はそれに助けられている。

「……いや」

思えば、プライベートダンジョンで何も考えずにトンボを捕まえたのが始まりだった。

まともな大人なら、ダンジョン内で毒があるかもしれない生物に触ろうとはしないだろう。

要するに。

俺は自分の【童心】を否定しきれなかったのだ。

あれだけ「【童心】なんかいらない」とわめいていても、いざとなればトンボを捕まえてしまうし、カブトムシを見るとワクワクする。

俺はそういう人間だし、その【童心】のおかげで今この場所にいる。

ちらりと横を見ると、

「どしたの、こーちゃん? 次行こ?」

おタマちゃんが隣にいる。

俺はなんだか嬉しくなる。

「なんでもない。次に行こう」

俺たちは次の部屋に向かって歩き出した。

☆★☆

「あれ……」

地下14階層は、普通のダンジョンフロアとなっていた。

以前はがらんとした 空洞(くうどう) みたいな部屋だったのに。

普通に壁があり、通路があり……たまに金属製の巨大トカゲが出現する。

《メタルリザード!》

《こーちゃんはスパスパ斬ってるけど、あいつ硬いぞ》

《魔法 推奨(すいしょう) 》

《属性攻撃の有無で難易度変わるなぁ》

《ひっくり返せば、腹側は弱いぞ》

《なんで背中側を斬れるの?》

《答え:こーちゃんだから》

俺はメタルリザードのドロップ品である、金属製のウロコを拾う。

「おタマちゃんが事故にあったとき、このフロアがまだ生成されてなくて助かったな。MPを温存できた」

「うん……」

「……? どうしたんだ?」

「う、ううんっ、なんでもない!!」

《これはあのときを思い出してたな》

《乙女みたいな顔しやがって》

《こーちゃん、頼りになるから》

《そろそろ告白したら?》

《【¥10000】私、思川タマちゃんは、NKことこーちゃんのことを愛しています!!!(再投稿)》

《【¥1000】NKさんと両思いになれるといいね!!!(再投稿)》

「は、はあ!? スパチャで色つけないでってば!! 返金、返金!! いらないからやめて!」

「お、おい……。なんで急に画面を隠すんだ……?」

「な、なんでもないってば! なんだか急に荒らしコメントが増えてさ! 困っちゃうよね、マナーがない人は!!」

《マナーとは(哲学)》

《荒らし扱い(笑)》

《この展開も、前に配信ゼミで見た!》

《来るぞ……》

《来るぞ……》

《来るぞ……》

《【公式:栃木県協会2】山田です。帰ってからのお話は長くなりそうですね。スパチャにはお礼を言ってください》

《キター!!》

《安定の山田さん》

《安心する》

《タマちゃん、とりあえずゴメンナサイだ!》

「うう〜、なんでいつも……。ス、スパチャありがとうございました。コメントもありがとうございます。もう、許してください……」

《ゆるす》

《ゆるした》

《オレたちの太田ダンジョン調査に影響出てもいけないし、やめよう》

《おい、こーちゃん!! こーちゃんから言ってもいいんだからな!!!》

そうして、俺たちは14階層を進む。

最後の部屋、下に降りる階段の左右には、紫色に 灯(とも) る 篝火(かがりび) が置かれていた。

《あの階段周りは変わらないな》

《次はボス》

《グリーンドラゴン亜種かな?》

《ボスが変わってなければダンジョン封鎖解除だろうな》

《ダンジョン環境安定のしるし》

《頼むぞ、亜種!! でてこいや!!》

《【公式:群馬県協会】夏目くん、思川の嬢ちゃん、次はおそらくボスだ。討伐後、 帰還(きかん) ゲートが出現するか確認したい》

《【公式:群馬県協会】念のため聞くが、行けるか?》

「行けます」

「大丈夫です」

俺とおタマちゃんは即答する。

《【公式:群馬県協会】よし、頼むぞ。戦術は一任する》

「こーちゃん、どうする?」

「そうだな……」

かつては苦戦した、グリーンドラゴン亜種。

スキルが増えた今なら……。

「グリーンドラゴン亜種が出た場合は、とりあえずドラゴンの顔に水をかけてくれ。あとはなんとかする。そうじゃないときは相談しながら戦おう」

「りょーかい!」

《なんとかできるのか?》

《なんとかできるの?》

《タマちゃん、了解するんだな》

《信頼関係か、あるいは 以心伝心(いしんでんしん) か……》

そうして、15階層に下りると。

「ギャアオオオオオオオオオッッ!!」

いつか見たのと同じ、 深緑(ふかみどり) 色のドラゴンがいた。

《グリーンドラゴン亜種!》

《変わらぬ大きさ》

《かなりつよいぞ。大丈夫か》

《こいつ、弱点の 逆鱗(げきりん) がないタイプじゃん!!! こーちゃんでも勝てるか!?》

《そのくだりは数か月前にやったぞ》

グリーンドラゴン亜種が、炎のブレスを吐く前に。

「【水使い】スキル・水大砲っ!!」

バチャっ!!

「 虫相撲(むしずもう) ・クワガタ! 《氷結攻撃・広範囲化》!!」

ガチンッ!!!

《グリーンドラゴンの顔が凍った!!!》

《すごい連携!!》

《ブレスの心配はないな》

《息ピッタリ》

《てか、こーちゃんは氷魔法も使えるの? なんでもアリだな》

《対応力高すぎる》

「〜〜〜〜〜〜!!」

グリーンドラゴン亜種は声にならない声を上げて、頭を壁に叩きつけている。

「【身体強化+】【刀術】……無音一閃!」

「【神速】【空中剣技】……捕食!!」

ズバッッッ!!!!

《同時攻撃!》

《これはつよい》

《Aランクパーティは格が違うな》

《速すぎる》

《タマちゃんもすごい》

《余裕じゃん》

《てか、いつの間にか糸で縛られている?》

《何、あの糸?》

《まさか、こーちゃんの??》

「あのときは簡単に切られてしまった《糸》だけど……Lv2ならどうかな?」

新宿ダンジョンでクモを捕まえ、強化された糸。

俺はそれをドラゴンに巻きつけ、思い切り引っ張った。

ズバァッ!!!

「〜〜〜〜〜〜!!!」

糸はドラゴンの 体中(からだじゅう) を切り刻むと同時に、全身の動きを封じた。

Lv2ともなると、グリーンドラゴン亜種にも通用するらしい。

「――悪いな。これで終わりだ」

俺は【神速】でグリーンドラゴンの上空に移動する。

「【空中剣技】降下!!」

剣を下に向け、高速でドラゴンに突き刺した。

ズドッッッ!!!

「〜〜〜〜…………」

グリーンドラゴン亜種は、完全に動かなくなった。

「やったよな……」

ドラゴンから降りて確認すると、しっぽの先から黒い霧に変わっている。

これは……間違いないな。

討伐完了だ。

「こーちゃん!」

後ろを向くと、おタマちゃんが片手を上げている。

俺はおタマちゃんに 微笑(ほほえ) みかけて。

「やったな」

ぱちーんっ、とおタマちゃんの手を叩いた。

「いえーい! 任務完了ー!!」

「これで終わりか」

意外とあっけなかったな。

こんなので2百万円ももらっていいのかな……。

探索中の素材も俺がもらえることになってるのに……と少し後ろめたく思っていると。

《【¥10000】こーちゃん、ありがとー!!》

《【¥1000】タマちゃん、グッジョブ!!》

《これでまた太田に入れそう》

《協会さん、イレギュラーはなさそうですよね!?》

《封鎖解除たのんます!!》

《【¥10000】たすかる!》

《【¥5000】こーちゃん、危険な調査ありがとー!!》

《今回の調査ができなければ太田の開放がかなり先になっていたはず》

《【¥10000】感謝の気持ちです》

《【¥200】タマちゃんもお疲れ! プリンでも買ってね!!》

《太田ダンジョン、また入りたいです》

「なんかコメントがすごいことになってる……」

たいしたことはしていないのに。

すると、おタマちゃんは。

「 遭難(そうなん) 事故のあったダンジョンなんて、調査してくれるひとは普通いないからね。こーちゃんだからこそできたことだよ?」

「そうなのか……」

《【公式:群馬県協会】ふたりとも討伐お疲れさま。探索者の皆様、異常はなさそうなので、もう少し調査をしたら太田ダンジョンは段階的に開放する予定です》

《【公式:栃木県協会2】おふたりともお疲れさまでした。地元探索者を代表して御礼申し上げます》

《おおおおおおおお!!!》

《うおおおおおお!》

《うおおおおおおおお!!》

《【¥10000】こーちゃん最高!!》

《ありがとう!!》

《【¥500】もう高崎まで行かなくて済む!!》

《【¥1000】オレのホームダンジョン!! うれしい!!!》

……前の仕事じゃ、こんなふうに喜んでくれるお客さんはあまり見なかったな。

探索者というのも悪くないかも。

そんなことを思いながら、俺は出現した帰還ゲートへと向かっていった。