軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第7話 レベルアップ

魔力時計(イーヨン探索初心者セット内)が午後6時を示したころ、俺はトンボ53匹、バッタ83匹を捕まえていた。

さすがに1日でバッタ100匹は無理だったか……。

魔石は136個――ひとつ40円で計算すると、5440円、時給・手取り換算だと、だいたい1200円くらいになる。

前職では、サビ残も計算すると、時給は700円程度だった。

そう考えると、初日にしては上々だろう。

いや、そんなことより。

「……けっこう楽しかったな」

捕まえたそばから、虫はボワン!ボワン!と魔石になっていく。それが快感だった。

最後の方は、慣れてきたせいか、トンボを片手の指だけで捕まえられたり、バッタを空中でつまんだりできた。

子どもの頃にはできなかったが、これが大人になったということなのだろうか。

体力の限界も感じず、やりすぎというほど虫を捕まえてしまった。

「ん……?」

そういえば、すっかり忘れていたが。

「ステータス、オープン」

俺は自分のステータスを表示した。

名前:夏目光一

レベル:6

経験値:29.5/162

HP:32

MP:10

攻撃:12

防御:11

速さ:39

賢さ:10

スキル:【童心】

特技:魔生物図鑑

「おお!」

確認すると、いつの間にかレベルが5も上がっていた。

後半に虫を捕まえやすくなったのは、慣れではなくレベルアップの恩恵だろう。

「速さ」だけがやたらと伸びがいいが、これは足が速い方がかっこいいという俺の価値観によるものかもしれない。

「てか、これだけステータスがあれば……」

たしか、太田ダンジョンの入場規制は、合計ステータス50以上だったはず。

余裕でクリアできている。

「はは……」

10年前、ダンジョン適性国民検査を受けてから、俺はずっと自分を否定してきた。

MPはゼロだし、その他のステータスもすべて最低。

こんなやつは、ダンジョンの中だろうが、外だろうが、誰にも必要とされないのではないかと思っていた。

だが、そのコンプレックスは、わずか半日で解消された。

俺は、普通の探索者としてもスタートを切れるだけのステータスを手に入れることができた。

こうなると、どんどん欲が出てくる。

「太田みたいな普通のダンジョンにも行ってみたいな。おタマちゃんと一緒なら楽しそうだ。でも、足はひっぱりたくないから、とりあえず攻撃技は覚えたいな……」

やはり当面は、このダンジョンでもっと強くなることが優先だ。

今日は、田んぼ周辺だけを歩いてこの成果だ。

HPも上がったことだし、明日は森の方にも行ってみたい。

ハチがいないか心配ではあるが、何と言ってもカブトムシを見つけたいからな。

☆★☆

ダンジョンゲートのドアを出ると、あたりは真っ暗だった。

ダンジョン内の夏の風景は、まるで夢の世界のように感じられた。

アイテムポーチに入った魔石の感触だけが、ダンジョン内の出来事が現実だと教えてくれた。

☆★☆

次の日。

俺は、昨日の魔石を換金しようとイーヨンの探索者協会に来ていた。

もう少し貯まってからでもよかったのだが、とりあえず初日の成果を山田さんに報告して、助言がもらえないかと思ったのだ。

協会のテナントに行くと、山田さんはおらず、おタマちゃんだけがいた。

「よっ。山田さんは?」

「おはよ、こーちゃん。山田さんは今日はお休みだよー」

「そうか……」

実は、ダンジョン発見初日に、山田さんから「トンボに毒があったらどうするのか?」と注意されたことがずっと気にかかっていた。

魔石の換金ついでに、俺の今のステータスを伝えて、プライベートダンジョン内をあちこち散策しても大丈夫か相談しようと思っていたのだ。

「何? 魔石の換金?」

「それもあるんだが……」

俺は訪問の趣旨を伝えた。

すると、おタマちゃんは大げさに驚いて、

「ええ!? もうレベル6になったの!? フツーのダンジョンなら、ずっと潜りっぱなしでも20日はかかるのに!?」

「そうなのか?」

「だって、ゴブリンの経験値が2だし、レベルが低いうちはあまり無茶はできないから……」

あのバッタ1匹と、ゴブリンの経験値が同じとは……。

俺のプライベートダンジョンは、だいぶ割がいいらしい。

「ねぇねぇ、ちょっとここに手を置いてよ」

「なんだこれ?」

黒い板と小形ディスプレイがケーブルでつながったような機器だ。

「魔導ステータス測定機だよ。あたしもこーちゃんのステータス見たいな」

「しょうがないな。悪用するなよ」

「えへへ、見てから考えるよ」

「まったく……」

俺は黒い板に手のひらを載せた。

ディスプレイにはダンジョン内で見たステータスと同じものが映し出された。

「うわー……、本当にレベル6だ。ショック〜。あたしがどれだけ苦労したか……。ね、モンスターもいなかったのに、どうやってレベルを上げたの?」

「それはな……」

俺はアイテムポーチから魔石136個を入れた小袋を取り出した。

「ダンジョン内の虫を捕まえていたら、いつの間にかレベルが上がってたんだ。バッタを捕まえると2の経験値がもらえる。ディスプレイにも書いてある【童心】スキルの特典らしい」

「え〜……、もっと苦労してよ……。あたし泣いちゃうよ?」

「いや、泣くのはまだ早い。実は、今日もプライベートダンジョン内でレベル上げをしようと思ってたんだ」

「え、ずるいよ〜」

「でさ、山田さんに、このステータスならダンジョン内を端から端まで歩き回ってみても問題なさそうか聞こうと思ったんだ。あ、そうそう。解毒薬は持ってるぞ」

「ふむふむ……」

おタマちゃんは大げさにうなづく。

「あのね、探索者稼業は自己責任という前提の上でだけど……あたしの意見を言うね」

「ありがとう、ぜひ聞かせてくれ」

「……あたしに言わせれば、何も心配することはないよ。山田さんは講習未受講のこーちゃんをおどかそうとしただけ」

「そうなのか?」

「うん。1階層で毒を持ったモンスターなんてまず出ないし。それに山田さんの【気配探知】スキルに引っかからない生き物はモンスターじゃないよ。安全な、ほかの何かだよ?」

「ほかの何かってなんだよ?」

「それはわからないけど……。ま、あたしも探索者だからね。探索者のカンを信じなさい!」

理屈はよくわからないが、自信満々に断言する。

「はは……」

ま、たぶん大丈夫だろ。

今日はプライベートダンジョンの森エリアの方にも行ってみよう。

☆★☆

――結局、魔石136個の買取価格は、税引き後5500円になった。

思ったよりも高かったな。ラッキーだ。

「じゃあ、今日も潜ってくるわ」

そう言って探索者協会を後にしようとすると、おタマちゃんは言った。

「あのさ、お願いがあるんだけど……。今度あたしもダンジョンに入れてくれないかな……? 正直、探索者としての成長も頭打ちになっちゃってて……。次のステージに行くためのヒントが欲しいの」

「ああ、今度の休みに来いよ。待ってる。俺たちの秘密基地だもんな」

すると、おタマちゃんは嬉しそうに笑った。

「ありがとう、こーちゃん! 楽しみにしてるね!」

このようにして、俺は久しぶりにおタマちゃんと遊ぶ(?)約束をしたのであった。