作品タイトル不明
第63話 【2パーティ視点】圧勝と惨敗
☆★☆【side:ファーストペンギンズ】☆★☆
オレたちは、20階層に向かう階段を駆け下りる。
「待ってろ……!」
パーティメンバーは無言のまま、階段を降りる足音だけが響く。
夏目どもは、今ごろストーンガーディアンの 外皮(がいひ) たる岩を破壊しようとしている頃だろう。
国の探索官も表だっては情報をくれないので、オレが聞かない限り夏目の状況を知ることはない。
夏目のことを教えてほしいというのもシャクに障るので、聞くつもりもない。
また、配信画面にはコメントが入っているのかもしれないが、レイトマジョリティの 妄言(もうげん) を見るのも精神衛生上よくないと判断したため、 閲覧(えつらん) をやめている。
だが――経験の積み重ねのあるオレにはわかる。
バッタだがアリンコだか知らないが、ストーンガーディアンは虫けらごときが倒せるモンスターではない。
今ごろ、岩の 大足(おおあし) に、虫けらと仲良く踏みつけられていたりしてな。
パーティが壊滅して泣き叫んでいるのが現実的なところかもな。
「【空間転移】さえ死んでなければ、後はかまわん……!!」
そうして、20階層に降り立ったとき。
目の前に現れた風景は――。
「ちょっと、ハーみん様! 影の手で最後のじゃがポテ取らないでよ!」
「ふ……ケチケチするな。 吝嗇(りんしょく) は罪悪だぞ」
「きゅいっ! きゅい!」
「ごめんな、もうミスドなくなっちゃったんだ。帰りに買ってくから」
「いもむしのカールちゃん、かわいいね」
「な――」
まるで丸いソファーのような大きさの魔石に腰掛け、くつろいでいるザコ4人のパーティだった。
あの巨大な魔石は、まさかストーンガーディアンの……!?
やつらの周囲には、ラムネの 瓶(びん) が4本立ててある。
「あいつら……まさか……」
打ち上げパーティでもしていたというのか?
☆★☆【side:チーム秘密基地】☆★☆
《遅かったねwww》
《お先にやってまーすwww》
《ラストオーダーの時間、過ぎてますけど……w》
《2次会ないって!www》
急にコメントが増えたので20階層の入り口を見ると、ファーストペンギンズの面々が階段を降りてきたところだった。
「あ、やっと来たのか」
エリクサーラムネで回復してから《ワームホール》で帰ろうとしたのだが、なんだかんだでミニパーティが始まってしまった。
なお、ラムネとお菓子は《ワームホール》内の異空間に収納していたものだ。
「ふ……ボリボリ……。我らの勝ちだな」
「ハーみん様、カッコよくないです」
しーちゃんは立ち上がって、一礼する。
「夏目くんの勝ちで試験は終了しています。本日はご協力ありがとうございました。帰り道もお気をつけくださいね」
《お出口は後ろ側でーすwww》
《トンボ帰りwww》
《不毛な探索w》
《来た瞬間、帰れと言われる悲しみよ》
《ま、せっかくだから駅前で餃子でも食ってけwww》
「ねーねー、ドロップアイテムどうする?」
「魔石は換金して4等分で、宝石はひとり1個じゃないのか?」
「わたし、戦ってないから悪いよ……」
「ふ……、 SEEKERS(シーカーズ) の新作を買うか」
《何度見ても巨大な魔石だよなぁ》
《いくらになるんだろ》
《全身 SEEKERS(シーカーズ) で 揃(そろ) えても余裕だろうなぁ》
「ク…………」
すると、 柳生(やぎゅう) 氏は。
「……認めない……!!」
「は……?」
「オレは認めないぞ!! 貴様らは不正をはたらいた!! 【空間転移】スキルでショートカットした!! 試験は無効だ!!」
《ずっと見てましたけど、使ってないですよ》
《ダンジョン攻略知識がすごかっただけです》
《てか、不正はお前らだろ!!》
《封印水晶のこと、バレてるぞ》
《おい、柳生! 定点カメラにペアクリスタルを割って起動したシーン映ってたぞ!》
《卑怯者!》
《恥を知れ!!》
《最低だな》
《許せない!》
《ダンジョン出たらタイホだな》
「グ……!」
「封印水晶ってなんだ……?」
知らない単語が出てきたので、ふとつぶやく。
すると、コメントが山のように届く。
《モンスターを捕まえたり解放したりできる水晶》
《15階層のゴーストナイツはペンギンのしわざ》
《レアアイテムだから知らないのもムリはない》
《下手したら、こーちゃんを殺すために起動した》
《オレたちみんな、こーちゃんチームの味方だから》
《あいつらとの情報戦は任せろ!!》
《祭りじゃあ!》
「そうだったのか……」
しーちゃんを振り向くと。
「その可能性はあると思ったけど……わたしには断言できないかな。この後の調査で明らかにしていく必要があるね」
「くだらん……!」
すると、柳生氏は2本の剣を抜いた。
「ガタガタうるさい、レイトマジョリティのカスどもが!! なんであれ、オレはこの試験結果を認めない!! オレは負けてない!!」
《あれ、封印水晶の話は?》
《話のすり替えはやめてくださーい》
《声の大きさでごまかすタイプ》
《てか、ボロ負けだろ》
《惨敗》
《認めろ》
《ズルしても勝てない柳生君、チッスチッス》
《小物ちゃん》
《ダメージスコア:8971対0でこーちゃんチームの勝ちでした! ありがとうございました!》
しーちゃんは、俺の前に出て言う。
「剣を収めてください。試験は終わりです」
《そうだそうだ!》
《ぜんぶおわり! 試験も、お前も!》
「うるさい! だいたい何がタイムアタックだ! そんなもので探索者の実力は測れない!!」
《さっきまでやってたくせに》
《負けたら騒ぐ……こういうやついたなー》
《こーちゃん、相手すんな》
「探索者の資格っていうのは戦闘能力だ! オレより劣る人間が、オレに勝った気になるとは 笑止千万(しょうしせんばん) ! オレが試験をしてやる!! お前も剣を抜け!! オレは今回の試験官なんだからな!!!」
「あの……その認識は間違って……」
ファーストペンギンズに同行していた国の探索官が口を挟むと、柳生氏は。
「黙れッッ!!」
「ひっ――」
オーラのようなものを飛ばして、探索官を吹き飛ばした。
「チ……。クソカスのせいでオレの【衝撃波】を見せることになっちまったな。まあいい。ちょうどいいハンデだ。さあ、こいよ、【空間転移】。これが真のAランクパーティ認定試験だ。貴様の無能さを全国に配信してやる」
「ですから、あなたは試験官では……」
しーちゃんが異議を唱えると。
「金魚のフンが。貴様らの認識は誤っている。これを見ろ。オレは試験官なんだよ」
そう言って、柳生氏はカードを見せつけた。
「試験官の身分証……! どうして……!」
「貴様の上司からもらったんだよ。ルールを聞いてなかったのか? 帰り道はオレが試験官になって、夏目を品定めすることになっていただろう? だから必要だったんだろう……。だがな、別にこのカードにはいつから試験官になるとは書いていない。すなわち、今もオレは試験官なのさ」
《なんだそりゃ》
《仕事のツメが甘すぎ》
《無能め》
「逃げるのか、夏目? バカ女に囲まれて、お山の大将を気取って楽しいか?」
「……は?」
あいつ、俺の友だちのことを、なんて言った?
「聞こえなかったのか? Aランク探索者のフリをする 詐欺師(さぎし) 、頭の弱そうな女、何もしないでAランクパーティになろうとする金魚のフン……! そういうゴミに囲まれて、お山の大将を気取るのは楽しいかって聞いてんだよ」
「お前……!」
俺は一歩前に出る。
「な、夏目くん、だめだよ! 相手にする必要はないよ! もう試験は終わってるよ!」
しーちゃんは俺の服のすそをつかむ。
だが、俺は止まらない。
止まるつもりもない。
「……ルールは?」
「簡単だ。オレと貴様の一対一の戦闘。降参した方が負け。それだけだ」
《Aランクパーティ関係ないやん》
《カス試験》
《なんでもありだな》
《仕事のできない上司のせいで……》
「貴様が負けたら土下座しろ。卑怯にもルール違反をして 偽(いつわ) りの勝利を手にし、《ファーストペンギンズ》の皆様にご迷惑をおかけしましたってな」
《イミフ》
《カス試験官》
《ボロ負けしたくせに恥ずかし!》
「こーちゃん、本当にやるの……?」
「――やってやるさ。負けるつもりもない」
みんなをバカにしたことは許せない。
「いい度胸だな、クソカス。大将を気取れるのも今日で最後だ……。これからはオレの下で一生下働きしろ!」
そう言って、柳生は両手に剣を持ち、俺に斬りかかってきた。
「死ねぇぇぇぇぇ!!」
そこで、俺は。
「――スキル【神速】、発動」
一瞬で敵との距離を詰めると、自分の剣で柳生の双剣を弾き飛ばした。
「は……!?」
カコン! カラカラ……!
柳生の双剣は、地面に転がる。
尻もちをついた柳生に対し、俺は剣を突きつけた。
「……これで、いいよな?」
「き、貴様……! レベル45のオレが見えない速さだと……! いったい貴様は……」
――45か。
それなのに、あんなに威張ってたんだな。
「俺のレベルは50だよ。ごめん、弱いものいじめをする気はなかったんだけど」
《50!!》
《強すぎだろ!》
《探索2回目で50!??》
《あばばばば》
「負けを認めてくれるよな、試験官?」
「だ、誰が貴様なんかに……」
そのとき、影に 潜(ひそ) ませていた巨大クワガタを実体化させ、柳生の首をハサミで包み込ませた。
ガチッ!!
少しトゲがあるかもしれないが、クワガタの首輪の完成だ。
「ひっ――!」
「勝ちでいいよな、試験官?」
「や、やだ……!」
「もうひと押しか……」
「ち、違う……! そういう意味じゃなくて……!」
「……集団襲撃 +(プラス) 」
俺の前から無数のバッタが現れ、柳生の足元から顔に向けてもぞもぞとのぼっていく。
「ひゃ、ひゃアァァァ……」
《えぐ》
《えぐ》
《ヤバ》
《ギャアアア!》
「この技、トノサマバッタを捕まえてから若干コントロールが効くようになったんだけど、どのくらい我慢できるのかは調べてないんだよな。……もう一度聞くが、俺たちのAランクパーティ昇格、認めてくれないか、試験官?」
こくこくっ。
柳生が小さくうなずいたような気がするが……。
クワガタのハサミが首輪になっているせいで、よくわからないな。
「反応が小さくてよくわからないんだが、認めてくれないのか? もうひと押し必要ならカブトムシが……」
「……みどべばず」
「え……?」
「認めばずっ! 皆様の、Aランクパーティじょうがぐ認めばすっ!! だから、ごれ、どっでぐだざい!! 怖いんですっっ!!」
柳生は泣きながら合格を宣言してくれた。
「よかった……。認めてもらえないかと思いました。試験ありがとうございました」
「早ぐ、早ぐ……!」
俺が虫を異空間に帰すと、バッタに 覆(おお) われていた柳生の下半身が再び見えるようになった。
すると。
《染みが少し》
《下のおめめでも泣いちゃったのか》
《あーあ》
《配信してはならない》
《影の具合かもしれない。セフセフ》
……いずれにせよ、これで俺たちは完全合格となったようだ。
あとは帰るだけだ。