軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第5話 公的認定

「うちのプライベートダンジョン……ですか?」

「はい、それも二重の意味でといいますか……。順を追って説明しますね」

探索者協会の山田さんの話をまとめると、こうだった。

・現在、ダンジョン内は1階層のみ。広さは200m×200m程度。端まで行くと見えない壁がある。

・1階層では田園、森、川の3地形を確認。

・モンスターや罠は確認できなかった。

・ダンジョン内の魔素値は一般的なダンジョン内よりも少し高い程度。

・今後、迷宮が成長する可能性もあるが、現時点においては危険度はない。ステータス値による入場規制は不要と思われる。

「そして、一番大切なことです。調査中に 思川(おもいがわ) さんに確認しましたが、このダンジョンは夏目さんや思川さんが小さいころに遊んでいた秘密基地の跡地にできた……そうですよね?」

「そうですが……」

「そのせいでしょう。このダンジョンは《《秘密基地としての性格を強く引き継いだ》》ものと思われます。具体的には、ダンジョンの入り口を開けることができるのは、夏目さんとお友達だけではないかと想像されます」

「あ……」

そう言えば、確かにこのドアを開けられたのは、俺とおタマちゃんだけだった。

プライベートダンジョンとは言うが、本当に部外者は立ち入りすらできないのか。

「さらに、ダンジョンの中もそうです。詳しいメカニズムは不明ですが、おそらく夏目さんたちの思念を 糧(かて) に、ダンジョン内の空間が生成されたものと思われます」

「えっと……それはつまりどういうことですか?」

「――簡単に言えば、あなた方専用の遊び場として生まれたダンジョンではないかということです。もしかしたら、あなた方のみが得られるような報酬などもあるのかもしれません」

「あ……」

俺は、トンボから手に入れた魔石をポケットから取り出した。

「そういえば、これ……」

――俺は、魔石を手に入れた経過を説明した。

「やはり……。私は【気配探知】スキルを持っていますが、トンボはモンスターとして認識できませんでした」

県庁の佐藤さんも手を上げて、補足する。

「私が県庁から持ってきた魔導モンスター探知器でも、ずっと数字はゼロでした。なんなら、探知器のアンテナにトンボが止まったときもありました。魔石が入っているような反応はまったく……」

「決まりですね」

探索者協会の山田さんは、市と県のかたを見回し、うなずいた。

「このダンジョンは、私たちにとっては、何もない空間が広がっているだけです。モンスターもアイテムもありません。そもそも中にも入れませんし……。よって、法的区分は5号……プライベートダンジョンで間違いないかと思います」

「異議ありません」

「今のところ安全ではありますが、夏目さんは、ダンジョンに異常があったときには速やかに探索者協会に連絡してくださいね。この義務に違反すると、罰金刑となる可能性もありますから」

「わかりました」

このようにして、俺の家のダンジョンは正式にプライベートダンジョンとなったのであった。

「でもね、夏目さん。ひとつだけ……」

山田さんは人差し指を立てて、言った。

「むやみにダンジョンのものにさわってはいけませんよ。夏目さんはまだ探索者講習も受けていないですし、回復薬も持ってないんですから。今回は大丈夫でしたが、トンボが毒を持ってたりしたらどうするんですか?」

「は、はい……。すみません」

山田さんに怒られてしまった。

「プーッ、クスクス……」

「む……」

おタマちゃんは俺が怒られたのを見て、嬉しそうに笑っている。

だが、そんな態度をとったら……。

「こら! 思川さん、たるんでます! 帰ったらお説教です!」

「ええ〜、な、なんで〜……」

ほらな。

「ははは……」

まったく、どうしようもないやつだな。

……会社をやめてからずっと暗い気分だったけれど、なんだか楽しくなってきた。

おタマちゃんに感謝だな。

「それでは、私たちはこれで失礼しますね。夏目さん、探索者協会はイーヨンの1階に入っていますから、ダンジョン探索をなさるつもりであれば、講習を受けにきてください」

「わかりました」

「思川講師が優しく教えてくれますよ」

「えへへ、待ってまーす!」

おタマちゃんは、下手なウインクをした。

☆★☆

その夜、俺は両親に事の 顛末(てんまつ) を報告した。

「……というわけで、ダンジョンではあるけど、危険はない状態なんだって」

「うーん……」

だが、両親は渋い顔をしている。

「なにか気になるの?」

「だって、ねえ……。ダンジョンって怖いじゃない。ごぶりん、とか、おーく、とか、怪物みたいなのが出るんでしょう? ドアごと埋め立てたほうがいいんじゃない?」

「だから、そういうのは出ないんだって」

「それにな、あんな山なんか持ってても仕方ないから売ってしまおうかとも思ってたんだ。まだ太陽光発電をやるところもあるかもしれないし、アウトドアが好きな人もいるんだろ」

「魔石発電の時代だから太陽光は 流行(はや) らないし、キャンプ場はとうの昔にピークは過ぎてるの」

「しかしなぁ……」

……まったく。

久しぶりだな、このかみ合わない感覚。

これが嫌で、東京に出たんだった。

だが、土地の持ち主は親だ。

意向は尊重しなくてはならない。それに人は言葉だけで説得できるものでもない。

この考え方ができるようになったこと自体、俺が大人になったということだろう。

「じゃあさ、少し時間をちょうだいよ。ドアの中にいいものが眠ってないか確認するから。市役所も安全だって言ってくれたから、すぐに問題は発生しないと思うし」

「うーん、そうねぇ。市役所が言ってたならねぇ……」

「あの山は100万円も値が付けば上出来だからな。そのくらい儲けられるといいな」

「……そうだね」

あんな山、今どきタダでも 貰(もら) うやつはいねーぞとは思うが、口には出さなかった。

……100万か。

とりあえず、結果を出さないとな。

☆★☆

次の日、俺はさっそくイーヨン内の探索者協会を訪れた。

そこには、先日調査に来てくれた山田さんがいた。

「おはようございます。探索者講習をお願いします」

「あら、夏目さん。おはようございます。昨日のプライベートダンジョン用の講習でよいですか?」

「はい、大丈夫です」

「では、思川さんに講師をお願いしてきますね。昨日たっぷり指導しましたから。今日の講習はカンペキだと思いますよ」

「それはよいですね」

山田さんが奥に行くと、入れ代わりでおタマちゃんが出てきた。

「本日、講師を担当させてイタダク 思川(おもいがわ) 環(たまき) と申します。ど、どうぞよろしくお願いシマス」

後ろでは、山田さんが満足そうにうなずいていた。