軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第45話 お金の使い道と、しーちゃんとの電話

――プライベートダンジョン内調査の翌日。

ピコン!

『あなたの口座に入金がありました』

俺のスマホにメッセージが表示されたので、地銀のアプリを開いた。

すると。

「……へ?」

『振込 トチギケンタンサクシャ 16,474,222円』

なんか、とんでもない金額が振り込まれていた。

いち、じゅう、ひゃく、せん、まん……。

「1千6百万円……!」

前職の年収4〜5年分の収入である。

これは……。

しばらく数字を眺めていると、栃木県探索者協会から電話がかかってきた。

「おはようございます。こちら、栃木県探索者協会県南支部の山田と申します。夏目さんのお電話でよろしいでしょうか?」

「はい、そうです。山田さん、先ほど大金の振込みが……」

「ご覧になっていただいたのですね。遅くなりましたが、以前お持ち込みいただきました 翠精魔石(すいせいませき) のオークションが終わりました。お見積りは5百万円でしたが、その4倍程度で買い手が見つかりました」

「そんなに高く……? あの、どういう人が……?」

「私たちも具体的な買い手が誰かはわかりません。しかし、税引前の入札額が22222222円であったことを踏まえると、1千万、2千万円ははした金、と思える方なんでしょう」

「マジか……」

「その他、お持ちこみいただいている魔石も順次オークションにかけていきますので。引き続きよろしくお願いしますね」

そうして、電話は切れた。

「……マジかぁ」

もう一度言い直す。

てか、1千6百万円だぞ。

もう少しお金を貯めれば、街中じゃなければ家が建てられるぞ。

もともとの2千万なら、普通に家が建てられそうだ。

「てか、税金高いなぁ。……あ、そう言えば」

最初に免許をとったとき、聞いたおぼえがある。

探索者免許を掲示して探索道具を買えば、経費扱いとして所得税の 控除(こうじょ) がされると。

「税金で引かれるくらいなら、探索道具でも買うか……」

何を買おうかな、と思ったとき、まっさきに頭に浮かんだものがある。

――車である。

「田舎暮らしには必須だよなぁ」

市内なら自転車でもなんとかなるが、今後、宇都宮、那須、県外と活動範囲を広げるなら、絶対に必要になる。

ドロップアイテムの運搬という意味でも、ないと困る。

高級レストランに行ったときのように、どこかに出かけるたびにおタマちゃんに車を出してもらうのも悪い。

「……よし、買うか」

お金が手元にあると思うと、急に強気になってきた。

たしか、探索者協会のあるイーヨンの近くに、探索者用の車を扱うディーラーがあった。

さっそく行ってみるか。

……親の車がないから、自転車で、だけど。

☆★☆

「おお……」

ディーラーの建物内に入ると、黒く輝くSUV車が展示されていた。

探索者は若者が多いため、デザインも独特である。

車名は『バハムート』、値段は……。

「……1千万円」

現金で買えることは買えるが、恐ろしく高い。

車って、2百万円くらいだと思っていた。

だが、中二病的ネーミングがカッコいいなぁと思い、黒い車をしばらく 眺(なが) めていた。

「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」

「あ、は、はい」

女性の店員さんに話しかけられ、あたふたしてしまう。

すると、女性店員さんはじっと俺を見た。

場違いだったかな……?

すると。

「あの、もしかして……こーちゃんさんじゃないですか?」

「そうですけど……」

「やっぱり! あの、こちらの部屋にどうぞ!」

「え、え……?」

豪華な応接室のようなところへ通された。

「店長ーっ!!」

ドアの外では女性が大声で叫んでいる。

どういうこと……?

しばらくすると、50代くらいの男性が出てきた。

「ようこそいらっしゃいました。わたくし、店長の谷村と申します」

「は、はじめまして。夏目と申します」

俺、別に万引きとかしてないけど……。

すると、店長は言った。

「わたくしどもは探索者協会の車両も扱っておりまして、支部の思川さんにもお世話になっております」

「思川さんとお知り合いなんですね」

「ええ、たまに点検の手続きをお忘れに……、い、いえ、なんでもありません。お電話をする機会も多いので、どうも思川さんは身内のような気がしていたのです……」

「そうなんですね……」

いまいち話が見えない。

なんで俺はここに通されたんだろうか。

その顔を見てか、店長は話を続ける。

「……わたくし、太田ダンジョンの配信映像を見て感動しました。わたくしどもが申し上げる立場にはないのですが、思川さんを助けていただき、ありがとうございます。企業の1支店ですので、お車をタダにすることはできませんが、最大限の値引きをさせていただきます。先ほどは展示車をご覧になっていたようですが……」

「あ、はい。でも、ちょっと高いかと思って……」

「いえ……夏目さんクラスの探索者ともなると、あの程度は必要かと思います。魔石ハイブリッド式ですので給油は基本的に不要、槍や長い素材も 運搬(うんぱん) 可能、そして、ダンジョン産の素材を使った強化仕様です」

「強化仕様?」

「ええ、探索者は高価な素材を運ぶことが多いですからね。自衛・安心のためには必要ですよ」

「自衛か……」

たしかに、2千万円以上する魔石を運搬するとなると、必要なのかもしれない。

家もセキュリティ万全のものを建てた方がいいのかも……。

冷静になると、まだまだ足りないものがたくさんあるな……。

「夏目さんが継続的に探索者を続けるおつもりなら、購入代金は毎年経費精算ができますし、何より数年後には一般車両では対応できなくなるでしょう。基本は『バハムート』、快適性を重視されるなら『スレイプニル』や『ティターニア』かと……」

――こうして、俺は探索者仕様SUV車『バハムート』を現金一括で購入した。

なんだかんだで、購入価格は600万円まで下がった。

法的手続きが終わり次第、納車されるらしい。

……店長、あとで本社に怒られないかな?

☆★☆

「買っちゃったな……」

大仕事を終えたあとの 虚脱感(きょだつかん) を感じながら店の外に出ると。

プルルルルルル……。

俺のスマホに着信があった。

画面を見ると。

「しーちゃん……?」

なんだろ、LINKじゃないんだな。

「はい、夏目です」

電話を取ると。

『な、なづめぐん……。ごめん、わだし、余計なごとを言っちゃったかも……』

「しーちゃん、どうした!?」

泣き声でしーちゃんが話し始めた。

しばらく話を聞いてやる。

「なるほど……」

――事情はわかった。

俺を強化・保護する名目で、俺とおタマちゃんを引きはがそうとする動きがあること。

迷宮探索法の運用次第では、おタマちゃん、場合によっては俺の免許が失効させられうること。

その動きに対抗するため、チーム《秘密基地》全員でAランクパーティになると 啖呵(たんか) を切ったこと。

『ごめん、ごめんね……。夏目ぐんがイヤっで言えば、終わっだ話がもしれないのに……。余計な口実をあげぢゃった……』

「いや……」

そりゃ、知らないAランクパーティなんか入りたくない。

上の奴らにぎゃあぎゃあ指示されたり、ノルマを課されるのはもうたくさんだ。

『ほがにも、なづめぐんとたまぢゃんを、同じAラングパーティに入れでもらう手もあっだのに……。ごめん、ごめん……』

「――しーちゃん」

俺は断言する。

「しーちゃんは悪くない」

『え……』

「俺たちを守ろうとしてくれたんだろ」

『な、なづめぐん……』

「俺は知らないやつとは組みたくない。だが、おタマちゃんに迷惑がかかるかもしれない状況で、ただイヤだイヤだと言っているわけにはいかないだろう。それに上司の言うこともわかる。自衛だなんだは、いずれ発生した問題だ」

『じゃ、じゃあ……』

「なってやろうぜ、Aランクパーティ。実力で黙らせてやる。どのくらいのレベルが必要なんだ?」

『……全員40以上。夏目くんは50近いレベルがあると上に説明しやすいかな……。それで、みんなで宇都宮ダンジョン20階層を攻略できれば……』

「ちなみに、しーちゃんのレベルを聞いていいか?」

『……わたしは37。もう少し頑張らないと』

「なるほど……」

栃木県探索者協会の山田さんより強くても、まだ届かないのか……。

だが。

「わかった。なんとかする。ちょっと考えるよ」

『な、なづめぐん……』

「ほら、泣くな。大丈夫だから。あまり無理するなよ」

『……うん』

そして、電話は切れた。

「……ううむ」

なかなか厳しい状況だな。

俺が強くなるのは、たぶん可能だろう。

だが、おタマちゃんとまなみんがそこまで強くなれるか。

特にまなみんはまだ【緑】免許だ。

レベルも1だろう。

俺ひとりが圧倒的に強くなって、なんとかゴネられるかな……。

そんなことを考えながら、自転車置き場に戻る。

すると、今度は。

ピコン!

「ん……?」

【秘密基地のなかよし4人】のグループLINKにメッセージがあった。

まなみ:こーちん、悪いが勝手に秘密基地に入らせてもらった。いま一度外に出たところだ

まなみ:ちょっと見せたいものがあるから来てほしい

まなみ:アタシの【変身願望】スキルの使い方がわかった